この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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終盤、駆け足かもしれません


工事計画とエリスの頼み事

カズマ達が義賊の捕縛に乗り出した翌日。俺はそっちには参加していないので、自分で手配した宿屋に宿泊して、城の書庫から借りてきた『神器研究』をベッドの上で寝転がりながら読み進めていた。

 

「見れば見るほど訳わからん。選ばれた人間しか使えないとか、凄まじい能力を持ってるヤツが突然現れるとか。……そういえば?」

 

 

 

――ずっと昔の言い伝えで、もう本もほとんど残ってないような話だけど、先史時代よりもさらに前、『ガーベ』って呼ばれていた人達がいたらしい。アルハザートとも関係あるとか。

 

俺が目覚めた後に、暇つぶしとしてアコース査察官が話してくれた言葉を思い出していた。

『ガーベ』、英語やミッドチルダでは『ギフト』。天から与えられた贈り物、総じて天賦の才を表す単語だ。あるかどうかも分からない世界の話なんて、どうかとも思ったが……。何せ最低1000年以上は昔の話だ。日本で言えば、”いとおかし(平安時代)”の頃だよ。それでさえ、『冥府の炎王』の時代だから、下手すれば縄文時代か?

頭の中で思考がまとまらずに、うんうんと唸っていたのだが、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

「はーい。どうぞー!」

 

横になったままで返事をすると、そこには人影が二つ。

 

「おっ! 無事に目が覚めたか。酔い潰れたお二人さん?」

 

昨日、晩餐会の場で勝負して酒を飲んで、眠ってしまっていためぐみんとゆんゆんである。部屋に運んだ後、ちょっとした事があったが、そこは気にしてはいけない。

 

「人聞きの悪い事を言わないで下さい! せっかくお礼を言いに来たというのに……」

 

「めぐみん……、私達はお酒で勝負は早かったんだから、もうやめよう……」

 

めぐみんは相変わらず元気よく、ゆんゆんは昨日の勝負で懲りたといった感じであった。

 

「カズマが頭を抱えていましたよ。義賊を捕まえると威勢の良い事を言っていましたが、これはと思い当たる悪徳貴族がいないそうです」

 

昨日の晩餐会で義賊を捕まえると宣言したカズマではあったが、早くも行き詰っているらしい。前領主が逮捕されてなきゃ、そこにでも行くんだろうが、ここ王都での知り合いの貴族はダクネスのみだろう。

 

「諦めてアクセルに戻ればいいのに……」

 

遠い目をしながら呟いていると、俺をチラチラと見ているめぐみんが視界に入ってきた。

 

「……言っとくが、今回俺はノータッチだ。やり方を教えるって言っても、嫌がったからな。後は自分でどうにかしてもらわないと」

 

思考を読まれたので、後ずさってしまっためぐみんであったが、

 

「そこを何とか……! ヒントだけでも、お願いできませんか? それだけで、後は私とゆんゆんで目星はつけますから!」

 

自分は結構甘い人間だなあ……、と思ってしまった。義賊はクリスだとは知っているが、まあカズマ達に捕まったところで、うまい事逃がしてもらえるかもしれない。

 

「分かった。分かったから! 王都の地図と、警察署に行って、ここに住んでる貴族のリストと犯行の記録を貰って来ようか」

 

それを聞いた二人共、顔が明るくなって、

 

「「はい!」」

 

元気よく返事をしてくれたのだった。

その後、必要な物を揃えて部屋へと戻り、地図をテーブルに広げ、

 

「貴族のリストですけど……この横に丸の付いてる人は? それと番号も付いてますけど……」

 

ゆんゆんがリストで気になる部分を見つけたらしい。

 

「それは、警察でも証拠が掴めていない不正をしていると思われる人だな。要は賊のターゲットになりやすいって事。でもって、番号はその不正が大きいんじゃないかって予想される順番だ」

 

これに関しては、クレアさんが事前に手を回してくれたのが大きいだろう。でなければ、ここまですんなり情報は入ってこない。

 

「じゃあ、犯行の記録と貴族のリストと照らし合わせて、犯行が行われた人達には×印を付けていこう」

 

警察署での情報によると、今のところ一度侵入された貴族の屋敷には、再度侵入はされていないので、そこは除外してい良い。

そして、王都の地図と犯行された屋敷を照らし合わせていくと……。

 

「……地図的な部分、例えば同じ区域で犯行が繰り返されているかってのと、リストの方での何か法則性が無いかを、よく考えれば予想は出来るかもな。まあ、絶対ではないけど。後はガンバレ」

 

と俺は本を読みながら、二人の様子を見守っていたが、今度はカズマがここの部屋を訪れて、

 

「おーい。どうだ? 何か聞けたか……?」

 

「よう、自分で来ないでこいつらに来させるとか、良い身分だな」

 

少しバツの悪そうな顔ではあったが、そのままめぐみん達の討論に加わり、

 

「地図的には法則性がある様には見えませんね。一定の区域というわけでもありませんし……」

 

「リストの方は……ちょっと番号の前後はありますけど、犯行の記録と不正が大きいかもしれない人達の順番が大体一致してます!」

 

……クリスさん、もうちょっと混乱させるように動こうね。俺が言ったらいけない事だけど。その場のノリで義賊やってるだけあって、結構わかりやすい性格してるのか? 要は金持ってそうなのから順番に狙ってるって事だ。

 

討論していた三人が顔を見合わせて机を片付けていたので、目星は付いたらしい。まあ、カズマだったら適当に選んでも、持ち前の幸運で当たりを引き当てそうな気がする。宝くじ当てるよりは簡単だろうし。

 

「じゃあ頑張れよ。俺は大体ここにいるから、何かあったら声かけてくれ」

 

「あの……分からない事があったら聞きに来て良いですか?」

 

ゆんゆんも少し不安があるらしい。あんまりやるとクリスとの約束もあるし遠慮したいが……、

 

「中卒の俺の意見で良ければな」

 

「チュウソツ?」

 

めぐみんが首を傾げている。そりゃあ聞きなれない言葉だろう。

 

「俺のとこは紅魔の里みたいな義務教育の他に、もっと高度な学問を学びたい人が行く学校があるんだ。けど俺は義務教育止まりだから。そんな人を中卒って呼ぶ」

 

「ではもっと学問が得意な人が沢山いるのですか?」

 

「まあな。けど俺は最低限しか学んでないから、カースト最下層なんだ」

 

世の中、もっと凄い人がいるのですね。などとめぐみんが言っていたが、実際日本だとそうなんだよな。最終学歴は中学卒だし。

 

「……お前みたいな中卒がいてたまるか」

 

何かカズマが小声でツッコんでいた様な気がしたが、良く聞こえなかった。さて、これでゆっくり本を読めるかな、などど思って再度ベッドに寝転がっていたが、カズマ達が部屋から出ようとノブに手をかけようとしたところ、外からドアが開けられ……、

 

「アクア以外が集まっているか……。実はクレア殿が城に来て欲しいと……」

 

千客万来ってヤツだ。こっちはゆっくりと古書を読みたいってのに。

 

「ダクネスどうした? 城に呼び出しって」

 

「実は……だ。当家にも関わる事なので、相談はしづらいのだが……」

 

ダクネスの家に関わる事ね……。なんかこう、言い出しづらい雰囲気は出しているが、折り入って相談というのなら聞かないわけにはいかないか……。

 

「分かった。そちらに行こう。これからで良いのか?」

 

「ああ、頼む。外に馬車を用意させているから、早く行くとしよう」

 

ダクネスに連れられて、城に向かおうとしたところ、カズマ達が、

 

「ちょっと待て! 賊は夜間の襲撃だろ? 城に行くんなら俺も行く!」

 

多分……城に行ってチヤホヤされたいだけなんだろうな。とは思いつつ、確かに昼間はあまりやる事が無いので、それも良いかといった話になり、この場の全員で城に向かう事になった。

 

 

 

 

城に到着し、すぐに俺達を出迎えてくれたのはクレアさんとレインさん、そして……バルターさんであった。

 

どうしてバルターさんまで……といった疑問はすぐに解消されることになる。

俺達が魔王軍幹部や暴走したエギルの木、デストロイヤー、それらの討伐でアクセルやその周辺に出した被害について、弁償といっても一部弁償のみであり、足りない部分に関してはダスティネス家が用立てていたことが判明した。

ベルディアでのアクアの洪水被害、デストロイヤーが蹂躙した後の穀倉地帯の補てん、その他諸々に関しては、前領主が逮捕された際に没収された資産で賄えたので、問題は無かったのだが、もう一つ残ったのがエギルの木討伐の際、爆裂魔法でもたらした被害であった。

 

「……5億2千万エリスでも一部だけだったのか?」

 

少し都合の悪そうな顔をしながら、ダクネスが頷いていた。

 

「何でそんな大事な事を黙ってたんだ!!!」

 

これには驚いた。カズマが激昂してダクネスに詰め寄っていたからだ。何だかんだで良い奴だよな、コイツも。

 

「そ、それは……、お前たちは本当に力を尽くしてくれた……。だから後は我々貴族の問題として、処理すべきだと思っていたのだが……」

 

説明を聞くと、現領主であるダクネスの親父さんも、最近までは娘にこの事は言っていなかったらしい。バルターさんが各地を飛び回っていたのも、その資金の用立ての為らしいが、良い結果は出ていないようで、こうして王城に陳情に来ていたらしい。

 

「ダクネスは意外に頑固ですから、自分でどうにかしようと奔走するかとも思いましたが……」

 

めぐみんの言う通り、それはそうかもしれない。貴族としての自分の領域には首突っ込んでほしくは無いといった感じだったが?

 

「それは……な。一人で先走った挙句、凄まじい無茶をして意識不明になった、どこかの誰かのようになるのではないかと思い当たってしまったのだ。どの道、良い結果にはなるまい」

 

「そのどっかの誰かってのは、誰の事かなあ……?」

 

「うむ。私の目の前にいる、黒髪翠眼の男だ」

 

確かに紅魔の里の件はその通りでもあるので反論はできないが、一言くらいは何か言っておきたいところだ。

 

「言うようになったじゃねーか、ららっぺ。まあ事情が事情だから、俺も参加するけど、正直役に立つ――」

 

「あだ名呼びをするなああああ!! 本当にいくつ考えたのだ!?」

 

「ひ・み・つ」

 

恨めしそうに俺を見るダクネスを尻目に、対策会議を始める俺達であった。

 

「まず最初に確認ですが、被害総額はどれほどでしょうか?」

 

まずは現状確認として、その質問をクレアさんに投げかけたのだが……、

 

「被害総額はあなた方が弁償した金額を引くと10億エリス程です。この位であれば、国庫から賄う事も可能ですが、問題はその後でして……」

 

お、思ったより金額が大きい……。じ、じゅうおくえりす……。一生暮らせる金額が、爆裂その他で吹き飛んでしまっていたとは……。い、今は、気を取り直して話し合いの方に集中しなくては。

 

周りを見ると、その事実を知っていたダクネスはともかく、カズマ達も俺と同じ反応をしていた。特に爆裂を使っためぐみんは、カタカタ震えながら俯いている。責任を感じてしまっているのだろう。

 

「その、問題ってのは……?」

 

重い雰囲気の中、カズマが何とか口を開いていた。

 

「知っての通り、今は魔王軍との戦いの真っただ中だ。同じく金を使うのなら、そちらに使うべきといった意見もある。というよりは、その意見が重要視されている」

 

手元にある金は限られてる。それだったら、重要と思われるところから使っていくって事ね……。

 

「俺達が払った弁償金に関してはもう使いましたか?」

 

「そちらは、全てを使い切ったわけではなく、重要な施設の修復で順次使用しています」

 

それに関しては、バルターさんが答えてくれた。続けて、

 

「ですが、あと残っている金額は三億エリスほどで、とてもではありませんが、全ての修復には足りません」

 

ですよねー。そんな事をするなら手抜き工事とか、労働者に賃金支払わないとかにしかならないし。

 

「……無い袖は振れないってのはよく言ったんだ。まさか一人で数十人の働きを出来る人なんて、居るわけないし……。そんな人達が大勢いるわけもないか……」

 

話し合いは進展せずに、とりあえず気分転換として休憩しようかといった意見が出ていたのだが、

 

「もしかしたら……、何とかなるかもしれません」

 

あまり口を開いていなかったゆんゆんであったが、何かを思いついたらしい。そのままめぐみんと視線を合わせると、そちらも何の事か理解した様だった。

 

「みんな、特にカズマ達は何かを忘れていませんか? シルビアに燃やされた里がどうなったかを」

 

めぐみんが自慢げに紅魔の里の話を出したので、何の事かと思い、記憶を遡っていると……、

 

 

 

 

 

「――俺、三日間眠ってたんだよな?」

 

「――うん。そうだよ」

 

「――何で当たり前の様に、復興してるんだ!? 紅魔の里は!?」

 

 

 

 

俺、カズマ、ダクネスが一斉に顔を上げて、

 

「「「紅魔族!!!」」」

 

紅魔の里が復興した時の方法で、工事をすれば良いとの意見で一致していた。クレアさん達は何の事か分かっていなかったようなので、説明を行うと、

 

「つまり紅魔族は、魔法を使って通常よりも数十倍の効率で工事が可能だと?」

 

「ええ! 先日シルビアの襲撃を受けた際は、ほとんど廃墟だった里が三日で元通りになりましたから。しかも20~30人で分けても報酬は十分な金額が行き渡ります」

 

にわかには信じられないといった表情のクレアさん達ではあったが、その時の状況を詳細にカズマが説明してくれたおかげで、納得はしたようだった。俺はその時、昏睡状態だったので、様子なんてのは知らないから説明の仕様がなかったのだが……。

 

「珍しいな。お前がここまで、熱心にやるなんて……」

 

カズマにしては懸命なので、つい言葉が出てしまった。

 

「俺だって、ダクネスの親父さんには知らず知らずのうちに世話になってたって事だからな。借りくらいは返さねーと」

 

それはそうだ。光明が見えたんなら猶更。

 

「あの……もしかしたら、それも反対意見が出るかもしれません……」

 

レインさんは何か杞憂があるのだろう。渋々ながら説明をしてくれた。

 

紅魔族は現在、どこぞの悪魔と同じ名前の展望台で魔王城の監視をしているのもあるが、この国の重要な戦力でもある。それをそんなのに使うのは如何なものかという意見はお偉いさん、特に武官から出るのは必至だと。それにそれを快く思わない貴族もいるのではないかとの事だった。

 

……そういえば収獲手伝いに行った時も、農業の方法を国のお偉いさんが見たら歯噛みするとか、めぐみんが言ってたな。

 

「ああもう、めんどくせー! ドロドロしすぎだろ! 何かと邪魔が入るってのは!」

 

「それだけじゃ無さそうだけどな。反対意見を出す連中は、結局は自分の利権もあるだろうし、人数が集まれば派閥もできる。こればっかりは仕方ない」

 

多分この方法がベストとまではいかないが、ベターではある。どうにか問題を解決しなくては。

 

「ならば、反対意見を出しそうな連中の根回しは、私に任せてもらおう。家名を使って説得くらいは可能だ」

 

ダクネスが俺達では解決できそうにない面倒事を一手に引き受けてくれるらしい。

 

「すっごいストレスだと思うけど、よろしく頼む。じゃあ俺は……」

 

「すいませんが、細かい計画を作ってはくれませんか? 私も確認はしますので……」

 

クレアさんからの提案であった。アイリスの護衛兼教育係の二人はそれだけではなく、城の雑務も抱えているので、そこまでの時間が取れず、他の者では紅魔族の名前だけで拒否する人間もいるかもしれないとの事だった。だったら、紅魔族と親交のある人間が計画を練って欲しいらしい。

 

……城の人達は紅魔族と関わりたくないんだろうか?

 

それからは俺とカズマは宿屋で工事のプランニングをひたすら行っていた。俺は一日中、カズマは昼は俺と工事計画を、夜は義賊の侵入しそうな貴族の屋敷の張り込みで頑張ってくれていた。

 

「やっぱり泊まってもらう宿は、それなりに格のあるホテルにしたいな。せっかく来てもらうのに、馬小屋なんてありえないし……」

 

「少しくらいなら国庫から出しても良いんだろ? だったら、そっちは負担してもらったらどうだ? 反対意見なんて出たら、”ぞんざいな扱いして、気を悪くしたら誰が責任取るんだ!?”って言ってやれ!」

 

「カズマ……、それは伝家の宝刀ってヤツだな。役場の人間が一番嫌がる言葉だ。俺も嫌な思い出はあるが、トラブル避ける人間には有効だ!」

 

「嫌な記憶を思い出させて悪い……。お前も役所の人間だもんな……」

 

カズマと共に、アクセルへ来る紅魔族の宿泊先の選定や、その他には、

 

「アクセルの土木業者が気を悪くしなきゃ良いけど……。自分達の縄張りで仕事されるようなもんだから……」

 

「それなら、アクセルの土木作業者は最終確認って事で、関わって貰えばいいだろ? これでも親方には世話になったからな。俺から話をしとく」

 

今回のカズマは冴えに冴えわたっている。本気のになればこれほどのものなのかと、素直に感心してしまった。この他に夜は義賊(クリス)の張り込みもしているのだから、脱帽である。本人が言うには借りを返しているだけらしいが……。

 

 

 

 

そして、そんな日々が三日間続き、俺とカズマは連日ほぼ徹夜といったスケジュールが続いていたが、とりあえず一段落付いたので、この日の夜中は机に突っ伏して仮眠を取っていた。

眠ってはいるが、完全に熟睡しているわけではなく、それとなく周囲を警戒しながら必要があればすぐに起きれる状態である。

そんな中、人の気配が二つ。部屋の入口の鍵をかけるのを忘れていたらしい。その一方が、俺へと触れようとした瞬間、

 

「きゃっ!? お、おおお、起きていたのですか!? それとも寝たふりをして、イタズラのつもりですか!?」

 

俺に触れようとした手を掴み、その手の主の方を向くと、そこにはめぐみんとゆんゆんの姿があった。

 

「……何だ、お前らか。賊が俺に襲い掛かって来たかと思った」

 

「あの……、寝てたと思ってましたけど……?」

 

ゆんゆんも不思議に思ったらしい。そりゃあ、いきなり起きてめぐみんを取り押さえようとしている様に見えなくもない。

 

「ああ……。これか? 結構前にサキュバスに不覚を取ったからな。同じ轍を踏まない様に……だ」

 

アクセルの屋敷に引っ越したばかりの頃、どっかからかサキュバスが侵入してきて俺に……、これ以上は思い出したくない。

 

「……サキュバスですか。そういえば、その時の夢はどうでしたか?」

 

めぐみんがからかうような視線で、俺にその事を聞いて来たので。

 

「アクアにぶん殴られたのしか思い出せない」

 

これは嘘だけど。改めて思い出すと……、あ、あれはフェイトに知られてはいけない。だが、やっぱり大きかったな。ペッタンの頃から知ってるから猶更、感慨深いというか……。今度会ったら、人体の神秘に対して拝んどこう。

 

「やはり大きい方が良いのでしょうか……」

 

暗い雰囲気で何かを小声で呟いてるめぐみんであった。

 

「まあ……今度サキュバスに会ったら、有無を言わさず殲滅するけどなあ……!」

 

しかし、あのサキュバスはどこから来たのやら。探し回ってみるのも良いかもしれない。

 

「あっ! そうだ……。二人共、この募集を見て感想を聞かせて欲しい」

 

工事のための募集告知の文章に目を通す二人であったが、めぐみんは拳を握り興奮気味であり、ゆんゆんはそれとは真逆の微妙な表情をしていたのであった。その文章はというと……。

 

 

『今こそ、紅魔族の力を世界が必要とする時! 我こそはと思わん者は駆け出しの冒険者の街アクセルに集うべし!! 報酬は一人600万エリス~』

 

少し引き気味にゆんゆんが俺へと、

 

「……あ、あの……、これだと勘違いする人が出て来そうな気が……」

 

「……嘘はついてねーぞ。別に戦闘で力が必要とは書いて無いし、端の方に小さくちゃんと詳細は書いてる」

 

確かに、おちょくっているように見えなくもないが、紅魔の里だって名ばかりの『混浴温泉』や一万回目に抜ける『聖剣の刺さった岩』があるから、良いじゃないか……。

 

「それで、二人してどうした? 張り込みで何かあったか?」

 

「それですが……、犯行は防げましたが、カズマは賊にバインドで拘束されまして……」

 

賊を捕らえる事は出来なかったと。それでも姿を見せないクリスを追い詰めたんだから、やっぱり侮れない。敵感知や千里眼をうまい事、使ったんだろうけど。

 

 

 

 

 

翌日、その報告と工事のプランを確認してもらうために、王宮を訪れたのだが、

 

「あれだけ自信あり気だったのに、賊の捕縛に失敗したのですか」

 

その後のカズマは賊は仮面を被った凄腕などと言って犯人像をでっちあげていた。

 

「しかし、カズマ殿も連日の徹夜で疲労しながらの張り込みだったでしょうし、賊の犯行は防げたので、完全な失敗というわけではありませんね」

 

城から追い出すように仕向けると思われたクレアさんが、意外にもカズマを庇っている様だった。何だかんだで昼間に俺とやっていた事も知っているので、そこまで攻める気にはならないらしい。

アイリスもそれを聞いて表情が明るくなっていた。

 

「カズマ殿にも、工事の件でアドバイスをいただきたいので、あと数日滞在してもらえませんか?」

 

そして数日間ではあるが、めでたく城に残ることが出来たカズマであった。

 

 

 

 

そんな折、王都に警報が響き渡り、

 

『魔王軍襲撃警報! 魔王軍襲撃警報! 現在魔王軍と見られる集団が王都近辺の平原に展開中!』

 

夜が開けてすぐの魔王軍襲撃。だか俺は……、

 

「ぐっすりですね? 先日の様に触れようとすれば、起きるでしょうか……」

 

「止めておけ。疲労も蓄積しているだろう。カズマはどうする?」

 

それに対し、最初は渋っていたカズマだったが結局参加する事になった。

王都防衛戦に関しては、こちらの大勝利で終了。アクアの治療、めぐみんの爆裂、ダクネスの防御力、ゆんゆんの魔法がそれぞれ活躍したらしい。

唯一、カズマのみコボルトに殺され、アクアに蘇生されたのを後から聞いた。

 

「カズマ! お前……大丈夫だったか!? 実はアンデッドになって蘇ってたりは……!?」

 

「あるわけねーだろ! お前こそ、昔のトラウマでおかしくなったりするなよ!」

 

紅魔の里での俺の惨状を覚えていたらしい。目の前で死なれてたら、連中をどうにかしていたかもしれないが……。里に行って以来、その辺りは割と落ち着いている気がする。

 

「……どうした?」

 

カズマが訝し気に俺の顔を見ていたのが気になってしまったのだが、

 

「いいや……お前さ……、何でもない。少し疲れたから、部屋に戻る……」

 

 

 

 

部屋に戻ったカズマは死亡して天界に居る間のエリスとの会話を思い出していた。一つは神器の探索依頼。もう一つは……、

 

「ユウを早く帰らせるようにして欲しいって……!?」

 

「私としても遺憾ではありますが、彼の存在はこの世界にとって不都合にある可能性があります……」

 

始めはエリスの言葉が信じられなかった。魔導師の存在が不都合、それはありえない。少なくとも魔王軍幹部とも渡り合える実力者が害になっているとは思えない。

 

「神が人を転生させる際、特典または神器と呼ばれる物を渡していたのは、この世界だけではありませんでした。私は関わってはいませんが、遥か以前のとある世界。その世界は神器を持つ者の力で栄えていましたが……」

 

エリスの言葉は真剣そのもの。カズマも目を逸らせずにいたのだった。

 

「結局その世界は滅び、技術の一部は他の世界に流れました。その中には世界と世界を渡る術もありましたが……、その後……」

 

「何があったんですか? 言いにくそうですけど……」

 

エリスは一瞬目を瞑り、意を決したように、

 

「とある兵器……その世界では『戦船』と呼ばれた戦艦によって、複数の世界が崩壊してしまいました。その戦艦のルーツも、かつて神器や特典で栄えた世界にあると言われています」

 

一つの世界だけでなく、複数の世界の崩壊。その言葉にカズマは驚きを隠せなかった。

 

「それ以来、天界でもある決定がなされました。世界を渡る術を持つ者に、神器を渡してはならない……。そうすれば、複数の世界崩壊の可能性に繋がると」

 

「ちょっと待ってください! それでも、この世界の人間は関係ないでしょう? アイツが元の場所に帰れるってだけだし……」

 

カズマの疑問も最も……といった表情のエリスであったが、その答えは。

 

「彼からその手段が伝わると、もうあなた方に神器や能力を渡し、転生させる事が不可能になってしまいます。そして、彼の所属している組織では、事情はどうあれ内戦状態としか処理させず、介入はしてはもらえないでしょう」

 

つまり、仮に次元転送の方法がこの世界に伝われば、チートを持たせられず、『勇者候補』と呼ばれるものは時を追うごとに居なくなるうえ、管理局でどうにかするわけでもない。どの道、この世界の人間にとっては不利益にしかならなくなる。

 

「このような頼みごとをするのは、本当に心苦しいのですが……。どうかお願いします」

 

深々と頭を下げるエリスに対して、何も言えなくなっているカズマであった。




昔、神器や特典で栄えていたのはアルハザードです。(一応、ここではあるって事で)
ここら辺やロッサの昔話、エリスの会話の内容は独自設定となっています。
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