この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
魔王軍襲撃で大勝利となった今回。城では祝勝パーティーを開くといった旨の通達があった。それまでは時間があるので、紅魔族をアクセルに招いての工事計画について、クレアさんに確認してもらったところ、
「……これで問題ありません。本来ならば我々の仕事でしたが……。本当に感謝いたします」
クレアさんは俺に軽くおじぎをして、これについては終了となった。祝勝会まではまだ時間があるのでどうしようかと悩んでいたのだが……、
「カズマ殿は……、先日に引き続き戦果は挙げられませんでしたが……、工事計画の方はとても良くできています。無理に冒険者をする必要はないと思いますが……」
「まあ……、カズマは基本的にメンバーのサポートですし、個人の戦闘能力は……まだ詰める余地がありますが……」
武装隊で言えば
「ちなみにユウは、本来はどんなポジションですか?」
いつの間にか近くにアクア達も来ていたらしい。俺達の話を聞いていたのだろう。興味が出たのか、めぐみんがその質問を投げかけていた。
「その時の人員によるけど……、後衛以外なら全部かな?」
なのはやフェイトと組む時は前衛、姐さんやヴィータと組む時は中衛と言ったところだ。特にフェイトと組む場合は、頻繁にポジションを変えて攻める場合が多い。オールラウンダー同士で組む場合の強みである。
「……本当に器用ね。でも支援や回復はできないから後衛向きじゃないの?」
「そゆこと。でもそのうち、フィジカルヒールでも練習してみようかな……」
それを聞いたアクアが、突然涙目になりながら俺に詰め寄ってきて……、
「それはダメええええ! 私の存在意義を奪わないで! お願いだから! もう調理当番サボったりしないから!!」
回復魔法覚えるのだけは止めて欲しいと、涙ながらに訴えていた。悪いと思ってるなら、当番表通りにやって欲しいもんだ。そんな中、俺達を見ていた騎士団の人達から……、
「あれは……、さっき大活躍したダスティネス卿のパーティーだ!」
うちの女性陣が羨望の眼差しを向けられていた。俺は参加してないので、除外だったようだが……、
「爆裂魔法で撤退を始めていた魔王軍を一網打尽にしためぐみんさんと、あの乱戦の中、的確に魔王軍の兵士だけに魔法を命中させたゆんゆんさんだ!」
俺が寝ている間に随分と有名になってしまったらしい。その他にはどんな重症でも立ちどころに治療したアクアや、敵の攻撃を一手に喰らっていたダクネスも騎士達の憧れの的になっていたようだ。
カズマ一人だけ落ち込んでなきゃ良いけど……、などと思ったので、めぐみんとゆんゆんも同行する形で部屋へと行ってみる事になったのであった。そこにはアイリスもおり、結構いい雰囲気になっているような感じが……、
「……邪魔だったか?」
「いや……そうじゃない! そうじゃないんだ!」
「そ、そうです! 戦果は挙げられませんでしたが、クレアも実務能力に関しては評価していましたから!」
部屋に入ってきた俺達に対して狼狽えながら答える二人であった。そうしているうちにめぐみんがアイリスのネックレスに魅入っていた。感じられる魔力量がそこらのものとは比べ物にならないらしい。確かにその通りなので、俺もそれを見てみると……、
「……これ、神器だぞ? 何でここに……」
答えは分かり切っている。クリスが狙ってたのはこれだ。よりにもよって、一番盗むのが難しい人間が所持していたとは……。
「何でこれが神器だって知ってるんですか?」
「城で借りた古書に、それと同じデザインのネックレスがあったんだ。効果は……体を入れ替える……だっけ?」
ゆんゆんの質問に答えると、今度はアイリスから、
「この魔道具は使い方が解明されていないのです。定められたキーワードを唱えれば、魔道具の力が発動するのではないかと言われていますが……」
キーワードねえ。それらしい文字が掘っているらしいので、それを見ると、
「……日本語?」
なぜここで日本語で、しかも神器に掘られてる? そのキーワードは……。
「「『お前の物は俺の物。俺の物はお前の物。お前になーれ!』」」
ちょうどカズマもネックレスを覗き込んでいたらしく、同時にキーワードを口走ってしまった。そして、ネックレスが閃光を発し、それが終わった時には俺達三人がお互いを見つめ合っていた。
「……あれっ? 何も……!? 確かさっき体を入れ替えるって言ってましたよね!?」
察しの良いめぐみんが何が起こったかを瞬時に理解した様だった。
「す、すいません……。誰が誰でしょうか?」
まずはカズマの名をめぐみんが呼ぶと、手を上げたのはアイリス。その要領で確認をすると、俺がカズマ、アイリスが俺となっていた。
「お、俺が目の前にいる……。アイリスで良いんだよな?」
「は、はい……。カズマお兄様……ではなく、ユウお兄様……」
円陣を組んで、これはどうすれば戻るのかといった議論を交わしていた俺達ではあったが、カズマが、
「こいつは与えらえた持ち主以外が使用すると、入れ替わっている時間に制限が掛かる。ずっとこのままって事はないはずだ」
なんでそれをカズマが知っている? それについては後で問いただすとして、出来ればここに神器があるのをクリスに教えておきたいところだ。なので、
「済まないが、俺は人探しに――」
「……そ、その……一度でいいから、家臣を連れずに城の外に出てみたいんです……」
俺の言葉を遮るように、俺の体になっているアイリスがそれを懇願していた。それに対してめぐみんが仕方ないといった感じで同行する事になり、俺もクリスを探しに街へ、カズマは現在アイリスの体のなので、クレアさん達を連れて行ってしまった。ゆんゆんはそのまま城で留守番である。
外に出ようとしたのだが、その途中でメイドのメアリーさんが、なぜかカエルの着ぐるみらしき物を運んでいるのが目についたので。
「メアリーさん。それは……?」
「カズマ様、こちらは、以前城で芸をした方が置いて行った物でして……。倉庫に置いていたのですが、そこも手狭になりまして、他の場所で保管しようと運び出している最中です」
処分はしないのか……。由緒ある着ぐるみか何かだろうか?
「こちらは幼少時のジャティス様やアイリス様が、お気に入りだった芸人様の持ち物だったそうです」
城に招いて芸をさせたとか、かなりの使い手だったのかもしれない。
「噂では……アクシズ教徒であったという話ですが……」
アクシズ教に入ると芸達者になるとか……あった気が……。
一通り説明を聞き終わり、城内の近道である鍛錬場を通ると、
「おい……! あの男……」
「ああ……! さっきコボルトに殺された冒険者だ」
ここの騎士団だろうか? 俺というかカズマを見てニヤニヤしている。何となく、言いたい事は分からなくはないが……。
「そちらは魔王軍幹部と渡り合った凄腕の冒険者様ではないですか? どうですか、我々と一本?」
ああもう、めんどくせー。断ったところで因縁つけられそうだし……。
三十秒後
「気が済んだか? もう行く。木刀も置いてくぞ」
「はっ……はい! 失礼しました!!」
一人当たり10秒ほど、計三人を叩きのめして鍛錬場を後にすると……。
「やはり、ダスティネス卿のパーティーメンバー……! ただ者ではなかった……」
「誰だよ!? コボルトにやられた最弱職つったのは!?」
その場にいた騎士たちは、その後カズマを見て敬礼するようになったらしい。
そして、街に出て捜索を行っていると、魔道具店らしきところからクリスが出てきたので、
「見つけた。クリス、ちょっと話がある!」
「あれ……? カズマ君。今日も部屋に行こうと――」
「俺はカズマじゃねえ。ユウだ! この姿だと分からないかもしれないが……」
「カズマ君? 熱でもあるの? 生き返ったばかりで具合が悪い?」
どうやら信じて貰えないらしい。これでは埒が明かないので、あの手で行くか。
「前領主の屋敷で俺がヤツに斬りかかった時に、腰抜かしてチビってたよな? ちゃんと見えてたぞ!」
「ちょ……ちょっと待って! 腰は抜かしたけど、漏らしてないよ! ……って本当に!?」
ようやく信じてくれたらしい。そうしてこうなった経緯をクリスに説明すると、
「神器は王女様が持ってるの……。うーん、どうしようかな?」
俺としてはクリスがさっさと神器を回収して欲しいのだが、何分、王城に侵入しなければならないため、どうするか考え込んでいる様だった。
その頃、俺の姿のアイリスとめぐみんは……、
「めぐみんさん! これは何ですか?」
「これは……TAKOYAKIと呼ばれる食べ物ですよ。一説では異世界人が伝えたとされていて……」
TAKOYAKIが珍しいらしいアイリスを見て、それをめぐみんが二人前購入し、ベンチで頬張っていた。
「こんなのは初めてです! 城の外にはこんなにも活気に溢れてるなんて……!」
護衛のいない城下町を満喫しているアイリスであったが、次に、
「あの……、カズマお兄様は……、ララティーナやめぐみんさんとは……仲がよろしいのですか?」
「まあ、同じ屋敷に住んでいますしね。いつも騒がしいですが、それが今となっては楽しくあります」
「冒険譚を話してくれた冒険者から、同じパーティーで恋人や夫婦になる者が多いと聞きましたが、もしかして……」
中身がまだ12歳のアイリスから意外な言葉が飛び出たので、思わずTAKOYAKIを喉に詰まられためぐみんであった。
「ごふっ……。違います! 違いますから!! 私はどちらかというと、ユウの方が……」
口を滑らせるとはこのことだろう。それを聞いたアイリスが、羨ましそうに……、
「そ、その……、もしかして、もうお二人は……恋び――」
「そうではありません! そのですね……、ユウはそのうち、元の国に戻るので……、どうしたら……と」
伏し目がちに言葉を発しためぐみんと、それを聞いたアイリスがうーんと考える事、10秒。
「でしたら、今の私はユウお兄様の体ですから、引き留める練習をしてみませんか?」
「……へっ!?」
アイリスの提案により、裏路地に行く二人であった。めぐみんが恥ずかしそうに、
「ええと……ですね……。この事は……ユウには……」
「勿論、内緒です。心配しないで下さい。私も他人事ではありませんので。カズマお兄様とも、次はいつ会えるか……」
イタズラっぽくウインクするアイリス。その後、数回深呼吸しためぐみんが、アイリスへと抱き着いて、
「……行かないで下さい。このままずっと、私とここにいてください……!」
クリスと神器についての情報交換の最中、突然意識が遠くなり、次に見えたものは……、
「――ここにいてください……!」
どういう状況かは分からないが、裏路地で俺に抱き着き、ここにいろと言っているめぐみんであった。心なしか、抱き締める力が強い気がするが?
「心配しなくても、ここにいるけど?」
「……えっ!? ええっ!? も、ももも、元に戻ったのですか?」
「ん? ああ……。っていうか何があったんだ?」
「こ、これは……そうです! 王女様が一人でどこかに行きそうでしたので、抱き着いて必死に止めていたのです!」
どことなく顔を赤くして声も上擦っているめぐみんであった。城に戻る途中も口数が少なく、俺と目を合わせようとはしなかった。
カズマは城門をくぐったところを仁王立ちのダクネスとクレアさんに捕らえられていた。聞けば、アイリスの体なのを良い事に、一緒に風呂に入ろうとしたのだとか。これに関しては擁護のしようがないので、連れ去られる様を黙って見守っていた。
その夜、防衛戦の祝勝会にて、
「ユウ、俺の体で何やった!? 異常な疲労感が襲ってきてるぞ!」
「んーっと、騎士何人かボコったり、クリス探すのに全力で街を駆け抜けたり……かな?」
「ざけんな! ドレインするから体力寄越せ!」
カズマ曰く、疲労感に筋肉痛が襲い掛かっているらしい。そういえば、カズマの体はすぐに息切れしたような気がする。仕方ないので、言う通りに体力をカズマに分けていると、
「ああっ! カズマさん、先ほどはどうも……」
俺がカズマの時に少しだけ揉んだ騎士の一人であった。事情は先ほど説明した通りで、体が入れ替わっていた事を知っているのは極少数なので、本当にカズマにやられたと思っているらしい。当のカズマも満更ではない様子であった。ざっと周りを見渡すと、ミツルギの姿もあった。彼も今朝方の防衛戦に参加していたらしい。
「ユウ殿、この場でご歓談はされないのですか?」
「ああ……、俺は防衛戦に参加してませんしね。最低限料理をいただいたら、退散しますよ」
俺に声を掛けて来たのはクレアさんだった。カズマも近くにはいるが、さっきの風呂の件で話しかける気にはならないらしい。それでも神器の件をカズマが問いただすと、さして害がないなどと言っていたので、無視というわけではないらしい。
「……お、俺は、入れ替わってた間の疲れがあるから、部屋に戻る……」
カズマとしては、冷静になるとバツが悪いのだろう。そそくさとその場から退散していた。
「まったく……、体が入れ替わっていた件は不可抗力なので仕方ないにしても、入浴は完全に故意でしたので、ああするよりありませんでしたが……」
それでも意外に丁寧に対応しているクレアさんであった。もっと邪険にするかとも思っていたのだが……。
「戦闘はともかく実務能力は侮れませんので、そちらを生かすべきだとは思います」
なんだかんだで、評価はしているらしい。それに関してはこれから次第だろうが。
祝勝会も無事終わり、各々が部屋に戻って寝静まった頃――日本で言う所の丑三つ時、城内に警報が鳴り響いた。どうやら侵入者らしいが……、
「……クリスめ、ミスったな」
おそらく、侵入したのはクリスだろうと直感した。神器の情報を話したその日の夜間である。十中八九当たりのはずだ。
『マスター、どうされますか?』
「うーん、みんな起きてるよな? 城内の兵士ならうまく撒けるかと思うけど、アイリスの近くにはダクネスもいるだろうし……。そうするとゆんゆんもいるか……。クリスでもちょっときついかな?」
援護するか、このまま黙っているか……。どっちにしても後でクリスには色々と聞きたいとこがあるので、貸しを作っといた方が良いかな? というわけで援護に回る事にしたので、
「お前はイビキでも再生してろ」
『了解しました』
デバイスに指示を出し、クリスの援護へと向かったのであった。まず向かったのは、城で一番高い場所にあるベランダ。そこで見たものは……、
「クリスと……バニル仮面?」
あの仮面……、確かバニルに貰ったな。俺のはすぐに壊れたけど……って事はカズマか。何でカズマがクリスの手伝いを……? と色々と考えていると、
「オラオラ、銀髪盗賊団のお通りだ! 痛い目に遭いたくなければ道を空けろ!」
カズマ仮面が目の前の兵士を風と土の初級魔法の組み合わせ、そしてドレインタッチで見る見るうちに無力化していく。
「やるなあ……! あの状況で良くもまあ……」
一応、俺も援護できるように準備しとくか……、と考えて、とある場所に寄ってからカズマ達の後を付けていた。俺の場合、ここじゃあ珍しい魔法も使うし、杖も愛刀も目立つのでここでは使えない。ついでに前の時みたいな変装じゃあ、アクセルと王都で指名手配されかねない。念入りに、正体がバレない様に普通ではありえない格好をしている。
ミツルギ、レインさんを下し、最上階へと向かっていったカズマ達にバレない様に尾行してる俺ではあったが、何分、今の格好はかさばるため、それも一苦労である。そして最上階で見たものは……、
「貴様らは何のためにここへ……」
クリスとカズマを見て固まるダクネスであった。もう、バレてるなこれは……。
「ユウさんは熟睡中だったから、この場にはいないけど、私だって賊の一人や二人……!」
ゆんゆんは二人の正体に気付いておらず、この場で戦うつもりらしい。
「マ、マズいですよ! お頭。ゆんゆんはアイツ仕込みですから、下手な搦手じゃあ通じない! どうにか説得を……!」
「ええっ! ユウの仕込みって……それってかなり……強い?」
魔法で相手に怪我をさせる事を懸念したらしいゆんゆんが短刀を抜き、二人に向かって駆け抜けて来る。バインドで動きを止めようにも、ロープが絡みつく前に切断している。
「ちょ……! ちょっと、あの娘、魔法使いでしょ!? 何であんなに動きがいいのさ!?」
「魔法使いの動きじゃねー! 戦士か何かか!? こうなったら、降参する振りしてドレインを……!」
カズマが投降する様な仕草で両手を上げていたが、ゆんゆんは構わずに顔面に蹴りを叩きこもうとしていたので、慌てて避けるカズマであった。
「待て! 手を上げてたろ! 蹴って来るんじゃねえ!!」
「勝ったと思った時が一番危ないんです! ユウさんはよく言ってました! ”事情を聞くのは相手を完全に無力化してからだ! 難しい事は、倒してから考えろ”……って!」
ゆんゆん、成長したなあ……。俺も嬉しいよ。まあ、この場だとちょっとマズいけど。
教え子の成長に思わず、目頭が熱くなってしまったが、これ以上時間を掛けると下の騎士たちも追い付いて来そうなので、そろそろ出るかと……カズマ達とゆんゆんの間に割って入ると、
「「「「…………」」」」
俺以外の時が止っていた。それもそのはず、今の俺の格好は……、
「カエル?」
そう、昼間に偶然見つけたカエルの着ぐるみを着こんで正体がバレない様にしていたのだから。いち早く、現実に戻ったダクネスが大声で……、
「き、貴様は……も、もしかして……」
うん。カズマとクリス、そんでもってここにいないのはあと一人だ。ダクネスが勘付いても仕方ない。
「……否。僕はお前らアクセルの冒険者に復讐するために、地獄から蘇った『アベンジャー・トード』! お前らに食われた恨みを晴らしに来た……!」
もう適当な理由つけて、名乗ってしまったのであった。しかし、アクアだけは、
「そ、そんな……! 私がカエルの唐揚げを食べた時に”いただきます”って言わなかったから……、カエルのぬいぐるみに憑りついて出てきたの!?」
……ずっと前に泉の主を鍋にした時に、”いただきます”を言わなかったせいで、人形に魚の霊が憑りついた事があったので、それを思い出したらしい。もうその路線で行くしかないと思い、めぐみんとゆんゆんの方を向き、
「そこの二人は……魔法で僕たちを良いだけ、殺してくれた二人だ! ただじゃおかない!!」
そうして、二人の方を向くと同時に、
「『セイクリッド・ターンアンデッド』ッ!」
アクアの浄化魔法が俺へ炸裂したが、生者なので当然効くわけもなく、茫然としているアクアに対してあるものを投げつけた。
「な、何よ!? このネチャネチャ!? もしかしてカエルの粘液……?」
アクアがカエルの粘液と思しきもので、全身テカテカ光っている。アクアは数秒間無言になった後、
「いやあああああ!! カエルは嫌あああああ!! また呑まれる! 嫌ああああああ!!!?」
昔のトラウマを思い出して、大泣きしていたのであった。ちなみにこの粘液、城の厨房にあった、ところてんスライムに水を加えてゆるーくしているものだったりする。
間髪入れずに、固まっているめぐみんとゆんゆんにも同じものを投げつけて、ヌルヌルにした。これで心が折れるかと思ったが、
「あのふざけたカエル……許せませんね……! さっき私達に恨みがあるなどと言っていましたが……、返り討ちにしてくれます!」
「……誰かは知らないけど、この程度で動揺する私じゃありません!」
本当に成長したなあ、ゆんゆん。女の子がそんな惨状になったら、アクアみたいに泣いたっておかしくないのに。
着ぐるみの中で嬉し涙を流していると、杖で殴り掛かろうとしためぐみんをうまいこと捌き、持っている杖を奪い取る。そのまま、振り回して槍のように使っていたが、どうせだったら、ゆんゆんとは徒手空拳でやってみるかと思い立ち、杖を後方へ投げ捨てると、
「……さ、さっきの槍捌きは……!?」
めぐみんが何か感じ取ったようだった。……多分バレたかもしれないなあ。
「はあああああ!!」
気合の入った声と共にゆんゆんのパンチやキックが俺へと連続で繰り出される中、それを全弾防御しながら反撃をしているが、一向に諦める気配が無い。一番最初に稽古をつけた時に比べたら雲泥の差になっている。俺も着ぐるみで動きは多少悪くなっているのもあるが、隙をついてさっきゆんゆんが斬ったロープを拾って、そのまま彼女の両足を軽く縛った後、
「『フリーズ』ッ!」
氷の初級魔法でロープを凍結させて自由を奪った。後は両手も縛り無力化したのだった。
「や、やっぱり……、その初級魔法の使い方は……!?」
もう完全に俺だと気づいたらしいめぐみんであった。これは前にダクネスの実家で同じ事をやっているので、分かってしまったのだろう。そうこうしていると、自分の部屋の外の騒ぎで気が気でなくなったアイリスが出て来たので、それを見たクリスとカズマは……、
「「『スティール』ッ!!」」
クリスの手にはネックレス、カズマは良くは見えなかったが、アイリスの様子から察するに、下着では無かったらしい。そのまま俺も二人にくっ付いてテラスから外に出ようとしたのだが、
「今までの流れで、それが狙いだって事は分かったわ! あんた達にそのまま持って行かせたりはしないわよ!」
アクアが何故かは知らないが、クリスが奪った神器に封印をかけていた。そして、テラスから城の外に脱出した俺は、カズマとクリスを抱えながら闇夜に紛れて空を飛び、城の外へ離脱したのだった。
次の日。
宿の俺の部屋に、メンバー全員とクリスが集まっていた。ダクネスはカズマとクリスにアイアンクロ―という名の説得で城に侵入した経緯を聞き出そうとし、俺はというと……。
「何か申し開きはあるかしら? カエルさん?」
「よくもまあ、粘液代わりのところてんスライムまで準備したものです……。あんな風に杖を槍代わりに使ってバレないとでも思っていましたか?」
「ユウさん……。女の子をヌルヌルにする趣味があるんですか? メイドさんやツンデレも詳しいですし、まだ特殊な趣味を隠してませんか?」
正座する俺の正面にはアクア、その両脇にはめぐみんとゆんゆんという状況で、お説教を喰らっていたのであった。
「言い訳はないが、アクア……。ここは水の女神様らしく、綺麗に水に流してくれないか? 俺としてはゆんゆんの相手をするのは、カズマ達じゃ厳しいと思って援護しただけなんだ」
何とか煙に巻こうと、アクアを女神様と呼んでみたが、
「そ、そうね……。私は女神だもの! ここは――」
「いけません! この男の口車に乗らないで下さい!」
めぐみんがすかさず止めていた。これでアクアはどうにかなるかと思ったのだが……。
「ゆんゆん、賊に対して、ちゃんと対処していたな。俺も嬉しいよ」
「へっ!? そ、そうでしたか? でも私、やっぱり全然敵わなくて……」
褒められて、どことなく嬉しそうなゆんゆんに続けて、
「だが、女の子が蹴りを使う時は気を付けた方がいい。その……」
それで、何の事か理解したらしく、顔を真っ赤にしながら、
「……見ましたか?」
「故意に見てはいない。偶然見えてしまっただけだ! 不可抗力だ!」
それを聞いたゆんゆんはブルブル震えながら、
「うわああああああ!!」
「お、おい! やめっ……!?」
ワンドを俺の頭にボカボカ打ちつけていたのだった。このワンド、先っぽに水晶っぽい鉱石が付いているので、結構痛い……。
「今度から、もう少し大人っぽい下着にしようかな……」
ゆんゆんが何かを呟いていたが、よく聞き取れなかった。
「さて……、カズマ達の援護のために着ぐるみを着たのは分かりましたが、もっとやりようがあったのではないですか?」
「うむ。これが一番身元が判明しづらいかなって思ったんだ。これは本当」
「わざわざところてんスライムを用意したのは、どうしてですか?」
「相手を傷付けずに無力化して心を折るには、これが良いかなって。実際、アクアには効果抜群だったし!」
それを聞いて頭を抱えるめぐみんであったが……、
「覚悟してください! 年頃の娘をヌルヌルにしたのですから、責任を取ってもらいます!」
「その言い回しだと、俺がめぐみんにいけない事をしたみたいに聞こえるよ? ついでにアクアとゆんゆんにも」
「十分いけない事です! アクアとゆんゆんも参加してください!!」
そうして、城を騒がせた三人組は人知れずにお説教を受けていたのであった。
その説教の中で聞いたのだが、カズマがアイリスから盗った指輪は王族が伴侶になる者に渡すのだそうだ。それを聞いて、本で見たベルゼルグの歴史を思い出してしまった。
「……カズマ、知ってるか? 魔王を倒せば、王女を娶る権利が与えられるらしいぞ。そんな大事な指輪盗ったんなら、頑張ってみたら?」
「……マ、マジか!? けど、どうやって……」
「そうだな……。前に言ってたみたいに、誰かが瀕死の状態まで魔王を追い詰めて、止めはお前が刺せば問題ない!」
それを言って、更にめぐみんにお説教を受ける俺であった。
ダクネス達のお説教が終了し、俺達はアイリスにお別れの挨拶をしていたのだが、例の神器に関しては体が入れ替わっている最中、どちらかが死亡すると元に戻れなくなるらしい。その話で、義賊はアイリスの為に盗みを行ったとの推論も飛び交っていた。神器の時間制限の件といい、何でそれをカズマが知っているのかを確認しなければ、と思いつつ……。
「しかし、あの仮面の男と銀髪の少年、そしてカエルは何者でしょうか……?」
「銀髪の少年は、アクセルでも出没したという噂がありますが……」
「もしかしたら、あと一人……、手配書にある剣士も王都に来ていた可能性がありますね……」
はい、その剣士は俺です。なんて言えるわけもなく、飄々とした雰囲気を出しながら話を聞き流していた。そして最後、なぜかアイリスがめぐみんに耳打ちし。
「お互い頑張りましょうね」
イタズラっぽく耳元で何かを呟かれていためぐみんが、真っ赤になっていたのであった。
ちなみに、その盗賊三人組。何故かは知らないが、カエル盗賊団と王都では呼ばれるようになっていたらしい。そうなったのは、やっぱりインパクトの差だろうか? これでは俺が主犯のように思われるので、次やることは無いと思いつつ、もしそうなった場合に備えて、リーゼの仮面でも貰って来ようかな……などと考えてしまった。
ヒロインをヌルヌルにする主人公……、だと!? なんてこった……。
魚の霊が人形に憑りついた下りは、『この素晴らしい世界に日常を!』に載っている話です。
神器で三人が入れ替わったのは、話の都合上なので、ツッコまないでいただけると助かります。カズマに対するクレアさんの態度が、書籍に比べて軟化していますが、工事計画をちゃんと練っていたのが効いています。
ちなみにこの工事、アクセルに紅魔族が来るフラグです。