この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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三度の魔剣使い

こめっこが屋敷に寝泊まりするようになってから一週間経ち、ここでの生活も慣れてきたようではあったが、特にちょむすけは気が気でなかったかもしれない。例えば……、

 

「うまそう……」

 

じゅるっとよだれを垂らし、獲物(ちょむすけ)に狙いを見定めるこめっこに対して、

 

「……もしかしたら、ちょむすけは魚を食べたりする肉食だから、臭みがあって美味しくないかもしれないよ? ハーブとか食べさせて飼育した鶏は、おいしいって聞くけど」

 

ガクガクブルブル震えるちょむすけを見てると気の毒になるので、それとなくこめっこが狙わないようにしてみたのだが……、

 

「だったら、草を食べさせて太らせればいいの!?」

 

もう、斜め上遥か上空の答えが返ってきましたとも。どうしてもちょむすけを食う方向に行きたいのだろうか? とりあえず、ちょむすけが安心するように抱き上げて、めぐみんの方へ行き、

 

「おい……! お前んとこの妹、どういった教育してんだ!? 現地妻だの女を落とすだのは犯人がいたから良いとして、何がこめっこちゃんにそこまでさせるんだ!?」

 

「……分かっているでしょう! 私の実家の財政事情は……。ここまでの野生児になってしまうとは思いませんでしたが……」

 

学生時代、ゆんゆんの弁当巻き上げていたお前さんも相当だと思う。

 

「……もうさ、実家へは仕送りじゃなくて、補給物資(食料品)にしたら?」

 

「それも考えましたが、結局浮いたお金で魔道具製作に打ち込んでしまうのですよ」

 

先日、ご夫婦で屋敷を訪れた際、リミッターが意味の無いものになってしまったのを聞いてしまった。なので俺としては、ひょいざぶろーさんが普通に魔道具を制作できる手立てが思い浮かばないのである。

 

「……あの人は、もう素材収集して売り歩いた方が良いと思う」

 

「それができれば苦労はしません……」

 

お互い顔を見合わせ、はあ……っとため息をつくしかなかったのであった。

 

ともあれ、このままではこめっこが屋敷にいる間、ちょむすけの命が危険に晒される。いやもう、フォアグラの如く無理矢理食わせて太らせるために、こめっこが腕一杯に草を持って来ていたりしたし。

それはいくらなんでも忍びないので……、

 

「そっ……、それで、ここに来たわけね? まさか私の半身がそんな目に遭っていたなんて……」

 

ここはウィズ魔道具店。従業員のウォルバクさんが青筋を立てながら、俺の説明を聞いてちょむすけを預かってくれるのを了承してくれた。

 

「フハハハハ! いやはやニート神よ。中々愉快な状況となっておるな! 人間に食われる神など前代未聞であろう!」

 

このところ、ライターが売れに売れて、営業中はお客さんが引っ切り無しなウィズ魔道具店なので、開店時間よりもかなり前に店を訪ねていた。バニルは繁盛のおかげか、かなり機嫌が良い。

 

「貴様らにも感謝せねばな! 普通ならば売れない高純度のマナタイトですら売れに売れておる! ネタ種族が大挙して押し掛けたおかげで、笑いが止まらぬわ!!」

 

今回の工事でアクセルを訪れた紅魔族は三十名程。そこから一人あたり六百万エリスの報酬を引いても一億エリス以上は余裕があるので、資材の他には紅魔族が魔法を使いやすくするために、魔力消費の肩代わりをするマナタイトが飛ぶように売れているそうだ。これに関しては、工事費用で賄っているので、ある意味、濡れ手に粟の状態のはずだ。

ウィズが仕入れた純度の物は、駆け出しの街では需要がほとんど無いため、仕方なくしまっていたらしい。それが売れているので、ここまでの上機嫌になっていたのだろう。

 

ちょむすけの安全も確保したし、そろそろ帰るかといったところで、開店前にも関わらず店のドアが開き、

 

「助かったよ、ゆんゆん。まさかこの店の常連だったとはね」

 

「店主さんのお店は、私も良く買い物をするから……」

 

そこに姿を現したのは、ゆんゆんと……、

 

「おや、整体師さん。奇遇だね……、というか、ゆんゆんの懇意にしている店なら、あなたがいても不思議はないか」

 

作家志望の風変わりな紅魔族、あるえであった。

 

「まさか、あるえまで来ていたとはな。小説は書きあがったのか?」

 

「……文章は概ね出来てはいるんだが……、如何せん出版に漕ぎ着けるまでが問題でね。まずは自費で試してみようと、ここの工事に参加したわけだよ」

 

つまりは自費出版する気か? つーかこいつの小説って……。

 

「……またおかしな内容書いて無いだろうな? 特に俺について」

 

「『外伝』の主人公は、『本編』の父親になるのは決定――」

 

「せめて『外伝』は出版するな!!」

 

あんなの世に出されてたまるか。何が何でも阻止しなければ……!

 

「娘よ、ぜひ出版するがいい。自費出版であればこの店で配ってもよいぞ?」

 

「てめえも余計な事、言ってんじゃねえええええ!」

 

これは絶対にバニルの嫌がらせだ。今頃おいしくご飯を頂いているのだろう。

 

「……バニルはいいとして、あるえはどうして……ってマナタイトの注文か?」

 

「その通り。駆け出しの街で、高純度のマナタイトを扱っているのは、ここだけだからね」

 

今のウィズ魔道具店は言ってみれば特需だ。いくらウィズでも現在の店の資金を枯渇させる事は困難なはず。

 

「カズマもまた商品の見本持ってくるって言ってたし、お前としちゃあ万々歳だろ?」

 

「ふむ。貴様ら……、特に茶髪の小僧の商品は冒険者のみならず需要があるものばかり故、売り上げが凄まじいものとなっている」

 

だろうな。ライターだって、一万エリスっていう日本じゃ信じられない位の高値だってのに売れてるんだ。他の物でも同じようになる可能性は極めて高い。

 

「そういえばウィズは……?」

 

「店主であれば赤字を出さぬために、昼は店番、夜は商品の生産というサイクルを二週間続けておったら、情緒不安定になってしまったのでな。今は休ませておる」

 

……リッチーでも精神は摩耗するのか……。いや、してもおかしくはないか。

 

その後、あるえは工事現場に出勤し、俺も先日の素材の代金を支払ったので屋敷に戻ろうと思い、ちょむすけに、

 

「……じゃあ、ゆっくり養生してるんだぞ? その円形脱毛症もちゃんと直さないと」

 

「にゃー……」

 

悲しげな声で鳴くちょむすけであった。ぱっと見では分からないが、よく見ると毛が抜けている部分があったりする。精神の摩耗具合は今のウィズと大差ないかもしれない。

 

「……小僧」

 

店の入り口のドアに手をかけたところで、バニルに呼び止められ、

 

「……貴様、どこまで掴んだ?」

 

「……何言ってるやら? そんなに気になるなら、自分で見通せ。(笑)のお前にできるならな」

 

俺とバニルの会話に一人付いていけないゆんゆんは、首を傾げている。

 

「世界を渡る旅人よ。貴様の任務とやらは、現在のこの世界の調査であろう? 余計な事を調べれば、後々厄介事になるかもしれぬぞ?」

 

「お前が俺の心配ね……。一応、頭の片隅くらいには留めといてやる」

 

そうして、ゆんゆんと一緒に屋敷への帰路へと就いたのだった。俺達が去った後のウィズ魔道具店では……、

 

「……小僧がかつてを知ってどう動くか……」

 

「……あなたでも見通せないの、バニル?」

 

「あの小僧、最近になってひと際、見通しづらくなりおった。おそらく吾輩の仮面を手に取っただけで割れた故、チンピラ女神が何かしたとは思うが……」

 

ちょむすけを抱っこしているウォルバクと、仮面で見えないがおそらくは厳しい顔をしているバニルであった。

 

「かつての店主ですら、それを知って中立でいることしか選べずにいた。そして……」

 

「彼は……その、本当に……?」

 

「ニート神よ。あの小僧は、貴様ら神の祝福とやらで滅んだ世界の末裔と言っていい。直接的な繋がりはなかろうが、残っている技術がそれを物語っておる」

 

それを聞いて悲しげな表情を浮かべるウォルバクであったが、

 

「そのニート神って呼び方はやめてもらえないかしら?」

 

『ニート神』――怠惰の女神ではあるが、そうは呼ばれたくはないらしい。

 

 

 

 

「たっだいまー!」

 

「お邪魔します」

 

俺とゆんゆんが屋敷に戻ると、バタバタとした足音を立てて、出迎えてくれたこめっこではあったが。

 

「兄ちゃん! ちょむすけは!? ちょむすけは太って帰ってくるの!?」

 

……いやまあ、こめっこがいないと、悠々自適と暮らして太るかもしれないけどさ。そういえば、ちょむすけが猫鍋とかやらないのは、こめっこに鍋に入れられたのがトラウマになっているのかもしれない。

 

「……ちょむすけ食べるより、おいしいの作ってあげるから、しばらくそっとしておこうな」

 

「うん!」

 

目をキラキラ輝かせながら、大きく頷くこめっこであった。せめてここにいる間は、おいしいものを食べさせて、できればちょむすけを調理するのを忘れさせる事は出来ないだろうか?

 

「じゃあゆんゆん、丁度いいから今日の稽古するか?」

 

はい、と返事をしたゆんゆんと、稽古が気になるらしいこめっこと一緒に庭に出ていつも通り相手をしていると、

 

「姉ちゃんはやらないの?」

 

「めぐみんは自分で鍛えてるくらいかな? それでもちゃんとやってるっぽいから、前ほど心配はしなくなったけど」

 

確かに本格的にやっているのはゆんゆんだけだ。ダクネスは自分で筋トレしてるけど、カズマやアクアがそんなのやってるのは見た事がない。しばらくして、稽古を終えて屋敷に戻ると、

 

「バニルがカズマの新商品楽しみにしてるってさ。早く持って行ってやったら?」

 

「あと、いくつか作ってからだ。そうすれば一生働かなくてもいい財産が手に入る……!」

 

日本人(?)らしいので、日本の便利グッズを見せようと考えているらしい。とはいえ、カズマが日本人なのは半信半疑である。理由は世界間の移動ができるかと聞いた時に、アクアもカズマもはっきりと”できない”と言っているからだ。嘘ついてるみたいには見えなかったし……。

 

昼食も終えて、食後のお茶をゆったりとした雰囲気で啜っていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。工事現場も昼休みなので、ひょいざぶろーさんでも来たかな、と思って玄関に向かったのだが、

 

「……貴様!? また……何の用だ!」

 

「ダクネスちょっと落ち着いて。前の事もあるだろけど、まずは上がってもらわないと……」

 

玄関にいたのは意外も意外、王都で先日会ったばかりのミツルギであった。どことなく、いつもに比べて暗そうに見えるが……?

 

「突然、すまない。お邪魔してもいいかな?」

 

本当にいつもに比べ、しおらしくなっているいるミツルギであった。とりあえず、要件を聞くためにリビングへ通した。前のように、移籍してくれと言われなければいいが……。

 

 

 

「先に言っておきますけど、移籍の件なら今回もお断りしますので」

 

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ!」

 

どうやら俺を自分のパーティーに入れるために来たわけでは無いらしいが……。込み入った事情のようなので、あちらの説明に耳を傾けると、

 

「先日、王城に侵入した盗賊の件は知っているだろう?」

 

その言葉に、ミツルギとこめっこ以外の全員がビクッとしてしまった。もしかして、あれが俺らだと勘付いて捕まえに来たのだろうか? と脂汗を垂らしながら、すぐに対処できるように準備をしていたのだが……、

 

「僕もその一人と戦ったが、惨敗だった。その戦いを目撃したクレアさんからは、”あれだけの使い手だったから仕方ない”と言われたが、それでは負けた言い訳にはならない……」

 

ミツルギもアクアに神器であるグラムを授かり、この世界に送り込まれたらしい。こないだの話し合いの時に、ちょこっと出た『魂』ってのが本当にあって、それだけで体も再生できるとしたら、神様ってのはどれだけ凄いんだ? けど今のアクアは世界を渡るのはできないっていうし、その辺りで信憑性に欠けるのである。

 

……もしかして、プロジェクトFの大本になってるのって、大昔に神様とやらが転生者にやった体の複製を、人間でも出来るようにするためのものとか……。まさかな……。

 

少し考え事をしながら、ミツルギの話を聞いていたが、要は今の彼は、自分の力が分からなくなっていると、そう言っていた。グラムを持っているというのに、手も足も出なかったと落ち込んでいた。

確かに戦士系や騎士は盗賊スキルと相性が悪いとは言え、バニル仮面のカズマに負けた時は、単なる初級魔法で行動不能にされていた。

 

「それで、俺達に何をしろと?」

 

「クレアさんから聞いたけど、君はレベルやスキルの強さだけで、測れないものもあると言っていたとか……」

 

途端にその場の空気が重くなった気がした。会食の席で俺が言ったことだ。その中で、アクアだけは空気を読まずに、こめっこに宴会芸を見せて拍手を受けていた。

そして、ミツルギが意を決したような表情で、

 

「改めて、君と勝負がしたい! 僕には何が足りないのか……それが知りたい!」

 

分かってはいたけど、この人はかなり真面目な人だ。それ故にドツボに嵌ってしまいそうなタイプでもあるが。

 

「一つだけ……。あなたは強いですよ。それこそ、そのグラムがあれば接近戦だと俺だって敵わないかもしれない」

 

これは間違い無いかもしれない。ミツルギは前に戦った時、ベルディア(アンデッド)でもないのに力任せにバインドを引きちぎろうとしていた。グラムとやらの効果だろうが、真正面から打ち合ったら勝ち目は薄いだろう。

 

「『抜剣』があってもですか? あれなら……」

 

「威力が出るようになるまで時間がかかる上に、最大出力でやると俺と杖の命を削るのにか? どっち道、真正面からの接近戦じゃ不利には違いないんだよ」

 

めぐみんは俺の分析が気に入らなかったらしい。リスク無しのミツルギとリスクありの俺だと、実際はそんなもんだ。だからこそ、真正面からは戦う気はないのだが。

 

「それに、今の俺には勝負よりも大切な事があるんでな」

 

「……それは?」

 

ミツルギにとっては気になるところだろう。彼なりに悩んでここに来ているのだから、それを知りたいはずだ。

 

「これから一戦交えると、夕食が一品減るので、それは避けたい」

 

「「「「……はっ!?」」」」

 

大人が全員素っ頓狂な声を上げているというのに、この場で最年少のこめっこだけは、この世の終わりのような顔で。

 

「に、兄ちゃん!? ごはんが減るの!? もしかして、デザートの洗面器いっぱいのプリン・アラ・モードが!?」

 

確かに削るとしたらそれだろうな。勘が良いですね、こめっこさん。

 

「ふざけないでくれ! そんな事で……!」

 

激昂したミツルギが俺の胸元に掴みかかり、今にも殴ってきそうな勢いであった。すかさず止めに入ったダクネスであったが、

 

「いいから止めろ! ユウ、お前も話をはぐらかすべき所ではないのは、分かるはずだ!」

 

「失礼な事言うな。はぐらかしてもいないし、本当にそっちの方が大事ってだけだ」

 

それでこめっこ以外の全員が俺に痛い人を見る視線を送っていた。そんな視線されると、いたたまれなくなってしまうのだが。

 

「……お前ってもしかして本当に……ロリ……」

 

「あ゛あ゛っ!?」

 

威圧的な物言いと態度に、すぐに縮こまって無言になってしまったカズマであった。

 

「……はあ。……確かにミツルギさんの言い分も分からなくはないですよ? そんなのは、俺だって考えた事はあります」

 

ため息をつきながら、渋々ではあるが説明を行っている。

 

「けど結局のところ、人間がその時に、出来るのなんて一つだけですし。それが通じなきゃ、いくら強くたって戦ってる相手には勝てませんって」

 

「では、先日は実力では勝っていても、それが相手には通じなかっただけだと?」

 

「極端に言えばそうでしょうね。まあ、相性も悪かったでしょうが」

 

それを聞いて、顔がどことなくにやけているカズマであった。

 

「言いたい事は分かりましたけど……、それこそちゃんと勝負した方が分かりやすかったんじゃ……」

 

「悪いが、こめっこちゃんがここにいる間は、腹いっぱい好きなのを食わせるって決めてんだ。なので俺にとってはそっちの方が大切。みんなでご飯食べるとか、どっかに連れて行って色々見せるとか……な」

 

ゆんゆんも納得がいかない部分があったらしく、一戦交えた方が良いんじゃといった感じだったが、それを聞いて、もう説得は諦めたようだ。けど団欒とか、思い出とか、特に子供には大切だと思う。

その中で、めぐみんだけは何やら呟いていた。耳を澄ますと……、『魔性の妹』……と。

そして、そのままこめっこに耳打ちし、

 

「兄ちゃん! 兄ちゃんの格好良いところが見たい!」

 

「先に言っておこうか。あっちの得意分野で戦ったら格好良くはならない。それだけは確定」

 

妹をダシにしてみようと思ったらしいめぐみんも、これは無理だと思ったようだ。だが、

 

「……勝負は明日で構わない。だから、頼めないかな?」

 

そこまで言ったミツルギに思うところがあったのだろう。カズマ以外のメンバーから、熱烈な説得をされて了承する破目になってしまった。ちなみにカズマは、やっぱりイケメンは気に入らないなどと言っていたのであった。

 

 

 

 

 

次の日、朝食後にミツルギが屋敷を訪れたので、約束通り庭で模擬戦を行うことになったのだが、

 

「すまん。カズマ、ちゅんちゅん丸貸して」

 

これはメンバーとゆんゆんは意外に思ったらしい。本当にあちらに合わせて勝負をする気だと、そう理解したようだった。そして、俺はちゅんちゅん丸を抜いて正眼に構え、ミツルギもグラムを構えてこちらへ近づいて来たが……、次の瞬間、

 

「……悪いが、お前みたいなのとまともに打ち合う気はないので、逃げさせてもらう……!」

 

逃げるといっても、ギリギリ相手が追いつけるように誘導し、剣を振らせてひたすら空振りをさせていた。それを苦々しく思ったのだろう。

 

「なんで剣で勝負しない!? 佐藤和真から刀を借りたのに……!?」

 

「こんなのは格好だけだ。その魔剣は膂力を高めるんだろ? そんなのと打ち合ったら、刀ごと俺の腕まで壊されるからな。それはごめん被る……!」

 

今回は魔法での身体強化も無しになっているので、絶対に鍔迫り合いとかしたくない。

 

そんな俺たちの様子を見ていた面々は、

 

「……ねえねえ、今のユウってカズマに似てると思わない?」

 

「……た、確かに……小狡いというか……」

 

「う、うむ。何かこう……、相手の裏をかいているところが……」

 

アクア達の感想を聞いて、カズマが落ち込んでいたような気がするので、あとで何か奢ってやろう。そして、三時間後。

 

「はあ……、はあ……、はあ……。くっ……!」

 

肩で息をして、もう碌に剣を振れなくなっているミツルギであった。見れば疲れ果てて、剣を杖代わりにして地面に突き刺している。

 

あと、もうちょっとかな……?

 

「まーだやってるわね? もうすぐお昼よー!」

 

いち早く飽きて、屋敷に戻ったアクアであったが、昼食だからか、ちゃんとこちらにも気を配っていたようだ。それから三十分後、

 

「……ふぅ……なっ!?」

 

疲労から、剣を持ち上げるのも無理となったミツルギに……、

 

「えいっ!」

 

バシっと峰打ちで、剣道で言うところの小手を叩き込み、グラムを握った手を解かせて、切っ先を彼の顔面に向けると、

 

「…………」

 

もう言葉を発するのも億劫になったらしく、無言のまま倒れこんで終了となった。

 

「……勝った」

 

三時間半、飽きもせずにそれを見ていためぐみん達は、

 

「……もっと格好良く戦えないのですか!? 魔剣を捌いて一撃叩き込むとか、相手より速く斬るとか!?」

 

「……やればできるかもしれないが、失敗したら俺はそれで終わる。下手すればさっき言った通り、腕ごと壊される。いくらアクアが治療してくれるたって、それは絶対に嫌だ!」

 

俺は普通の名刀ちゅんちゅん丸、あっちは神器のグラム。そこまで戦力差があるんだから、このくらい良いじゃないか。

 

「……よく三時間半も逃げ回っていたものだ。運動量はミツルギの倍以上ではないか?」

 

「……一つ言っておこう、ダクネス。逃げながら相手を消耗させる事にかけて、俺を上回る奴はそうそういない。これは元々、得意分野だ」

 

呆れながらダクネスがそう言っていたが、これに関しては、子供の頃のミッドの連中の練習相手では、そうするしかなかっただけである。地力では如何ともしがたい差があるんだから、できる事を全部やるしかなかったのだ。

これにしたって、逃げ回るための体力と精神力がいるんだぞー。結構憔悴するんだぞー。

 

「……お前も、あの人達の相手で……大変だったんだよな? お前の戦い方は……、嫌いじゃないぜ!」

 

唯一、カズマだけは俺がどうしてこんなのが得意なのかが、分かってしまったようだ。見ると、頬に一筋の涙が流れている。

こめっこも興味があったらしく、俺達が戦いをじっと見てはいたが。

 

「兄ちゃん、格好悪い」

 

ですよねー。紅魔族的には、これはかなり格好悪い戦い方だろう。しかし、俺は辛辣な言葉発しためっこに向かって、

 

「あのね。兄ちゃんは格好悪くても、無様でも最後に立ってれば良いんだ。大切なものを守って、元気に帰って来るのが一番大事だから」

 

「最後に良いセリフ言って締めようとしてますが、もっと方法があったのではないですか!?」

 

「めぐみんよ。魔法での攻撃はダメ、魔法で身体強化も無し、飛んだらいけない、相手は神器持ち。それで勝ったんだから、もうちょっと褒めてくれても良いと思う」

 

これは本心ですよ、本当に。そこまでハンデあって、他にどうしろってんだ? ってか俺に何を期待してたんだか……。

 

「……何で、君には負けっぱなしなんだ……」

 

がっくりと力を落としたミツルギであったが、

 

「だって、俺は勝てるように動いてただけだし。真正面から戦うだけが、戦いじゃないからな。流石にそっちの体力が俺を上回ってたら、詰んでたけど」

 

これに関しては、グラムなんて物を貰ったのも原因の一つかもしれないが、その他には、

 

「それに攻撃が読みやすかったし。なんつーのかな? 剣技自体が借り物でぎこちない感じだった……ような?」

 

これに関しては、そんな感じがしただけで根拠はないが……、もしかしたら……。

 

「足りない部分があるとしたら、色々と経験不足じゃないですか? もしかしたら、こと個人戦含め戦闘全般に関しては、カズマの方がうまく立ち回れるかも」

 

「……そうか」

 

そうしてミツルギは屋敷を後にして行った。これで納得してくれると良いんだが……。

その後、全員で屋敷に戻り、昼食を取っていたのだが……、そこで、

 

「さっきの戦い方は子供達のヒーローだってやってるんだから、そこまで捨てたもんじゃないと思う」

 

俺のさっきの戦い方が、どことなく納得いかないような面々にそれを言うと、

 

「なんだ? そのヒーローとやらは。そんな小狡い事をする人間が、子供達に受け入れられるはずはないだろう」

 

ダクネスが反論してきたが、即座に。

 

「とある物語の主人公で、頭がパンなんだけどな。そのパンが濡れたり、欠けたりすると実力を発揮できないんだが……」

 

それを聞くと、アクアとカズマが……、

 

「あれって、どう考えてもアンパ〇マンよ! アン〇ンマンがそんな姑息な手を使うわけないじゃない!」

 

「いいから、黙って聞いてみようぜ。面白そうだ」

 

ヒソヒソ話をしている二人は放っておいて、話を続ける。

 

「頭のパンを変えて全力を出すために、そのヒーローの生みの親が新しいパンを作るわけだ。その間、そいつは悪者の攻撃に耐えてるんだけど……」

 

「そこから逆転するのでしょう? よくあるパターンではないですか」

 

めぐみんの言う通りだけど、そこで少し考えてほしい。

 

「そのパンはな……。ピンチになってから、一から小麦粉を練って作るんだ。パンって小麦粉こねて、発酵させて、焼いて、最低数時間は完成に時間を要するわけだ。数時間、そのヒーローはひたすら悪者の攻撃に耐えているんだよ」

 

それを聞いて、めぐみんとダクネスは想像をしてしまったようだ。数時間バイキ〇マンの攻撃にひたすら耐えるアンパン〇ンである。

 

「どうだ? さっきの俺と同じだろう? 相手の攻撃をひらすら避けて、逆転の一撃を叩き込む。子供達のヒーローが使ってるんだから、むしろ正攻法と言っていい」

 

そんな説明を聞いても微妙な表情の大人達。しかしこめっこだけは、

 

「そのひーろーのパンって食べれるの? おいしい?」

 

「そうだな。お腹を空かせている人を見つけると、”ボクの頭を食べなよ”……って言って、自分の頭を千切って差し出すんだ」

 

目を輝かせて、満面の笑顔になってしまったこめっこであった。いつもお腹を空かせてる彼女にしたら、正に夢のようなキャラクターだろう。

そのこめっこの表情を見て、明日はアンパン〇ンを象ったパンを焼こうと決めたのであった。




主人公がもらった量産型バニル仮面が触っただけで割れたのは、紅魔の里でアクアの魔力をもらってるからです。仮面にも謎の悪魔パワーがあるらしいですし。神様魔力で相殺されたかも?

主人公がグラムと打ち合ったら基本的に負けます。(多分)
お互い刃引きの剣か木刀なら普通に剣技の比べ合いになってたかもしれません。
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