この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
アクセルでの紅魔族の工事が残り一週間を切った頃。
「……実は、みんなに話しておきたいことが」
何回かクエストに行く事もあったが、カズマは商品開発、その他は各自で色々とやっているメンバーであった。その全員がリビングに揃っていたので、相談を持ち掛けてみたのである。
「どうした? 最近のお前にしては、珍しく真剣な顔をして」
……そりゃあさ。最近の俺は主にこめっこのご飯作ったり、こめっこに絵本読んだり、こめっこを肩車してアクセルの街中練り歩いたりしてたけど……。街を歩いてると”新しい娘ができたのか?” ……などと、ヒソヒソ話されていた気がするが、騒動を起こしてはいけないと思い、スルーしている。ダクネスは顔が緩んでいると言っていたが。
風の噂では工事現場のひょいざぶろーさんが、父親ポジション獲られたと、悔し涙を流していたとか……。
「こめっこを連れて、アクセルの観光地にでも行く気ですか? 廃城もダンジョンも、子供の興味をそそられる場所とは思えませんが」
めぐみんは、こめっこ絡みで俺が何かする気だと思ったらしい。というか、
「ユウさん、そろそろ私を女神って信じてくれても良いと思うの!」
アクアにとってはそれが一番大事らしい。水の女神って自分で言ってたっけ。
「女神かどうかはともかく、アクアは確かに『水』っぽい感じがする」
それに驚くような表情のアクアであった。少し嬉しそうに。
「私のどの辺が、水の女神って思うの? やっぱりこの溢れ出る神様オーラを感じ取ってるのね!」
女神様じゃなくて、水っぽいって言っただけのに……。
「俺の世界に五行思想ってのがある。その中で『水』の気を持っている人の性格ってのが……」
立場、性別、年齢にこだわりなく、対等の関係で交流しようとするらしい。ついでに友人となった相手は徹底して尊重し、末永く付き合っていくのだそうだ。血液型の性格診断みたいなもんだが、意外に合っている気がする。
それを説明すると、”私そのものじゃない! やっぱり分かる人には分かるのね!”……と、ご満悦であった。
「ただな……。性格的に安易な道に流れて、堕落することもあるっていう短所があるらしい」
その一言で一瞬静寂となり、カズマから、
「アクアそのものだな。アクシズ教の教義もそうなってる」
「なんでよおおおおお!」
もう大泣きしてしまった水の女神様(自称)であった。そして、このところ姿を現しているもう一人が……、
「今日も一勝負してほしい!」
魔剣の勇者ことミツルギである。聞けば彼のパーティーの二人もアクセルに来ているらしいが、俺やカズマには良い印象を持っておらず、屋敷には足を踏み入れたくないらしい。カズマはパンツスティール未遂、俺はメイドさんの知識対決でコテンパン……。うん、良い印象は持たないよな……。
「俺からは一つだけ。”届く距離まで近づいて斬れ。”グラムがあるなら、これで大抵は何とかなる」
「それはどうやって?」
「それは自分で考えろ。少なくとも俺はそうした。別に剣だけで戦わなきゃならないルールはないし、要はその状況をどうやって作るかの方が重要」
……何で俺はミツルギにまで教授をしているのだろう? これは教えてるうちに入らないかもしれないけど。
ミツルギの冒険者カードを見せてもらったが、ソードマスターの一般的なスキルは習得済み。これは当然だろうが……。
「……なあカズマ、《片手剣》のスキル覚えた前と後って、やっぱり違いがあるもんか?」
「お前はいきなり何を言ってるんだ? そんなの当然だろ。剣を使った事のない俺でも、それなりにできるようになったんだからな」
だって俺、魔法使いだからそんなスキル持ってないし。そりゃあ、《初級魔法》と《中級魔法》を取ったから、使えるようになるのは分かる。
「王城で借りてきた『冒険者カード開発の経緯』って本だと、カード自体が作られたのには、いくつかの理由があるらしいんだ」
それを聞いた、その場の全員が一斉に俺を凝視し、早く話してほしいといった気配を出していた。
「あの……、私としては、冒険者カードがあるのが当然で……。何の理由があるんですか?」
ゆんゆんも相当気になってしまったらしい。自分達では当然のようにあるものが、どうして作られたかなんてのか、確かに普通は考えないかもしれない。
それは転生者であるらしいカズマやミツルギも同様であったようだ。なので、説明を始める。
冒険者カードが作られたのは……。
・その個人の現状の能力、幸運などの数値化しにくいものなども含めての数値化。
・スキルポイントはスキルを修得するためのものでもあるが、潜在能力を視覚化するためのものでもある。
・ステータスから個々人にあった職業を割り出して、安定した戦力にしやすいようにする。
「……ってなところらしいけど、その修得したスキルってのは、
「……? 意味が分からん。スキルを習得すれば、それが使えるから結局は変わらないだろ?」
カズマもそうだが、ミツルギも同じ疑問を持ったようで、顔をしかめていた。
「例えば、会った頃のめぐみんの爆裂魔法を見てた時は、その日によって出来にバラつきがあったろ? 爆裂魔法を使えるのと、爆裂魔法を毎回最大スペックで使いこなすのは、また別ってこと。まあ爆裂の場合、威力が威力だから、そこまで気にはならないかもしれないけど」
これに関しては、ゆんゆんとリーンの中級魔法を比べると分かりやすいかもしれない。同じ中級魔法でも、魔力の違いで威力が全く違ってしまっているからだ。
「魔法だと威力の違いで差が分かりやすいけど、こと近接戦技能、特に神器なんてのを持ってると、その最低限でも、大抵の相手には勝てるから気にならなくなるのかも」
「……つまり、冒険者カードでスキルを取っても、練度に関しては日々の精進が必要ということか?」
おそらくだが、ダクネスの言う通りだ。あくまで冒険者カードは安定した戦力を作りやすくするためで、そればかりに頼ってはいけないのかもしれない。こないだ、ミツルギの剣技が借り物っぽく感じたのもそれかも。そう考えると……、
「……ダクネスってもしかして図らずとも、それをやってた? 防御系スキルばっかり取ってたけど、盾代わりになってて、練度が相当高いんじゃ……」
「ああ……! 趣……コホン。いや、私は私の役割を果たしていただけだ。前に出るのがクルセイダーの役目だからな!」
さっき絶対、趣味って言いかけたな。防御系スキルの練度なんて、言ってみれば敵の攻撃を喰らう事が必須になる。趣味と実益を兼ねてるんだろう。
「つまり、修得に関してだけはスキルポイントがあれば、ある程度は簡略できるのが冒険者カードだと?」
めぐみんの問いに首を縦に振り、それに対して肯定を示す。多分、本に書いていた通りで、安定した戦力を作り出すための物なのだろう。クラスとしての冒険者以外で習得できるスキルが違うのも、言ってみれば最適化の一つと推測できる。
「そういえば、気にはなっていたが、”近づいて斬れ”の割には、お前の剣はちゃんとしているというか……基本ができているような……」
「がむしゃらに振り回せば良いってもんじゃないし。剣つーか刀か……、柄の握り方と本当に基本的な太刀筋だけは、キチっと教わった。まあ、教わったのは姐さんじゃなくて、なのはのお父さんからだけど」
ダクネスの疑問に対してそう答えたが、これに関しては本当に基礎的な部分の要点だけだった。後は自分で突き詰めなさいと。二刀小太刀と打刀の違いもあったんだろうが、それ以上に……、
「あの人達の剣は、むしろ俺には必要ないものだってさ。相手を傷付けず制圧する力に、殺すための剣は似合わないって言われた」
「……その言い方だと、その人は相当強い様に聞こえるけど」
相当強いどころじゃない。あの一家は、ちょっとじゃないくらいおかしい。
「これも前に言わなかったか? キョウヤって人に挑戦してコテンパンにされたって。その人、なのはのお兄さんだ。ちなみにお姉さんもいるが、見た目はメガネで三つ編みの文学系なのに、やっぱり強いんだ……」
そして
「……一応、聞いとくけど……そこって日本だよな? 同じ国名の魔境じゃないよな!?」
「カズマ……、ちゃんと日本だ。魔導師いたり、使い魔いたり、世界が滅ぶかもしれない事件が起こったりしたけど、日本には違いない!」
そんな俺達の様子を見ていた、こちらの住人達は、
「ニホン……、凄まじい能力の持ち主が跋扈している国の様ですね……。転生者とやらが本当であれば、そんな国から、わざわざここに来るのですから、冒険者として活躍できるのは当然です」
「めぐみん、違うから! 日本は平和な国よ! 普通の人じゃ弱すぎるから、チートを渡すの! ユウとその周りが変なだけだから!」
日本担当らしい女神様(自称)は、めぐみんの日本観を必死に否定していた。おそらく、魔王軍が裸足で逃げ出すような戦場を想像したのかもしれない。
「アクアが女神様だってんなら、これも聞きたかったんだけど、『闇の書』暴走しかけた時に何してたんだ? 神様なら、神様パワーでどうにかできただろ? あれ、世界が滅ぶ一歩手前だったけど」
「私は、若くして死んだ人間を導くのが役割だもの。担当地域の事件まで手が回らないわ!」
……アクアが本当に神様だとしても、神、使えねー! 結局自分達でどうにかしなきゃいけないって事だろ。いや、本来はそれが当然なのか。アクアには治療だので世話にはなっているので、口には出せないけど。
神様観がガラガラと音を立てて崩れているような気がする。まあ、アクアがそうだと思っているわけじゃないんだけど。
その後、十五分程話していたが、最初にしようと思っていた話題から、かなり逸れてしまっていたので、それに戻そうと……、
「……で、本題だけど、工事が終わって紅魔族の人達が里に戻る時に、ついて行こうかと思ってる」
その発言に全員が目を見合わせていた。何でまた、と言ったところだろう。
「デストロイヤー造った国……、ノイズってのを調べてみたくてな。もうほとんど痕跡なんて残っちゃいないだろうが……」
魔道大国ノイズ――デストロイヤー発祥の地にして、紅魔族のルーツでもある国だ。技術基準で言えば、現状のこの世界を遥かに超えている。アクアとカズマが地下格納庫で見つけた日記からすると、そのノイズだって転生者が絡んでいるらしいが……。
「しかしだな……。とっくに滅んだ国を調べると言っても、手掛かりが無いだろう?」
「そうでもない。少なくとも、ベルゼルグとその周辺国に何かが残ってる可能性は高い」
またまた、何の事だといった雰囲気のこめっこ以外の全員。こめっこだけは翠屋仕込みのイチゴのショートケーキを頬張っている。これは結構な自信作である。
「紅魔の里って元はノイズだった場所だろ? 格納庫だの変な施設だのあるって事は。多分隠してたっぽいから、領土の端っこだったかもしれないけど」
「……ユウさんは、里に何かが残ってる可能性が高いって思うんですか?」
「うん。旧ノイズ領は、現ベルゼルグか周辺国の領土になってるんじゃないかな? デストロイヤーが起動したのは、多分ノイズの首都だと思うけど、それ以外だとどうだろうな? 案外調べれば何か出て来るかもしれない」
紅魔族だってノイズの遺産って言える存在だ。人為的に魔法適性を高めるだけならまだしも、子孫にまでその資質がほぼ受け継がれるとか、反則も良いところだ。
「……? どうしたのですか? 私とゆんゆんを見て……」
「……俺は、お前ら程、両親の資質を継いだわけじゃないからな。少し羨ましく思っただけだ」
これに関しては単なる無い物ねだり。それは分かってはいるが、改めて考えるとやっぱり羨ましく感じてしまう。
「ユウも資質そのものは良い部類と聞きましたが? ただ魔力の扱い方が、相当下手だっただけで」
「そうですよ! 覚えるのが人より時間が掛かっただけで、それでもめげないんですから十分です!」
けどねえ、周りがねえ……。バカでかい魔力を魔法覚えたてで、思い通りに使いこなしてたのとかと比べると、どうしても自分が劣ってるように思えたんだよなあ……。
「お前の場合は……、周囲がおかしすぎる。あんなのに付いて行こうとしてる時点で、お前もどうかと思う」
カズマは俺が身の程知らずだといった発言をしながら、目を逸らしていた。
「まあ、そんなわけでだ。しばらくは紅魔の里で世話になろうと思ってる」
「でしたら、寝泊まりの場所はどうするのですか? 里に宿屋はありませんよ?」
めぐみんの言う通りだろうが、そんなのは……、
「適当に住み込みで働きながらなら、どうにでもなるだろ。銭湯でも食堂でも農家でも。なんだったら地下格納庫に寝泊まりすればいい」
「……君も、結構、物怖じしない人間のようだね。ここではその方が良いのだろうけど」
ミツルギはここに来てから、神器のおかげでカズマほどは大変な思いをしてこなかったためか、住み込みで働かせて貰うのは、意外に感じたようだ。
「工事が終わるまでは、こめっこちゃんの相手をしながら、引き続きコイツでも作るとするさ」
そうして、みんなに見せたのは、手のひらサイズの瓶。それを見ためぐみんは……、
「スキルアップポーションじゃないですか!? どうしてここに……」
「言ってなかったっけ? 前に里で世話になってた時に、作り方教えてもらってたんだ。材料はこないだひょいざぶろーさんに持って来てもらってな」
これに関しては、ウィズ魔道具店で材料を取り寄せてもらい、製品にした後で卸そうかと思っていたのだが、バニルが嫌がったので、そちらはしないで、
「これは、カズマが買い取るので予約が入ってる。何せ、市場価格よりもかなり安く売るから。いやあ、持つべきものは金持ちの冒険者仲間だなあ……」
「このスキルアップポーションがあれば、レベル上げなんてしなくていいからな! なんのスキルにするかは決めてねーが、俺だってこれから一目置かれる存在になっていくはずだ!」
何せ、一日で造ったポーションが3~4本、1ヶ月で100本ほどになる予定だ。言ってみれば、レベル100分のスキルポイントが手に入る破格の提案である。
そのうえカズマは、まだバニルに持って行く商品もあるので、それを考えれば金銭的な余裕はまだまだあったりする。
というか、カズマは色んな意味でもうとっくに一目置かれる存在になっている。
「ねえ二人共、スキルアップポーション使うのは良いけど、紅魔族じゃないんだから、カズマが強力なスキル取ったって、すぐに魔力切れになるのがオチよ?」
アクアが珍しく鋭いツッコミを入れていたが、例えば、現在レベル17のカズマが上級魔法を習得したとしても、威力はゆんゆんには遠く及ばず、しかも撃てて何発か……といったところだ。
俺とカズマが目を見合わせ、どうする? といった雰囲気を出していたのだが……、
「……だったら、基礎ステータスは地道にレベル上げしてだな」
「結局そっちか!? 楽して強くなれるって言ったのは、お前だろ!?」
嘘ではないと思うんだけどな。パッシブ系のスキルでも中心に取らせればいいだろうか? などと考えていたところ、
「だったら、カズマさんも紅魔の里に行ったらどうですか? 養殖場もありますから」
ゆんゆんからの提案は、紅魔の里の養殖場でレベル上げしてはどうかといったものだった。養殖――比較的弱いモンスターの動きを封じ、止めはレベルの低い者にさせて、レベルを上げさせる紅魔族伝統の育成方法だ。ゲームならともかく、個人的にはどうかと思うが。
「それって俺は止めだけだよな? 危険はないよな?」
ゆんゆんに養殖の危険性を確認するカズマではあったが、そんなのは基本的に無いらしいので、このパーティーの男二人は紅魔の里に行く事になった。その他には、
「兄ちゃん!? また里に来るの? 家でも、おいしいごはん作ってくれる!?」
俺はこめっこの召使いならぬ
「里を調べるんだったら、私も行きます。お父さんが何か知ってるかもしれませんし」
ゆんゆんの親父さん――紅魔族の族長さんなら、秘蔵の文書とか保管していたりは……、してなさそうだなあ……。魔術師殺しの件から考えるに。
「アクア達はどうする? さっき言った通り、里には宿屋がないから誰かの家に泊めてもらう事になりそうだけど……」
アクア、めぐみん、ダクネスが目を見合わせて、
「ユウが私を女神って信じるまで説得したいから、一緒に行くわ!」
正直、アクアが女神かどうかなんて、どっちでも良いんだが……。俺としては話がチグハグすぎて半信半疑なだけで……。
「調べものでしたら、紅魔族随一の天才の出番です! ええ! ゆんゆんよりも役に立ちますよ、私は。寝泊まりの場所なら家でも構いませんので」
里に戻ると、『ネタ魔法使い』って呼ばれるけど、良いんだろうか? 泊まらせてもらえるのはありがたいけど。
「紅魔族には今回アクセルが世話になった。ここに住まう者の代表として、礼をしなければ。そしてカズマ、レベル上げなら私も付きあおう。里の周りの強力なモンスターの攻撃など……想像しただけで……、くっ……!」
ダクネスは、前半は素直に感服出来るのに……、後半は……聞かなかった振りをしよう。
何だかんだで、全員で紅魔の里に向かう事になってしまったのだが、この場で除け者になってしまっている、
「……ええと、僕もいいかい?」
それはそれは遠慮がちに、小さく手を上げて自分も同行する旨を示していた。
「……ついて来ても、やること無いと思いますけど?」
「僕じゃなくて、僕のパーティーメンバーのレベル上げもしたいからね。それに、君の調べものにも興味がある」
あの二人が、カズマとレベル上げって……、トラブルの予感しかしないんだけど……。
「そして、時間がある時で良いから、グラム無しで打ち合ってはくれないか?」
「はあ……、分かりました。朝稽古で良ければ付き合いますよ」
やっぱり真面目な人なんだろう。真剣な眼差しでの提案だったので、承諾してしまった。さっきの冒険者カードの話を聞いて、自分なりにどうにかしようと考えたのかも知れない。
これからの方針も決まったところで、工事が終わるまでの一週間、カズマはバニルに見せる商品開発の仕上げ、俺はスキルアップポーション製作とこめっこの専属シェフなどをしながら、日々を過ごしていた。
五行思想の話は適当に調べたヤツで、冒険者カードについてもオリジナル設定となりますので、ご注意ください。
ちなみに、五行思想の木・火・土・金・水と五常の徳の仁・義・礼・智・信はそれぞれ対応しているらしく、『水』は『智』に対応しているそうです。
……あれ? アクア様って……!? 実は知的な女神様なのか……!?
カズマさん強化フラグが立ちました。web版のウィズ&バニル養殖程じゃありませんが、スキルは結構覚えるかもしれません。