この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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二話続けて一万字超え。長ったらしくなってると感じたら、ごめんなさい。


男湯での一騒動

さて、謎の魔族のお姉さんこと魔王の娘さん。その人の部屋が紅魔の里の展望台から覗かれているらしく、方向音痴にも関わらず、わざわざ里を攻撃せず注意勧告だけで帰って行った淑女的行動に報いるため、ゆんゆんと族長さんの家へ赴いていたのであった。

 

「経緯を説明するのは良いけど、それで納得するのか……?」

 

「そうですね……。とりあえず、観光案内のビラの回収から始めてみるのはどうですか?」

 

外の人間に知られるのを防ぐのは、まずはそこからだろう。里の人達の行動は……止められるだろうか……。

 

様々な懸念材料が思い浮かびはしたものの、悩んでいてばかりでは仕方ない。族長さんと話してみるのが先決だろう。

 

「失礼します」

 

族長さんの部屋の扉をノックし、入室の許可を得てから部屋へと入り、この里の責任者と向かい合う形で席に着いた。

 

「実は――」

 

俺が紅魔の里周辺の森でお姉さんに会ってから、今までの経緯を順を追って説明していくと、

 

「ううむ……。展望台は観光スポットの一つで、その目玉があれなのですが……」

 

「た、例えばですよ……? ゆんゆんが覗かれたりしたら、父親としてはあまりいい気分にはなりませんよね? それを大手を振って宣伝しているのは如何なものかと」

 

この里、森のド真ん中にあるだけに、観光に関してはあまり良い業績が出ていないらしい。だからって、女性の部屋を覗くのを売りにしているのもどうかと思う。

どうやって説得しようか、それを思案していたのだが、

 

「お父さん! こんなのとか、ピクニックとかしてるから、シルビアが攻めて来たりしたのかも知れないのに、まだ続けるの?」

 

……ピクニックって何だろう? 言葉通りなら、楽し気なイベントみたいだけど?

 

「紅魔の里では四年に一回、魔王城の近くでピクニックをして、その後に魔王城に総出で魔法を撃ち込み、魔王軍が出てきたら、テレポートで帰るといったイベントですよ」

 

ピンポンダッシュどころじゃねえ!? そんなのされてて、あのお姉さん……覗きの件だけで帰って行ったのか!? 魔族だけど聖人君子じゃねーか!?

 

族長さんの受け答えに、ありえないものを感じてしまった俺ではあったが、ここで引き下がるわけにも行かない。けど、族長さん説得するより、お姉さんの部屋の窓をマジックミラーにでもしたら良いんじゃ……、なんて考えてしまったが、あっちは敗北感を感じるとか言って拒否しそうな気がする。

 

「でしたら……」

 

その後、俺とゆんゆんの必死の説得により、何とかビラの文言だけは変えて、今ある分は破棄するのを確約できた。そして、二人で部屋から退室しようとした時、

 

「ユウさん、別件で少しお話があるのですが、お時間はよろしいですか?」

 

少しばかり、真剣な表情の族長さんであった。これまでの経験上、肩透かしを食らう可能性も否定はできないが、時間なら余裕があるので、ゆんゆんは先に出てもらい、再び席に着いた。

15分後、部屋の前でゆんゆんが待っていたらしい。

 

「お父さんの話ってなんでしたか?」

 

「んー。あの時のは、世間話じゃなかったんだなーって」

 

不思議そうな表情をしていたが、そのまま伝えて良いもんか。つーか娘には何も言ってないのな。

 

その後は、カズマのレベル上げの手伝いを主に行い、もう十分なレベルとなったところで、

 

「慰安旅行?」

 

その提案はカズマからであった。止めばかりだったとはいえ、朝から晩までほぼ毎日レベル上げ。流石に疲れたといった意見を声を大にして言っていたのであった。

 

「アクシズ教徒には関わりたくねーけど、温泉でゆったりってのも……」

 

「ちょっと! カズマまでうちの子達に文句があるの!? みんな良い子達じゃない!!」

 

アクアのみが必死にアクシズ教徒を庇っていたが、自分自身、彼らにはえらい目に遭わされているので、これに関しては、カズマに同意せざるを得なかった。

ともあれ、俺もアルカンレティアに用事が出来たので、そのついでに温泉も悪くない。そう思い、アクセルに帰る前に水と温泉の都に立ち寄ることになった。クリスは調べ物があるらしく、ここで別行動となってしまったが。

 

 

 

 

 

次の日、里でお世話になった方々に軽く挨拶を済ませて、テレポート屋で移動。アルカンレティアまでの片道切符30万エリスを難なく払えるようになったのは、やはり大きいと感じる。

目的地に到着してすぐに、

 

「じゃあ、俺はちょっと観光協会まで」

 

それにゆんゆん以外の全員が首を傾げて、その中からアクアが、

 

「観光協会って何しに行くの?」

 

「こないだの魔王城覗きの件で、ここにあるビラを回収しに行くんだ」

 

ちなみに回収したビラに関しては、破くか燃やすかしても良いとの許可は得ている。これで一応、お姉さんの希望を一部ではあるが、叶える事ができる。

 

「では、私も行きましょう」

 

一人で足りるのだが、なぜか俺と同行してくれためぐみんであった。

 

「……どうしたんだ? せっかく来たんだから、温泉でゆったりしてれば良いだろ?」

 

「この場所は歩いているだけで疲れる街ですから、単独行動は控えた方がいいのですよ。骨身にしみているでしょう?」

 

まあ、その通りだけどさ。実際、今も歩いてるだけで、勧誘や、怪しい石鹸や幸運のツボとかのセールスが始まってるし。それらに関して一言。

 

「うちのパーティーには、アクシズ教徒の超強力な浄化能力を持ってるアークプリーストがおりますから、全て結構です」

 

これだけで撃退に成功している。これに関してはアクア様様といったところだろう。しばらく街を歩き、観光協会へと到着すると、

 

「すいませーん。紅魔の里からの使いですが」

 

そこの事務員へと事情を説明し、族長さんから預かった文面でここに置いてもらっているビラを全て回収しようとしたのだが……、

 

「ああっ……! アクア様、感謝します! まさかアクセルでもないのに、めぐみんさんに出会えるなんて……!」

 

長い金髪に碧眼、アクシズ教徒であることを示す青い法衣のシスターが、若干危ない目でめぐみんを見つめていたのであった。めぐみんは、どことなく都合の悪い顔をしながら、俺の後ろへと隠れている。

 

「めぐみんさん、久しぶりに会って感激してるからって恥ずかしがらないで、いつもみたいにセシリーお姉ちゃんって呼んで、私の胸に――」

 

「お姉ちゃん呼びは、一度しかしていませんよ! アクシズ教徒というのはこれですから……」

 

めぐみんに出会えてテンションマックスとばかりのシスターさん。どうやらセシリーという名前らしいが?

 

「それで、そちらの方は……」

 

今度はセシリーさん、俺を見つめて……、

 

「わっ……私好みの年下の美少年!? しかも、腕利きでお金を持っている気配がするわ……! アクア様、ありがとうございます! 絶対に逃がしません!!」

 

ヤバい方向にロックオンされてしまった気がする。すかさず、

 

「知人で20億エリス稼いだ人間がいますので、今度紹介します!!」

 

それでピタッと止ったセシリーさん。機械的な無表情になってしまったが、脳内で凄まじい葛藤をしているのかもしれない。しばらくして……、

 

「それで、どうして観光協会に……?」

 

このセシリーさん。普段はアクセルで、日々、アクシズ教の教えを説いて回っているらしいが、その内容については割愛。今、アルカンレティアに戻ってきているのは、ちょっとした事務手続きの為らしい。

俺らがこの場所を訪れた理由を説明すると、

 

「そう……。一つ聞きたいのですけど……」

 

途端に神妙な面持ちへとなった目の前のシスターさん。続けて、

 

「その魔王の娘さんは、例えるなら魔族のお姫様ですよね? やっぱりフリフリのドレスを着て、見た目がロリっ娘の可愛らしい方ですか?」

 

「見た目は、俺より年上のスタイルの良いお姉さんでしたが……」

 

魔王の娘さんに何を期待していたのだろう……。俺の答えを聞いて、しばし無言になった後、

 

「そのビラ、燃やしても問題ありません。私はこれからアクシズ教団本部へ参ります」

 

「……その、もし期待通りの見た目だったらどうするつもりで……」

 

「決まってます! 私も紅魔の里に出向いて、その展望台で可愛らしいロリっ娘を観察しつつ、私を養ってくれる敏腕のアークウィザードを探します!」

 

この人は紛れもなくアクシズ教徒だ。文句のつけようがない……。

 

「……でも、アクシズ教の教義では、”魔王しばくべし”ってのがありますよね?」

 

「しばくのは魔王であって、魔王の娘ではありません。アクシズ教は犯罪でない限り、全てが許されます。悪魔やアンデッドではない限り、愛でるのは問題ないですよ!」

 

良いのかそれで!? ってか、覗きは犯罪じゃないのか……!?

 

「ユウ、あまり深く考えない方が良いですよ? 変に勘ぐると知恵熱が出るかもしれません」

 

俺の今の心情を察してくれためぐみんが、背中をポンポンと叩きながら、落ち着くように促してくれていた。

一通り話を終えた後、セシリーさんは教団本部へ、俺達はカズマ達が手配してくれた温泉付きの宿へと向かう途中、

 

「あら……! また会えたわね! あなたまでここに来てるなんて……!」

 

「……お姉さん、どうしてアルカンレティアに……?」

 

そこには、何故かウォルバクさんも一緒に魔王の娘さんが、アクシズ教のお膝元である、この場所を当たり前のように歩いていたのであった。

 

「この間は久々に良い運動をしたし。ウォルバクが温泉に入りに行くって言うから、付いて来たの」

 

良い運動――紅魔の里の近くで、周辺の地形が見る影も無くなった戦闘をそう呼ぶらしい。しかも、当たり前のように周囲に溶け込んでいる魔王軍幹部って一体……。

 

「見た目が人間に近いと便利よね。角が短いのも悪い事ばかりじゃないわ」

 

「そ、そうですか……」

 

前に攻めて返り討ちに遭ってるはずなのに、堂々としてる辺り……、この人も相当な大物っぽい。

 

お姉さん(ウォルバク)も、どうしてここに来たのですか?」

 

「店も客足が落ちついて来たし、この辺で休みをくれるってバニルがね。ウィズも誘ったんだけど、大事な用事があるって言ってたわ」

 

その為の支度で魔王城へ一時帰宅して、魔王の娘さんにその事を話して今に至る。ついでに、同行者は方向音痴なので、誰か一緒じゃないと知らない土地には行けないのだそうだ。

俺と世間話をしていた魔王の娘さん。今度は、めぐみんの方を向き、

 

「あら? 私を爆裂魔法で亡き者にしようとした、出歯亀種族の娘じゃない。それとも騒音種族とでも呼べばいいかしら?」

 

「おい、観光地やピクニックを悪く言うのは止めてもらおうか! 紅魔族は売られた喧嘩は買います。先日の続きをこれから……」

 

「ふーん。騒音を出すだけ出して、城の結界も破れないくせに生意気な口利くのね……! そっちの彼みたく、素直に謝ればまだ可愛げがあるのに……!」

 

紅魔の里に続いての第2ラウンドが勃発しそうになっている、この二人。ここで爆裂とあの規模の戦闘とか、アルカンレティア壊滅の危険性だってある。それでもアクシズ教徒は健在だろうが。それは双方、望むところではないはずなので、どうにか間に割って入って止めたものの……、

 

「……胃に穴が開きそう」

 

思わず、小声で文句を垂れてしまった。そんな俺の様子を見ていたウォルバクさんが、前回の件を聞きたがっていたので説明すると、

 

「ば、爆裂魔法と……、ライト・オブ・セイバーの間に……割って入った!? あ、あなた……よく生きてるわね?」

 

自分でもそう思う。あの時は走馬燈が見えましたとも。ディバインバスターが頬を掠めたり、ジェットザンバーが首の皮一枚斬ったり、ミストルティンで髪の毛ちょっと石化したり、紫電一閃で火傷したり、ギガントハンマーで叩き落されたり……。碌な思い出が蘇ってねえ……!?

 

「……今日、お酌くらいはしてあげるわよ? そっちも慰安旅行らしいし、その程度は……ね?」

 

「ソフトドリンクでお願いします……」

 

ウォルバクさんの優しさに触れて、泣きそうになっているのを耐えてはいたが、やはり癒しと言えば……、

 

「それとも……、俺は紅魔の里に戻って、こめっこちゃんの癒し成分補充してこようかな……?」

 

いやほんと、子供の笑顔ってのは癒される。こんなピリピリした空気なんて無縁の存在だよ。兄ちゃんとも呼ばれるし、戻ってみようかな?

 

そんな俺の心の底からの本音を聞いためぐみんとお姉さん。口喧嘩を止めてこちらに向き直り、

 

「何ですか!? 私では不満だと……!? それとも(こめっこ)くらい若い方が良いとでも言うのですか!?」

 

「それはダメよ! いくらなんでも、この娘の妹なんて、あらぬ疑いをかけられるわよ! ここはお姉さんが癒してあげるから、それで我慢しなさい!」

 

……何で俺が悪いみたいになってんの!?

 

その後、宿へと向かった俺達ではあったが、

 

「……なぜ宿まで同じなのですか!?」

 

「それはこっちのセリフよ! この街の一番良い宿でしょ!? 何で一介の冒険者がこんな宿に泊まるのよ!?」

 

すっごい偶然です。こちらは前回宿泊したうえ、カズマは大金を稼ぎ、俺はその中からスキルアップポーション代として、いくらか貰ったからであるが、あっちは曲がりなりにも魔族のお姫様なので、一番良い宿に泊まりたかったらしい。

 

ここでまた一波乱ありそうだなあ……。やっぱり、紅魔の里で癒されたい。たとえ、専属シェフでも遊び相手でもいいから、戻ろうかな?

 

「まあ……、せっかく来たんだから、温泉に入ってゆったりしましょう。そんなにカリカリしても仕方ないわよ?」

 

もう仲介役となっているウォルバクさんであった。こうやってると、マジで女神に見えます。ウォルバク教(仮)に入信しても良いかも、と思ってしまったのであった。しかし……、みんながいるであろう部屋へと案内すると、

 

「あらあら、邪神様がアクシズ教団の本拠地に出向くなんて、良い度胸してますわね? 今回は特別に、この地で羽根を休めるのを許してあげても良いですわよ?」

 

「あなたに許されるまでもないわ。今の私は、宿泊客として料金を払っていますから。それよりも禄に働きもしない、水の女神様がこんなに良い宿に泊って大丈夫なの?」

 

こちらはこちらで、女神(自称)同士の争いが始まってしまったのであった。

 

「バニルがいなくて良かった……。もしそうならユウまでおかしくなってるところだ……」

 

「ああ……。これで三組で睨み合いをしていたら、慰安旅行どころではなくなる」

 

「何で当たり前みたいに、幹部二人が温泉地に来てるんですか!?」

 

カズマ、ダクネス、ゆんゆんが三者三様の感想を口にしていたが、とりあえず、

 

「ゆんゆん、ビラの件はどうにかなったから、少しは安心できると思う」

 

それに即座に反応したのはやはり、

 

「もう対応してくれたの? 大軍で攻め入って施設破壊し尽そうとも思ってたけど、無駄な事しなくて済んだわ」

 

魔王の娘さんであった。シレッと、とんでもない手段でどうにかしようとしていたらしいのを告白していた。だが紅魔の里は三日あれば復興可能な、おかしいスペックを誇るので焼け石に水である。

 

ここにはミツルギのパーティーもいるのだが、やはりここでのドンパチについては懸念があるらしく、大人しくしていた。敵方もこの場所では戦わないと宣言したのも大きいようだ。ともあれ少しは落ち着いて来たので、各々で行動となったのだが、俺は色々あって疲れたので、一眠りしてから温泉に浸かることにした。

 

目が覚めて、夕食後に温泉へと浸かっていた。結構遅い時間になってしまったので、貸し切りのようになっているのであった。これは贅沢なので堪能していたのだが……、

 

「やっぱり広い風呂は良いもんだ。屋敷のも悪くないけど、温泉は別格だよ」

 

「ホントよねー。(魔王城)の近くでも温泉って出ないかしら? そうすれば好きなだけ入れるんだけど」

 

男湯に絶対いるはずの無い人の声が、後ろから当たり前のように聞こえて来ていたのであった。まるで幽霊でも見るかのように、ゆっくりと振り向くと、

 

「約束通り、癒しに来たわよ。背中でも流してあげましょうか?」

 

お姉さん、バスタオル一枚を体に巻き、長い髪をまとめて、リラックスして湯船に浸かって、俺に笑顔を向けていた。

 

「……ここ、男湯ですが?」

 

「うん、知ってるわよ。だから、入り口は『清掃中』の札をして、潜伏スキル使いながら、湯気で隠れて近づいたんだもの」

 

……潜伏スキルって、もしかして暗殺でもしに来たのか? いや、だったら声なんて掛けないはずだし……。

 

「そんなに怖い顔しないの。別に取って食おうって訳じゃないから。ちょっと二人っきりでお話ししたかっただけよ」

 

話しってなんだ? もしかして、こちらのパーティーの能力を教えろとか、スパイをしろとかの要求だろうか?

 

「要件は何ですか? 今は敵対していないとはいえ、場合によっては……」

 

ちょっとだけ困った顔のお姉さんだったが、

 

「この間も言ったけど、あなた……こちら側に来なさい。有り体に言えばスカウトってヤツね」

 

「……俺、冒険者以外にも本職がありますが?」

 

本来は冒険者じゃない、その言葉に少し驚いた様な感じではあったが、気にせずに、

 

「別にこっちの事は副業でも構わないわよ? それを言ったら、ウィズもウォルバクも魔王軍幹部なんて副業みたいなものだし」

 

良いのかよ!? 自分のとこの上層部が副業でも構わないとか、いい加減にも程があるだろうが!?

 

「幹部も半分まで減っちゃたしね。そろそろ補充しておかないといけないってだけよ。ああ……心配しなくても、今の幹部の中には人間もいるから、そこまで面倒じゃないわ」

 

……意外にちゃんぽんな魔王軍である。いやまあ……、ちゃんぽんさで言えば、ミッド辺りも大差ないけどさ。なんせ、色んな世界から集まってる、るつぼみたいなもんだ。

 

「副業で良いなら、別に俺じゃなくたって良いでしょう? それこそ適当にそこらのヤツにすればいい」

 

「それがね。何だかんだで強さは必須なのよ。強さって言っても単純に腕力だけじゃないけど、簡単に倒されたら困るでしょ?」

 

実は幹部が弱くて、簡単に魔王城の結界が無くなったら困りますって事だろうけど、節操無いにも程がある。

 

「魔族まとめるのは、私やお父様がやれば良いから、幹部は結構好き勝手動いてるわよ。ウィズとウォルバクはアクセルにいるし、今はいないベルディアも元人間の騎士だからか、基本的に戦闘員以外は狙わない様にしてたし……」

 

ハンスやシルビアは元々スライムとキメラだからか、命令には従ってたけれど、それぞれの種族の本能的な部分――ハンスは食欲、シルビアは他者を取り込む欲求が強く、場合によっては力づくで抑えていたらしい。

つーか、そんな内情喋って良いのだろうか?

 

「……あの、せめて……お互い不干渉にはならないんですか?」

 

「それは難しいわね。でも少なくとも私達が勝てば、そこまで酷い結果にはならないと思うわ。お父様と私はちゃんと魔族をまとめてるもの。そっちこそどうなのよ? 人間って、こんな状況でも自分達で国を分けて……、言ってみれば縄張り争いでしょ、あれ?」

 

とてもとても耳が痛いお言葉です。何処の世界でも人間のやることは変わらないってのが、本当に救いようがない。

 

「みんな、あなたみたいなのだったら良いんだけどね。昔から、魔王城に来た勇者達には、ちゃんと教えてたのよ……。過去に何があったか、私のご先祖の人間が当時の魔王を倒して、どうなったのか……。その中には王族もいたんだけど……」

 

結果は戯言として聞き入れて貰えなかった。魔王軍は平和を脅かす存在で、それを倒せば世界は平和になる。そう妄信して、ある者は魔王を倒し、ある者はそこで倒れた。

 

「最近だと、信じてくれたのはウィズくらいね? ベルディアは人間を止めてしまったから、どっちでも良いって言ってたわ」

 

聞くと、お伽噺の勇者の記憶が見れる魔道具があるのだそうだ。それにしたって、その勇者が残したものだろうが、価値観が凝り固まってれば、簡単に信じるわけはない。ウィズがそれを信じたのは、リッチーになった事と、元が高名な魔法使いなので、その魔道具は偽証が不可能だと理解したらしい。

 

「それよりも私としては、あなたの方が驚きよ? 調べ回ったのもあるでしょうけど、自力で辿り着いたんだから」

 

「母方の故郷が……、ずーっと昔に、とんでもない争いをして滅びかけてますから。今は、それなりにルールもできて、何とかなってますけど。後は、ノイズが在った頃の情報からですね。だったらもっと過去にもって事です」

 

「そっか。あなたの所も大変みたいね。ノイズって事は二回目の時かしら? あの時はウォルバク達のおかげで、どうにかなったんだけど。あのままだったら、みんな滅んでた可能性があったって」

 

温泉に浸かりながらしんみりとした雰囲気になってしまったが、その雰囲気故に冷静になって今の状況を鑑みると、凄まじくヤバい状況になっているのが分かってしまった。

それもそうだろう、誰かが入って来る気配は無いとはいえ、実年齢がいくつかは分からないが、目の前にはバスタオル一枚巻いただけの美女。ここは、さっさと退散するのが最適解のはずだ。

 

「では……話が終わったのでしたら、これで……」

 

「待ちなさい。ここまでは私の仕事で、これからは個人的な用事だから」

 

どうやら、逃がしてはくれないらしい。背中流すだけで済むんだったら、それでもいいけど……。

 

「ええと、宿の中で迷子になるのでしたら、案内しますけど?」

 

「ならないわよ! 部屋の番号と宿の地図があれば時間が掛かるけど、どうとでもなるわ!」

 

つまり、地図の無いダンジョンとか森の中で道から外れると、途端に迷子になってしまうと。魔王城も迷宮みたいになってる部分があるので、迷いやすいらしい。

お姉さんはコホンと咳払いして、

 

「あなた……私のものになりなさい」

 

「お断りします」

 

「即答!? ねえ、即答なの!? 悩みもしないの!? 最近、お父様がよく言ってるのよ。”お前は色々心配な部分が多いから、早く面倒見てくれるのを見つけろ”って」

 

それはもう特殊能力ともいえる方向音痴のせいだと思います。そんな泣きそうな顔をしないで下さいよ。

 

「大体、何で俺なんですか? そっちはそっちで探せば良いでしょうが」

 

それを聞いたお姉さん、なにやら思い出したくないといった表情で、

 

「だって、アンデッドじゃなかったとしてもベルディアみたいに、女子トイレに首を置き忘れるのとかは論外だし、バニルなんて性別は無いけど、あの性格だし、ハンスはスライムだし、シルビアは……男だけど、あなたと合体したいとか、色んなのに声掛けてるし……」

 

……魔王軍幹部、クセが強いどころじゃねえ。つーかベルディア、被害遭ってたのはウィズだけじゃ無かったんだな。

 

「あなた結構強いし、まともそうだから悪くないかなって」

 

「……寿命短いです」

 

「そこはほら、種族差って事でもう諦めてるから」

 

本当にゴーイングマイウェイな人である。一回決めたら、考えを変えるのに苦労する人だ。

 

「むー。こうなったら私の力で無理やり組み伏せて――」

 

「止めてください! そっちの馬鹿力で抑えられたら、俺、下手すれば怪我するどころか腕もげます!」

 

「そこは大丈夫! 私はちゃんとヒールも使えるから! それと女の子に馬鹿力なんて言ったらダメよ? 傷つくでしょ!」

 

跳躍系覚えときゃ良かったと、今ほど思ったことは無い。この人、逃げるだけでもかなり厄介な人だ。混浴まで飛んで逃げるか? しかし、誰かいたら痴漢どころじゃない。ここは……、

 

「誰か助けてー! 男湯に痴女がいるー! 襲われるー!!」

 

「誰が痴女よ!」

 

お姉さんからツッコまれたが、これで隣から誰の声も聞こえて来なかったら、とりあえず飛んで逃げるのが可能になるはず。だが……、

 

「その声は……ユウですか!? 男湯に痴女とは……!? あの女ですか!」

 

えー。めぐみんさん、なぜに隣の混浴にいるのでしょうか? 普通なら入りたいとは思わないはず。他にだれかいるのかとも思ったけど、聞こえてくるのはめぐみんの声だけだ。

もうこうなったら仕方ない。すぐに脱衣所に戻り浴衣を取ってから、男湯と混浴の仕切りになっている木の板を飛行して超えると、

 

「どこから現れるのですか!? 男湯は『清掃中』となっていたので、もしかしたらと思って混浴に来たのですが……」

 

「事情は後で説明する。今は人がいる部屋まで逃げるぞ!」

 

これまたバスタオル一枚になっているめぐみんを脇に抱え、急いで温泉を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

「まさか……あの女、男湯に堂々と入っていたとは!? 油断も隙も無い」

 

めぐみんに男湯での出来事を説明していたのだが、

 

「ところで、めぐみんこそどうして混浴に?」

 

「二人がいないので、もしかしたら襲われていると思ったのですよ。まさか、別の意味で襲われているとは思いませんでしたが。武器も持たないとなれば、風呂場位でしょうから」

 

想定の範囲外ってやつだ。普通の婦女子は男湯に入ろうなんて思うはずがない。

 

「はあ……。少し、疲れましたね。部屋に戻りましょうか」

 

「だな。とりあえず、誰かいる所じゃないと、安心できない。あのお姉さん、実力も思考もちょっとおかしい」

 

他の幹部の事を散々に言ってたけど、あの人自身も相当な変わり者だと思う。

 

疲れ果てて、部屋に戻ってしばらくして……、

 

「めぐみんさん、これはどういうつもりでしょうか? いくら俺でも恥ずかしいんですが?」

 

幼馴染(フェイト)やこめっこにはできても、私にはできませんか? まあ、あの女が来たら見ていてください」

 

部屋の中のカズマ達は俺とめぐみんを見て、あることないことヒソヒソと話している。その中でどことなく嬉しそうなめぐみんではあったが、少し時間が経ち……、

 

「この私がそんなに簡単に諦め……る……!?」

 

元気よく部屋のドアを開けたお姉さんが、俺とめぐみんを見て固まってしまっていた。あちらの眼に映っているのは……、

 

「な、何て羨ま……じゃなくて、目が紅いウサギ種族! 何してるのよ!? 膝枕して貰ってるなんて!」

 

「煽るにしてもバニルを見習ったらどうですか? 今の私は、これを堪能している最中ですし、いつもバニルのおちょくりで鍛えられていますので、ちょっとやそっとでは動きませんよ?」

 

「私達はさっきまで一緒にお風呂に入っていた仲だもの!」

 

それに一斉に俺を見て、またヒソヒソ話を始める面々。ゆんゆんだけはウサギ種族と呼ばれて落ち込んでいた。

 

「そんなの、私もとっくの昔に経験済みです。それで? それ以上のことでもありましたか?」

 

余裕シャクシャクのめぐみんを尻目に、お姉さんが少しだけ涙目になりながらプルプルと震えだし……、

 

「別に悔しくなんて無いんだからあああああ!!」

 

叫び声を上げながら、自分の部屋に帰っていたのであった。力づくでどうにかする可能性もあったが、ウォルバクさん曰く、非戦闘民が多い場所でそんなのすればウィズが黙っていないのが分かっているらしい。めぐみんさん、泣き顔のお姉さんを見て、へッ……っと薄ら笑いしながら、悪い顔をしておりました。

これで今日の所はもう大丈夫だと思い、めぐみんへと、

 

「……終わったんなら、どいてくれないか? さっき言った通り、恥ずかしいんだけど……」

 

「まだ、あの女を撃退した報酬には足りませんから、もう少しこのままで……」

 

「どっちかって言うと、俺が癒されたいんだけど?」

 

それを聞いたアクアが何やら、うーんと考え込み、

 

「それは無理だと思うの。ユウさん、甘え上手じゃなくて甘やかし上手だから、どっちかって言うと癒しちゃう方よ。甘えたいんなら、もっと私みたいにならなきゃ……ね?」

 

一同、なんか納得したような雰囲気を見せていた。俺に癒しは無いのだろうか……?

 

その後、めぐみんが満足するまで、この状態が続けられたのであった。そして、俺の太腿が自由になったところで、

 

「……みんなは、魔王倒しても平和にならないって知ったら……どうする?」

 

その問いを、この場の全員に投げかけたのであった。




この主人公にとって、こめっこさんは癒しらしい。しかし、彼の走馬燈の内容書いてたら、恐ろしくなってしまった……。
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