この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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シリアスが多くなってきたなあ……。ギャグは挟んでるけど、また文字数が多くなってしまった……。


とある少女の処遇

「お前は何を言ってるんだ? さっき、お姉さんから変な話でも聞いたか?」

 

――魔王倒しても平和にはならない。その問いに対して返って来たのがこれである。こちらの人間は元より、日本人らしいカズマやミツルギですら同じ反応をしている。そんな中で、

 

「やっぱりそこに帰結しちゃったのね。あなたの出身地からしたら、考えて当然でしょうけど」

 

ウォルバクさんのみ、俺に同意していたのであった。というか、この人もミッドチルダについて知ってるみたいな口ぶりだ。

 

「ウォルバクさんも長い事生きてるみたいですけど……」

 

他はともかく、ウォルバクさんも全部を知る存在らしいので、問いただそうと思ったのだが、

 

「ねえねえ、ユウさんって、この期に及んで神様信じないの? それだけ長い事生きてるってだけで、おかしいでしょ?」

 

「剣士の姐さん達も、数百歳らしいから気にならないんだろ」

 

「あの外見のまま年を取らないというのも、羨ましい気が……」

 

外野が何やら、こっちのシリアスムードお構いなしで、コソコソ小声で話している。結構、真面目な話題なんだけど……。

 

「いくつか、質問に答えていただけますか?」

 

「私の知る限りなら。あなたに対して隠す……、元々、魔王軍としても隠すつもりは無いけど、世代交代が早い分、人間は忘れやすいし、戦ってる相手の言う事なんて普通は信じないっていうのもあったのよね」

 

そういえば、ウィズの店で昔の魔王を倒した勇者の話題になった時に、教えてくれるような素振りであった。確か……あの時は……。

 

「そういえば、バニルは何で止めたんですか? 知りたきゃ、魔王軍幹部になれとか」

 

「ああ……。バニルなら、あなたが悩んで自分の所に相談に来たら、思いっ切りからかってやりたいとか言ってたわ」

 

あの野郎、帰ったら新技でシメる。

 

少しだけイラッとしながらも、ウォルバクさんの方を向いて正座しながら、

 

「お姉さんは、人間側が自滅しかけたのは二回あると言ってました。一度は、お伽噺の勇者が当時の魔王を倒した直後。もう一度は、ノイズが紅魔族を造り出す少し前で間違いありませんか?」

 

人間側の自滅、その言葉はカズマ達にとっては意外過ぎるものだったのだろう。目を見開き、ジッとこちらを見つめていた。

 

「ちょ、ちょっと待て! なんだよ、それ!? 自滅って……、この世界は魔王軍に人間が苦しめられてるって、アクアが……」

 

「そうだ! アクア様はそう告げて、僕にグラムを……」

 

アクアに特典(チート)とやらを貰った……、カズマは違うらしいが、日本人であるらしい二人がありえないといったセリフを吐いていた。

 

「ユウさん、あの……私も良く分からないんですけど……。紅魔族が生まれる前に、自滅しかけたって……」

 

「そうですよ! あれですか!? あるえの時みたいに、今考えた噓八百と言って誤魔化すつもりでしょう?」

 

「う、うむ。そもそも、あの女と話して、何かを勘違いしているのではないか?」

 

こちらの人間からしても、信じられないのだろう。まあ、気持ちは分からなくないが。

 

「あー、うん。突拍子な話だってのは自分で良く分かってるから、ちょっと静かにしてくれないかな? 一人で抱え込んでても仕方ないから、こうやって話してるわけだし」

 

少し前の自分なら、ウォルバクさんとお姉さんとの三人でこっそり話して、後は胸の内にでも仕舞っていただろうが、下手すれば、これからの皆にも関わる事なのでこうしているのだ。

こちらの様子を察して、落ち着くまで待っていてくれたらしいウォルバクさんが口を開き、

 

「そうね。時期としては、それで合ってるわ。内容は必要?」

 

「一回目の方は、何となく想像できるのでいいです。ただ……」

 

あまり時間も無いし、余計な話題には手を出さない様にしようとしたのだが、

 

「おい、こっちは全然、付いていけてねーんだ。もっと丁寧に話してくれ」

 

カズマからストップ要求が出てしまった。確かに、こないだアクアからも自分一人で納得するなって言われたばかりだった。

 

「もの凄く簡単に言うと、お伽噺の勇者が当時の魔王を倒したのは良いけど、今度は人間同士でケンカになった。それをどうにかするために、その勇者が瓦解した魔王軍をまた束ねて、自分が魔王になっちゃったってとこだろうよ。共通の敵がいれば身内でケンカなんかしてられないから」

 

本来はもっと込み入った事情とかあったんだろうが、当たらずとも遠からずってところだとは思う。本当なら、人間同士で争うなんて、もっと時間が経ってからだろうが、その勇者は文字通り”一人でどうにかしてしまった”から、魔王倒した直後でも国同士で争う余裕もあったんだろうと考えている。

 

「話がぶっ飛びすぎだろーが! ここは魔王がいる世界で……」

 

「うん。でもその魔王だって、どっか別の世界から現れて、”この世界征服してやるぜ、ヒャッハー”ってわけじゃないだろ? 元からいた連中のイザコザだし、それが終われば人間同士で争っても不思議じゃないって」

 

これがほんとに悲しいところ。外交でどうにかできれば良いんだろうけど、そうならない場合も多々あるもんだ。

 

「バニルがあなたの事を、アルハザードの末裔みたいなものって言ってたけど、そんなのを考えてしまう辺り、やっぱりそっちは大変な事になってるの?」

 

「あまり聞きたくない地名ではありますが。あるかどうかも分かってない世界を知ってるって事は、ウォルバクさんの実年齢って数千さ――」

 

「女性に年齢を聞くのはマナー違反よ? 紅魔の娘みたいに、”お姉さん”って呼んでくれると嬉しいわ……!」

 

年齢聞いただけだってのに、威圧的な視線で、それ以上喋るのを許して貰えなかった。背筋に悪寒が走っている。

 

「すいません。ウォルバクビームとか勘弁してください」

 

とりあえず頭下げて謝罪し、本題を続けることにした。

 

「まあ、一回目はもう少しあるけど、概ねあなたの予想通りよ。転生者を送り込んで、しかも戦争で技術が発展しちゃったのも、悪い方向に転がっちゃったけどね」

 

魔王軍現(職務放棄)幹部のお墨付きらしい。しかし……この人はいくつなんだろう?

次の議題に移ろうとした時に、

 

「じゃあ、魔王を倒すのは無意味って事ですか!? 何のためにこうやって戦って……」

 

ミツルギが立ち上がって、大声を上げていた。『魔剣の勇者』なんて呼ばれて最前線で戦って来たのだから、一番信じられないのも無理はない。

 

「ああー、うん。ちょっと落ち着いて。全然意味が無いんじゃなくて、これから最悪な方向に行くと、またそうなるよってくらいで考えて貰えれば。ただ、今代の魔王を倒しても、結局あのお姉さんが魔王になるから、この状態が続くだろうけど」

 

魔王軍も言って見れば、魔王のスペアがある状態をずっと続けて、仮に『その時の魔王』が負けても良いようにしている。魔王城に辿り着くほどの、強力な人間に対応するための手段だろうけど。あっちはチートを一つしか持ってないし。

 

「そのお伽噺の勇者ってのも、人間同士の争いを止める手段が見つからなかったから、わざと魔族との争い長引かせるようにって意味合いもあったんだろ? 個人的な感情の他には……だけど」

 

「そうね……。話を聞く限りでは、かなり不器用で意地っ張りな人間だったみたいよ。けど、大抵の事は自分でどうにかできるから歯止めが掛からなくなったって。魔族は強い者に従うみたいな不文律があったりもするのよ」

 

不器用で意地っ張り、その特徴を聞いて……、

 

「……似てるな」

 

「……そうね。似てるわね」

 

「似た者同士なので、思考が読めたのでしょうか? こめっこに絵本の質問をされた時も、すぐに答えていましたから」

 

「うむ。一歩道を間違えば、そうなる可能性もあったのだろう。私としては、もっと非道でも構わんが」

 

「確かに今でも魔王みたいに強いですから……」

 

……すっげえ、失礼な事を言われてる気がする。みんなして、俺を見て何を考えたんだ!?

 

ここでツッコむとドツボに嵌りそうなので、ここは聞き流して次への話題へと移ろうとしていた。しかし、アクアが何かを思い出したらしい感じで、

 

「そうそう、そういえばね。私がここに送った子が魔王になっちゃったから、その後に特典渡した人に、その魔王しばいて反省させなさいって言ってた時期があったわ」

 

確か、王城で借りた本では、アクシズ教の教義はいつの間にか、”魔王殺すべし”から”魔王しばくべし”になってたんだよな。アクアが原因なんだろうか? 本当にアクアが女神様だったらだけど。

 

その件については、今はいい。なので今度こそ本命の質問という事で、ウォルバクさんの方を向き直り、

 

「とりあえず、今度は二回目に自滅しかけた件について聞きたいのですが……」

 

「ノイズが開発した兵器が暴走して、私ともう一人でギリギリ鎮圧したのよ」

 

嘘はついていない感じではあるが、さっきまでと違い、本当にざっくりとした説明のみであった。どうやって情報を引き出すか……、あんまり打ち明けたくないって感じだから、ここは……、

 

「……ニートとDVの神」

 

ウォルバクさんから目を背け、聞こえるかどうかも分からないくらいの音量で呟いたのだが、

 

「何で、あの時のレジーナと同じこと言ってるのよ!?」

 

いやもう、良い反応してくださいました。やっぱりちょむすけから受け取った、ちょむすけ電波の夢は事実であるらしい。

 

「ウォルバクさん、強くて格好良かったですよ? おかげで爆発魔法も炸裂魔法もテレポートも修得可能になりましたから」

 

「どうやったのよ!? あの時の詳細な記述なんて、ほとんどどころか破壊し尽されて残ってないはずなのに……」

 

本当に知られたくないものであったらしい。こっちもちゃんと説明するべく、

 

「ちょむすけの猫電波がみょんみょんと俺の中に入ってきて、ウォルバクさん達の勇姿と、割と痛い口喧嘩が全部筒抜けに――」

 

「ねえ! 猫電波って何!? 私達、そんなに見てて痛い喧嘩してたの!?」

 

女神様(自称)の威厳もなにもあったものじゃ無いって感じになってしまったウォルバクさん。しかし、またしてもそれに付いて行けないカズマ達が、

 

「ほんっとうに頼むから、一から順に分かるように説明してくれ。二人だけで話を進めるな!」

 

「ニートとDVの神ですって……。プークスクス」

 

「いつの間に爆発魔法や炸裂魔法まで……!?」

 

「爆発魔法か……。是非修得して、私で試し撃ちをしてくれ!」

 

またまた騒ぎ出してたので、収拾がつかなくなる前に、話を進める様にしよう。

 

「すいません。ちゃんと話しますんで、許してください」

 

「……あなたとバニルって気が合いそうに見えるけど、何で突っかかるの?」

 

ウォルバクさん、俺をあんな性悪と同類に見ないでくださいよ。ともあれ、詳しい内容については、まだ漠然としているので核心部分を先に……。

 

「……ウォルバクさん、()()()()()() 少なくとも、兵器ではないでしょう?」

 

一瞬で顔色が変わってしまった目の前の女性。夢で見たとは言ったが、それも半信半疑だったんだろう。しかし、その質問で俺の言っていたのが事実だと確信したらしい。

 

「……あなたなら、それなりに予想は付いているのではないかしら?」

 

「七割方ってところです。質問の意味は、いくら強化したって言っても、あなたと後一人をあそこまで手こずらせるのは、普通ではありえませんが? いわばウォルバクさんとお姉さんを二人同時に相手して、それでも決定打を与えられていないってことになります」

 

一瞬目を瞑り、厳かな気配となったウォルバクさんが、再び目を開け。

 

「あの娘の事を調べるのは、よしなさい。これはお願いではなく、警告です。あれは……、決して起こしてはならない者よ」

 

「”起こすな”……って事は、どこかで眠ってるんですか?」

 

それ以上、彼女がそれについて語る事はなく、自分達の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

ウォルバクが部屋を出ると、そこには先ほど走り去って行ったはずの魔族が一人。どうやら扉の外側で潜伏スキルを使って気配を消していたらしい。

 

「良かったの? あんなの話して?」

 

「彼の中では、もう殆ど繋がってるみたいだしね。下手に隠さない方が良いわ」

 

そっか。と呟いて納得した魔族の女性。

 

「さっき戻ったと思ってたけど、なんだかんだで心配になったのかしら?」

 

「……宿の地図無くしたから、部屋まで連れて行って……」

 

泣きそうな顔になりながら、ウォルバクに案内を懇願していたのであった。

 

 

 

 

 

次の日、アルカンレティアの街中を歩きながら、お土産でも買おうかといった話題になったので、そうしているのだが……、

 

「めぐみんさん、ここには慰安旅行に来てるはずなので、無理して――」

 

「愚問ですね。爆裂は一日にしてならず。私の爆裂道はまだ始まったばかりなのです。魔剣使い(ミツルギ)から聞きましたが、総数百万回からなるユウの剣の打ち込みは凄まじかったと。私も見習わなければ……!」

 

はい。今現在、爆裂後のめぐみんさんをおぶっている最中です。両手が塞がっているはずなのに、相変わらずこの街の勧誘は遠慮ってものを知らず、俺達へと降りかかっていた。それだけならまだ良い、まだ良いのだが……、

 

「こっ……この、森の中に集落がある引き籠り種族! せめて片腕くらいは開けなさいよ! 何もできないでしょ!?」

 

「今、引き籠りと言いましたね!? それを言ったら魔王だって、城に引き篭もっている引き篭もりではありませんか!」

 

何で……お姉さんまで近くでめぐみんに文句を言っているのだろう? 俺に安息の地は無いのだろうか? 後ろではカズマ達が程よい距離を取り、他人の振りをしつつ見守っていたのであった。

 

「……出歯亀種族、騒音種族、ウサギ種族、引き籠り種族……」

 

ここ最近、魔王の娘さんに紅魔族についてボロボロに言われているゆんゆんが、若干落ち込みながら顔を伏せていた。

その一方で。そんなのどうでも良いと言わんばかりのめぐみんとお姉さんの口喧嘩はヒートアップしていく。

 

「あなたね……! 魔王は玉座に一日中座ってるとでも思ってるの!? だとしたら見当違いも良いところよ!!」

 

……ゲームの魔王ってのは、玉座に座っているイメージしかないが?

 

「魔王はね。部下のスケジュールや休暇の管理、給与の査定もしなきゃいけないの! それに冠婚葬祭や式典だって出席しなきゃいけないのよ!」

 

一気に企業色が現れてしまった魔王軍。そりゃあ、ただでは働かないよな、うん。

 

「部下の結婚式にバニルを代理にした時なんか、何年後に浮気するとか子供がぐれるとか言うし、それなら葬式の弔辞ならと思ったら、実は旦那は外に愛人作ってたとかばらして、修羅場にするし……!」

 

あの野郎にそんなのやらせるのが、そもそもの間違いだと思います。

 

「ウォルバクなら大丈夫だと思って出席して貰ったら、怠惰と暴虐の女神だと縁起が悪いとか言われる始末……」

 

なんなら……、うちの女神様(自称)をレンタルしましょうか? 水の女神らしいですよ……。

 

「シルビアなんて、可愛いのとか格好良いのを見繕って、合体したがるし……」

 

お姉さん、愚痴言いながら、もう今にも泣きそうになっています。

 

「私だってねえ! 城だとお父様の手伝いをして、頑張ってるんだから! これ見なさいよ!!」

 

そうして、激高しながらお姉さんが取り出したのは冒険者カードであった。クラスはこの間、紅魔の里で予想した通りの《冒険者》だったが、スキルの中には、『潜伏』、『上級魔法』、『中級魔法』、『ヒール』等の所謂、冒険者が普通に持ってそうなスキル以外に、

 

「『速読』、『暗算』、『暗記』、etc……」

 

どう考えても、事務職の人に必要になりそうなスキルがズラリと並んでおりました。なんだろう? このお姉さん、自宅(魔王城)だと髪をぼさぼさにしながら、ジャージでも着て、牛乳瓶メガネでも掛けてそうなイメージが浮かんだが……。ありえないよな、そんなのあるわけない……。

 

「……文官っていないんですか?」

 

「いる事はいるけど、チェックは必須でしょ? 一応、私達がトップだし……」

 

魔王軍ってよりは魔王業、超絶ブラックらしい。ウチ(管理局)よりよっぽどヤバいかも知れない。

 

「めぐみんは子供の頃、魔王になりたいとか言ってたらしいな。どうだ、感想は?」

 

「聞かないでくれますか……」

 

ヒーローに憧れてた子供が一気に冷めてしまった様な、そんな雰囲気を背中から感じてしまっていた。

 

「そ、そういえば……ウォルバクさんは?」

 

何とか話題を切り替えようと、何故か朝から姿が見えないウォルバクさんの行方を聞いたのだが、

 

「ウォルバクなら、行きたい場所があるって言ってたわ。大した用事じゃないって」

 

今朝方、このお姉さんを頼むと書かれた置手紙が部屋の前にあった。一人だと迷子になるから……と。

 

「あの人も結構、謎が多いよな。アルハザードまで知ってたし」

 

「そう、それです! あるはざーどとは何ですか? 紅魔族の琴線に触れる何かを感じます!」

 

さっきまで他人の振りしてたカズマ達も近くに来ていたらしい。聞き耳を立てて興味津々と言った様子であった。

 

「もうどこにあるかも分からない世界で、卓越した技術や魔法文化があって、そこにたどり着けばあらゆる願いが叶う理想郷だとさ。俺にとっても、ほんのちょっとだけ因縁があったりする」

 

「なによそれ! 行くのも大変な所じゃない。いくら世界を渡れる技術があったって、そこに行こうなんて、自殺と変わらないわよ」

 

アクアまで知ってるような口ぶりだが……? この場にフェイトがいなくて良かった。いたら落ち込んでたろうからな。

 

「……アクアも実は年齢が10の3乗いって――」

 

「……ゴッドレクイエムするわよ? 特にここはアルカンレティアだから、威力が最大になるわ……!」

 

「す、すす、すいませんでした……。アクアお姉様」

 

今のアクアにゴッドレクイエムやられたら、昇天してしまう自信がある。これはおそらく予想ではない。この人、やろうと思えば絶対にできる。しかもその後、蘇生されるおまけ付きで。

 

「そういえば……、あなた、その夢で見たっていう娘に拘ってる様にも見えるけど、どうして?」

 

今度は魔王の娘さんであった。理由か……。

 

「一回目に自滅しかけたのは……、まあ、予想の範囲内。けど、ウォルバクさんが相手したっていう娘は、どう考えたっておかしい。何をどうしたら、あんなのが出来るんだか……」

 

夢の通りなら、爆裂魔法受けたって致命傷にもならないくらいの規格外さである。

 

「それに……」

 

続けて何かを言おうとしている俺に、全員耳を傾けている。

 

「あの娘が可愛くて、脳裏から離れないんだ」

 

 

 

 

 

3分後。

 

「えぐっ……、とかいうのは、冗談で……、ひぐっ……! 俺の本職上、ああいうのは何かあると思ってるから……だよ……」

 

「こっちは真剣に聞いているですから、いきなりおかしな話をしないで下さい!」

 

めぐみんさんの至近距離での会心のグリグリが炸裂して、涙目になりながら釈明をしていたのであった。

 

「……最近、ユウの扱いに慣れて来てるわね?」

 

「ああ……。できればあれは私にもして貰えないだろうか? 動きを封じた急所攻めというのも……」

 

「ユウさん……、ギャップが激しすぎて、どうやって合わせれば良いんですか!?」

 

「ゆんゆん、この男は他人を自分のペースに巻き込むのがうまいのです。なので、話が横道を逸れたと思ったら、無理矢理引き戻せば、こちらのダメージが少なくて済みます」

 

ちょっとだけ、場を和ませようとしただけなのに、何で俺への対策をゆんゆんに伝授してるんだよ? めぐみんさん……。

 

「まあ、本当は……、凄く気になる表情(かお)をしてたからってのが、その理由なんだけど」

 

あの顔は見たことがある。泣きたいのに、それもできずに俯いてるような感じだ。

 

結構目立つような素振りを見せてしまったが、ここはアルカンレティア。そんなのは意にも介さずにアクシズ教の勧誘が止ることなく、困っていたのだが……、

 

「おお……! みなさん、お揃いで……! お久しぶりですね」

 

「ゼスタさん。その節はありがとうございました」

 

アクシズ教最高司祭のゼスタさんである。俺達を見つけて、笑顔で声を掛けてくれたのであった。

 

「おや……? そちらの方は……」

 

ゼスタさんが見詰めているのは、魔王の娘さんであり、下手すればこの場で一悶着と思われたのだが……。

 

「わ、私好みの巨乳の美女とは……! お嬢さん、是非ともアクシズ教へ入信いたしませんか? まずは教団本部でゆっくりとお話でも」

 

うん。全然心配なかった。

 

「うちには、もう専属のプリーストがおりますので遠慮いたします。今はこの方々と街を散策している最中ですし、またの機会にしますね」

 

お姉さん、森で一戦交えた時とは、うって変わって淑女みたいな態度になってます。正直言って似合わない気が……。

 

「それにユウさん。めぐみんさんをおんぶとは、何とも羨ましい状況ですな。良かったらこの私が代わって、そのまま、教団本部へとエスコートを――」

 

「私も遠慮します。少し事情がありまして、このままでいなければ心配になってしまいますので」

 

ゼスタさんにおんぶされるのは、身の危険を感じるらしい。

 

「私は久々に行ってみたいわ! また懺悔室で悩める子達を導くのも悪くないもの!」

 

「是非お越しください! アクアさんの説法であれば、この街の住人ならば大歓迎ですよ」

 

もうノリノリで教団本部へと行きたいといったアクアに同行して、そこで一休みしようかといった結論になったのであった。

 

 

 

 

 

 

アクシズ教団本部、俺にとっては良い思い出のあまりない場所ではあるが、そこでは……、

 

「めぐみんさん、ゆんゆんさんまで! セシリーお姉ちゃんに会いに来てくれたのよね? これから一緒に秘湯に行ってスキンシップしましょう!!」

 

「私達はアクアさんの付き添いですから!」

 

「そうです! そうですよ! いきなりお風呂とはありえません!」

 

本当に元気なセシリーさんである。アクシズ教徒だからで納得してしまうのが恐ろしいが。

 

「……ところで、そろそろ降りてくれませんか? もう二時間近く、おんぶしっぱなしだけど……」

 

「今日の私は、ひときわ魔力と体力を消耗した様です……。今降ろされたら、一歩も動けなくなってしまいます……」

 

絶対嘘だ。所々棒読みになってるのは何でですか? 子泣きめぐみんさん……。

 

「めぐみんさんを二時間おんぶ……。私が変わってあげますから!!」

 

少しだけ恨めしそうに俺を見ていたセシリーさんであったが、なにやら思い出したらしい。ゼスタさんと何やら小声で相談を始め、

 

「実は……、皆さんにご相談がありまして……」

 

珍しく言葉を濁していたゼスタさんであった。少し困ったような感じではあるが、そうこうしているうちに、セシリーさんが連れて来たのは……。

 

セシリーさんと一緒に来た娘を見て固まってしまった。はっきり言って、これは夢か何かかと思うレベルの出来事です。そんな様子を察したのか、

 

「おおーい! 汗びっしょりだぞ? 大丈夫か?」

 

「どうしたのですか!? も、もしかして、本当は私が重くて我慢して……」

 

「小刻みに震えているが、どうした!? あの娘が何だというのだ!?」

 

カズマ、めぐみん、ダクネスがオロオロしているが、それは良い。それよりも……、

 

「ゼ、ゼゼ、ゼスタさん……、あの……、この娘は?」

 

「ふむ。どこから説明したら良いでしょうか……」

 

俺達の目の前にいるのは、紅魔の里でひょいざぶろーさんの指輪を無理やり付けされられた時の夢に出た女の子であった。この世界では珍しい、長い黒髪に漆黒の瞳、そしてまるで感情が抜け落ちた様な、虚ろな眼の10歳いかないくらいの少女。

 

「ユウさん、落ち着いてくださいね? まずは深呼吸して……」

 

ゆんゆんですら心配になるくらいの状態であったらしい。めぐみんを降ろさせて、背中を摩ってくれていた。

 

「では順番に経緯を説明いたします」

 

そうして、説明を始めたゼスタさんであった。この娘、俺達が前回アルカンレティアを去った直後に、丁度、温泉を掘っていた辺りを、ボロ布を着て歩いていたのだそうだ。迷子かとも思ったらしいが、自分の名前もどこから来たのかも分からない。とはいえ、こんな子供を放っておくわけにも行かず教団で保護したものの、この様子では孤児院でも馴染めないのではないかというので、扱いに困っていたらしい。

 

もしかしたらと思い、一旦外に出て、アルカンレティアを一望できる高さまで空に上がり、全景を眺めると……。

 

「マジか……!? もしかして……アルカンレティアって……!?」

 

アルカンレティアの全体像を眺めると、一見、谷と谷の間に造られた街ではあるが、その地形――所々は整えられているものの、見覚えのある地形であった。間違いなく夢で見た、あの荒廃して無茶苦茶に削られたものと一致する。

教団へと戻り、ゼスタさんにこの街が、どうやってできたかを確認すると、

 

「元々、この土地は邪神と名も無き女神の激突で、この様になったと伝えられておりまして、我々アクシズ教団が開発したところ温泉が湧き出し、これは水の女神アクア様の加護に違いないと――」

 

邪神は多分……、ウォルバクさん。名も無き女神は……、もう一人の女性か?

 

「お前な……、その娘がどうしたんだよ? タダの子供じゃねーか」

 

カズマ……、この娘はただの子供じゃない。信じられないが……。

 

「……これは、ウォルバクに直接聞いた方が良さそうね。なんせ、会った事があるかもしれないから」

 

「お姉さんは……その……二回目とやらの経緯については……?」

 

「概略だけね。おそらく、昨日あなたが聞いたのと変わらないわ」

 

確かにこれはお姉さんの言う通り、ウォルバクさんに確認を取った方が良いかも知れない。その結論となり、宿へと、その娘を連れて行くと……、

 

「あっ……あなた達……、えっ!? ええっ!!?」

 

その反応で丸分かりです。やっぱり面識があったのか、この二人は……。

 

「ちょっと待って! 封印が解けているからおかしいとは思ったけど、どうしてその娘がここに!?」

 

「ウォルバクさんも落ち着いてください! 俺の言える事じゃありませんけど、まずは深呼吸して!」

 

俺とウォルバクさん、魔王の娘さん以外、完全に置き去りにしている状態である。カズマ達は首を傾げながら、早く事情を話せといった雰囲気であった。

とりあえず、全員その場に座り込み、俺達の言葉を待っているらしい。こちらをジッと見詰めていた。

 

「……まず、ウォルバクさん。この娘がノイズの()()()()()()とやらで間違いないですか?」

 

それに対し、重い表情で頷くウォルバクさんであった。

 

「次に。またそうなった場合、どの様な被害が考えられますか?」

 

「最悪、人間も魔族も滅亡するわ……」

 

「「「「なっ……!?」」」」

 

信じられないといった面々。そして、渋々ながらといった感じでウォルバクさんが説明を始めた。

この娘は、魔道大国ノイズで最初に造られた改造人間。しかし、紅魔族との違いは、やりたい放題強化したせいで、自分の力を禄にコントロールもできずに暴走してしまったのだそうだ。

それをどうにか鎮めたのが、昔々のウォルバクさんともう一人であり、ここアルカンレティアはその戦場跡らしい。

ウォルバクさんが、今日は俺らと別行動をとっていたのも、この娘の封印を確認しに行っていたらしいが、それが解けていたので、大慌てでここに戻ってアタフタしていたらしい。今度はアクアから、

 

「ちょっと! この娘、変な戒めが掛けられてるわよ! 何したのよ!」

 

「それはね。ここに一緒に降りてきた傀儡と復讐の女神が掛けたものよ。半ば人形みたいにして、暴走しない様にしたの」

 

傀儡と復讐の女神――それを聞いためぐみんがちょっとだけビクッ……としていたが、何かを知ってるのだろうか?

 

とりあえず、この娘についての事情は正直、半信半疑だが、実際この場にいる以上は信じるしかない。これからどうするかといった討論をしようとしたのだが、

 

「何する気ですか?」

 

「それはこっちのセリフよ? いいから退きなさい」

 

咄嗟に反応して、連れて来た娘を庇ったのは良いものの、俺の首筋には魔王の娘さんがライト・オブ・セイバーを纏わせた手刀が突き付けられ、反対にあちらの首筋には俺の魔力刃を突き付けていた。渦中の少女は自分が狙われたにも関わらず、眉一つ動かさずに無言であった。

 

「……幸い、その娘はもう家族もなにもない一人っきりよ。ここでいなくなったとしても、悲しむ人はいないわ」

 

あー、そうですか。この場で始末しようって腹ですか。

 

「あなた達に人間は殺せないでしょ? だからここは私がやってあげるわ。暴走する前なら、どうとでもなるから」

 

その場を支配していたのは、威圧感とも殺気とも違う何か。俺と魔王の娘、そしてウォルバクさん以外は一歩どころか視線を外す事すら許されない状態に陥っていた。

 

「さあ……その魔法を解いて、後は私に任せておきなさい。悪い様にはしなから」

 

おそらく、この魔王の娘にしたって敵意を感じるわけでもないので、本人としては介錯でもするつもりなのだろう。だとしても……。

 

「断る……!」

 

一瞬、険しい顔をした目の前の女性と睨み合い、退く気は無いとの意思表示を固めてはいたものの、おそらくは見るに堪えなくなったのだろう。次はウォルバクさんから、

 

「二人共、少し待ちなさい。もしもの時は、あなた達二人の力が必要になるかもしれないから、ここでの戦闘は容認できないわね」

 

「彼が退けば、それで済むわよ。ウォルバク……、あなたも協力しなさい」

 

「そっちの彼は、言いたい事がある様だけど?」

 

チラッと俺を見て、早くしろと促してくれていた。

 

「……この娘は、もし危険が無くなれば、こんなのする必要はありませんよね?」

 

「ありえないわね。近くにいるだけでも分かる、凄まじい魔力。今は小康状態なだけで、いつどうなるか……」

 

「この手のはどっちかって言うと、俺の管轄ですから任せてはくれませんか? この娘並にヤバいのなら、何回か見てますし」

 

なおも睨み合う俺達ではあったが、あちらから、

 

「それで? もしもの時は、どうするつもり?」

 

もしもの時……か……。

 

「その時は自分でケジメを付けますよ」

 

あちらさんは、はあ……っとため息をつきながら魔法を解除してしれたものの、呆れたように、

 

「あなたはどちらかと言えば、私達に近いと思ってたけど見当違いだったようね。そこまで言うのだったら、自分でどうにかしなさい。けど躊躇うようなら、私が変わってあげるわ」

 

何とかあっちが引き下がってくれたものの、すぐに魔王城にテレポートで戻ってしまった。おそらく先ほどの件も込みで、対策でも練るのだろう。ウォルバクさんも明日にはアクセルに戻るといった旨の発言をしていた。

そして、二人がいなくなった宿内の俺達の部屋では、

 

「ふ、ふふ、震えが止まらねー!? 何だよ、あれは……!」

 

「すまんな、みんな。厄介事を引き込んじまって。というか……封印が解けたのって、温泉堀で爆裂使ったせいかもしれない」

 

それに固まる一同であった。前に温泉掘ったあたりを歩いてたんだから、おそらく……。

 

「そ、それは……ともかく、あそこまで啖呵を切ったのですから、どうにかできる算段があるのでしょう?」

 

爆裂の単語を聞いて、めぐみんが少し動揺していた感じだが、あれは言わば全員でやったようなもんなので、気にはしてはいけないと思う。

 

「算段か……。実は……」

 

カズマ達がゴクッと喉を鳴らしている。それに応える様に……。

 

「俺自身には、そんなものはない!」

 

その一言で、ありえないといった表情をしているみんなであった。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 口から出まかせであんなの言ったの?」

 

アクアの言う通りです。はっきり言って、口から出まかせ。

 

「もしもの時はどうするつもりだ?」

 

「うん。そんなのになったら、瞬殺されるんじゃないかな?」

 

ダクネスからの質問に答えると、またまた時が止まってしまったカズマ達だったので。

 

「ちなみに瞬殺ってのは、一瞬で殺されることを言いま――」

 

「そんなのは分かってるに決まってるだろうがあああああああ!!」

 

カズマが思わず叫び声を上げていたが、分析としては間違っていないと思います。

 

「もしかして本当に、その場の勢いだけだったんですか!? う、嘘ですよね!?」

 

「あの娘の体の件に関しては、俺の本職の方の人達を頼ろうかと思って……。もしかしたら、うまい事、魔力の封印措置だけでなんとかなるかもしれないし」

 

ゆんゆんも相当心配していたが、とりあえず、あちらに連絡を取って、迎えが来るまでの数日間はあの娘の面倒をアクセルで見ようという事で、決着がついたのであった。

 




魔王の娘さんは大局的に見れば、行動としては間違ってはいません。今回はどっちかっていうと、主人公の我がままの部分も大きいです。
どっちが正しいかってのは、一概には判断できませんが。

彼女が自分で始末するって言ったのも、なんだかんだで主人公を気に入ってるからですね。人間に同族殺しさせたくはないのかも。
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