この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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バニルの占いと歓迎会

あれから謎の娘さんを連れて、ウォルバクさんのテレポートでもってアクセルへと戻った俺達ではあったが、屋敷に帰ってからのみんなの態度がよそよそしい感じになってしまっていた。それもそのはず、ある意味、世界を滅ぼすかもしれない存在と同居しているのだ。いつ爆発するか分からない爆弾がそばにある様な感じで、気が気ではない……。だというのに……。

 

「ララちゃん、ララちゃん。この娘に着せる、お下がり譲ってくれないか?」

 

「ええいっ! ララちゃんと呼ぶなと言っているだろう! というか貴様、なぜ平然としているのだ!?」

 

「慌てふためいても仕方ないしな。ちなみにあだ名呼びするのは、ララちゃんって呼ばれてた蝶よ花よの時期の服装を、よく思い出せるようにするためだ」

 

「ララちゃんなどと呼ばれたのは、最近になってからだ! それに、頼むならもっと普通に頼め!」

 

(くだん)の女の子については、ゼスタさんの許可は得たものの、着の身着のままで連れて来てしまったので、着替えも無い状態だった。なので、その辺をダクネスに頼っていたのであった。

 

「ララティーナ様。どうか卑しいわたくしめに、お下がりを譲ってはいただけないでしょうか? もちろんタダでとは言いません。今なら縛って吊るして放置の三重責めを致します」

 

「なっ……!? そ、そんな誘惑で……、こっ……この私を買収する気か……!? お、お下がりはともかく、いつでも来いっ!」

 

ダクネスへの誠心誠意の交渉を間近で目撃していた面々は……。

 

「なんで……あいつは、ああも平常運転なんだ?」

 

「カズマ……、そこは深く考えてはいけません。おそらく何も考えてませんから」

 

「それよりあの娘、大丈夫かしら? ここに来てから食事とかの最低限の事以外は、なんにもしないけど」

 

アクアの言う通り、話しても一言も発さずに虚ろな眼をしたまま、受け答えもしない女の子なのであった。ウォルバクさん曰く、半ば人形の様にしているのだとか。

お下がりの件に関しては、ダクネスが自分の実家から持って来てくれることになったので、何とかなった。なので次は個人的な用事を済ませようと……、

 

「ちょっと、ウィズの店に行ってくる。バニルをシメに」

 

あの野郎はもったいぶるだけもったいぶって、俺をからかおうとしていたので一言くらいは文句を言ってやりたいのである。本当はもう一つ用事があったりするが。

 

「ちょっと待て! だったらあの娘も連れて行け。お前じゃねーと、もしもの時はどうにかできないだろ?」

 

「カズマは金髪碧眼じゃないと、あのくらいの子供はダメなのか? 黒髪黒目は守備範囲外?」

 

「んなわけねーだろーが! こっちは気が気じゃねーんだよ!」

 

あんまり、あの娘に良い感情を持ってはいないようである。危害加えられてはいないが、まあ仕方ない。

 

「じゃあ、俺とちょっとだけ散歩するか?」

 

それに対し、やっぱり無言の女の子であった。なので、

 

「無言は肯定と受け取るぞ? いいかな?」

 

はい。それでも無言だったので、手を引いてウィズ魔道具店へ二人で向かったのであった。

二人で手を繋いで街中を歩いていると、いつもよりもちょっとだけ大きい娘が出来たと、ヒソヒソコソコソと噂話をされていたようだった。恋人じゃないのは良いが、せめて妹が遊びに来たくらいには見られたいのだが……。

そうしてウィズの店に向かっていると、

 

「ユウ、探したあああああああ!?」

 

「おう、クリス。こんな昼間から大声出して、盗賊としてはどうかと思うよ?」

 

俺が連れている女の子を見て、まるで昔の事を知っているような感じで叫び声を上げていたのであった。

 

「そ、その……何でこの娘がここにいるの? あたしも色々調べたから教えに来たんだけど……」

 

「それって、実は人間同士が争ってた時期があるとか、ノイズがヤッバイのを造ったとかかな?」

 

「う、うん。そう……。じゃなくて、その娘は!?」

 

アルカンレティアでの経緯を説明すると、訝し気な雰囲気になったクリスが、

 

「魔王の娘と一触即発だったって……。けど……、それって……」

 

驚くというより戸惑ってる感じで、その時の様子を聞き入っていた。すると、今度は真剣な眼で俺を見据え、

 

「ねえ……、その魔王の娘のしようとした事、正しいとは言えないけど、必ずしも間違いじゃないよ。正直、気に入らないけどね。むしろユウの方が、私情に流されてるんじゃないの?」

 

確かに……な。全体を鑑みれば、アイツやクリスの考えは当然だろう。

 

「けど……さ。この娘は、こうなりたくてなったわけじゃない。諦める前に、やれることはあると思う」

 

「それが徒労に終わるかもしれなくても? 本当に自分で、この娘に手を下さなきゃならなくなっても?」

 

クリスはどちらかと言えば、俺の心配をしているらしい。少し賢い人間なら、こんなのは目を瞑って知らない振りしてればいいと思うだろうな。

 

「悪いけど、出てもいない結果なんて考えるだけ無駄ってもんだ。それに、諦めが悪いのは俺の自慢できる長所だからな。やるだけやってみるさ」

 

「何でそこまでして……」

 

クリスにしたら疑問だらけなのかもしれない。ずっと昔の、しかもいいだけ破壊を繰り広げた人間を庇おうってんだから。

 

「ただ単に、気に食わないだけだ。神様とやらがいるかどうかは知らないけど、それに手を合わせて祈るなら、その手で誰かの手を掴かむ方が良いだろ? この娘に必要なのは、多分そんなのだと思う」

 

それを聞いたクリスが少しだけ驚いた表情をしていたが。

 

「……何となくわかった。ユウって、バカなんだ。理屈じゃないんだよね?」

 

バカとか言われて少しだけカチンときたものの、ここは堪えるべきと思い、我慢していると、

 

「けど、そんなのは嫌いじゃないよ。……うん。そうだよね……」

 

なんか嬉しそうなクリスさんでした。納得してくれたのは良いけど、バカは撤回して欲しい。

 

「さっきの事、カズマ君達には言ったの?」

 

「いや……その……、この娘を連れて来てから、みんな落ち着かなくて……」

 

「はあ……。今回は貸しだよ? あたしからちゃんと話しておくから、後でシュワシュワ奢って!」

 

そうして、屋敷の方向へと走り去って行ったクリスであった。そこから10分程歩き、ウィズ魔道具店に到着した俺は、目的の野郎が外で掃除をしていたので、

 

「『ゴッドジャンピングキイイイイイック』ッ!」

 

もう仮○ライダーのライ○ーキックの如く、空高く舞い上がり目標どころか地表を貫く勢いで繰り出した飛び蹴りは、奴のどてっ腹に大穴を開けたものの、仮面を砕くことはできず、当の本人は気にせずに掃除を続けていたのであった。断っておくがこれは、『星煌刃』ではない。……多分。

 

「おお……! 久しいな。魔王の娘とやり合った凶悪魔道士よ。生憎と吾輩は掃除で忙しい身だ。店主に用事であれば勝手に行くがいい」

 

腹に開いた穴なんてのは、すぐに再生するので気にするなと言わんばかりのバニルであった。このまま何発かくれてやろうかと思ったが、一応は用事があってきているので、ここで終わりにする。

 

「……今回はお前に用事があるんだ。ちょっと頼まれて欲しい」

 

「ふむ。珍しい事もあるものだ。新たな商品ができたわけでもなく、吾輩に用事とは。店に入るがいい」

 

バニルに案内される形で入店したが、そこで見たものは……、

 

「ウォルバクさん!? ウィズに何か恨みでも!? 抵抗はせずに自首してください。そうすれば罪は軽くなります!」

 

「違うわよ! これをやったのはバニル! 私が雇い主を黒焦げにするわけないでしょ!?」

 

まるで、サスペンスの殺人現場に偶然居合わせてしまった目撃者の気分であった。そこには店番をしているウォルバクさんと黒焦げになってプスプス煙を上げながら、うつ伏せになっているウィズの姿があった。

 

「……何があったんすか?」

 

このところのウィズ魔道具店は黒字も黒字。それこそアクセル一の魔道具店を名乗っても遜色ないくらいの売り上げになっていたはずだ。それなのに、バニルの折檻とは尋常ではない。

 

「この黒焦げ店主が、店の利益全てで最高純度のマナタイトを買い付けてきおった! マナタイト自体は売れ筋ではあるが、この駆け出しの街で一つ数千万する石ころなんぞ、誰が買うというのだ!?」

 

それって……紅魔族が工事に来た時に売れたっていう、高純度のマナタイトの上を行く商品だよな? なんでまた……。

 

「バ、バニルさん……。あのマナタイトですら売れましたから、この品質の物が売れたって不思議はありません……。もしかしたら、大魔道士が大挙して訪れたり……」

 

黒焦げから復活したウィズが起き上りながら事情を説明していた。こないだウィズが温泉好きにも関わらずアルカンレティアに行かなかったのは、この商品の買い付けの為だったらしい。

 

「今回は同情する……。いっそバニル魔道具店にして、ウィズ降格させたら?」

 

「そうしたいのはやまやまであるが、吾輩の名を出すと悪魔達が押し掛ける可能性もあるのだ。そうなれば客足が遠のき、赤字になりかねん」

 

そ、そうなんだ……。この野郎も色々と事情があるらしい。

 

「ユウさん……。私もいますから……」

 

「おーすっ! 稽古以外じゃ屋敷にいないから、どこかと思ったらここだったか」

 

声が聞こえた方向を向くと、そこには遠慮がちにゆんゆんがカウンターの内側に隠れるような感じで俺……というより、女の子を見つめていた。

 

「ゆんゆんさんから伺いましたけど、魔王の娘さんと戦ったとか……。アルカンレティアでの出来事も……」

 

店の休憩スペースでウィズが入れてくれたお茶を飲みつつ、雑談をしていると。

 

「ユウさんも若いですね。私がリッチーになる前の、ご禁制の魔道具まで使ってバニルさんに挑んだ時を思い出しました」

 

「ウィズも結構、向こう見ずな時期があったのか?」

 

「若さ故の特権ですね。今ではいい思い出です」

 

永遠の二十歳のウィズさんの若い時ってのは何年前だろう? 遠い目をしてバニルと戦ったのを思い出してはいるが、それこそ半世紀とか一世紀前とかなら嫌だなあ……。

 

「あの……」

 

さっきまで隠れていたゆんゆんも、この場が普通のお茶会のようになっているので安心してきているのだろう。いつの間にか近づいて、席についていた。聞くと、ずっと気になっていたことがあったらしい。

 

「ユウさんは、ノイズが色々やってたんじゃ……。って考えてたみたいですけど、いつからそう思ってましたか?」

 

「紅魔族が改造人間だって事実を知った時からかな」

 

それにポカンとするゆんゆんであった。そんなに意外だっただろうか?

 

「つまり……、シルビアを撃退して、あの日記の内容を知った時からですか!?」

 

「だってさ、魔法適性を最大にする時に、記憶が無くなるのをノイズの研究者達は知ってたんだろ? そんなのが分かってたって事は、誰かで試したからだって。その誰かが、ここまでぶっ飛んでるとは思わなかったけど」

 

それにしたって、まだピースが足りていないのだが。どんだけ強化を施そうと、あれは常軌を逸している。地形すら当たり前のように変え、ウォルバクさんすら翻弄していたのだから。

それに関しては、これから調べるとして、ここは用事を済ませなければ。

 

「それでだ。バニルにちょっと見通して欲しいのがあってな。頼めるか?」

 

「ほう……。貴様が吾輩に頼み事とは珍しい。ならばじっくりと占ってみるのも良いだろう。こちらへ来るがいい」

 

「いや、別にそれは俺じゃなくて……」

 

「その小娘には質問すら出来ぬ。それでは何もなるまい」

 

という事は、その占いとやらは、いくつか質問をされなければならないらしい。

 

「つーか、俺で良いのか?」

 

「吾輩としては、その方が都合が良いのでな。これからいくつか質問をする。答え難い物もあるだろうが正直に答えるのだぞ」

 

占って欲しい内容をバニルへと伝えた後、奴が水晶玉を机に置き、お互い向き合って座っている。少しするとバニルが口を開き、

 

「汝、お兄様だの兄ちゃんなどと呼ばれて浮かれてはいたが、今度兄と呼ばれるとしたら、”お兄ちゃん”か”兄上様”が良いと思っているのは、なぜか?」

 

「絶対それ、占いと関係ねーだろ!」

 

机をバンっと叩き、思わず叫び声を上げてしまったのであった。

 

「吾輩は正直に答えよと言ったぞ」

 

いや……ここは、我慢だ、我慢。俺は我慢強い男だ……!

 

「や、やっぱり、オーソドックスな”お兄ちゃん”や、ちょっと変化球だけど、品があるように感じる”兄上様”も……良いなって思いました……」

 

それに満足したように頷いたバニルが続けて、

 

「では、汝に問う。温泉で魔王の娘に押し倒されそうになった際、抵抗しながらも一瞬、”それも悪くないか”……と考えた様ではあるが、それはなぜか?」

 

……何でこいつはピンポイントで聞いて欲しくない事ばかりを質問してくるんだ!? だが、ここは答えなければ……。

 

「あ、あのお姉さん、スタイル抜群の美人で……、と、特に胸の部分がはだけそうになってたし……、俺も健全な男の子なので、ちょっとだけ夢を見てしまいました……。ごめんなさい……」

 

もう死にたい……。

 

「ユウさん……、あの人と首筋に魔法を突き付け合って牽制してた時は……、キリっとしてて紅魔族的には、ぴりぴりきていたのに……」

 

ゆんゆんさんがもう泣きそうな顔になりながら、俺を少しだけ軽蔑する様な視線を送っていた。その一方ではバニルが実に満足そうに、うんうんと頷いている。

 

「ではこれで最後だ。汝、アルカンレティアに立ち寄る前に、そこのネタ種族の父親に娘をも――」

 

「おい、本当にこれは占いと関係あるのか!? さっきから俺の知りたいのと、かけ離れ過ぎじゃねーのか!?」

 

またまた机を叩き、抗議の声を上げたのだが、当のバニルは何の事だと言わんばかりのとぼけた顔をしているのであった。

 

「いつ吾輩が、質問をしなければ占いが出来ないなどと言った。占い自体は水晶玉に手を置くだけでいい。汝に質問していたのは、占いの結果が出るまでの暇つぶ――」

 

バニルが言い終える前に、ぴよぴよ丸を左手に取り、柄を右手で握り締めて居合を仕掛ける。魔王の娘に使った風魔法加速式居合切りである。しかし……、

 

「フハハハハ! 貴様が何かを仕掛けてくるのは予測済み。いくら吾輩でも、そのおかしな刀とやらで残機を減らされるのは、耐えられぬのでな」

 

仮面を狙ったはずの一閃はバニルの右肩から首を斬り裂いただけで、仮面は無傷。程なくして体を再生させた目の前の悪魔であった。

そんなドタバタを見ているにも関わらず、反応がない黒髪の女の子。ちょっとだけ心配にはなってしまうが、よく見ると、ウィズが出したお茶やケーキを平らげている。もしかしたら、自分を表現できないだけで、ちゃんと好みや嗜好はあるのかもしれない。

 

「……まあいい。……それで? 占いの結果は……?」

 

もう精神ボロボロになりつつ、目的となっている占いの結果についてバニルに尋ねる。その答えを聞いて……。

 

「……そっか、そうだったんだ……! だからウォルバクさん達が、あんなに手こずって……」

 

「貴様にしては鈍いな。当の昔に勘づいておる物だと思っておったが。しかし、それは占いとは何の関係もないが?」

 

確かにバニルの言う通りではあるが、それよりも。

 

「この娘は、こんなのになる為に生まれたんじゃないって分かっただけでも、ここに来た甲斐があった。てめえが嘘ついてなきゃだけど」

 

「吾輩にも見通す悪魔としての矜持はある。占いの結果については確実故、安心するがいい。そして、それは貴様の考えている通りで間違いない」

 

俺の何気ない一言。それを聞いたバニル以外の女性達は、何の事だと言わんばかりの不思議そうな表情を浮かべていた。特にゆんゆんなんて、結構好きそうなのに分からないって事は、この世界にはそんなのは無いのかもしれない。

 

「世話になった。じゃあ俺は帰るよ」

 

 

 

 

 

 

 

女の子を連れて屋敷へと戻り、リビングへ入るとその光景で固まってしまったのであった。

 

「……何やってんだ? お前ら……」

 

リビングは豪華に飾り付けられ、キッチンではカズマやめぐみんが何やら調理をしているような音が聞こえ、アクアはここぞとばかりに気合を入れて、宴会芸の準備をしていたのであった。ダクネスは実家から持ってきたらしい、子供サイズのワンピースやドレスの選定を楽し気な雰囲気で行っている。

 

「ん、帰ったか。クリスから話は聞いた。どうやら私達も反省しなければならないようだ……。今回のお前の行動は、非難される謂れなど微塵も無い」

 

クリスから何を聞いたんだろう? 出かける前と後で態度がまるで違うのだが……。

 

「ユウってさ、計算高い人間だと思ってたけど、結構、熱い人だよね。さっきのセリフをみんなに聞かせたら、一発で納得しちゃったよ!」

 

「さっきのセリフって?」

 

先ほど別れたクリスではあったが、言っていた通りで屋敷に来ていたらしい。リビングの飾りつけをせっせと手伝っていた。その身軽さは流石盗賊と言ったところだろう。

 

「”神様とやらがいるかどうかは知らないけど、それに手を合わせて祈るなら、その手で誰かの手を掴かむ方が良いだろ?”……って、やつ」

 

なにげなーく、口から出ていた一言であったが、改めて思い返すと……かなり恥ずかしいのを言っていたと、まざまざと自覚させられたのであった。

 

「……忘れろ。つーか全員、綺麗さっぱり忘れろ! 忘れないと、頭叩いて記憶喪失にして無理矢理にでも忘れさせる!!」

 

今の俺は顔面真っ赤の汗だらだら。誰もいないと床をゴロゴロ転げ回ってるくらいの羞恥心が、全身を駆け巡っているのであった。

 

「女神様はここに居るけど、あなたは本当に立派になったわ! あの時の小さな男の子がこんなに……、グスッ……」

 

宴会芸の準備をしながら、目に涙を貯めたアクアが感無量とばかりに、その涙を拭っている。

今度は調理場から戻って来たらしいカズマとめぐみんから、

 

「今までも魔王軍の幹部と渡りあって来たしな。どうにかなるだろ。ただ、あんまり厄介事にはしないでくれよ?」

 

「あのセリフは紅魔族の琴線に触れますよ! ええ! 里の学校の決め台詞集にでも加えたいくらいの物です!」

 

めぐみんのとこ、神様封印して観光地にしてたよな? 手を合わせるどころか(ばち)当たりな事してるけど……。

 

「ところで……だ。これらは実家から持ってきた衣服だが、この娘に着せるのはどれが良いと思う?」

 

ダクネスが持ってきた衣服を順々に俺に見せていたが、男の自分が選ぶよりもそちらで選ぶのが……と言おうとしたら、目に付いたのは空色の生地に小さい白い花が散りばめられたワンピースであった。それを目にした瞬間。

 

「これがいい。この娘にはこれがぴったりだと思う」

 

その服を手に取って、女の子に合わせてみると、サイズも丁度良かったので着せてみようといった話になった。

ダクネスとクリスが別室へと連れて行き、そのワンピースに着替えさせた姿を見て思わず。

 

「やっぱり似合う! 思った通り!!」

 

その娘を抱き上げて、グルグル回ってしまったのであった。着替えた本人はやっぱり反応無しではあったが。その時に、腕輪が嵌められていたのが見えたが、おそらくダクネスが着けさせたのだろう。この光景を見ていた、その場の全員が、

 

「「「「やっぱりお父さんだ(ね)(です)!」」」」

 

「誰がお父さんだああああああ!!」

 

せめてお兄さんって呼んでくれ、ほんと……。

 

大声で文句言っても仕方ないので、何でみんながこんなのをやってるのかを聞いてみたところ、

 

「あの娘の歓迎会だって。短い間かもしれないけど、一緒に住むしな」

 

カズマがその理由を説明してくれたが、それを聞いて胸が熱くなる様な気がしたのは、多分気のせいじゃないはず。

 

「今日は良い日だなあ。これもそうだし、ウィズの店でもちょっとだけ嬉しい事があったしな」

 

「さっきはやけにテンション高いと思ったら……。何か良い事があったのか?」

 

どうしようかなあ……。教えても良いけど、ここはやっぱり……。

 

「それを一番最初に聞かせるのは、この娘かな? ちゃんと今の状態を直してから教えてあげたい」

 

俺にも何らかの拘りがあるらしいと感じたカズマ達は、それ以上ツッコむことなく、その話題を終わりにした。

その後、ゆんゆんも参加した楽しい歓迎会も終わり、後は寝るだけとなったのだが、

 

「そろそろ退いてくれないかなあ……?」

 

女の子が俺の上にチョコンと座ったまま動いてくれないのであった。その表情から感情を読み取ることは出来ないが、もうどっしりと座ってここを動かぬといった何かを感じる。

 

「気に入られてしまったのでしょうか? ルーちゃんやこめっこもそうでしたし……」

 

「お前は天然ロリキラーか? 子供に好かれすぎだ……」

 

「これで絵になってるがね……」

 

「うむ。なぜここまでこの姿が似合うのか……」

 

恥ずかしくはないが、見世物になってる気になってくるのが困ったものである。

女の子を無理やり立たせても、すぐさまストンと俺の上に膝を降ろしてしまう。しょうがないので、

 

「だったら、今日は一緒に寝るか?」

 

「…………」

 

無言だが、ここからは動きたくないのは何となく分かってしまった。というわけで自分の部屋に連れて行き、ベッドに横たえると、すぐに眠ってしまったのであった。なら自分も寝るかと目を閉じようとした時に、ドアをノックする音が聞こえたので、扉を開けると、

 

「どうした? こんな夜更けに?」

 

「あ……、いえ。特に用事というわけでは無いのですが……」

 

どことなく歯切れの悪いめぐみんである。何か用事があるから来ていると思ったのだが……。

 

「もしかして、この娘を抱き上げてグルグル回ってたのが羨ましくなって、自分もやって欲しいとか?」

 

「私はもう十四歳ですよ!? そんな子供ではありません!!」

 

部屋に入るとベッドに座り込んで、ジッと女の子の寝顔を見詰めていたのであった。

 

「……こうしていると信じられませんね。こんな小さい子が、破壊の限りを尽くしたとは……」

 

「まーな。寝顔だけ見てると、普通の子供と変わんねー」

 

無論、普通の子供ではないのだが。というか……。

 

「この場で一番の年下はめぐみんだからな? この娘は例えるなら紅魔族の先祖みてーなもんだ。紅魔族の紅い瞳は開発者に強請(ねだ)ったらしいから、お前らだって元は黒い瞳だったかもよ?」

 

「なるほど……、あり得る話ですね。紅魔族の大本であれば、格好良い仕草やセリフに目が無いかも知れません」

 

この娘が普通になって、中二なセリフや行動とったら……嫌だなあ……。

 

「ところで、雑談しに来ただけなら、そろそろ部屋に戻れって。良い時間だぞ?」

 

「……若い男が女の子と二人っきりなのが心配になったのですよ。最近、変なのにも気に入られていますから」

 

変なのってのは、あの魔王の娘さんだろうが、こんな子供と二人っきりだからって、おかしな事になるとでも思ってたんだろうか?

 

「ですので、ちょっとした監視の意味も込みで、私も今晩はここで寝ます」

 

「……俺としては、嫁入り前の娘さんが、夜更けに男の部屋に来る方がよっぽど心配になるけど……」

 

「そんなのをサラッと発言するので、お父さんなどと言われるのですよ? 年頃ならここは喜ぶ所です!」

 

もう言っても聞かないパターンだ。ここで眠るのは別に構わないのだが、俺は一緒というわけにはいかないので、

 

「……俺は床で寝る。二人はベッドを使いなさい」

 

これがいい落としどころだろう。ベッドは三人でも眠れなくはないが、結構狭くなる。

 

「ダメですよ。この娘はあなたから離れたくないと思っているのですから、三人一緒です」

 

「……白状します。正直、恥ずかしいです。勘弁してください」

 

「恥ずかしいですか……。では、この娘を真ん中にすれば、少しはベッドに入りやすくはなりますか?」

 

……えーっと、なんかペースを握られっぱなしな気がするんですが、どうしてこうなってるんだろう?

 

「早く入った方が良いですよ。風邪を引いてはいけませんから」

 

「……お邪魔します」

 

自室のベッドなのでいちいちそんなの言う必要は無いのだが、なんだかんだで緊張しているらしい。ベッドの中は女の子を真ん中にして、その両側に俺とめぐみんで川の字になっている状態である。

 

「……こんなの、凄く懐かしい感じがする……」

 

「懐かしい……ですか?」

 

昔の……、今ではもう居なくなってしまった人達を思い出してしまった。

 

「まだ……父さん達が生きてた頃、こうやって三人で一緒に眠ってたんだよな……」

 

あの頃は、あの日々がずっと続くもんだと思ってた。けどそれは、あまりにも簡単に崩れ去ってしまって……。

 

「俺が子供に甘いって思われてるのも、結局は自分が寂しがってたのが原因なんだろうなあ……」

 

これは多分、間違いじゃない。この娘やミッドの子達に同じようになっては欲しくないってのが根底にあるのだろう。

 

「それでも良いではないですか。この娘にも、あちらの子達にも好かれているのですから。あなたは、そのままでいいと思っていますよ」

 

「そっか……。ありが……スゥ……」

 

会話をしているうちに自然と眠りについてしまった様で、目を開けるのも億劫になっていた。

 

「……おやすみなさい」

 

めぐみんが優し気な声で何かを言っていた気がする。それと共に、懐かしい温もりに包まれながら朝まで目を覚ます事はなかった。

 

 




今回は割とほのぼの。不幸はバニルの占い以外はなしとなっています。
何気にクリス(エリス様)の好感度も上がってます。これは恋愛的ではなく、友人としての好感度ではありますけど。
まあ、神様の前で、神様に祈ってる暇あったら出来る事をしろってのも、かなりいい度胸してるとも思いますが。
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