この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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崩壊する日常

アクセル全土を巻き込んだサキュバス騒動から数日。実に平和な日常を過ごしていた俺達であった。その間、カズマはやけに機嫌が良く、いつもすっきりしたような顔をしてはいたが、バニルに取憑かれた後遺症もない様なので、そこは一安心と言ったところだった。なので、

 

「カズマさんや、こないだの戦闘で思った事があってさ」

 

「……俺はあんまり思い出したくねーけど」

 

それはそうだろう。バニルに無理矢理酷使させられたのだ。ダクネスみたいな特殊な人間ならともかく、普通トラウマになっていてもおかしくはない。何故か俺を見てカズマが怯えた眼をしてはいるが、気のせいのはずだ。

 

「やっぱりロケットパンチだと思うんだ」

 

「いきなり何言ってるんだ、お前は?」

 

これはいけない、完全に説明不足だった。いきなりロケットパンチなんて言っても、変な顔されるだけだよな。

 

「クリエイト・アースゴーレムで造ったゴーレムでロケットパンチをやってみたくないか? ちなみに俺はやりたい! ただ飛ぶだけじゃなくて、ドリルを付けて回転も加えたヤツを!」

 

力説している俺を尻目に、カズマさん、完全に痛い人を見る目でしたよ。だが男の子なら分かるはずだ。ドリルロケットパンチは男の、いや漢の浪漫のはずだから!

 

「ろけっとぱんちとは何でしょうか? どことなく気になる響きですが?」

 

「ゴーレムの腕が途轍もない勢いで敵へと飛んで行き対象を粉砕する、日本の子供達なら誰でも知ってる憧れさ」

 

「ゴーレムの腕が飛ぶ……ですか!? 紅魔族的には是非とも見てみたいものです! 出来るのですか!?」

 

めぐみんが興奮しながら良い感じに食いついてくれました。しかし、これでは言い難い……。

 

「俺はゴーレム創生は出来ないからな。無機物操作は意外にセンスが必要。ついでにゴーレム造ってる暇あったら、魔法撃った方が早いし」

 

「では、スキルを修得してからアレンジを加えれば良いのではないでしょうか!」

 

確かにそれは良いかも知れない。今の俺はスキルポイントに余裕が無いので、おいおいやってみるのもありだろう。

 

こんな他愛のない話題を楽しみつつ、緩い雰囲気で過ごしていると、玄関の扉が開く音が聞こえてきたので、そちらへ向かうと、

 

「宅配便です。こちらにサインをお願いします」

 

「あ……、はい。お疲れ様です」

 

丁度、自分宛ての小包が届いたので、それを受取ってそのまま、

 

「ちょっとウィズの店に行ってくるよ。ついでに夕飯の買い物もするけど何がいい?」

 

「そうね……。カエルも良いけど、ここは魚料理がいいわ! シンプルに塩焼きとか!」

 

何気に食事に関しては、かなりの確率でリクエストしてくれるのはアクアである。こういった人がいると献立が立てやすい。こめっこがアクセルに滞在していた頃は、そちらが優先になってしまったが、その時はやはり大人だからか、それで納得してくれていた。

 

玄関で靴を履いてると、トテトテと可愛い足音を立てながら俺の元へと駆けよってきた一人の女の子――アルカンレィアから連れて来た例の娘である。

相変わらず、一言も発しはせず、表情もない。だが最近は、行動で自分の考えを示してくれるようになっていた。

 

「一緒に行きたいって感じじゃないな? 見送りか?」

 

「ええ! 今は私の宴会芸を見せていたところよ! この私の眼には、この子が楽しんでいるのがはっきりと映っているわ!」

 

アクア曰く、自分の芸を無表情のまま興味深い様子で見詰めていたらしい。それで、その場を動こうとはしないので、楽しんでいると判断したそうだ。

 

「ちょっと待て! 実家から新しい服を持ってきたのだ。今度はこれを着てみないか?」

 

ダクネスが見せていたのは、高級感溢れるフリルチュニックであった。一度、自分のお下がりを着せて以来、クセになってしまったらしい。色々な服を着せては満足そうに頷いている最近のララティーナお嬢様であった。

 

「あなたも紅魔族のようなものです。紅魔族について、この私が一から教えてあげます!」

 

こめっこがいるめぐみんにとっては、新しい妹のような存在なのだろう。紅魔族の歴史や格好良さについて、したり顔で教授するのが楽しいようだ。

 

「早く帰って来いよ。お前の姿が見えないと、あちこち探し回ろうとするから」

 

カズマもあの娘の行動は逐一見てくれているらしい。サキュバス騒動以来、”お前よりおっかないのは、そうそういない。”なんて言って、構ってくれているようだ。

ここに連れて来た頃は、みんな腫物を触るような感じだったが、現在では我がパーティーの小さなアイドルとなっているので、一安心である。

 

「じゃあ行ってきます」

 

嬉しさから思わず足取りが軽くなってしまい、街中を歩いている最中に知り合いから随分と機嫌が良いとからかわれたりもしたが、今日に限っては怒る気にはならない。

もう馴染みとなっているウィズ魔道具店に入店し、

 

「すいませーん! カートリッジくださーい!」

 

「へいらっしゃい! 先日我輩に大敗を喫したへっぽこ魔道士よ。魔道具の買い付けであるか? ならばセットで耐熱性に優れたフライパンでも買ってくれぬか? このフライパン、どれだけの高熱でも歪みはせぬが、その代わりどれだけ熱を加えても熱くならぬ面白商品である」

 

それはもう耐熱性じゃなくて、欠陥商品という物だ。

 

「俺はお前に負けたんじゃない。多彩なスキルを持つカズマに負けたんだ。あいつの体を乗っ取ってた幸運を、神様とやらに感謝するんだな」

 

「我輩が神に感謝? フハハハハハ! 縁起でもないな。最近、神といえば穀潰し女神とニート神など、まともな神を見た覚えがない」

 

「嫌だなあバニルさんってば。この場で仮面拘束して、これから毎日一日一バニル討伐でもしてやろうか? ついでに、てめえの体の土は作物の肥料にでもして再利用してやる」

 

「おお……! ならば育った作物はバニル印の野菜と銘打って、この店で売り出すとしよう。何せ我輩の溢れる魔力で育った作物だ。食せば経験値獲得や魔力回復の恩恵があろう」

 

本当に口の減らない野郎である。用事だけ済ませて、さっさと帰宅しようとしたのだが、

 

「ユウさん……、あの、もしかして私に気付いてませんか?」

 

「最初っから気付いてるけど? カウンターの裏にいるから、バイトでも始めたのかと思って」

 

なぜか最近はウィズ魔道具店にいる事が多いゆんゆんである。屋敷にも来るには来るが、どことなくよしそよしい。あの娘に慣れていないせいだろうか?

 

「私は……その、ウィズさんとバニルさんに相談があって……」

 

「ウィズはともかく、バニルなんざ期待させるだけさせて、どん底に突き落とされるぞ? 相談なら俺も乗るから――」

 

「いっ……いえ!? 大丈夫ですから! というか、その……」

 

……俺には言い難い話しだろうか? まあ、大人で同じ女性のウィズの方が話しやすい場合もあるのかもしれない。

 

「そういえばウィズは?」

 

「腹ペコ店主であれば、最近、我輩が目の前で食事をすると恨めしそうに眺めていてな。食事時になると辛くなるなどと言って、外出する機会が増えておるのだ」

 

……赤字出してしまって、節約して我慢してる時にそんなのやられたら、泣きたくなるわ!

 

呆れながらも商品を受取り、食材の買い出しでも……と思い、店の入り口のドアの取っ手を掴んだところで、

 

「……小僧、先ほど我輩を”期待させるだけさせて、どん底に突き落とす”と言っておったが、貴様はどうなのだ?」

 

「……何を言ってる? なんて言わないが、お前に文句つけられる筋合いはない」

 

一瞬、緊張感が走る店内。その場のゆんゆんも、冷や汗を垂らしながら唾を飲み込んでいる。

 

「貴様なら気付いていよう。あの小娘が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。アレは全てを覚えておるぞ? そして、むしろ今が夢の中にいるようなものだろう」

 

バニルの言葉は、いつものからかいではなく、俺に対して問いかけるような気配であり、続けて、

 

「現実で夢を見せるなど、貴様はある意味サキュバス共よりもタチが悪い。その一方で貴様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「あのお姉さん(魔王の娘)にも啖呵切っちまったからな。その時はその時さ」

 

何を思ってかは分からないが、俺の最近の行動を見通していたらしい。確か未来は見難いとか言ってたが、過去なら分かるのだろうか?

 

「じゃあな、カートリッジ無くなったらまた来る」

 

ドアを開け、カランカランと鈴の音が鳴る中、今度は食材調達のために商業地へと赴いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……、不器用な男だ。あれほどの力を持ちながら……、いや、持っておるからこそ、それでできる限界を知っている……か」

 

「……? バニルさん、ユウさんが何をしようとしてるかが分かるんですか?」

 

「ふむ、最近影の薄いネタ種族よ。今の小僧であれば、甲斐甲斐しく面倒を見れば落とすのは容易(たやす)いぞ? 自身の矛盾も全て承知で動いておる。そこを支えてやればコロっと行くであろう」

 

それを聞いて顔を真っ赤にしながら。

 

「バ、ババ、バニルさん!? いきなり何を言って……!?」

 

「店主に相談とはそれであったのだろう? 決断なら早めにするがいい。何せ貴様の場合、父親がもうその気になっておる」

 

自分の父親――紅魔族の族長が何かを画策していたのだろうか? そう考えたゆんゆんであった。

 

「小僧は伝えてはいないようだが、紅魔の里からアルカンレティアに向かう前に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このアクセル、海沿いではないというのに結構新鮮な魚が手に入る。塩焼きなので、刺身ほど鮮度に拘らなくても良いが、それでも新鮮な魚を購入できるのは日本人的には嬉しい限りである。

秋に食べた秋刀魚の場合、畑に生えてたりするが、そこは気にしてはいけない。畑にあろうが秋刀魚は秋刀魚。塩焼きでも蒲焼でも竜田揚げでもうまかったのだ。

巨大なムカデとかアメーバとか竜とかいる世界だってあるんだ。畑で魚が取れたって、不思議に思っちゃいけないんだ!

 

自分の中に生じた疑問を打ち消すかのように、首をブンブン横に振りながら歩いていると、とある建物が見えてしまい思わず立ち止まってしまう。

 

「……ガラでもないな」

 

さっきのバニルとの会話が、心の片隅で気になっているのだろうか? 普段なら気にもならないはずなのに教会を見て、立ち寄ってみようと思っていたところ、

 

「オラッ! エリス教徒めとっとと出て来い! 私が大事に取っておいた、ところてんスライム返せ!」

 

アクシズ教団アクセル支部長のそれはそれはアグレッシブなシスターが、目の前のエリス教会に殴り込みをかけていましたよ。

 

……ここは見なかったことにして、退散しよう。

 

物陰に隠れるために、足音を立てずに通り過ぎようと出来るだけ静かに歩いていたが、

 

「ああっ……! 私の前を素通りなんて!? ところで、アルカンレティアから連れて来た娘は元気ですか?」

 

「はい。とても元気です。ダイジョウブデス。モンダイアリマセン」

 

後半、棒読みの早口になってしまたが、この人とは関わってはいけないと自身の勘が訴えている。

 

「最近の様子はどうですか? あの娘も私好みのロリっ娘ですし、顔を見に行ってもよろしいでしょうか?」

 

「みんな可愛がってますよ。特にダクネスなんて、自分のお下がり持って来て着替えさせるのが日課になってます」

 

それを聞いたセシリーさん、何故か強張った表情で固まってしまい、

 

「おのれ! 邪悪なるエリス教徒! あんな可憐で可愛らしい娘を着せ替え人形にしているとは、許すまじ! ロリっ娘のお着替えなんて、夢にまで見ているというのに……!」

 

こんなのを街頭の中、大声で叫んでいる辺り、アクシズ教徒ってのは恐ろしい……。

 

「私も子供用の服を持って屋敷にお邪魔してもよろしいですか? そういえば、めぐみんさんも住んでいますし、ゆんゆんさんもよく屋敷に行っているとか。そしてアクア様も一緒となれば、私にとってはパラダイスではないですか!」

 

この人は出入り禁止にした方が良いかも知れない。

 

俺とセシリーさんの痛い会話を窓からエリス教会のシスターがジッと睨んでいた。おそらく、というか絶対アクシズ教会の関係者だと思われてる。これでは教会に入れない。

 

「お、俺はもう失礼しますね? ではこれでー――」

 

何もかもなかったことにして、その場をそそくさと立ち去ろうとしたのだが、

 

「教会に御用ですか? それでしたら、パッド教教会ではなく我がアクシズ教会へどうぞ。アクア様への祈りから懺悔、お布施や美人シスターとの縁談までより取り見取りですよ!」

 

後半は絶対自分の欲望だろ! ゼスタさんもだが、どうしてこうおかしな方向の攻撃力が高いんだ!?

 

もう肩をガシッと掴まれてしまい、半ば無理矢理アクシズ教会へ引き込まれてしまったのであった。

 

「ええっと……。せっ……せっかくなので、祈りを捧げて良いですか?」

 

「ええ、どうぞ! 女神アクア様はその祈りを聞き届けてくださいます!」

 

少々引きつつも手を合わせ、女神アクアの像の前に跪き静かに祈りを捧げていると、

 

「ユウさん……、ついにアクシズ教徒になる決心がついたのね! 私はちゃんと分かっていたわ! あなたはアクシズ教徒になるべくしてなる人だって」

 

何故かは知らないがアクアを連れたカズマまで、アクシズ教会を訪れていたのであった。

 

「……勘違いしないで欲しい。俺だって神様に祈りたい時くらいはあるし、日本人は宗教観なんて割と適当だから、道端の教会で良かったのをここに引き込まれたんだ」

 

悩んでいたのを否定はしないが、本来神頼みなんてのは自分らしくない行為なのだ。

 

「ところで何で二人共ここに?」

 

「お前の帰りが遅いから探していたら、アクシズ教会に入って行くのが見えてさ。またとんでもない目に遭ってるんじゃないかと」

 

セシリーさんと会話するだけで、疲れがドッと出た様な気がするが、それをとんでもない目と言って良いのだろうか?

 

俺がアクシズ教会で祈りを捧げていたのが相当嬉しいらしいアクアは、ニコニコしてこちらの顔を見ていたのであった。もしかして、女神と信じてくれたとでも思っているのかもしれない。つい、

 

「なあ……。アクアはさ、人の救いって何だと思う?」

 

「またわけ分からない事を言い出したな? アクアにそんな質問答えられるわけないだろ……」

 

その質問にカズマは呆れたようにしながら、俺を見ていたが、

 

「また変な事で悩んでるの? 前にも言ったでしょ。楽ちんな方を選びなさいって! あなたの事だから、どっち道大変なのかもしれないから好きな方を選びなさい」

 

前に相談に乗って貰った事があったっけ? そんなの言われた覚えがある様な、無い様な……。

 

「大体ね、過去は変えようが無いし、未来がどうなるかなんて神様だって分からないの。だったら、下手に我慢なんてしないで今の確かな時を全力で、精一杯生きて行きなさい。それが例え普通の人から見ておかしな事だったとしても、自分で選んで進んだ道なら価値があるかもしれないわよ。あっ……! でもね、犯罪はしちゃ駄目よ!」

 

何も考えていないで様で、凄まじく深いセリフを言っているアクアであった。

 

「あのさ……、もし……とんでもない罪を背負った人を、それでも助けたいって言うのは我儘かな……?」

 

「さっきも言ったでしょう? 好きにしなさいって。自分で考えて悩み抜いて、それで出した結論なら誰が何と言うと、あなただって引かないでしょ。それが大変な道でも楽な道でもね。まあ、後悔はするかもしれないけど」

 

……頭の中の(もや)が晴れたとまでは行かないが、結構楽になった気がする。アクアに向けて、

 

「アクアは本当に女神様かも。ありがとう」

 

たった一言だけのお礼だった。それだけであったのだが。

 

「カ、カズマさん!? 今の聞いた? ユウさん、ついに私を女神って認めたわよ! やっぱり分かるのね? この私の溢れ出る威厳と神々しさと美貌と可愛らしさだもの。認めて当然よね!」

 

……かもしれないって言っただけなのに、何てはしゃぎ様だろう? 最後のセリフさえなければ、しばらく女神様って呼んでも良いくらいなのに……。

 

「頼むからアクシズ教徒にならないでくれ。お前がエリス教徒殲滅しだしたらシャレにならねー」

 

カズマが俺の両肩を力強く掴み、精一杯の説得をしていたが、元々そんなのは無いので心配しないで欲しい。いつもの通りとはいえ、ドタバタな日となってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、朝早くから起きて、弁当の準備をしていたのであった。その理由は、

 

「ピクニック?」

 

「もうすぐこの娘のお迎えが来るのでしょう? ちょっとした思い出作りです」

 

めぐみんからの唐突な提案であった。何だかんだで、お別れするのは寂しいのだろう。もう会えないといった訳ではないが、そんなのも悪くないかと思い、みんなに確認したところ二つ返事で決定となったのであった。

 

「……魔王城の前で弁当食べて、その後で城に向かって爆裂撃つとかじゃ無ければ良いけど?」

 

「そ、それはそれでやってみたいですが、今回は本当に普通のピクニックです!」

 

やってみたいのかよ。そんなだから騒音種族とか言われるってのに。もしかして、ベルディアが住み着いてた城に毎日爆裂撃ってたのって、密かに魔王城ピクニックで魔法撃ってたのが羨ましかったんだろうか?

 

そんなこんなで、包丁片手にエプロンを着こみ、せっせと調理をしていたのだが……、

 

「……ユウさん、いつも思うんですけど女子力高すぎない? 料理もそうだし、掃除だって上手だし近所付き合いもちゃんとやってるわよ?」

 

「この程度、やってれば誰だって出来る様になるっての!」

 

アクアは極稀に大人の女性っぽい感じになる時はあるが、基本的に自堕落だしなあ……。

 

「お前って、女の子だったら男がほっとかないタイプだろ。ってかエプロン姿がここまで似合ってる時点でおかしい」

 

「カズマ、スキルポイント余ってるなら、そのうち料理スキルでも取ってくれ。それで俺は軽く超えられる」

 

俺のは基本的に家庭の味。料理スキルならプロの料理人並になる筈だ。どっちが上とかは無いだろうが、おいしい食事はそれだけで元気になれるのであっても良いかもしれない。

 

こんな雑談をしながら、準備を終えてピクニックへと出発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはアクセルから遠く離れた草原。春から夏へ変わる境目であり、幸い天気も晴れで気温も丁度いい。食事の後でも昼寝したいくらいのぽかぽか陽気の中、地面に茣蓙(ござ)を敷き、弁当を楽しんでいたが、

 

「……何で離れてくれないのかなあ?」

 

歓迎会の時と同じように、またまた俺の膝の上に座り、俺の胴体を背もたれ代わりにしながら弁当をパクパクと食べている女の子であった。

 

「昨日の帰りが遅かったからではないでしょうか? 私やダクネスも構ってはいましたが、その間もきょろきょろ辺りを見回していましたし」

 

アクシズ教会に引きずり込まれたのが仇になったか。この娘を引き渡す時には、どう説得しよう……。

 

「あら? この娘、どこかのマイナーな神に掛けられた戒めが外れかけてるわね? 最近、行動で自分の気持ちを表現してるからおかしいと思ってたけど」

 

アクアの何気ない一言。それを聞いて一気に緊張が走ってしまったのであった。それは俺以外も同じであるらしく、全員身構えてしまっていた。

 

「大丈夫よ。これだったら、私が掛け直しておくわ。封印だけを強化しておくから、今までみたいに自分で考えて行動はできるわ」

 

つまりは、今の状態のまま昔かけられたらしい物を強化するってことだ。なら大丈夫かと俺の膝に座らせたまま、アクアが何やら呟いてはいたが、それがピタッと止り、申し訳なさそうに、

 

「……あ、あのね? 落ち着いて聞いてね? 間違ってこの娘の戒めを消し飛ばしちゃった。てへっ!」

 

……てへっ! じゃねえ! ウォルバクさんが言うには暴走しない様にしたものらしいじゃねーか! それが無くなったって事は……!

 

俺達全員の顔が青ざめる中、アクアとカズマはアタフタ、ダクネスはめぐみんとゆんゆんの前に立って、攻撃から庇おうとしている。当の俺は、女の子を膝の上に乗せたまま、バインドを発動させようと――

 

「……あ、あの?」

 

それは初めて聞く声であった。紛れもなく、膝の上に乗せている娘から発せられている。周りを見渡しながら、おずおずとした雰囲気でさらに、ぺこりと頭を下げながら、

 

「その……、こんにちは……」

 

それはあまりにも意外な言葉であった。挨拶は大事だ。それは分かる。ではなくて、女の子は魔法を使う気配もなく、困ったような感じでこちらを見ている。それは俺達も同じで、どうしていいか分からなくなってしまったのだった。

 

「……ええっと? とりあえず、さっき言った通り、離れて貰って良いかな? というか、何もしないよね?」

 

「えっ……? お兄ちゃんは、わたしと一緒は嫌ですか? 昨日はあまり構ってくれなかったから……」

 

いきなり”お兄ちゃん”呼びをされてしまった……だと!? ってかそんな泣きそうな目で見ないでくれ!

 

「何でお兄ちゃん?」

 

「だって……、お店で占ってもらった時に、お兄ちゃんか兄上様って呼ばれたいって……。ダメ……ですか?」

 

あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ! ロリっ娘を膝の上に乗せていたと思ったら、お兄ちゃんと呼ばれていた。な、何言ってるか分からねーと思うが、俺も何をされたか分からなかった。幻術だとか淫夢だとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ! もっと素晴らしいものの片鱗を……。

 

「もちろん良いに決まってるだろ! むしろ語尾に音符かハートマークを付ける感じで呼んで欲しい」

 

((((駄目だ。この男、早く何とかしないと……!))))

 

俺と女の子以外の全員の意見が一致したような視線を向けていたが、カズマから、

 

「それよりも大丈夫なのか? 昔に掛けてた戒めってのが解けたんだろ?」

 

「確かにおかしい。そのはずなのに、襲い掛かってくる気配は無いし、魔力だって掻き集めたりはしてないし、何より……」

 

女の子を膝の上に乗せたまま、真面目な顔して警戒しながら分析し、頭を撫ででいるという、ある意味シュールに見える光景ではあるが、続けて、

 

「カズマ! やっぱりお兄ちゃんって呼ばれるのはいいな! お父さんなんて俺には早――」

 

ゴチンッ!

 

めぐみんの杖による会心の一撃。それは俺の脳天から衝撃が突き抜けて、頭にはたんこぶが出来てしまったのであった。

 

「いたいよう……」

 

「バカな事を言ってないで、本当に問題ないのかを検証してください!」

 

めぐみんさん、その紅い眼を輝かせているので、かなりお怒りの様子である。よく見るとゆんゆんさんも同じく眼が輝いているので、おそらく、絶対、確実に、どう考えても怒っていらっしゃる。それを気にしてか。

 

「お姉ちゃん! 乱暴はだめだよ! 仲良くして」

 

女の子が止めに入ってくれました。当のめぐみんは納得いかないといった感じだったが、杖は引いてくれていた。

 

「ところで、君は……今までの、というか、昔、ウォルバクさんと戦ったのは覚えてる?」

 

それに、コクリと頷く女の子であった。どことなく、怯えた感じにはなってしまたが。

 

「じゃあ、何で今は普通にしてるかは分かる?」

 

「その……わたしも何でああなったのかが、よく分からなくて……。気が付いた時には、あの二人と戦ってて、周りは……」

 

「それ以上は言わなくていいよ。うん」

 

受け答えもはっきりしているし、本当に当時の状況をよく覚えている。子供とはいえ紅魔族の大本だけあって、知力自体も高い。この娘の場合、それ以前の話だろうが。

 

「とりあえず、問題は無いと思う。暴走……というか、こうやってても魔法を発動する気配すらないし、本人も好戦的ってわけじゃない」

 

それで安心していたカズマ達であった。

 

「アクアが何かしたわけじゃないよな?」

 

「当たり前でしょ! 何だったのよ? 魔力が物凄く多い以外は普通の娘じゃない。暴走とか、あの邪神のホラじゃないの?」

 

それは無いと思いたい。そこら辺は、またウォルバクさんに色々事情聴取が必要だろう。

 

「ともあれ、何も無いのなら良かったではないか。こうして普通に話せるようになったのだ。ところで私の着せていた服はどうだった?」

 

そんな話をしながら、平和な時間を過ごしていたのだが、

 

「そういえば気になっていたのですが、その腕輪は何ですか?」

 

この娘を最初に着替えさせた時に目に付いた腕輪だ。かなり凝った装飾だったので、ダクネスが持って来て、着けさせていたとばかり思っていたのだが、話を聞くと最初から腕に嵌められていたらしい。もう少し、ちゃんと見てみたかったので外そうとしたのだが、

 

「外せないな? ってか継ぎ目とか見当たらないんだけど……」

 

頭を捻りながら、腕輪を外そうと頑張っていると、

 

「貸してみなさいな。こんなのはね、アルカンレティアの石鹸とか、台所の油とか使うと抜けやすいんじゃ……。これ何かしら?」

 

アクアが何やら見つけたらしい。それはスイッチの様な外見で、なにやら硬くなっていたらしい。それをアクアは自身の類まれなるステータスに任せて押してみる。すると、

 

『周囲に高魔力反応確認。自動迎撃モードへと移行します』

 

その腕輪から機械的な音声が発せられていた。それと共に、女の子の眼も人形の様に虚ろになり、空気中の魔力素が、その娘へ取り込まれていったのだった。

 

「みんな! 離れろ!」

 

俺の叫び声で、一斉に女の子から距離を取ると、

 

「……『カースド・ライトニング』」

 

黒い雷で相手を攻撃する上級魔法。それだけならば防ぐのは容易い。だがその威力、効果範囲が異常だった。上級魔法はゆんゆんや紅魔の里で何度も目にしているはずなのに、完全に打ち消すことが叶わなかった。

 

「ちょ……!? 何よあれ!? いきなりどうしたのよ!!」

 

「アクア、あの腕輪に見覚えは?」

 

「無いわよ! 特典に無限の魔力を引き出せる杖はあった気がするけど、あれは腕輪だし……」

 

眼を凝らすと、大気中の魔力が腕輪から吸収されているのが分かる。というか、あの腕輪が言わば首輪替わりって事か……!

 

「『クリエイト・アースゴーレム』」

 

今度はカズマも使っていたゴーレムを造り出す魔法だ。これも一体だけだというのに、先日とは比べ物にならない巨大なゴーレムが出来上がっていた。

カズマもすかさずゴーレムを造り出し応戦したが、元々の魔力量の違いか、どうにか女の子のゴーレムを抑えるので精一杯となっていた。

 

「『チェーンバインド』ッ!」

 

こちらも手加減無しのバインドでゴーレムの動きを封じ、ゆんゆんの上級魔法でそれを撃退したが、

 

「……『トルネード』」

 

自身のゴーレムの動きを止められた事で、警戒されたのだろう。俺に向かって風の上級魔法を放ってきた。自分の周囲に竜巻が発生する前に離脱したものの、それでも常軌を逸した威力で吹っ飛ばされてしまう。その最中、

 

「ゆんゆん!」

 

名前を呼んだだけだが、目を合わせた瞬間にお互いの意思疎通をし、

 

「『フリーズバインド』ッ!」

 

「『ブレイズバインド』ッ!」

 

俺とゆんゆんの二人が、それぞれ動きを止めるための魔法を発動し、

 

「『ボトムレス・スワンプ』ッ!!」

 

「『ブレイズカノン』ッ!!」

 

ゆんゆんは泥沼の魔法を膝までの深さで発動し、女の子をその場に固定。俺は砲撃で昏倒させるのを目的として撃ったのだが、次の瞬間、信じられないものを目にしてしまった。

 

「……ラウンドシールド!? 何で!?」

 

女の子が使った魔法は、この世界の物ではない。間違いなくミッドチルダ式であった。そのシールドで俺の砲撃を防ぎ、バインドを解除した両手を先ほど攻撃した俺とゆんゆんに向け、

 

「『スティンガーブレイド』……」

 

飛翔型の魔力刃が襲い掛かって来たのであった。

 

まさか……、シールドも、魔力刃も一度見ただけで使用可能になったってのか!? だとしたらまずい! その理屈で言えば……。

 

その推論は最悪の形で的中してしまう。先ほどまで、一緒に団欒をしていた少女からは……、

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう」

 

その詠唱は、このパーティーにとっては馴染み深い魔法だった。

 

「覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ」

 

何とか詠唱を途中で阻止しようと攻撃を試みるが、その全てが悉く防がれてしまう。

 

「踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり」

 

ダクネスと俺以外は、その場から全力で立ち去ろうとしている。それは懸命な判断だ。

 

「万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ」

 

女の子の詠唱が完成し、その魔法が俺達に向かって放たれようとした、その時、

 

「……『エクスプロージョン』」

 

「『エクスプロ―ジョン』ッッ!!」

 

後方から、まったく同じ魔法が轟音を立ててあちらへ迫っていた。めぐみんの無詠唱の爆裂魔法である。二つの爆裂は互いに相殺し合い、これまで経験した事の無い衝撃波が周囲を駆け巡っていた。突風と土煙が舞い、視界を遮る中、

 

「めぐみん、早くカズマにおぶってもらって離脱しろ」

 

「……あ、あの娘は……?」

 

「さてな……。威力自体はかなり相殺したはずだが……」

 

双方、直撃とはいかないので生きてはいると思うが……。

 

めぐみんは咄嗟に爆裂を放ってしまったらしい。魔王軍でも野生のモンスターでもない、人間に向けて撃ってしまったのだ。心労から血の気が引いて、今にも倒れそうになっている。土煙が晴れてから相手を探すと。

 

「やっぱり、この程度じゃ止まらない……か」

 

結界の様なものを周囲に張り、何事も無かったかのように佇んでいるのだった。

 

……あれを使うか? いや、あの娘自体は魔力値が高いだけの普通の女の子だった。問題はあの腕輪の方……、おそらく、あの腕輪が魔力を集めるのと、あの娘の思考を操っていると考えられる。だったら……、

 

「カズマ、スティールであの腕輪を奪えないか?」

 

「もっと近くに行かないと無理だ。その前にあの魔法でやられるだろ!」

 

それもそうだ。しかもカズマの場合、女性相手のスティールは高確率でぱんつを奪う。その上あっちは爆裂を撃ったってのに、まだ余裕で戦闘できそうだから恐れ入る。

 

俺もあちらを見据えつつ、フルドライブを使用しようとしたところ、

 

「あっ……!? ああっ……!?」

 

意識を取り戻したらしい女の子であった。周囲の状況を見て、怯えながら今にも泣き出しそうになっている。

 

「大丈夫……。誰も死んじゃないないし、怪我も大したことは無いから」

 

ゆっくりと警戒しながら、あちらへ近づき安心させようとしたのだが、女の子も後退ってしまっていた。自分のやってしまった事を理解しているのだろう。

 

「怖がらなくていい。俺はその程度じゃくたばるように出来てないし、ダクネスなんてもっと硬い。だからこっちに来て。か――」

 

それを言い切る前に、

 

「『テレポート』ッ!」

 

あの娘がどこかへ消えてしまっていた。テレポートは本人がやったものではなく、

 

「ウォルバクさんとお姉さん(魔王の娘)……。何のつもりですか?」

 

「そんなに怖い顔しないで欲しいわ。私もあの娘の様子が気になったから、遥々魔王城から来たのよ? けど……」

 

それ以上は口にはしなかった。あちらとしてもこうなっては欲しくは無かったのだろう。姿を消す魔法に潜伏スキル、その状態であの娘に近づいて、テレポートで飛ばしたらしい。

 

「……ウォルバクさん、テレポートでどこに飛ばしたんですか? もしかしたら、火口にでも……」

 

「私が転移先に登録しているのは、魔王城、アクセルと、後は人がほとんど通らない荒野よ。もしまたあの娘と戦う事になった場合に被害が出ない様にするために……ね。火山に飛ばして、万が一あの娘の膨大な魔力で噴火なんてさせたらまずいでしょう?」

 

ここは感謝するべきところだろう。もしかしたら、近づいた拍子にまたあの腕輪が作動していた可能性がある。

 

「さて……、私の危惧した通りになったけど、自分で言ってた通りにケジメをつけるの? それとも私に任せる? どの道、私は魔王城に帰って対策を練らなきゃいけないから、もう行くわ」

 

そうして、お姉さんは転移を行い姿を消した。

俺達も先ほどの戦闘で消耗してしまっているので、一旦屋敷に帰り今後の行動について話し合うという事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の早朝、昨日の戦闘のせいか寝付けずに、ほぼ徹夜となってしまっためぐみんだったが、そろそろいつも朝食を用意する少年も起きて来るだろうと思い、リビングで座って待ってはいたものの一向に起きてくる気配が無い。

昨日の戦闘で疲れてしまい、起きれなくなっているのだろうか? そう考え、部屋まで様子を見に行くと、部屋の入口の扉には鍵がかかっていなかった。

 

「そこまで疲れていたのでしょうか?」

 

自分も爆裂を撃ち、体力と魔力を限界まで使ってはいるが、こうして普通に起きている。あの娘と戦う事になってしまって落ち込んでいるのだろうか……とも考えて、少しだけドアの隙間から部屋を覗くと、彼の姿は無くもぬけの殻となっていたのであった。

 

「カズマ、アクア、ダクネス! 大変です!!」

 

彼以外の部屋の扉を壊れるような勢いでノックし、泣きそうな顔でカズマ達を叩き起こして屋敷にいた全員で街中を探し回っていた。

 




例の女の子がミッド式を使えるのはサキュバス騒動で、主人公の魔法をその目で見ているからです。爆裂魔法は昔ウォルバク様と戦った時ですね。



ちょこっとだけViVid

「コロナちゃん。ゴライアスのロケットパンチをドリル付にしてみないか?」

「えっ……? ええっと……」

ホテルアルピーノ訓練合宿の夜。みんなで夕食をとって雑談していたのだが、

「やはり、ロケットパンチは良いものだ! 正に浪漫の塊! それにドリルが付けば、他に追随を許さないものになると思う!」

力説する俺に対して、どことなーく困ったような10歳女子であった。

「ドリルがあれば漢の浪漫が達成される! ゴーレムマイスターのコロナちゃんなら分かるだろう?」

その一言に、上を見ながらうーんと唸って、少女は……、

「わたし……、女の子なので……漢の浪漫は良く分かりません……」

こっ……これは盲点だった!? ゴーレムにばかり目が行っていた……か。

俺の目的が達成される日は、まだ遠いらしい。そう考えながら、この場は引くしかなかったのであった。
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