フーカ「この声は……グレートサイヤマン!」   作:ルシエド

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 メリークリスマス! クリスマスプレゼント投下!


彼らのその後の話はオミットされました

 ライ・ドローンは夢を見た。

 父の膝の上で、父に抱きしめられる夢だ。

 少年が五歳の頃の、幼い頃の記憶の夢だった。

 

「いいか、ライ。

 ゲームでも玩具でもいい。

 遊ぶなら、最後は笑顔で終わらせるんだ。

 勝負してもいい、喧嘩してもいい。でも最後には仲直りして、笑顔で終わらせるんだ」

 

 父親は、幼いライの前に玩具(おもちゃ)やゲームを並べていく。

 

「ホビーの漫画も、アニメも、そうだっただろう?

 悪い人が改心したり。悲しんでいる人が立ち直ったり。

 ぶつかり合って、オモチャで勝負して、最後には皆が笑顔で終わるんだ」

 

 父の教えを、父に抱きしめられ、父を見上げながら、ライは胸の奥に刻み込む。

 

「忘れるな。皆に笑顔を、だ」

 

 『ホビーは人を笑顔にする』と、ライの父は信じていた。

 

「負けたから悔しい。負けたから悲しい。負けたから恨む。

 そういう気持ちは分かるさ。でも、仕返ししようなんて気持ちを引きずるな。

 仕返しや復讐、やられたからやり返すっていう気持ちは、気持ちいい。だがそれだけなんだ」

 

 父はとても分かりやすく、復讐の虚しさを子に教える。

 復讐は何も産まないから、という理屈ではなく。

 復讐は気持ちいいがそれだけなんだ、という理屈を幼い子の心に染みさせていく。

 

「気持ちよく終わるなら、もっと気持ちのいい終わりを選べ。

 思いっきり遊べ。

 皆で一緒に遊べ。

 一緒に遊んで一緒に笑って、一緒に楽しい気持ちで終わる。その方がずっと楽しいぞ」

 

 『遊ぶ物こそが笑顔で終わる結末をもたらす』と、ライの父は信じていた。

 

「人は、人を許せないこともある。人のせいだと考えることもできる。

 だが人は、それに慣れてしまう。

 他人を傷付けることで歪んだ幸せを得ることを覚えてしまう。

 人を許さないこと、人のせいにすること、人を罵倒すること、人を見下すこと。

 そこに幸せを感じ、それをやめることができず、一生歪んだ幸せだけを追い求めてしまう」

 

 人は負の感情の発露と発散に幸せを感じるようになってしまうこともある。

 ライの父は、ライにそういう大人にはなってほしくなかった。

 正の感情の積み重ねと、そこに生まれる笑顔にこそ、幸せを感じる大人になってほしかった。

 

「そうなってはいけない。

 お前は、幸せに生きなさい。人を幸せにしなさい。

 誰かを幸せにすることで自分が幸せになる道を選ぶんだ。

 自分一人だけでなく、多くの人の幸せを、多くの人の気持ちよさを、多くの人の笑顔を―――」

 

 もう何年も見ていない、過去の記憶の夢だった。

 もう何年も見ていない、父親の笑顔の夢だった。

 もう何年も見ていない、父に心を貰う夢だった。

 

 貰った心は、まだ少年の胸の内に息づいている。

 

 

 

 

 

 フロンティアジム。

 ワールドランカーの選手やU19選手会長など、能力的に優れた選手・人格的にも優れた選手・実績ある選手を多数抱える、超大手ジムである。

 リンネはここに所属していた。

 ナカジマジム。

 こちらも小規模ながら、ワールドランカーやワールドチャンピオンを何人も抱えており、そのネームバリューから入門者が絶えない人気ジムだ。

 格闘技の才能を見込まれ、バイトスタッフ兼選手として、フーカはここに所属していた。

 

 本日は地球産のイベント、楽しい楽しいクリスマスイヴ。

 だというのに、フーカとリンネはガルルと相手を威嚇しながら、互いの額でぐりぐりと相手の額を押しやっていた。

 

「勝負!」

「勝負!」

 

(どうしてこうなった)

 

 ぶつかり合う二人を、ライはどこか冷めた目で見ていた。

 この件は、友人二人が格闘技を始めたことで、ライも格闘技に興味を持ったことから始まる。

 疑似家族フーカが出来て少しばかりほんわかした日々を送っていたライであったが、住み込みの仕事をナカジマジムでゲットしたフーカが出て行くと、ちょっとさみしくなってしまう。

 ライは寂しさにもある程度耐性があるが、その心根はさびしんぼだった。

 なので、友人と共通の話題、共通の生活習慣が欲しかったのだろう。

 

 それが、この争いを生み出してしまっていた。

 

「ナカジマジムの方がいいよ! フーちゃんが居るんだから」

 

「フロンティアジムの方がええじゃろ! リンネが居るんじゃぞ!」

 

「ナカジマジムは和気藹々としてるし!

 こういう時、一緒に頑張る相方としてはフーちゃんは凄いんだから!

 フーちゃんと一緒に居る方が楽しいよ! 私とは学校でも話せるし!

 うちは結構ガチガチにやってる人も多いから! そっちの方がまったりできるよ!」

 

「そっちは素人指導が得意なコーチも多い名門じゃろうが!

 お前がなんと言おうがワシはお前ら二人の時間を作るぞ!

 第一なんでワシがそんなに過大評価されとるんじゃ! そっちでやれそっちで!」

 

 リンネ視点、自分と一緒にあれこれ頑張るより、フーカと一緒にあれこれ頑張る時間の方が楽しいだろう、という認識がある。それはリンネからフーカに対する揺るぎない信頼と友情だ。

 そして、ライにより幸せな日々を送ってほしいという思いやりである。

 フーカからすれば、この二人をもっと近付けてやりたい。ライの想いを成就させてやりたい。そしてリンネの味方をリンネの傍に置いてやりたい。二人に対する友情と気遣いがそこにあった。

 二ヶ月以上、共に家族のように暮らした彼の幸せを、彼女もまた願っている。

 

「フロンティアジムの方がいいじゃろとワシは言っとんじゃ! なあライ!」

 

「ナカジマジムの方がいいって言ってるでしょ! ねえライ君」

 

「いや、僕は別にどっちでも」

 

「はっきりしてよ!」

「はっきりせんかい!」

 

「だからコイントスで決めていいレベルにどっちでもいいっつってんだろ」

 

 やや半ギレ。この二人の喧嘩のような喧嘩じゃないぶつかり合いにもう30分以上付き合わされているライは、吐き捨てるように言った。

 今では、軽い気持ちで格闘技やりたいと思ったことを少し後悔してすらいる。

 そんなライの様子に、二人は気付いてもいないようだ。

 

「だいたいフーちゃんも! この前は

 『ちょっと変身魔法で姿と声変えてただけじゃろ。

  グレートサイヤマンとかほどなく気付いていたわ。

  いやいや、あれで気付かんのはリンネくらいじゃからな』

 とかなんとか言って! 私だって……ほら……あれなんだよ!」

 

「もっとちゃんと言葉にせんかい!」

 

 互いに対する理解、気安さ、遠慮の無さが、それはもう変な感じの口喧嘩を成立させる。

 

「リンネだってなあ、もっと自分が恵まれてることを自覚せんか!

 分かっとるんじゃぞ! その目を見れば分かる!

 『ライ君は私のことずっと好きで居てくれるよね』

 とクッソ重い信頼と、油断慢心増長混じりの確信を持っとる目じゃ!

 人の心が永遠に変わらんと思うなよ! 言うべき時に言うことはちゃんと言わんか!」

 

「べ、べべべべべべべつにそんなこと思ってないし!」

 

 なんだろうか、この。

 二人で背中合わせになって、それぞれが鏡を見て、互いに対し鋭い言葉をぶつけながら、鏡の中の自分を殴り続けているかのような口喧嘩は。

 

「だいたい私知ってるんだから!

 フーちゃんがここ数ヶ月一番素の話し方で話してるのライ君でしょ!

 ジムでは年下に敬語使って! 年上の会長や師匠にも敬語使って!

 素の話し方で話せる相手がほとんど居ないってこと、私知ってるからね!

 だからライ君が自分のジムに来てくれたら嬉しいなーとかちょっとは思ってるでしょ!」

 

「ぐああっ!」

 

 優しさとは、思いやりとは、相手の中に深く踏み込まないことではない。

 相手の中に踏み込まないのは、どうでもいい他人と外面を取り繕って話し合う関係に近い、自分も相手も傷付けないための消極的な在り方でしか無い。それは優しさでも思いやりでもないのだ。

 優しさとは、相手に触れること。

 思いやりとは、相手の痛みを知ろうとすること。

 たとえ、相手の傷に触れてしまうとしても触れ続け、相手に暖かさを伝え続ける。

 それが優しさであり、思いやりだ。

 

 フーカには生まれつき、それができる。

 フーカから多くを学んだリンネも、今はそれができる。

 

「お、お前だって……自分のとこに来てくれたら嬉しいとかは思っとるじゃろ!

 第一なんじゃその人任せは! お前は基本的に他人の変化や行動待ちじゃ!

 友達になったのもライの言葉から、告白されたのもライからじゃろが!

 それでたまに自分から強く主張したらこれか!

 自分を好きになってくれる人が好きなだけの、甘えん坊のくせに、変な気を使うな!」

 

「はぐぁっ!」

 

 ここに居たくないなあ、とライは一旦席を外して、自動販売機で三人分の飲み物を買う。

 

「えーと二人が好きな飲み物は、と」

 

 そして、時間を置かずに戻ったライに、二人は声を揃えてこう言った。

 

「試合で決着をつけることになりました」

「ワシの拳とリンネの拳、勝った方が正しいんじゃ。分かるな?」

 

「ごめん、なんでそうなったの?」

 

 これが後に友人間で語られる、第一次フーカカロットVSベジタネッタ戦争の開幕であった。

 

 

 

 

 

 ライが戻ってきた時には既に、ナカジマジムでリンネとフーカがライの所属ジムをかけて試合をする、という話が関係各所に通ってしまっていた。

 ナカジマジムとフロンティアジムの人達まで面白半分に見に来るらしい。

 

 片や、魔法格闘技界の常識を破壊したと言われるゴリラ、ゴリラネッタ。

 そのパワーたるや、既にゴリラを超えてゴジラの域にある。

 片や、そのゴリラを超える才覚を秘めた異常骨格の天才児、クマのフーさん。

 魔力・センス・才能・骨格全てが異常に強力で、その力量は既にリンネに比肩している。

 即ち、この戦いは怪獣大決戦になるということだ。

 

 勝っても勝った方が得しないというのが、実にどこかよじれた感じがする。

 

「どうしてこうなった」

 

 景品のライは、既にリング近くの席に座らされている。

 リングにはもうリンネとフーカが上がっていて、ヴィクトーリア・ダールグリュンなる人と、アインハルト・ストラトスなる人も既にセコンドに付いていた。

 ジムの外からわいわいと子供や若いコーチが入って来て、そのたびにライは居心地の悪さ、微妙ないたたまれなさを感じてしまう。

 時間に厳しそうなフロンティアジムのコーチ、ジル・ストーラが先に来て、それから少し遅れて忙しそうにしているナカジマジムの会長が来た。

 

「会長会長! もう始まっちゃいますよ!」

 

「分かってる分かってるって! だから押さないで!」

 

 顔を横に向け、ライは会長の方を見る。

 そこには、会長に群がる子供達――ワールドランカー含む――と、会長である赤い髪の女性が居て。その女性を見た瞬間、ライは息を飲んでしまって。

 

「―――」

 

 もしも今、ライが座っておらず立っていたなら、崩れ落ちていたであろう衝撃が、ライの心と全身を襲う。

 

 管理局員であった父と母が死んだ日。

 ただの子供だった妹が死んだ日。

 

 ライが、あの日の街で一度だけ通り過ぎるのを見た、赤い髪の戦闘機人が―――そこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと向こうは忘れてる。

 でも、僕は忘れていない。

 一人ぼっちで焼ける街を歩く僕は、空を見上げた。

 そこには、空を駆ける一人の戦闘機人が居て、僕と目が合った。

 戦闘機人は僕を憐れむような目をして、僕を見なかったことにして、どこかへと走り去る。

 あの日のことを、僕は忘れない。

 その日の終わりに、僕は家族の死を知ったのだから。

 

 ナカジマジムの会長は、あの時僕と目が合った赤い髪の戦闘機人だ。

 

 怒りも、憎しみも、恨みもないと思っていた。

 あの二ヶ月の悲しみで、もうそんな感情は感じないと思ってた。

 だというのに、僕の胸の奥には、とても小さいけれど、そういう気持ちが蘇っていた。

 

 僕は何かを言おうとしている。

 会長であるノーヴェ・ナカジマを見て、何かを言おうとしている。

 自分でも何を言おうとしているのか分からない。

 けれども確かに、何かを言おうとしていた。

 なのに、赤い髪のその人が笑っていて、その人が周りの子供達を笑顔にしているのを見ていたら……不思議と、その気持ちは消えていった。

 笑顔を見ていたら、僕は言おうとしていたはずのことを、見失ってしまっていた。

 

 こんなだから、僕は喋るのが下手くそだと言われるんだろうか。

 

 あの日、僕を泣かせた人達の一人が、誰かを笑顔にできる人間になっている。

 誰かを今、笑顔にしている。

 不思議な感覚だった。

 

 あの日からずっと、ずっと、気にかかっていた。

 時々、思ってしまっていた。

 僕の家族の死は、無駄だったんじゃないかと。悪人は改心しないまま笑って終わり、死者は死者のまま蘇ることもなく、世界にはマイナスしか生まれなかったんじゃないかと。

 あの日にはマイナスしか生まれてなくて、何も救いがなく、ただの悲劇だったんじゃないかと、僕は時々思ってしまっていた。

 

 でももし。

 あの日に何か、プラスの何かが生まれていたら。

 管理局員だった僕の父や母、他人のために動いた妹は、無駄に死んだわけでも、無価値に死んだわけでもないんじゃないかと、今の僕は思っていた。

 なんでそう思うんだろう。

 でも、そう思えるんだから仕方ない。

 

 想い出の中に、空に浮かぶ聖王のゆりかごと、赤い髪の戦闘機人が見える。

 

 僕の視界の中に、ノーヴェさんがヴィヴィオという子の頭を撫で、笑い合っているのが見える。

 

 あの日、救われた者がいるのなら。

 あの日、正道に戻れた者が居るのなら。

 それだけで、何か救われた気がした。

 『あの日の事件は悪人が価値あるものを壊しただけの救いのない悲劇』という僕の中の認識が、少しづつ、少しづつ、崩れていく。

 だからこそ、何か救われた気がした。

 

 リングの上で、リンネさんとフーカが僕の方に手を振っている。

 僕も無言で、手を振り返した。

 フーカが僕をここに連れて来てくれた。

 リンネさんが、そのフーカと僕を引き合わせてくれた。

 

 何故僕は、許す勇気を出せたんだろう。今まで出せもしなかったのに。

 そんなことを考えて、僕はすぐに気が付いた。

 父が僕に残してくれたものを、何よりも大切だった父の遺品を、リンネさんが壊した時だ。

 僕はリンネさんを許した。

 リンネさんだから許した。

 彼女が特別だったから許した。

 他の誰かだったら許してなかったかもしれない。でも、僕が許したことには変わりない。

 

 『僕の大切なものを壊した人を許す』というハードルを、僕はとっくに越えていた。

 

 リンネさんのおかげで、僕はとっくに変わっていた。

 今日まで恨んでさえ居なかった人だけど、家族の仇にカテゴライズされてしまうかもしれない人を、こうして恨まないでいられるくらいには。

 

 僕が誰かを許せることを、リンネさんが教えてくれた。

 僕にも勇気があることを、フーカが教えてくれた。

 だから、大丈夫。

 恨んでないって、怒ってないって、憎んでないって、僕はあの人に言ってあげられる。

 今日か未来か、それは分からないけど、僕はあの人と手を取り合える。

 あの、赤い髪のあの人と。

 

「お、君がライ・ドローン君か、初めまして」

 

 ノーヴェさんが、話しかけてくる。

 

「今日は災難だったね。初めまして、ノーヴェ・ナカジマです」

 

「いえ」

 

「どっちが勝っても、どっちのジムに所属することになっても。

 まあ、仲良くしてくれると嬉しいかな。フーカとか、私達とかともさ」

 

 彼女は笑顔で。

 彼女が引き連れた子供達も、このジムの人達も、皆笑顔で。

 

「はい。僕も、仲良く出来たら嬉しいって、思います」

 

 だから僕も、めいっぱいの笑顔を見せた。

 

 これが終わったら、どんな風にこの人達と接しようか、考える。

 僕の足元のバッグには、色々と遊び道具が詰めてある。フーカやリンネさんのリクエストだ。

 その中には"友情破壊ゲーム"の異名で知られるドカポンもある。

 使うつもりはなかった。

 でも今は、使うのもありかもしれないな、なんて思ってしまう。

 

 ちょっとは仕返ししておいた方が後々のこの人のためにいいのかな、なんて思ってしまう。

 

 ゲームで仕返しをちょっとだけして、それで終わり。貸し借りもなし。復讐も終わり。

 そういう風に言い張るのもありかもしれない、なんて思う僕は、性格が悪いのかもしれない。

 もしもいつかこの人が僕らの因縁のことを知ったとしても、このゲームでボコボコにしたことを引き合いに出して、"もう仕返ししたし許してる"と突っぱねる。

 そういうのもありかもしれないけど、流石にそれは酷い気がする。

 

 とりあえず話して、遊んでみてから決めてみよう。

 この人があまり気にしていないようならそれでいい。

 気にしているようなら、また何か考えよう。

 大丈夫。

 一緒に遊べば、きっと上手くいく。

 あの日の事件に関わった皆で、笑顔の結末を見つけられる。

 

 僕の父さんは、ずっとそう信じていた。きっと―――死んだ後になった、今でもずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一緒に遊べば、どんな因縁があっても仲良くできる。

 最後には一緒に笑って終われる。

 悔いを生む過去も、乗り越えられる。

 喪失が生んだ人と人の間の壁も、壊して行ける。

 それが、家族が残してくれたホビーの力であると……ライ・ドローンは、信じていた。

 

 父の言葉が、父が残したものが、父が信じたものが、正しいのだと信じていた。

 

―――遊ぶなら、最後は笑顔で終わらせるんだ

 

 仮定の話だが、自分を許せない人が居たとする。

 その人が幸せになるためには、その人が自分を許せるようになることが、絶対に必要だ。

 他人を許せない人が居たとする。

 許せるようになることは、その人が幸せになるために進むべき道の一つだろう。

 

 家族の喪失に関わる事件から、何か大きな傷を心に抱えた者が居たならば。

 その人物が自分か他人を許すことで、過去に決着を着け、前に進めたならば。

 想い出の中で、その者の家族は、きっと笑ってくれる。

 

―――忘れるな。皆に笑顔を、だ

 

 夢の中で、ライの父は、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が始まる。

 ライはノーヴェと並んで座り、リンネとフーカの試合を見守る。

 おふざけのような目的で始まった戦いで、ライがどっちのジムに所属してもいいと言っているという、かけがえのないものなんて何も賭けられていない戦い。

 だがライは、"どちらが勝ってもいいしどうでもいい"だなんて考えてはいない。

 "二人のどちらも本気で戦っているのだから、どっちにも勝ってほしい"と考えている。

 

 フーカもリンネも、それに気が付いていた。

 自分に向けられる、"勝って欲しい"という彼の視線に気が付いていた。

 だからちょっとだけ、一人の友人として張り切ってしまう。

 

「ナカジマジム所属、覇王流、フーカ・レヴェントン」

 

「フロンティアジム所属、師はジル・ストーラ。リンネ・ベルリネッタ」

 

「いざ」

 

「尋常に」

 

「「 勝負っ! 」」

 

 どちらが勝ってもおかしくない戦い。

 どっちが負けても誰も泣かない戦い。

 

 この戦いの結果は、第一話の後書きに書いてあるのであった。

 

 

 




 これにて終わり。
 ライ君はヒロイン。リンネちゃん編では献身のヒロイン。フーカちゃん編では"そう決断する"勇気をゲットして、許しと献身のヒロインになりました。
 ちなみにこの時点だとノーヴェヴィヴィオ11歳、ライリンネフーカ12歳、アインハルト13歳という魔境。知識・経験インストール組は普通の大人以上の精神をゲットしてるから困ります。
 遊ぶに鬱は似合わない。
 子供が遊ぶのなら話は笑顔で終わるのです。



【絶対にそうはならない次回作予告(そもそもこの作品の続きを書く予定がない)】

 とうとう五代目魔王、魔王ジル・ストーラが覚醒してしまった!
 彼女はライ・ドローンを誘拐!
 止めに動いたリーザスジム、ヘルマンジム、ゼスジムもその豪腕で壊滅!
 第■管理外世界ルドラサウムの廃城に引きこもってしまった!

「さあ我が城にいらっしゃいリンネ! これが貴女を完成させる最後の試練よ!」

 リトルプリンネセス・ゴリラネッタ!
 勇者属性フーカ!
 赤い死神ノーヴェ!
 法(聖)王女ヴィヴィオ!

 四人の冒険が、今始まる!

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