艦これ Short Story改《完結》   作:室賀小史郎

84 / 130
後編です!


艦これSS改84話

 

 同時刻ーー

 

 駆逐艦寮、朝雲・山雲・霰・霞部屋ーー

 

霞「…………」

 

 霞は部屋で自分の座椅子に座り、窓から空を眺めていた。

 その顔にはいつもの険しさはなく、とてもリラックスした顔をしている。

 

 駆逐艦『霞』は「天一号作戦」、本土上陸を阻止するため、大和をはじめとする残存勢力で玉砕を覚悟した「坊ノ岬沖海戦」に身を投じた。

 当時はもう戦況の打破が絶望的で、無数の艦載機からの止まらない爆撃によって次々と僚艦が被害を負った。

 霞にも直撃弾で機械室が崩壊、煙突までもが吹き飛んだものの、ついに霞は最後まで沈むことなく海戦は終結。

 日本の力の象徴だった大和の姿、そして「華の二水戦」と謳われた二水戦旗艦の矢矧の姿も、もうそこにはなく、霞は駆逐艦『冬月』によって乗員の救助が行われた。

 

 この時の冬月の艦長は、霞の前艦長である山名寛雄中佐。

 霞は曳航することは叶わなかったが、霞は開戦当初から多くの乗員がこの艦に留まっており、皆が胸を張って霞を降りていったと記録されている。

 救助が完了した霞は冬月によって雷撃処分され、大きな水柱が上がり、そしてそれが消え去った時、霞は既に海中へと身を沈めていたという。

 

 司令の好意が裏目に出てしまい、不遇の時代を耐え抜いた霞は、戦力不足にあえぐ大戦末期の帝国海軍を牽引した大きな大きな駆逐艦だった。

 

霞(ったく。今日があの日なのは分かるけど、私にまで休暇とかどんだけ過保護なのよ、あの司令官……)

 

 頭ではそんなことを思っているが、ちゃんと自分のことを考えてくれている提督のことを思うと、霞はつい頬が緩んでしまう。

 

 すると、

 

霞(? なんか部屋の外が騒がしいわね……)

 

 部屋の外に違和感を感じた。

 霞がそのことに小首を傾げていると、ドアがガラッと勢い良く開く。

 

朝雲「霞〜!」

山雲「これから〜!」

霰「ハイキング行くよ」

 

霞「ハイキング?」

 

朝雲「司令と清霜が企画してくれたんだって!」

山雲「裏門に集合だって〜♪」

霰「みんなで行こう」グイグイ

霞「わ、分かったからそんなに引っ張らないでよ!」

 

霞(ったく、司令官ってどうしていつもいつも変なタイミングでこういうことするのかしら……いつもは鈍感のくせに)ハァ...

 

霞(でも司令官と清霜の気遣いは嫌いじゃない……)

 

霞(あの日のみんなにも心配かけたくないし、今日はその気遣いに乗ってやろうじゃない♪)

 

 

 一方、浦風・磯風・浜風・谷風部屋ーー

 

雪風「磯風〜、みんなで裏山へハイキングに行きますよ〜? 準備してください〜」ユサユサ

 

磯風「分かった分かった。司令のご厚意でもあるしな、ちゃんと行くからそう急かさないでくれ」ニガワライ

 

 雪風にスカートの裾を引っ張られる磯風もまた、あの日ということを受け止めていた。

 

 駆逐艦『磯風』は雪風や浜風と共にあの海戦に参加。

 しかしその浜風は海戦勃発直後の空襲によって轟沈。

 歴戦の戦士の、あまりにも唐突な最期だった。

 

 二水戦旗艦の矢矧が被弾し、航行不能に陥った時、司令部が磯風に移乗することになり、空襲の合間をぬって何とか矢矧に横付けするも、空を飛び回る航空機の数は無数でほんの一瞬で磯風は至近弾を受けて機関室が浸水。

 機銃掃射が止まず多数の死傷者が出る中、必死に浸水を食い止めようとする磯風だったが、ついにその努力は実らず、磯風は機関停止してしまう。

 

 そんな磯風の乗組員達を姉である雪風が懸命に救助。それだけではなく、雪風は磯風も救おうとした。

 栄光ある第十七駆逐隊ももはや磯風のみ、失いたくないという思いから二水戦司令官が救助された駆逐艦『初霜』に曳航の許可をとろうとした。

 しかし曳航するということはそれだけ自由が奪われるということ。安全が確保されていないこの状況下で、そのような行為は敵の追撃を許すことになるとされ、その提案は止むなく却下された。

 こうして磯風はここで歩みを止めることになった。

 

 そして雪風は磯風へ砲身を向ける。何故なら磯風を海没処分するため。

 この時の雪風の砲術長は「この時ほど辛い思いをしたことがない」と述懐している。

 

 しかし主砲の照準は酷使によって、まるで泣いているように震え、雪風の砲弾は磯風を捉えることは出来なかった。

続いて魚雷を放つがこれも磯風の下をくぐり抜けて命中には至らなかった。

 

 雪風は再び砲撃によって磯風を狙い、よく狙い、よく狙い、そして発射。魚雷発射管を狙った砲弾は見事命中し、磯風は大爆発を起こした。

 

「駆逐艦『磯風』に敬礼!」

 

 こう言ったのは雪風に救われた磯風の乗員達で、みんな涙を流しながら、いつまでも磯風が散った場所を見つめていたと言う。

 

磯風(今年もこの日が来た。この磯風、皆に恥じぬよう精進する。だから見守っていてほしい……)

 

雪風「磯風〜、早く〜!」

磯風「分かった分かった、今行くよ」フフフ

 

 

 同時刻、軽巡洋艦寮、談話室ーー

 

五十鈴「ん〜、こういう日をちゃんと分かってくれてるのって本当に嬉しいわね〜」ノビー

長良「あはは、確かにね♪」

名取「それにこれからみんなでハイキングだもんね♪」 

 

 五十鈴は同室の長良、名取と一緒に談話室でくつろいでいた。ハイキングに行く準備は出来ているのだが、由良達(主に阿武隈)がまだ準備を終えないのでこうして談話室で待っているのだ。

 

 今日は五十鈴にとっても特別な日。

 一九四五年・同日。あの海戦とは別に軽巡洋艦『五十鈴』はスンダ列島にいる兵員を撤退させるために海を駆けていた。

 行動中に潜水艦から探知され、更にはオーストラリア軍の空襲にて被弾しながらも、なんとかその場を切り抜けて助けた兵士をスンバワ島へ送ることに成功していた。

 

 しかし四月七日の早朝、五十鈴はアメリカ潜水艦『ガビラン・チャー』から発射された魚雷を回避することが出来ず、計四発の被雷によってついにその最期を迎えた。

 帝国海軍でも最高レベルの対潜装備を搭載していたにも関わらず、最初に受けた一発によって速力は低下、その後の粘りも虚しく、三発の魚雷を立て続けに受けてしまった。

 

 帝国海軍は多くの特化艦を生み出してきたが、全てが誕生のタイミングが遅く、この五十鈴もまた日本の敗北が目前にあっての改装だったため、真なる姿での活躍は叶わなかった。

 それでも五十鈴は姉の『長良』と同じく、旧式艦ながら長きに渡り、戦場や輸送、夜戦等々、多種多様な任務をこなしてきた功労艦であると記録されている。

 

五十鈴「提督の隣は大和も矢矧も磯風も狙うだろうから今日は激戦かな〜」

名取「でも譲る気は無いんでしょ?」

五十鈴「もち♪ 大和達の気持ちは分かるけど、私だって今日は特別な日だもの♪ 提督の隣は是が非でも取るわ♪」

長良「お願いだから戦争はしないでね。せっかくのハイキングを乱闘騒ぎにしたくないから」

五十鈴「みんなが譲ってくれればね〜」

長良「せめて交代制とかにしてよね」ハァ...

 

 そんな話をしていると由良達がドアから顔を覗かせた。三人の顔を見ると、長良達は笑顔で手を振って姉妹揃って裏門へ向かうのだった。

 

五十鈴(姉妹がいて、優秀な提督がいて……今の私もあの頃とは全然違う。守ってみせる……今度こそ、みんなで)

 

 その後、提督と清霜が発案した裏山へのハイキングを今日が特別な日だった者達は心から楽しみ、裏山の山頂から大和達は東シナ海、五十鈴はインドネシア・ビマ沖をそれぞれ向いて改めて黙祷を捧げた。

 

 因みに提督争奪戦は、

 

 右腕・五十鈴

 左腕・矢矧

 膝 ・磯風(膝枕)

 背中・大和(あすなろ抱き)

 

 ※霞は恥ずかしくて付近にしか陣取れなかった

 

 とそれぞれが提督と触れ合える場所で落ち着いたそうなーー。




今日は坊ノ岬沖海戦につきまして
戦艦
『大和』
軽巡洋艦
『矢矧』
駆逐艦
『霞』
『磯風』
『浜風』
『朝霜』

更にはインドネシア・ビマ沖で
軽巡洋艦
『五十鈴』

と多くの艦が沈んでしまった日なので前編後編に分けて書きました。
そして艦これには実装されてませんが、一九四四年のこの日には伊二潜水艦が輸送任務中にラバウル沖でアメリカ駆逐艦の攻撃を受け沈没した日でもあります。

この日に亡くなった多くの英霊の方々、そして多くの艦に心からお祈りします。

本編中の情報は前編も後編も『大日本帝国海軍 所属艦艇』より得ました。

そしてこの日は大鳳さんの進水日でもあります!
このような日ですが、これはおめでたいですね。
おめでとう、大鳳さん!

読んで頂き本当にありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。