歌姫さんと傭兵くん   作:早乙女 涼

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 初めましての方初めまして、お久し振りの方、ご無沙汰しております。
 この度傭兵アーサーと歌姫アーサーのカップリングが非常に萌えたので、性格等改変しつつ筆をとらせていただきました(作者はゲーム未プレイです)。
 また、一部R-18要素を取り入れて参りますので、拙筆ではありますが、どうかよろしくお願い致します。


走り出す物語
生徒会執行部


 ――夢を見ていた。

 それはつい最近のものだったと思う。

 その記憶は微かなもので、刹那的な痛みが眠っている自分の身体にも鮮明に感じられた。

 あまりの痛みに視界がチカチカと黒白に明滅しつつも、痛みに声をあげるよりも先に目の前の、他人の男のモノで嬌声をあげている女子に目を見開いていた。

 ……知らぬ内に匂いまで香ってきた。

 汗と体液の混じり合った匂い。それでいて自分の右肩から香る鉄の臭い。そして、口を切ったのか鉄の味までが再現される。

 リアルな感覚。その中で、ギシギシという場の音、彼女の声による不協和音が響き続ける。

 彼女を突いている男の嘲るような笑い。視線。

 その瞬間、“俺”は耐えきれず――。

 

            ☆

 

「――ッ!」

 たまらず、ベッドから跳ね起きた。

 考えるよりも先に胸を抑えつけ、激しくえづいてしまう。

 幸い嘔吐する事はなかったものの、まるで夢の続きの様な不快感が俺、浅木傭司(ヨウジ)を襲っていた。

「はあッ……はあッ……ッ」

(もう、思い出す事も無いと思っていたのに――っ)

 心臓が瞬間冷却された様な感覚に陥り、その心臓を中心に、全身が冷え切って行く様な感覚が俺を襲う。

 特別な思い出だったというわけではない。確かに印象深かったものの、自分を苛むほどではなかったはずだ。

『……っ』

 その時、俺の部屋の窓枠から、一羽の鳥がはばたいたのが見えた。

(今のは……いや、もういいか……)

 どうしてか考えるのが面倒だった。

 その一時の事象が、俺の冷えを忘れさせてくれた。気付けばその冷えはもう感じられなくなり、次にやって来るのは猛烈な暑さ。

「暑っちぃ……」

 全身が沸騰した様な火照りを感じ、噴き出し始めた汗に苛立ちを覚えながらも、俺は茶色い毛並みの長い後ろ髪を掻きあげながらベッドから這い出てシャワーを浴びることにした。

 

            †

 

 ――俺の住むこの街。群青橋。そして、俺の住む家から徒歩二十分圏内に存在する私立の学園。群青橋東学園。

 俺はそこの第二学年に所属している。

 黒を基調として、金と赤の入ったブレザーの前はだらしなく開かれ、その下には白いシャツを着込んでいるが、こちらもブレザーに合わせ赤の生地に金色のラインが入っているネクタイだ。が、あまりきちんと締めていない。ネクタイなんか締めていたら息が詰まってしまう、若者特有のだらしなーい着こなしだ。

 朝七時の学園には、やはりと言うべきか。まともに生徒なんていやしない。居たとしても朝練のある部活連中くらいだ。

 自分の教室であるA組へ入ろうと、スライド扉に手を掛ける。

「……なんだよ、()いてねえじゃんか」

 それが動かずに、一本の三つ編みにした後ろ髪を撫でながら俺は軽く苦笑いを浮かべた。溜息を抑えながら職員室へと足を運ぶ。

 すると、丁度職員室からぞろぞろと出て来た先生達の中に、スーツ姿に白衣を着た、赤紫色の髪に紅色の瞳をした美女と眼が合う。

 俺達の担任であるゆっきゅん……もとい、谷原ゆかな先生だ。

「おはよう傭司くん。今日も生徒会のお手伝い?」

「おはようございます、谷原先生。まぁそんな所です」

「そっか。悪かったわね、鍵掛かっていたでしょう」

「俺でよければ開けておきますけど?」

「そうね、出来ればこの出席簿も持って行って欲しいな。お願いできる?」

「了解です」

 俺は他の先生と挨拶を交わしながらも、ゆっきゅんの威厳を崩さないように最低限の敬語を使いながら出席簿と鍵を受け取る。

「それじゃあ、よろしくね」

「はい」

 俺は役目を引き受け、教室へ歩いて行き、鍵を開けて電気などを点け、教壇の机の中へ出席簿を入れておく。

「……これでよし、っと。なんも忘れてないな?」

 口に出してのチェックを終え、俺は自分のバッグを自席へ置くと、廊下のロッカーへ歩み寄り、1番と書かれた自分のロッカーを開く。

 そこには一つの工具箱が入っていた。

 俺はそれをおもむろに取り出すと、そのまま昇降口正面の中央階段をあがって三階へ向かう。

 三階には生徒の憩いの場などもあるが、殆どは文科系の部活動などが使用している。

 その中に、俺の目当てである生徒会室があった。

 コンコン、とノックすると、すでに中に人がいたようだ。「どうぞ」と声がして、俺は中へと入って行く。

「おはよう、星亜」

「あら浅木くん。おはよう」

 会長席に座っているのは、生徒会長の谷原星亜。

 先ほどのゆっきゅんを長女に置く、三姉妹の末っ子だ。

 彼女は入ってきた人間が俺だと認識すると、その白髪をはらりと揺らして微笑む。

「朝早くからごめんなさい。色々大変だったでしょ?」

「そんなの気にするなよ。……で、どこのエアコンが壊れたって?」

 星亜はひとつ礼をするなり、俺は顔を横に振って立ち上がった星亜の案内の元、朝早くから呼び出された元凶――エアコンの修理へと取りかかるべく、その教室へと移動を開始する。

「第二会議室よ」

「会議室……。応接室じゃないのか?」

「ええ。PTAの方がいらっしゃるみたいだから、どうしてもね」

「なるほど。流石にこの天候じゃあエアコンなしの会議は厳しいもんな」

 そう言って、俺は窓から初夏の照りつける朝日を恨めしげに見上げる。

「そうなのよ。業者に連絡したら来週末になってしまうみたいで」

「そこで白羽の矢が立ったのが俺、ってわけか。というか、よく先生達も許可してくれたな。俺みたいなのが勝手に学校の備品を壊したら事だろうに」

「まあ、そうね。体裁的にはそうだけれど、殆どの先生に名前が通っているんだもの、浅木くん。驚いちゃったわ」

「そりゃどうも。厄介事を引き請けるのも、一応は俺の仕事だからな」

 星亜と共に階段を降りつつ、そんな話を続ける。

 その中で彼女は、小さく溜息をついた。

「生徒会執行部……。本当に貴方一人で大丈夫? 昨日も遅くまで園芸部を手伝っていたみたいじゃない」

「あーその事か。グラウンドの雑草だらけの所あったろ。あそこに花を植えるって言うから、雑草の除去を手伝ってたんだよ」

「でも園芸部って、それなりの人数が居たはずよね? どうして浅木くんが出る事になったのよ?」

「質問ばかりだな」

 俺は苦笑交じりに言うと、星亜は申し訳なさそうな顔をして眉を寄せている。

「……んー、まぁいいか。園芸部は生け花同好会と、まぁ本来あるべき園芸部が合併してできた部活だろ? それでどうしても部活内の行動を一致させることが出来ないみたいでさ」

「そうだったの……。でも、一年生も入ってきたし、生け花同好会も、華道部として独立できる様になったはずよね?」

「園芸部と組んでいるからこそできる事もあるんだよ。園芸部が育てている花を、生け花同好会の連中がそれを生けさせてもらう、とかな。えーっと……なんつったっけ。WinWinの関係ーってヤツだろう?」

「……なるほど。生け花でコンテストに入賞する事があれば、その花を育てて来た園芸部にも評価が及ぶ、ってわけね」

「そう言う事。まぁ悪くない発想じゃないか? ま、最近その新任の部長とが喧嘩しちまってるみたいだから、活動にバラつきが見られてるみたいだけどな」

「喧嘩については、当人間で解決してもらいましょ。流石に貴方が踏み込むところじゃないわ」

「もちろんだ。流石に俺だって暇じゃない」

 ――まあ、それでも解決を依頼されてしまっているんだが。星亜には語らないでおこう。

 そう言いつつ、俺達は一階へ到着。そして職員室で第二会議室の鍵を受け取り、生徒会顧問であるゆっきゅんが同行する事となった。

「ごめんなさいね、傭くんが引き受けてくれたって事は知っていたんだけれど」

「いやいや、そんなん気にしないでいいッスよ」

 早々に第二会議室へ移動して、星亜、ゆっきゅん、俺という三人だけの空間が出来上がる。

 制服の上着を脱いでテーブルへ置いた俺は、脚立を広げてエアコンを覗き込む。

「それより、星亜とゆっきゅんは二人でごゆっくり。ゆっきゅんは監督って名目で来てるけど、チラチラ見るだけでいいからさ」

「そうかしら?」

「だーめ。傭くんを監督する事からもうお仕事は始まっているんだから」

「でも姉さん。まだ始業前よ? 少しくらいいいじゃない」

「う、うう……」

 ね、という星亜の甘えた声に、流石のゆっきゅんも折れるしかなさそうだった。

 理性と先生としての威厳が崩れ落ちる音が背中越しに聞こえた。

「し、仕方ないなぁあっちゃんは。ちょっとだけよ?」

「ふふっ、姉さんありがとう」

 あー実に甘ったるい声が聞こえるなぁ。

 茶色の髪を掻き毟りながら、俺はエアコンのカバーを外して、内装を見た。

「……配線が切れてるみたいなんで、取り変えておきますね」

「ありがとう、傭くん」

「これだけが原因とは言い切れないんで、できれば来週プロに改めてみて貰って下さい。飽くまで俺のは応急処置なわけだし、専門家じゃないんスから」

「わかった。その点は業者さんにも伝えておくわ」

「ども」

 俺はワイシャツの袖をまくると、早速配線の入れ替え作業に入るのだった。

 

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