歌姫さんと傭兵くん   作:早乙女 涼

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特別じゃないその手<修行開始>

 向かった先は、俺の家の裏手にある森林。

 周囲の視界からは隔絶され、木の葉が揺れる音、小鳥のさえずりなどしか聞こえない、辺り一面が林のなか、ナオは俺へ一礼すると自分のストレージから二本目(・・・)の片手剣をオブジェクト化した。

 なんのことはない、普段装備している片手剣と全く同じ型の剣だ。通常のプレイヤーでも人族のアイテム――手榴弾など、細かい戦闘アイテムも武器カテゴリになっている――が存在するため、武器スロットは七つ。それによって、かなり戦闘の幅は広がっている。

 しかし、人族以外の種族はレベルが50を上回るまで、2つ以上の武器スロットを使用する事が出来ないため、ステータスを気にしないのであれば、序盤のアドバンテージは、実は人族の方が上なのだ。

 一方で、ナオは人族。どうしてか、カレンがアドバイスをしてもその種族の選択を譲らなかった。

「お前、確か今レベル28だったろう」

「ですです。歌先輩達から聞いてました?」

「まあ、多少はな。でないと指導なんか出来ねえよ」

「ですよねー」

 ナオは苦笑を浮かべながら剣を引き抜く。

「とりあえず、今のお前はカレンから《種》を貰ったばかりの状態だ。30レベルの攻撃スキル解放に合わせて、その《種》を開花させる。その為に必要なのが」

「《種》に合った戦闘スタイルを作り上げる事、ですよね?」

「正解だ」

 ――このゲームには、エクストラスキルと呼ばれる特殊なスキルが存在する。

 本来レベルが30になる事によって、自分の戦闘スタイルに合わせた攻撃スキルなどが自動調整され、オリジナルにも近い攻撃スキルが生成されるのだが……。

《種》と呼ばれる、エクストラスキルの基盤の様な存在は、その希少さ故にスキルの骨組みは出来上がっており、多少の微調整しか行う事ができない。

 そして、そのエクストラスキルは誰もが手に入れられるわけではない。

 もちろん、適性があっても武器のカテゴリが異なる事もあるため、決して理に適ったものではないということ。

 だが、必要な人に分け与える事は出来る。それが《種》と呼ばれるものなのだ。

 それでいて、その《種》を授与するため、カレンの指名した相手が、このナオというわけである。

 そのエクストラスキルの名前は《絶界の双星剣》。二刀流のエクストラスキルなのだ。

 元より片手剣を使っていたナオにとっては理にかなった《種》なんだろうが、どうしてかその種の授与を渋っていたのだが、どうやら肚を括ったらしい。

「んで、あの面子の中で一番暇を持て余しているのが俺、ってわけだな」

「ぶっちゃけセンパイ、二ートですもんね」

「おっし今日は落ちるわー! 暫くインしねぇー!!」

「ちょっ、待って! 待ってえええ!! 冗談ですってばあああっ」

「冗談言ってねえで始めるぞ。マジで時間は限られてるんだからな」

 ナオの運動神経はまあまあ。このゲームでは現実世界の自分のスタミナも関係してくるので、あって損はない。

「は、はい……」

 彼女が全力戦闘出来るのは話に聞けば五分程度。徐々に体力をつけさせて行くしかない。

 ……ゲームの中であっても、リアルであってもだ。

「とりあえず素振りの型を教えるから、まずはそれを百回やってみろ」

 俺は訓練用の木剣を二本オブジェクト化させ、踏み込みやステップなども織り交ぜてナオへ教え込む。

 一連の動きを今度は彼女の動きを見ながら教えると、返事を続けていたナオが口を開いた。

「……センパイってひょっとして熟練兵ってやつです?」

「ん。あぁそうか、お前講義あんまり受けてないんだったよな」

 素振りを続けながら聞け、と言いつつ俺は学院の座学として行われる、このゲームの歴史をかいつまんで伝え始める。……前に、ひとつ伝える事がある。

「ぶっちゃけ俺よか学院の教官のが教え方は上手いんだけど、それでも聞くか?」

「変に畏まって聞くより気が楽なんでお願いします!」

「そうかよ……」

 苦笑を浮かべながら切り株へと腰掛け、素振りを続ける彼女を見守りながら語り出した。

「そうだな……。まずはトリニティが出来るまでの歴史だな。スターウォーズ風に結果から教えると、この世界はプレイヤーが創ったものだ」

「ええええっ!?」

 オーバーリアクションをしながら俺へ顔だけ向けてくるナオに苦笑しながら「そこまで驚く様なことか?」と訊ねる。

「あったり前ですよ!? そんなのプレイヤーがゲームを作ってる様なものじゃないですかっ!」

「そうさ。俺らが、自分達で作り上げられるんだよ。このゲームは。実際、ここまで自由性のあるゲームなんてあまり聞いた事がないだろ?」

「は、はい……。どれもゲームの基盤の中でしかできないです」

「つまり、そう言う事なんだよ。このゲーム本来のストーリーは確かに存在する。でもそれは、俺達を縛り付けるものじゃなかったんだ」

「……戦争、ですか?」

「ああ」

 俺は頷く。

「事の発端は神族。人族の里で行われる《儀式》に横槍を入れた事が総ての始まりだった」

「どうして神族が? 魔族じゃなかったんですか?」

「そりゃ血の気があるのは魔族だったさ。でも、神族はどうしても人族の行われる《儀式》は止めなきゃいけない理由があったんだ」

「理由……」

「人族の《儀式兵器》。お前も持ってるだろ?」

「は、はい。……儀式霊装の事ですよね?」

「あ、わり。そうだ、儀式霊装な」

 ナオはどうやらその儀式霊装を使っていないみたいだったが。今は関係ないだろう。

「その儀式霊装ってのは、神族や魔族、竜族が操る精霊を殺しちまうんだよ」

「精霊を……殺す……」

「そう。五大属性の精霊に限られた話だけどな。光と闇の精霊は高位すぎて使えないんだよ。……俺達――いや、ナオが持ってるその《儀式霊装》っていうのは、大気中の魔力(・・)を行使する事で、人の身であっても魔法や法術が使える様になるだろう? どうしても攻撃魔法を苦手としちまう神族にとっては、使い方によっては精霊を使いものにならなくする事もできる人族が怖く見えちまったんだ。結局それで神族による《儀式》への牽制と人族への虐殺は続いた。この出来事は《血の粛清》と呼ばれ、人族のプレイヤー達は衰退し、神族を恨んで魔族へ寝返った。もちろん人族に留まる奴もいた。けれどそんな少数で何が出来るか。結局何もできずに虐殺は続けられたが、そこに横槍を入れたのは、魔族ではなく竜族だった」

「どうして魔族じゃなかったんです?」

「魔族に寝返った人族は結局キャラクターの創りなおしなんだ、技量はあってもレベルや金銭的な意味で力がなかったんだよ。竜族は別に人族の《儀式》に異を唱える事はしなかった。人一倍温厚な奴らだったからな」

 懐かしむ様に目を細めると、ナオはそれに気付いた様に「センパイのお友達だったんですか?」と訊ねて来た。

「ん? いや友達……ってわけじゃないな。このゲームが始まったとき……クローズドテストの時に知り合った奴だったんだよな。結局そいつが竜族を率いてたから、竜族と人族はある意味関係は悪くなかった。今も竜族は中立で在り続けてるが、あいつの意志がまだ竜族の人々をを動かしてるんだよ」

「すっごい歴史っぽいですね!?」

「だから歴史の話をしてんだっつの」

 そうでした、と舌を軽く出したナオとお互いに苦笑する。

「続けるぞ。暫く神族と竜族がお互いに人族の世界、人界への侵入を牽制し合っている間に魔族へ寝返った人族は成長し、神族へ侵攻を始めた。もちろん神族は魔族と竜族の二面打ちに遭い、どちらかの防御を手薄にしなければならなかった。防御面が薄くなるのはもちろん人界の方だった。神族は徐々に後退して行ったが、竜族はそれを追撃しなかった。これ以上三つ巴の――といっても一方的に神族だけが敵になっちまう状況だったが――戦争になるのは避けたかったんだ」

「流石は人一倍温厚な竜族さんですね」

「ハハッ、そうだな。――けど、竜族の思いは人族には通じなかったんだ」

「ひょっとしなくても人族ですか?」

 その言葉に、俺はぐっと息を詰まらせる。けれど悟られてはなるまいと、平静を装って頷いた。

「ッ……ああ。幾多もの同族を喪った人族の怒りは留まらず、神族と魔族の二種族間の戦争に割って入った。もちろん魔族とは殆どが同盟の状況下で、だ。一方的に攻められた神族は、それらに反撃するのではなく竜族のいる竜界へ侵攻を開始した」

「えええ……」

「竜族は防衛戦術に長けている。もちろん帰り討ちに遭うのは目に見えて分かるはずだった。……それで、人族はひとつ、大きな事をやらかした」

「センパイの言う、《儀式兵器》というやつですか」

「ああ」

 ふーっと息を吐いて目を閉じる。俺は続けた。

「……さっきも言った様に、今の人族が使っている《儀式霊装》は大気中に存在する魔力――いわゆる精霊の力を使う事で魔法と法術が扱える。その法則を利用して、人族は魔力を枯渇させる事(・・・・・・・・・)を目的とした兵器を生み出した」

「ち、ちょっと待ってください!? それってつまり、精霊を殺す事になるんじゃないんですか!?」

「そう言う事。それが人族の目的で、実際に使った時には、一瞬旧時代の戦争みたいな光景が広がったよ。矢で射抜き、刃物で切り裂く。そんな……ゲームには似合わない、汚れた戦争が、たった一人の兵器で出来上がった」

「え……それって一人のプレイヤーが出来ることなんですか!?」

「出来ちまったから、凄いよな」

 苦笑を浮かべる俺。ナオはいつの間にか素振りの手を止めて聞き入っていた。

「誰が考えたのかは知らないが、竜界に存在する、外の理によって創られた《魔剣》は、自分の《気》や《魔力》などを使う事で強い力を行使できる、所謂妖刀みたいなものだった。人族は、その《魔剣》の所在を掴み、それを使う事を強要した」

「つまり……その《魔剣》って言うのは……」

「すでに人族の手にあったんだよ。《黄金の魔剣》、ケルンバイター。その剣はステータス上は弱いはずの人族を一時的だけど確実に、四種族中最強に至らしめた。結果、            魔力は枯渇し、魔族と神族の取り絵が無くなった。《気》には不幸中の幸いと言ってか、魔法なんかが使えなくなるだけで、身体強化などは解けなかったけど、それでも。魔法と法術。ふたつの強みを一遍に手に入れた人族に、神族はともかく、魔族が反旗を翻す事は想像するに容易かった。もちろん竜族は魔剣を取り戻すため、人族を守り通すだけにはいかなかった。四種族それぞれが対立し、結果的に全世界の五分の一が荒野と化した。これが、《滅界戦争》と呼ばれるものだ」

「それなら、そこからどうやってこの世界が生まれたんですか?」

「ああ。ここからまた色々と歴史が動き始める。……まずは、一人の人族の話だ。そいつは何故か滅界戦争の真っ最中、人族の軍から抜け出し竜界へと旅立った。そこで、一人で負える責任ではない事は分かっていながらも、竜族を率いていた長に今回の一件について詫びた。なんらかの責任を取る形で、それらを赦して欲しいと願った。

 竜族の長はその責任の取り方について、人族の人間と相談し決め合った。それが、戦争を終わらせる事。それがお互いにとって唯一赦し合える事だったから。人族は竜族の長から賜った機龍を駆り、魔族の長の元まで向かった。道中で戦闘に巻き込まれる事もあったが、その武勲から魔族の長に讃えられ、神族との停戦協定を結びつける事を条件に竜族との交戦を停止するという人族側の提案を呑んだ。最終的にその人族は竜族、魔族の力を借りて神族の世界へと攻め入り、魔族と神族の二種族間の停戦協定を結びつけ、竜族への侵攻を止めさせた。結果的に竜族は魔剣の保護を目的として中立となり、その人族が三種族を後ろ盾に人族の軍を鎮圧させて戦争は終結。竜族は人族を擁護するという危うい立場になりながらもその立ち位置を貫いている」

「それで、どうしてトリニティに行きつくんですか?」

「言ったろ。魔剣の保護を目的に、って。簡単に言うと魔族と神族、竜族の長が話し合って、魔剣の保管・保護について相談した結果が、トリニティの創設。それでも人族は増える事は分かっているけれど、新規の人達までこの紛争に巻き込ませるわけにはいかないとして、和平協定が結ばれているんだ」

「んー……最後がグダグダーっとしててよく分からないですけど、魔剣はこのトリニティの中にあって、それを悪用させないために、それぞれの種族が牽制しあってる……って事でいいですか?」

「まぁそうだな。それらの協定を破っても魔剣はこのトリニティに在るわけで、魔族と神族と竜族の三すくみは揺るがないしな」

「で、その英雄さんは今どこに?」

 唐突に目をキラキラさせながら訊ねてきたナオの《英雄》という言葉に俺はぶっと噴き出しながら、カラカラと笑う。

「さてな。ひょっとしたら今は青春を謳歌してるどこぞの学生かもしれないぜ?」

「その人若かったんですか?」

「あぁ。若かったよ。お前より年下だったかもな?」

 さて、と。と呟いて立ちあがった俺は、木剣をストレージへ戻して自分の儀式霊装を取り出した。

 タワーシールド、と言うべきか。俺の身体が肩くらいまで隠れるくらいの巨盾の裏から、同じくらいの長さを持った片手剣を引き抜く。

 デザインは黒い十字といったもので、巨盾にもその絵が入っている。

「そろそろ打ち込み始めるぞ。充分休憩は取れただろ?」

「はい! よろしくお願いしますっ!」

 それからナオは俺から教わった型通りの剣撃を繰り出し始め、俺はただそれを受け続けるのだった。

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