歌姫さんと傭兵くん   作:早乙女 涼

9 / 10
傭司「新年!!」
歌唄「あけまして!!」
全員「おめでとうございまーす!!」
天音「あーんど!」
全員「今年もよろしくお願いしますっ!」


傭司「いやあ、ご挨拶が遅くなってしまって申し訳ありませんでした」
星亜「まあ……なんというかその、大変だったものね?」
銀一郎「アストラ集め辛いんご……」
天音・歌唄「やめーや」
傭司「そうだぜ銀先輩。もっと有意義なことに時間使えよ」
留美「そういう傭司は……年末にエクストリーム誘ってきたよな?」
傭司「ナンノコトカナー?」
歌唄「……とまあ、今年もこんな感じでやっていきますので、どうかよろしくお願いします。……傭司はあとでわたしと話をしようか」
傭司「もうだめだ・・おしまいだぁ(SA)」


一人分の幅の道で<見守る仲間>

 ……オンラインゲーム、《世界樹の伝説》。通称《LoW》。

 PvP、育成、RPG、色々な要素の混ざったバーチャルリアリティオンラインゲームだ。

 自分だけのゲームが出来る。ペットや使い魔が可愛い、格好いい。装備が自分でデザイン出来たりするため、好みの服などが手に入りやすいなどなど、挙げたらきりのないほどの人気要素たっぷりのゲーム。世界中のプレイヤーが楽しめるこのゲームは、ID登録数が先日一千万人を超えた。

 これがなんと、正式サービスが始まって三年も経たないというのだから凄い。

 確かに、今までの画面の前で行うゲーム(デスクトップ)とは違って、キャラも触れるし、一人称でファッションが楽しめる。そりゃあ流行るよな。

 フルダイブ環境の整ったこの現代社会。学内ネットでもプレイできるわけだから、実質どこでもプレイ可能。至れり尽くせり。

 この俺、浅木傭司の通っている学園の校内ネットとも共有する事ができるので、現状としてはある意味で閉鎖された環境(リア友同士)でのプレイも可能。

 そんなゲームの、一つの世界に、俺ことレベル99 “ソルジャー”、《レオンハルト》は所属している。

 茶色の長い髪に薄紫色の瞳。腕から右目まで伸びている赤い刻印の形も全部、現実の俺そのままだ。

 対して服装は黒ワイシャツに同色のズボン程度だ。武装はまぁ、やたら派手なので戦闘時以外は付けないけど。恥ずいしな。

 ちなみに《LoW》には四つの種族が存在しており、《人族(ひとぞく)》、《竜族》、《魔族》、《神族(しんぞく)》と組み分けられている。

 蛇足だが人族以外の三種族は、条件がそろえば飛ぶ事も可能だ。

 人族は所謂俺達人間と全く同じの種族。攻撃的な魔法――もとい魔術、回復する事ができる様なサポート系の魔法、法術(ほうじゅつ)も使う事ができない。さらにステータスも低いうえ、何の取り柄もない。しかし、《儀式霊装(リチュア・ウェポン)》と呼ばれる、自分の特性などによって創られるアイテムを手に入れる事が可能だ。

 それは儀式を行った本人にしか使用する事が出来ず、型にはまる事のないもの。所謂オーダーメイドが手に入るのだ。オンラインゲームで。

 他にメリットとすれば、小道具などを作る事ができる。簡単に言えば人族という種族は武装強化、アイテムの作成など、全体のバックアップ・サポートに向いている種族と言えるだろう。

 次に竜族。これは素のステータスが四種族の中で最も高い種族だ。基本的に魔術、法術の両方を使う事が出来るが、上級魔法などは使う事ができない。戦闘では竜族ならではの技術、《気》。それによって体力や防御力、攻撃力の強化を行い、パーティの盾役(タンク)がメインとされているけれども、物理面でのアタッカーとしても活躍している。

 続いて魔族。簡単に言ってしまえばノウキンのような種族で、火力特化。魔術を最も得意としており、竜族には劣るものの物理的なステータスも高い前衛タイプ。魔術もあるため中距離支援にも回る事ができる、パーティでいうところのメインアタッカーだ。

 最後に神族。サポート魔法、法術を得意としている種族で、パーティ全体の治癒術師(ヒーラー)。しかし、強化法術(バフ)を付与することで魔族と同レベルの力を出せる。

 魅力的な種族ばかりが後半に並んでいるけども、俺が選択している種族は魔族だ。

 レベルが最上限に達すれば、《転生》と呼ばれるイベントが発生する。その時に俺は人族から魔族になる事を選んだ。

 ……まぁ、そこでまた最初(レベル1)からになるわけだが、それはまた別の話だ。

 続いて世界覧の話になるけども、種族と同じ様に人界、竜界、魔界、神界が存在し、その中間地点――交共世界《トリニティ》と呼ばれる、各世界とを行き来する事の出来るいわゆるターミナル的な世界が存在している。

 トリニティでは各世界の種族が交流を深める中立地帯となっており、いざ他の世界へ行ってしまえば種族同士の戦闘に巻き込まれる可能性すらある。

 ……のだが、現在は魔界、神界は停戦協定を締結し、竜界は中立的な立場であるため戦争は滅多に起こらず、あるのは――人界との戦争のみだ。

 そんな所から、人族が他種族において警戒される様な立場であることは明白だ。

 が、実際トリニティへ来てしまえば人族の差別なんて気にならないほど関係は温厚。まぁ毛嫌いする他種族も少なくはないが、ある程度存在は認められている。

 なので、人族の初心者プレイヤーはまず、育成のためにトリニティへやってくる事が多い。

 それに初心者なので、右も左も分からず、しかも種族間の事情もあまり知らない者が半数以上を占めているので、この様に他の種族からは温かい目で見られているのである。

 ……まぁ、事情を知ってしまったうえで、そこからどうするかは、その人次第なんだけどな。

 ちなみに現在俺が拠点にしているのは交共世界トリニティ。

 円形に造られた世界と同名のこの都市は、時計回りに三分割されており、北東から南東までが交易区、南東から南西までが商業区、残りは居住区となっている。

 規模で言うのなら東京一区程度だろうか。アインクラッドの第一層程度には広い。

 交易区には他世界を行き来するための空艇を留める場所も存在するので、隣も商業区とあってかなりにぎやかだ。たまにフリーマーケットなども開催されているので、武装面での戦力増強もし易い。

 また、商業区には規模の大きい店から小さい店まで所せましと並んでいる。小・中規模の店の殆どがプレイヤーが経営する店となっているけれども、デパート並にデカい店はほとんどが中身の居ないキャラ(NPC)などによって経営されている。

 そして居住区。その名の通りプレイヤーの居住区となっているが、宿屋や小物店なども存在しているので、正直値段は高くなるが殆どのアイテムは揃う。

 とまあ、ここまでがこの都市の大まかな説明なんだが……。

 この都市の中枢には湖が存在し、街との架け橋の先には巨大な城がある。

 訓練城トリニティ。城の様な出で立ちをしているものの、土地は真四角で広大。初心者から中堅へ成り上がるために存在する、学校形式の教養施設であり、その運営もまた、プレイヤーが行っている。

 その運営陣の中に、俺の友人達が在しているのは、言うまでもない……。

 

 

            †

 

 

「……教官、か……」

 ログインして目を見開いて、第一声がそれだった。

 髪を縛った状態で横になっているので、そこそこ痛い。

 むくりと上体をあげて、後ろ頭を掻き毟りながら、ぱたぱたとスリッパの音を立てて木目調の部屋を歩く。

 ドアを開けば廊下。その先へ歩いて行けばオープンキッチンのついたリビングだ。

 都市郊外に広がる草原フィールド。そこにぽつんと存在するレンガ調の一軒家だが、ここがなかなかに居心地がいい。

 後ろには緑豊かな森林が広がっており、玄関から出れば草原が広がっている。

 かまどに火を入れて温めておき、丁度いい温度になったところで先日作って保存しておいた、クッキーの様に平たくして、チョコチップを混ぜたパンの生地を入れ、玄関から外に出る。

 人族だったころの名残で家の隣に作った畑を利用して作物などを育ててはいるが、アイテム作成の速度をあげる種族スキルなどがなくなってしまったので育つのが遅い。

「ん~……キュウリはまだだな。トマトは、獲れそう……か?」

 そろそろナスも植えるか、なんてぶつぶつ言っていると、土を踏む音が遠くから聞こえた。

「あ、センパイまた畑いじってる。おじさんくさーい」

「趣味なんだよ、ほっとけっ」

 俺は苦笑しながら立ちあがり、声の主へと振り返る。

 マロンペースト色の髪をした、いかにも新米剣士の様な服装をした少女。

 武装と言えば右肩に掛けてあるショルダーガードに、胸部を守るアーマー。服装は白のシャツにピンクと水色のチェックスカートといった彼女は、腰の後ろには一般の剣士が使う片手剣を提げていた。

「よく来たな。なんか食ってくか? 今パン焼いてたんだわ」

「マジですか!? いただきますっ!」

 と、菜桜――もといナオは翡翠色の目を輝かせながら我先にと家の中へ入っていく。

「っはは、現金なヤツめ」

 俺は苦笑しつつ肩をすくめながら腰に手をあて、その様子を見守ると、焼きあがるタイミングを見るべく歩き出した。

 

 

「いやぁ~堪能しましたー」

「七時回ってんのにこんなに食われるとは思わなかったわ……。夕飯、食べなかったのか?」

「食べましたよー? でもでも、センパイの作るパン、すっっっごい美味しいんですよ! 別腹ですってこれ!」

 というより、先ほど作ったパン――チョコチップクッキーパンは、所謂市販の『メルヘンハットのみみ』を参考にして作ったものだったのだが、俺の周りに居るみんなにはかなり好評だった。

 詳しい事は分からないが、VRゲームでは食事もできるので、ダイエットにも効果がみられる。

 まァ、現実世界の味をゲームの中で再現するにはかなりの熟練度が必要だけれど、クローズドベータから参加している俺にとってはちょちょいのちょいで、ネットにも「これとこれを組み合わせたら醤油ができる!!」なんて記事もあるくらいだ。レシピなんかごろごろ転がっている。

「やばいですよセンパイ、わたし太っちゃう、VRで!」

「いやそこはもう食うなよっ。みんなの分無くなるだろ!?」

 そういって五枚目を手にしたナオに待ったをかける俺。

 ざっと二十枚程度は焼いていたが、まさか四分の一を持っていかれるとは思わなかった。

「また今度パンの試作会あるから、その時にたんまり食わせてやるよ」

 都市の商業区でパン屋を営んでいる友人からの誘いを思い出し、彼女へと伝えると、「ほんとですか!?」と木製のテーブルをばんっと叩いて立ちあがる。

「ああ。近くなったらまた連絡するわ」

「やったー! ナオちゃん大勝利ー!!」

「はぁ……何に勝ったんだか……」

 と、俺は椅子の背もたれに寄りかかりながら苦笑を浮かべ、リビングにある時計を見ると……そろそろ集合時間の十五分前になっていた。

「さて、時間も近いし出るか」

「はーい。センパイ、ごちそうさまでしたっ」

「あいよ」

 俺は自分の飲んでいたコーヒーを一気に煽り、ナオの食器とマグカップと共にシンクの中に置いてある桶へ沈めておく。

「バイク大丈夫だっけ、お前」

「あっ、センパイフェンリル使うんです!?」

「まぁな、流石に都市の外から徒歩っていうのは時間的にもきついし」

 俺はアイテム欄から黒いキーを取り出し、くるくると回転させながら外へ出る。

 家の戸締りを確認したあと、そのキーを宙へと投げた。

 次瞬、黒塗りの大型バイク――某人気ゲームとのコラボで数量限定配布されたものだ――フェンリルをオブジェクト化し、それに跨る。

 そしてナオも俺の後ろに乗り、脇に手を添えた事を確認すると原作御馴染みの速度で走り出す。

「ひゃあっ、飛ばしますねっ!」

「そりゃ時間ないしな!」

 大体俺の家から都市の入り口まで普通のバイクで五分。そして目的地には更に五分かかる。

 幸い乗り物用に舗装された道路も存在しているので、特に事故などもない。あったとしても軽く轢かれた相手が吹っ飛ぶ(でも安全圏内なのでノーダメージ)だけである。

 で、どんなに急いでも目的地までは合計で二十分はかかるところをなんとフェンリルでは半分前後で到着する。

「ほら、着いたぞ」

「わぁ……。さすが、速い」

 五分なんて中世洋風の日本とは異なる街並みを意識しなければすぐで、これといってどこかへ停める予定もないためその場でオブジェクト化を解除し、鍵の状態へ戻す。

 俺達の目的地――。訓練城トリニティ。

(ここに来るのも、ほとんど一年ぶりか……)

 その城を見上げひとつ息を吐いた俺を、ナオは心配気に見ていた。

「あの、センパイ……?」

「ん?」

「………」

 俺は小首をかしげながら何かを言い淀んでいる彼女の言葉を待つが、軽く俯いたままなにも口にしないナオが少し心配になった。

「あぁ、別にわだかまりとか、確執とかそういうのは一切ないからな? 今の俺は完全に自業自得だし、謝って済む問題でもないしな」

「センパイ……」

「とりあえず、学院長のとこ行ってくるわ。お前はみんなと合流しておけよ?」

「んぅっ……。は、はい……」

 ぽんぽんっとナオの頭を軽く撫でてから踵を返し、俺はそのまま訓練城の中へと入っていく。

 赤絨毯にレンガ調の壁。いかにも中世洋風の城の中といった造りだが、現実と最も異なるのは……。

『なんだァレオン、お前また戻ってきたんか』

『くすくすっ。相変わらず女の子みたいな髪してるのね、可愛い♪』

「余計な御世話だよ、ったく」

 動く銅像、喋る絵画。まるでどこぞの魔法学校の様で煩い事このうえない。

 廊下を擦れ違う、訓練場へ通う生徒達も俺の事は知っているようで、その場で立ち止って一礼してくる人もいたり、ひそひそと影で話している者もいる。

 正直堂々と歩けそうにはなかったので、そそくさと三階に存在する学院長室へと移動。

 ちなみにこの訓練城はおよそ十階建てであり、各階層ごとに使用する武器種によって振り分けられたクラスが存在する。

 例えば刀剣類。その中でも槍、片手剣、大剣など、やや細分化されてゆき……。およそ百クラスはくだらないという場所だ。

 かといって一クラスの生徒数はそこまで多くはない。花形である刀剣類や魔導具などを使う魔法使い系のクラスは人気が高いが、その他の棍や斧といったマイナーな武器種のクラスは極端に少ないのだ。

 それこそ、俺は鎚を使っていたけれど、クラスメイトは俺以外に三人しかいなかった。

 人数が少ないうえ、剣クラスなどの喧騒を羨んでそっちに移籍する人もいたりで、最終的に俺一人しか残らなかったな。

 閑話休題。そんなこんなで学院長室へと到着し、ドアをノックする。

『どうぞ』

「失礼しますよ、っと」

「む。なんだお前か」

「なんだとは御挨拶ですね」

 ベージュ色のローブに身を包み、色素の薄い金髪をした女性は、大きな執務机の前で手を組んで俺を迎え入れた。

 俺は苦笑を浮かべつつ襟脚に手を当てつつ彼女を見ると、その人物はくすっと笑ってその手を解いた。

「すまない、呼んだ手前こんな反応をするとは失礼だったな」

「いいですよ、別に。……例の件、請けに来ました」

「そうか、それは助かる」

 彼女……谷原星亜の姉、星奈ことシェーレさんは立ちあがり、俺の元まで歩いてくる。

 星亜の出したお願いとは結局、星奈さんと菜桜からの要請であり、この学校の教官として今後は行動してもらいたい、というものだった。

 星奈さんの使うシェーレは神族であり、妹の星亜も同じ種族だ。その上、俺が人族から魔族へと転生したことで、神界の上層部は俺を徹底的にマークするようになった。

 最終的に下りたのが、このトリニティの郊外にある一軒家に住まい、一定の行動を監視されるという状況。

 そのうえこの度神族、魔族、竜族の三種族が理事を務める訓練城トリニティの教官として、後輩達を育てる役目を担わされたわけだ。

「務まるかどうかは激しく不安ですけどね」

「ふふ、まあそう緊張するな。相手は一人だ、気負う事はないさ。なんといってもリアルで面識があるだろう。気まずいのなら妹もつけるぞ?」

「んなハッピーセットみたいな言い方せんといてください……」

 苦笑を浮かべる俺を上機嫌に笑うシェーレさんは、肩を叩いて部屋の外へと歩き出す。

「せい……シェーレさん、どこへ?」

「どうやら集まったようだ。君の教え子のもとへ案内しよう」

 振り返った彼女は微笑みながら踵を返し、ついて来いと言う。

 俺はしぶしぶ後ろ頭を掻きながらポケットに手を突っ込み、彼女のあとを追うのだった。

 

 

「よう、来たな」

 先ほどの入り口には、彗、留美を除いたいつもの顔ぶれが揃っていた。

 シェーレさんと共にやってきた俺へ歩み寄り、黒いタンクトップの上に文字入りの白いシャツを着込み、下にはジーンズといったラフな格好をしながら肩を組んだ銀先輩……もとい《銀太郎》は、竜族。姿形もリアルとはそう変わらない面子だが、銀先輩だけはネコミミが付いている。

「お待たせ。いつも早いわね」

「今日はナオがうちに来たからな。バイク飛ばしてきた」

「そうなの?」

「はい! パンも御馳走になりました!」

 次いで腕を組みながら俺へと半眼で微笑んだ星亜ことセラは、ナオと談笑を続ける。

 ……なんと表現すればいいのか困るが、ナオ、銀先輩以外の全員は黒いスーツと言った格好。まあ、これがトリニティでの教官を務める者の正装と言われる以上、仕方がないのだが。

「……べ、別に面倒くさくなったわけじゃないんだからねっ」

「一人でなに言ってんだおめえ?」

「いいや、なんでもない」

 俺は銀先輩から視線を逸らしながら、みんなの元へと向かう。

「留美と彗は?」

「二人とも用事だ。まあ、一応声は掛けたんだけどな? ナオが」

「そっか……。まあ、この時間帯は忙しいだろうしな」

 仕方ない、と俺は苦笑を浮かべながら後で差し入れに行こう、と思った。

 彗ことフェル、そして留美ことフォルテはこのトリニティで鍛冶錬金屋、というものを二人で営んでいる。主にこれは武器の強化や作成などではなく、回復アイテムであるポーション類の販売や、武器の特殊能力付与を行う、所謂エンチャント屋、といったところか。

 基本的にフェルが一人で仕事をしているのだが、フォルテによるコネクションのバックアップがあるために一躍有名に。今では知る人ぞ知る名店となっていた。

 すると、予鈴である鐘の音が背後の城から鳴り響いた。

「それじゃあナオ。あまり根を詰め込み過ぎない程度に頑張って。あとで様子見に行くから」

「はいっ、教官!」

 またね、と言って歌唄――カレンがナオの型を優しく叩き、城の中へ入っていく。

 その後ろに続き、天先輩ことエミリアが俺へぽそっと耳打ちする。

「にしても、傭く……レオくんがお師匠様かあ。ちょっぴり不安かも?」

「なんだったら先輩でもいいんですよ?」

「うひいいっ。後方火力に接近職の指導なんてムリ!!」

 シニカルに笑みを浮かべた俺がそう言うと、顔を真っ青にしてお断り! 的なリアクションを取るエミリア。

「冗談言ってないで教室向かってくださいよ、待ってますよ生徒」

「はーい。またね、レオくん」

「はいはい」

 俺は溜息を吐きながら、ちらっとカレンの方を向くと……。

「………」

 擦れ違いざま、待っていたとばかりに彼女と視線が合い、誰にも見えない絶妙な角度で俺へ軽く手を振った彼女は、そのまま顔を正面へ向け、歩いて行く。

「……おう」

 これは、俺も真面目に鍛えてやらないとな。

 なんだかやる気が出て来た。

 そうこうしているうちにナオの前までやって来ていて、やる気満々、といった様子の彼女は

「センパイ、これからよろしくお願いしますっ!」

 と、大きく一礼したあと、顔をあげえへへっと笑って見せた。

「おう。ビシバシ行くから、覚悟しとけよ」

「ふっふっふ。臨むところです!」

 よし、と俺は満足げに頷き、シェーレさんの方へと振り返る。

「んじゃ、シェーレさん。こいつの事、暫くお預かりします」

「ああ。存分に鍛えてやってくれ。励めよ、ナオ?」

「はい! 頑張りますっ!!」

「おうおう、その意気だ。頑張れよ?」

「ウッス!」

 シェーレさんと銀先輩の激励に二様の返事をしたナオは、一礼して「行こっ、センパイ!」と俺の手を引く。

「っと……んじゃ、銀先輩」

「おう。困った事があったらいつでも呼んでくれよな」

「まあ当面は打ち込みだけなんで。それなりの時間は貰いますよ」

「構わねえさ、待ってるぜ!」

 俺達は互いにサムズアップすると、俺は踵を返してフェンリルのキーを投げた。

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