【完結】ムシブギョー 十二ノ刀   作:一ノ原曲利

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すこし短め。スマホ執筆&投稿だからかもです
先日ゲーム5人√攻略しました! あとは裏√…!


十三太刀目

 錆 九散就任祝賀会から数日---江戸の町に、夏が訪れていた。

 いくら江戸が東日本とはいえ、真夏ともなれば暑い。関東地方でも南に位置し、そして人口密集度において最も高い都市であるが故に、江戸町の暑さはたまったものではないのだ。火事用に設けられたら水路や川の水位は下がり、唯一ときおり吹く風に揺られる風鈴の音が、人間独自の共感覚によって涼やかな気分にしてくれる。

 

「ホンッッット…夏は毎年あっついわねぇ…」

「僕もこんな服だから熱が籠もって……」

「カカッ……酒が無くなんのが早ぇよ…」

「じ、自分津軽出身ですがこんな暑さ屁でもありませ……ん…」

「あらあら、無理しては駄目よ」

 

 夏の暑さは万人平等、つまり蟲奉行所「市中見回り組」の者達にも降り注ぐ。

 火鉢の忍装束は防御を完全に削いだ機動力特化型であるためかなりの薄着なのだが、肌が露出している分太陽の日照りが直に当たっている。肌に滲み出た汗が蒸発して塩が出たっておかしくない。

 天間の法衣は蟲奉行所お勤めの証として、陰陽道の流れを汲む者として着衣義務がある。十二単とまではいかずとも、四重にも着重ねられた法衣は体から放出された熱を滞留し、体力を奪う。

 春菊の服装は中でも一番夏場に適した格好であるが、やはり流れる汗を止めるのは至難の業らしい。飲めども飲めども乾く喉は、手持ちの酒瓶では足りないようだ。

 仁兵衛は元より出身が比較的年中涼やかな津軽であり、江戸の気候は少々応える。津軽内でも最も暑苦しい親子と呼ばれた片割れではあれど、自慢の我慢強さも江戸の夏には適わないらしい。頭を下げながら地面に突っ伏している。

 しかし、九散は別格だ。

 

「く…九散ぅ…アンタなんでそんなに涼しい顔してんのよ…」

「ついさきほど町を見て廻った際にこんなものを貰いまして。美味しいですよ」

 

 九散は手に持っていた桶を皆の前にどかりと置く。桶には塩漬けされた胡瓜(キュウリ)、茄子、トマト、オクラが水に浸かっていた。九散はその一本である胡瓜をかりっ、と噛んでは咀嚼する。

 

「これは…何なんですか九散殿?」

「夏野菜よ。美味しいからみんなで食べましょう」

「でかしたぜ九散ちゃん!」

 

 春菊を筆頭におのおの桶から野菜を手に取りかぶりつく。水に浸けていただけに、取れたての瑞々しさが口の中に広がり野菜独自の美味しさが染み渡る。

 

「お、おいしい! 胡瓜の塩漬けがここまで美味しいなんて…!」

「僕っ野菜嫌いだけどこれは美味しいっ!」

「ついさっき取ったような新鮮さがあります!」

「いい酒の肴になるぜこいつぁ! 酒が無いのが残念だ…」

「あら、でしたらこちらはどうかしら。さっき届いたものだけど」

 

 九散の着物の裾からスルリと一升瓶が出てくる。銘柄には『明星』と書かれていた。

 

「(ど…どうやって隠してたの…!? 遁甲…かな…!?)」

「ン…知らねぇ銘柄だな」

「信州にいる知り合いから送られてきたものよ。味は保証するわ」

「カカッ、じゃあ頂くとするか」

 

 栓を抜くなり一息で四割まで飲み干した。だが口に含み飲み込むなり、春菊の表情は驚愕に満ちる。

 

「んおおっ、こいつは…!? ……九散ちゃんよ、とびっきりヤベェ酒持ち込むじゃねえか。もう他の酒飲みにくくなんぜ」

「あらあら、しばらくはその酒をご贔屓に。まぁ夏だし、飲んで二日三日もすればまた他の酒も飲めるわよ」

「くそー…もっと味わって飲むべきだったぜ。あといくつある?」

「届けられたのは五本。内一本は将軍様に、一本は蟲奉行様に、もう一本は小鳥さんに献上するとして、あとの二本はお好きにどうぞ」

「小鳥ちゃんのは要らねえから俺に寄越せよ」

「僕がどうしたって?」

 

 ギクリと春菊の体が強ばる。ふと蟲奉行所の宿舎を振り返ると糸目眼鏡に鳥頭こと松ノ原 小鳥が悠々と歩いてきた。

 

「あら、小鳥さん。実は先日信州から送られてんぐぅっ」

「信州? 信濃かい? …春菊くん、なんで九散くんの口塞いでるの?」

「ななななななんでも無ぇぜ小鳥ちゃん!! そ、それより野菜どうよ!? 最近暑いから体にいいぜ!?」

「おっ、胡瓜に茄子…いろいろあるね。これどうしたんだい?」

「こちらは九散殿が先ほど江戸の下町を見回りした際に町内の方々がくれたみたいです! とても美味しいですよっ!」

「(いい加減離しなさいよ)」

「(わ、悪ぃ)」

「(代わりに後で何か一つ私の言うことを聞きなさい。『明星』と交換よ)」

「(うげっ…わぁったよ)」

 

 九散と春菊の間に密約が交わされた。これも酒の為だと思い、春菊も渋々了承する。顔では嫌がっているが、九散の着物の裾から新たに出てきた一升瓶を貰うと喜色満面になる。

 

「そっか…九散くんが就任してからもう二週間経つけど、すっかり奉行所とも江戸のみんなとも馴染めたみたいだね」

「あらあら、私も皆さんが優しい方で安心しましたわ」

「ま…私たちはともかく、町のみんなはアレじゃない? 前の御前試合で盛り上がったこともあるでしょ」

 

 御前試合。九散と無涯、夢久、影忠の四人が大盆で繰り広げられた撃剣の神楽。誰もが心躍り魂を奮わせた一戦でもあった。因みに五人目の変態は観客達の中では(主に男性陣が)暗黙の了解としていなかったことになっている。何故だろうか。

 

「まぁそれもあるかもね。おっ、この胡瓜美味しい。兎も角、江戸に馴染めてくれてなによりだよ。それにそろそろ…」

「…そろそろ?」

 

 言葉を濁す小鳥に首を傾げたが、ふと西から感じた何かに気付き、九散は西の向こうを睨みつける。そこに見えたのは、巨大な蟲。江戸城が小さく見えるほど巨大な蟲の姿。視認するなり、その蟲が起こしたであろう地響きが江戸に襲いかかる。

 

「あらあら…大きいわね」

「しまった…去年より早いとは…みんな! 行くよ!」

「わかったわ! ってあれ、仁兵衛は!?」

「颯爽と突っ込んでいったよ……」

 

 う お お お お お お お お お !! と蟲がいる方向から仁兵衛の雄叫びが聞こえる。程なくして、雄叫びが悲鳴に変わって江戸の空に響き渡った。

 

「あら、あっという間ね」

「あンの馬鹿が……!!」

「……まぁ仁兵衛くんなら大丈夫だろう! 早い内にあの蟲の足止めをしないと!!」

 

 小鳥の号令と共に駆け出す。だがその内でただ一人、春菊だけは動かなかった。

 

「…春菊くん?」

「……クソが…」

 

 ただならぬ雰囲気を感じ取った小鳥は心配して駆け寄ると、背筋も凍るような声が聞こえた。怨嗟や呪詛にも似た呟きが零れる。

 

「……俺の酒を…俺の楽しみをォーーーーー!!!!」

「……あらあら、見事に割れてるわね」

 

 春菊の足下には二本の一升瓶が破砕していた。ばらばらになった硝子には、至高であったであろう『明星』の酒がばらまかれていた。蟲の地響きによって手が滑り、落としてしまったのだ。かつて『九十九斬り』と呼ばれていた彼の血が騒ぐ。背中に背負っていた二振りの刃こぼれした刀を抜き放ち、狂気を纏って駆け出す。

 

「身に腐りやがってあのクソ蟲がァ…上等だ、ブッ殺してやるよ…酒の怨みってモンを見せてやらァアアアアアアアアアア!!!!」

「春菊さんいい空気吸ってるわね」

「いつもより凄い怖い……! 目が血走ってるよ…!?」

「あ、多分それお酒飲んでたからよ」

「春菊くん気合い入ってるなぁ」

 

 

 

 

 

 




今回はちょっとした日常話(!?)春菊さんが刑士郎枠に入りましたね。高津神出せるかな?(嘘)
益荒大兜登場ですね。少々本編とは異なる可能性大…というか、スーパー九散ちゃんタイム?

※6/19訂正
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