【完結】ムシブギョー 十二ノ刀   作:一ノ原曲利

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先日の少なかったんで今日張り切っちゃいましたwww
なかなかいいBGM無いなぁ…他作品の挙げるかな?


十四太刀目

 

 江戸町蟲奉行所――夏の陣。

 人、獣、蟲、命あるものすべてが最高期も盛りを増す頃に襲来する城塞級巨大蟲に対抗する措置である。数年前から度々襲来する巨大蟲こと『益荒王兜(ますらおおかぶと)』こそ、江戸の民にとって恐怖と畏怖の権化であり、夏の訪れを強制的に知らしめるものであった。九散は小鳥からことのあらましを聞きながら『益荒王兜』の行進による地響きの中を疾走していた。人混みが流れる反対方向へ走っているが、『市中見廻り組』にとってはなんら問題無い。

 

「城塞級の巨大蟲が出現した際には、僕たち蟲奉行所にある規則が適用されるんだ」

「具体的には?」

「蟲奉行所最大にして最高の個人戦力を保有する無涯くんを除き、他の者達は町の人たちの避難や退路の確保、怪我人の治療など、市中見廻り組の名の通り町の人たちを守るんだ」

「ふぅん……」

 

 冷や汗をだらだら流しながら答える小鳥を一瞥し、九散は不満そうに鼻を鳴らして正面にいる『益荒王兜』を見据える。江戸の民が阿鼻叫喚の地獄に巻き込まれて逃げ惑う中、喧しく思った『益荒王兜』がその巨大な足を振り下ろす。足の長さは江戸城の高さを遙に凌駕し、足裏の大きさだけでも民家数十…否、数百軒分の広さがある。この大きさでは踏んだ際に巻き起こる風圧だけでも相当な被害となるだろう。だが、それは敵わなかった。

 

「末吉! 為吉! 全力つっぱり!!」

 

 巨大化した天間の式紙がそれを防ぐ。二週間前の時点で天間の法力による式紙の力は蟲奉行所一と言われていた。その実力を遺憾なく発揮し、自分たちの何千倍もある巨大な蟲の足踏みを真正面から受け止めた。

 

「うぐぐぐぐぐ…! こいつ…去年より強い…!」

 

 だがそれもいつまでも続かない。小鳥も気付いていたが遠目でも確認できた様に、去年江戸に襲来した『益荒王兜』より一回り大きい。それはただ身体が大きいだけでなく、力もあるということだ。法力が籠められた二体の式紙に皺が入る。だがそこに。

 

「〝紫陽花(あじさい)〟玉!」

 

 火鉢の爆弾が炸裂する。通常の花火で打ち上げられる火薬の何倍もの威力を持ち、火鉢が生まれ育った忍の里で独自に開発された爆弾は『益荒王兜』の脚力を僅かに上回り、押し返す。『益荒大兜』からすれば、足踏みをしようとして少し強い風が吹いて止まった、くらいだろう。だがその一瞬の静止が、いけなかった。

 

「懺斬り!!!!」

 

 天を覆う程の足の先が、斬撃で埋め尽くされた。足の全壊とまでは言わずとも、『益荒王兜』の足の一節の、更にその先を木っ端微塵に斬り裂いた。蟲特有の体液が僅かに流れ、それが斬撃を放った主である春菊の頬を伝う。その感触を味わった春菊は狂気に顔を歪めた。

 

「オイそこのデケェ図体した蟲さんよォ……覚悟はいいか」

 

 更に斬撃が飛ぶ。それは二重、三重と数を連ねるごとに少しずつ木っ端微塵となる層を増やしていった。

 

「懺斬り!! 懺斬り!! 懺斬り!! 懺斬り!! 懺斬りイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィ!!!!!!」

「小鳥さん、あれどうなのかしら」

「怒りに燃えていて完璧に周りが見えなくなってる…!!」

「コラ恋川! アンタの仕事はそんなんじゃなくて江戸の町民の避難誘導!」

「酒の恨みィ……晴らさせてもらうぞォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 話を全く聞いていない。そのせいで春菊が分解した蟲の足が二次災害となって下にいる民衆達に降り注ぐ。

 

「あああああああやっぱり駄目だってやめなさいって…!!」

不斬(きらず)――斬らぬこと『(じゅう)』の如し」

 

 ぱんぱんぱんぱんぱん、と小鳥の耳元で火縄銃が連続で発射されたような銃声が響いた。鼓膜が破られそうで思わず耳を塞いでしまったが、その銃声は民衆の蟲の欠片を(ことごと)く粉砕した。隣で九散が両手の人差し指と中指を口元に寄せてふぅ、と息を吐いていた。

 

「結果的に助けてくれたのはいいけどなんで僕の耳元でやるのかな……!?」

「あらあらごめんなさい、何分喧しかったものだから」

「わざと!? それ絶対わざとだよね!?」

「春菊さん止めた方が良いかしら」

「僕のことそっちのけ!?」

 

 ガン無視である。耳のことでがみがみ五月蠅い小鳥より、怒りに狂っている春菊のほうが気に掛かった。

 

「正直止めた方が無難なんだけど…ただでさえ人数の少ない『市中見廻り組』じゃ、猫の手も借りたいくらいだわ」

「そうね、このままだと江戸町への被害と春菊さんの危険度も増すわ」

「アイツ自身の?」

「と、いうより無事に生きて帰れるか」

 

 二人の視線の先では未だ春菊が斬撃を飛ばして『益荒王兜』の身体のほんの一部を斬り飛ばしている。だがそのせいで下の江戸町が半壊、『痒み』を感じた『益荒王兜』が痒みの源泉である春菊を潰そうと足や角を振り回している。そして、空中で刀を振り下ろし終えた技後硬直時に横凪に角が振るわれた。

 

「ヤバッ――」

「いけない」

 

 それに気付いた春菊だが既に遅い。否、遅すぎた。怒りから僅かに目が覚めてハッとしたが、もう角は自分と三間の距離も無い。風圧で飛ばされれば万々歳だが、角の振り方からして直撃は免れない。一瞬、走馬燈のようなものが過ぎった。だが。

 

「しばらく寝てなさい」

「おごっ」

 

 頬に膝が刺さった。九散だ。いち早く危険を察知した九散は地上から舞い散る瓦礫を『針』の特性を利用して駆け上がった。そして僅かに吹き上げる上昇気流を使って空を舞い、空中で硬直している春菊の頬に飛び膝蹴りした。

 衝撃で頭を揺さぶられた春菊は一瞬で気絶。だがそのおかげで『益荒王兜』の一蹴を避け、そして九散も飛び膝蹴りの衝突を利用して後方へ飛び回避に成功。気絶した春菊は再び宙を舞い接近した九散の踵落としで横腹を直撃し(その時悶絶したような呻き声があがったが無視)民衆が逃げている丘の方向へ飛んでいった。

 一名脱落。

 

「なんとかなったわね」

「いやいや他にやりようがあったんじゃないの!?」

「いいじゃない、一名脱落でも一命を取り留めたんだから」

「…うまい!」

「関心してる場合じゃないと思うよ小鳥さん……」

 

 避難誘導しつつ、最強こと無涯が春菊と入れ替わるように『益荒王兜』と対峙し始めたことに小鳥は安堵した。どうやら春菊が邪魔で戦いに参加できなかったらしい。春菊が飛んでいった方向に謝罪をしながらも内心ほっとしていた。あのまま戦闘していたら江戸町に更なる被害が出たかもしれない。

 

「……でも一人抜けて僕含めても四人かぁ…人手不足が否めないな」

「仁兵衛は?」

「…最初に…吹っ飛ばされて多分、瓦礫に埋まってるかも……」

「なにやってるのよアイツ……」

「人手不足でしたら―――これでいいかしら」

「………え」

「…は?」

「…………へ?」

 

 急に、九散の声が大きくなった。いや、正確には大きくなったというより同じ声がたくさん聞こえたというべきか。尋常ではない人気の空気を感じ、小鳥、火鉢、天間が振り向く。

 

不絶(たえず)―――絶えぬこと『(つるぎ)』の如し」

 

 九散が三人の視界を覆い尽くす程の人数に膨れあがっていた。それは組というより既に戦乱における軍規模にまで到達している。さきほどまで話していたであろう本体(?)の九散が涼しげな笑みを浮かべた。

 

「錆 九散総勢千人――皆さんと合わせて千飛んで三人。小鳥さん」

「あ、はい」

「指示を」

 

 思わず敬語で返してしまった小鳥。指示をと言われても…と頭を抱えるが、思い返せば九散はまだ江戸に来て一月も経っていない。自分たちと違ってまだ江戸全土は把握仕切れていないのだ。小鳥は頭の中で江戸町全土の地図、そして女や子供、年寄りの者や怪我で動けなくなっていた者達が何処にいるかを思い出し、描く。

 

「……よし、九散くんの分身…で、いいのかな?」

「その呼び名で問題無いわ」

「わかった。九散くんの分身は独立で動けるね? なら二百から三百を西区に、百ずつ北区、南区、東区に。特に女子供や負傷者を優先的に避難させてくれ! 火鉢くんは彼女達の道案内を!」

「合点承知!」

「よろしくね♪」

「わ、わかったわ…ついてきて!」

 

 振り分けられたおよそ六百人の九散が散開してちりぢりになる。ぴょんぴょんと屋根を越え、空を舞い、家屋を覗き、速くも人命救助に動き出した。

 

「二百人は現在避難場所であるあの丘へ続く道の確保に専念してほしい。無涯君との戦闘で飛んできた落下物や破片の破壊を! 天間くんと一緒に頼む!」

「さぁ行きましょう、天間くん」

「ぶっとばすわよー」

「う、うん……!」

 

 同じ顔の人がたくさんいることに若干恐怖を覚えながらも、御前試合で見た実力を持つ者がいればこれほど頼もしいものはない。早速吹き飛ばして来た家屋一棟がまるまる飛んで来たのを確認した天間は式紙で食い止め、その隙に九散達が文字通り木っ端微塵に斬り裂き塵芥(ちりあくた)に変貌させる。下で民衆達の歓声が上がった。

 

「残りの二百人は僕と一緒に避難場所に運ばれている怪我人達の治療をして欲しい! 着いてきてくれ!」

「人海戦術ね、一人頭三人やれば上出来よ」

「はーい充電できてない人いるー?」

「いませーんみんないつでも問題無いわー」

「充電…?」

 

 二百人の手の内に紫電が走る。九散の『(びた)』による治療はなにも己だけではない。怪我の程度にもよるが、九散の手で患部に触れて電流を走らせれば応急処置は可能だ。あくまでも細胞の活性というこの時代では解明されていないことではあるが、無闇矢鱈に完治させることは身体に良くない。致命傷を抑え、大出血を止める程度であればなんら問題は無いのだ。

 ――こうして、千人の九散と小鳥、火鉢、天間による救助と無涯による『益荒王兜』の討伐によって『夏の陣』は終焉を迎えた―――

 

 

 

 

 はず、だった。

 

 

 

 

 些細な疑問は時に残酷な答えとして現れる。避難場所にいた長福丸は、そう思った。

 それは二百人の九散が避難場所に押し寄せ、その内の一人が長福丸の元に来たことから始まる。

 

「あら」

「おっ…」

「………」

「………」

「……えーっと、盗み聞き変態仮面さん?」

「家重だっ!! …じゃなかった! 俺のことは長福丸でいい!」

「あら、血が流れてるわよ」

「何っ!? この高貴な俺の血が何処から出ているのだっ!?」

「高貴かどうかはどうでもいいけど、膝」

 

 袴をずるずると引き上げると、転んで擦り剥いたのだろうか膝小僧に血がべっとり着いていた。巨大な蟲を目の前にして、いつになく混乱していたのか気づかなかった。

 

「(イヤ待て…コイツはどうやって俺が怪我していることに気付いた?)」

「歩く時にすこし足を引き摺っていたのよ。無意識だろうけど」

 

 九散は家重を適当な場所に座らせると治療に取りかかる。ほんの少しビリッと身体を何かが走って情けない悲鳴が上がるが、出血は抑えたので問題無い。手桶にある水で血と汚れを洗い流し、包帯を巻いた。手際こそ見事だが、家重の悲鳴は何処吹く風である。

 

「はい、おわり」

「貴様…後で殴ってやる…」

「出来るのならばどうぞ? な・が・と・み・ま・る・さん」

「ぐぬぬぬぬうううううう……!!!!」

「ところで聞きたいことがあるのだけど」

「ハンッ、誰が答えてやるか」

「博識にして江戸随一の物知りである長福丸様の知恵をお借りしたいなぁ」

「何でも聞け!!」

 

 チョロイな。着物から覗く胸の谷間を強調させて上目遣いさせれば男なんて一発だ。学問に明け暮れる家重といえど、男の性に逆らえる筈がなかった。ご褒美とばかりに隣に座り、腕を組んで胸に押しつければあっという間に赤面した。コイツ女性耐性無さ過ぎじゃないだろうか。家で艶物書ばかり読んで悶々しているんだろうな。

 

「実はあの巨大蟲のことなんだけど…」

「ああ、『益荒王兜』のことだな」

「『益荒王兜』……つまり兜虫(かぶとむし)のことよね」

「そうだ! この日ノ本で最も大きい蟲でありなんと言っても特徴的なのがあの頭部の角だ、無涯の奴に斬られてしまったがな。あれは己の重さの二十倍もの重さを軽々と持ち上げることができ、雄同士の格闘となれば胴体を泣き別れさせるほど強靱な力を有している!!」

「……格闘は同種だけなの?」

「いいや、一説によれば兜虫と対を為す蟲が存在するらしい。その名は―――」

 

 その後は、続かなかった。いきなり顔面に柔らかな弾触と甘い香りが押しつけられたかと思えば、耳元で轟音が鳴り響き全身を浮遊感が襲った。窒息と浮遊感による吐き気という二重苦が家重を苦しめるが、ふと拘束から解放されたかと思えば地面に落とされた。

 

「おぶろぺっ!! ……ってぇ…オイ貴様!! 下ろすならもっとゆっくり下ろせ!」

「家重様、ここから逃げてください」

「何?」

 

 慇懃無礼な態度から様変わりして、目の前の九散は丁寧な口調で告げた。突然の変わりように首を傾げると、ふと自分たちに影が落ちていることに気付く。はて、無涯が『益荒王兜』を討伐した時はそこまで日が暮れていなかった筈。そう思い空を仰ぐと、自分たちの目の前に巨大な蟲が屹立していた。自分たちがいたであろう場所には蟲の巨大な足が振り下ろされていた。自分たちの背後――ということは、西から来た『益荒王兜』とは反対側の東。

 

「んな…」

「……そういえば、兜虫と対を為す蟲がいるって言ったわよね。なんていうのかしら、アレ」

「……角一本に対し、挟み込む様に存在する一対の鋏のような角……間違いない…!!!!」

 

 その威圧感は『益荒王兜』か、それ以上か。がしいいいぃぃぃぃん、がしいいいぃぃぃぃんと両刃を開閉させながら金属音にも似た不協和音を響かせる蟲、その名は。

 

「……『干城鍬形(かんじょうくわがた)』だっ…!!!!!!」

 

 

 




干城と益荒男は同義語です、ということで
本日は九散ちゃん×1000と長福丸さんへお色気。書いてて「おいそこ代われ」と叫んだ私は間違ってない
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