今回はわりとつまんないです。でもバトルオペラ作家(?)としても連戦前の小休止は必要でしょ!
江戸――太平洋海域。
伊豆にある数百の島々には現在大島・利島・新島・式根島・神津島・御蔵島・三宅島・青ヶ島の七つの島が有人である。そして数百ある内の一つの島に江戸幕府お抱えの島がある。その島の名は――八丈島。島全体が活火山であるが故に人が住めず、しかし活火山という割にはあまりにも生命力が枯渇した島だ。それは島古来からの状態であるが、
「ふぅん……そこに蟲奉行様がいるのね」
江戸湊から出された江戸幕府が持つ最大規模の帆船に乗っている九散は金髪の毛先を弄りながら呟いた。浴びた潮風を鬱陶しげに払いながら、青い水平線を見つめる。現在帆船には『寺社見廻り組』の者と『市中見廻り組』の者が船の整備と航路の確認に奔走していた。
――数刻前、江戸幕府新中町蟲奉行所より一つの伝令が下された。蟲奉行様が潜伏している八丈島に、刺客が向かっているそうだ。その刺客の集団名は『蟲狩』。全国に蔓延る蟲を殲滅する為だけに存在している流浪の戦闘集団だ。実際九散はその集団と会ったことが無い。だが、蟲を殲滅するだけに存在しているという点では『市中見廻り組』の無涯と通ずるところがある。無論、それは気のせいではないだろう。波風に揺らされてぎぃぎぃと木組の帆船が軋む。まるで揺り籠の乗っているような気分だった。『
『干城鍬形』との戦闘後の町だが、九散の腐毒は『干城鍬形』を腐らせるに留まり町にはそこまで被害が及んでいなかった。腐った『干城鍬形』は大量の汚泥となり、更なる腐滅によって空気中に分解され霧散した。まるで蚯蚓が落ち葉を分解した様な感じだった。それほど九散の腐の力が強大であったのだろう。よって江戸町の被害は最小限に留まり、今では倒壊した家屋の立て直し作業に入っている。出来れば蟲奉行所の者達も手を回したいのだが、不運にも九散達が八丈島に向かった直後に蟲の襲来があり、断腸の思いで力仕事なら一番の猛者『武家見廻り組』が船を下り討伐に勤しんでいる。つまり、九散達の今回の任務はかなり切迫しているのだ。『蟲狩』が何故蟲奉行様を狙うのか分からないが――だいたい見当は付く。
必要とあらば『蟲狩』と戦闘しつつ蟲奉行様を救出、その後すぐに江戸へ帰還して蟲の殲滅。人手不足が否めない。だがそれよりも―――
「………」
後ろを振り向く。そこには来た時と変わらない江戸の町が見えた。だけどそれはもう二度と見られないだろうと、非常に不思議ではあるが予感がしていた。それは一種の予知に近いものなのかもしれない。確信とでも言おうか。もしそれが本当なのだとしたら非常に惜しまれることだ。まだ江戸に来て一月と経ってはいないが、あまり
「……ん」
ふと、航路先に奇妙な気配を感じた。さっきまで考えていたことを頭の中から排除し戦闘態勢に切り替える。船頭にいた無涯もそれに気付き身構える。既に塵外刀は抜かれていた。同じく、異変を察知した手練の者達が船首へ振り返る。
船が向かう先――八丈島。その行く手を阻むように、波風立つ水面に一人の男が座り込んでいた。不健康そうに細く、白い身体は生と死の狭間を彷徨っているようで、それだけに男から放たれる殺意は酷くおどろおどろしい。細く開いた目が無涯を捕らえる。
「裏切り者が、船頭してらぁ」
別段、驚く事ではない。この船を遮るという時点で蟲奉行様の暗殺を目論む『蟲狩』であることは知れていたし、無涯が元『蟲狩』である以上裏切り者呼ばわりされるのは至って自然だ。そして水面に座り込むという芸当も、かつて七実が相対したとされる真庭忍軍の拳法のように見えるが、決してそれは完全版ではなく水面に浮かせた薄い茣蓙の浮力を利用しただけである。
この程度、誰にでも出来る。
「いやいやフツー出来ないわよ」
「あら、そうなの?」
「まぁ…ね。アタシは忍の家系だから出来ないこともないわよ」
隣にいた火鉢が苦笑気味に溜息を付く。刺客が行き先を遮るという場面であるにも関わらず冷静に相手を分析し、あまつさえ冗談を言ってしまうほど落ち着いているというのも妙な話だ。いや、本人からすれば冗談では無いのだが。しかし、
「きゃあ!?」
「あら」
斬撃の通過を感じたと思ったら、帆船が解体されていた。雑談に興じている暇は無さそうだ。火鉢は即座に風呂敷を広げて空へ飛び、九散は適当な帆船の破片を見つけて足場にする。船頭が傾いて天を指すのと同時に、無涯と不健康そうな男――
重心を安定させて水面に浮き、冷静に分析していると二人の剣戟が止み船頭に鎌を引っかけてぶら下がった未那蚕がこちらを見た。
「お前さん美人だなぁ……ひょっとして錆 九散か?」
「あら、私の名前をご存じで? 『蟲狩』さん」
「ハハッ、そう警戒すんなって」
ふりふりと手を振って敵意が無いことを示し水面に降りる。敵対しているのに九散にだけは敵意が無い――むしろ、九散にだけは手を出す気が無いようだ。それは実力を知っているが故に手に負えないからなのか。
「実はウチの…『蟲狩』にな、お前さんに用がある奴がいるんだわ」
「……コイツに用だと?」
「おっと、裏切り者が知らないのも無理無ぇよ。だってソイツ等はお前が抜けた後に入ってきたんだからな。……まぁ一人くらいは顔見知りかもしんねーけど」
「どういう意味だ?」
「その刀」
未那蚕は無涯が持つ塵外刀を指した。
「その刀を作った奴…知っているか?」
「………」
「だんまりか…んで、ソイツが戦闘要員として入ってきたんだよ。おや、お嬢さん心当たりあるんかい?」
「……なるほど、ね」
頷く。無涯の刀、塵外刀を拵えた者。それには興味がある。もしかすると、九散が蟲奉行所からの推薦状が送られるまで探していた人物に該当するのではないかと思ったからだ。それは、かつて存在していた伝説の鍛冶職人の血筋。
「…皆さんごめんなさい。その人、私も用があるみたいなの」
軽く腕を振り下ろし、海を割る。『鈍』と『針』の合成によって生み出された斬撃は八丈島へ続く道をつくった。左右を滝の如く落ちる海水を横眼に見つつ、海底が浮き彫りになった道を歩く。その様を見た未那蚕は流石と言わんばかりに口笛を吹いた。
「ヒュウ、おっかねぇな」
「九散くん!?」
「小鳥さん、恐らく私を誘っている人は放置しておけば簡単に蟲奉行様を暗殺出来る人でしょう」
「んな……!?」
その言葉に小鳥のみならず、『寺社見廻り組』の夢久も驚愕していた。夢久は九散の強さを間近で見て、そして完敗した。己を圧倒的戦闘能力で負かした九散が言う言葉だけに、危険性があった。
「……ならばそいつ、貴様ならば打倒し得るか?」
「………さあ」
「ならば駄目だ」
「何故かしら…理由を聞いてもよろしいかしら? 夢久さん」
歩みを止めて返答を待つ。いままで九散は何度か『寺社見廻り組』と蟲退治をすることはあったが、ここまでムキになることは無かった。それは初戦で夢久を負かした上に九散の歯に衣着せぬ性格上言い合いになることはあったが、決して仲が悪い訳ではない。それは馴れ合いでもなければ喧嘩でもない。単に、相性がまずまずなだけだ。
「貴様がそいつと戦いに行くというなら、勝つつもりで行け」
「……あはっ」
可笑しそうに笑う。それは九散の疑念を一気に吹き飛ばし歩みを再開させるきっかけにもなった。そうだ、榊原夢久とはそういう男だった。己の心配などしない。気遣いなどもっての他だ。だが、妥協は赦さない。実に彼らしい。
「ええそうね。勝利を我らが御大将―蟲奉行様のため、この地を凱歌で染め上げて見せましょう」
前に進む一歩を貰った気がした。勿論足を止めたのは夢久の言動が聞き捨てならなかったということもあるが――なにより、これからの戦いに己が切り抜けられる気がしなかったということもあった。下手に予知してしまったが故の、恐怖。二度と江戸に帰れなくなる…それはこの身に想像だにしない災厄が襲うことに他ならない。そもそもそのような予知をいままで感じたことがなかったのも原因の一つ。
既知のようで、まったく体験したことの無い未知の領域。その一歩に踏み込むことへの恐怖。それが一切消え去った。やはり持つべきは友――いや、下僕だ。
「貴様いま失礼な事を思わなかったか!?」
「あら~そうだったかしら? ま、私にそこまで言ったんですから…当然、夢久さんもあの程度はやっつけてくださいよね」
あの程度かよ、と九散に指された未那蚕が溜息を付く。同時に夢久の顔が強張った。ざまあみろと心中ぼやいて、それを尻目に一気に駆け出す。駆け抜けた道を即座に海水の濁流が押し寄せる。断たれた退路は振り返らない。前に進み続けると決めたから。
なんか今回は書く手が拙かった……あれ、もう完全にバトル一色に染まってやがるなぁ
そして追記としてやっぱりタグにめだか入れといて正解だったと自負しているナリ