【完結】ムシブギョー 十二ノ刀   作:一ノ原曲利

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 前回から一週間…申し訳、ありませんでした…!!(昨日見た半沢直樹さんみたいに)
 先週一週間は一貫して体調が悪く、バイトでも碌に力が出ず燻ってましたね
 それでは、どうぞ!


二十一太刀目

 

 

 

「魅せてみぃ、■の■よ」

 

 砂嵐の渦中にいるような壮絶な雑音が聴覚を支配されている中で、九散の脳に微かにその言葉が明確に響いた。

 おそらく、今の言葉は参猿本人の意思で言ったわけではない。確証はないが、そう感じる。痛みが脳内許容量を超越しているせいか、不思議とそんなことを考えることが出来た。全身の皮膚感覚が麻痺している分、千の釘から立ち昇る血煙が唯一生きている嗅覚を否応なしに刺激していたが、正直それすらも曖昧になってきた。手足のみならず鼓膜、頭蓋骨、眼球すべてが釘に貫かれているせいで生きているという心地さえない。継続的に引き出される電気がかろうじて意識を繋ぎ止めているが、それも時間の問題だろう。

 血が蒸発して死ぬのが先か。

 電気が枯渇して死ぬのが先か。

 それとも―――?

 

「(ここは――)」

 

 どこだ?

 真っ赤に塗り潰された視界が純白に染まっている。否、恐らく肉体はまだ八丈島の麓だろう。とすれば、非ィ現実的ではあるが精神もしくは魂なる物が違う場所へと飛ばされた、というのが正しいだろう。

 黄泉か。

 天国か。

 はたまた地獄か。

 未だに人間を殺めたことは無いが、自然と己が天界へ昇る器ではないと自覚している。人という理から若干外れている自覚があるだけに、少なくとも真っ当な死に方も真っ当な死後も送れないだろう。潰されている喉は精神体でも同じなのか、はたまた精神体には声帯がないのか発声器官がないからなのか定かではないが、声が出ない以上思考するしかない。

 白い光景の眼下には、黒い影があった。この世界に太陽か何か光源たり得る物があるかは不明だが、確かに目の前には影が地を染めていた。己から伸びる訳でも、其処に何かがある訳でも無い。水面をたゆたう月の様に静かではあるが、その影が何者かであることは分かった。

 生気は感じられない。

 ただ、()が己を招いたということは理解していた。

 

「諦めるかね」

 

 影が、語りかけた。だから私は思考で答える。何を? と。

 

「無論、生きることをだ。貴女をこの世に繋ぎ止める最大の要因は生きる意思であり、意志であることに他ならない。素晴らしい…あぁ素晴らしい生き様だ、それは生物としても人間としても原初の渇望だ。しかし――貴女は人間でも生物でも、ましてや化け物ではない」

 

 人でも無く生き物でもなく化け物でもないと来た。では問おう、私は何だ?

 

「刀だ」

 

 ―――刀。

 

「然り。斬るものは選ばず、しかし持ち主は選ぶ。されど貴女に持ち主は必要無い。さてここで一つ問おう、何故貴女は虚刀流の継承者でありながら鑢ではなく錆の姓を賜ったのか」

 

 それは、父が錆の姓だから。

 

「確かにそれは今の時代では必然の(ことわり)と言えよう。母方の姓より父方の姓を得るのは至極当然のことだ。それによって断たれていく名も少なくない、いやはやこれはすなわち盛者必滅の理――実に小気味良い。しかし、貴女にそれは該当しない。なぜなら貴女は刀を扱わない剣術の使い手虚刀流の継承者でありながら唯一、錆の姓を賜り刀を扱かうことが出来る虚刀流の中でも例外中の例外となったのだから」

 

 それは、違う。なぜなら虚刀流は刀を使わない剣術であって刀を扱ってしまえばそれは虚刀流とは言わなくなる。叔母である鑢 七実が悪刀『鐚』を用いた時の様に、四季崎記紀の呪力は末

裔まで延々と呪い続ける。初代も、二代目も、三代目も四代目も――そして、九代目も。

 

「そも、果たして貴女は本当に虚刀流九代目当主と言えるのかね。貴女が語る十二使刀流は確かに虚刀流の通り、己を刀のように扱うという点では共通したいわば分家だ。しかし、完成と完了の融和。これが何かを起こすと思わなかったか? そう、それは造り手さえも予測できなんだ事態であったか――否、これは必然有り得たことだろう。そしてその思想その理念その発想全てが電子回路の如く直結した瞬間こそが、貴女に課せられし使命の発露と言えよう」

 

 使命? それは、父が言っていた『思い出せ』という言葉と関係あるのかしら。

 

「然り然り、その使命こそが貴女の魂に刻み込まれた記憶だ。そも、貴女が十二使刀流を編み出す経緯云々はともかくとして完成と完了の融和はすなわちこの次元における■■の誕生に対抗すべく生み出された対の存在でありながら同一の存在に他なら無い。――だが、私は此処までしか知らない。微力にも及べぬ私を罵ってくれたまえ、■の■よ」

 

 ――何故、貴方はそこまで私のことを知っているのかしら。それに、会ったことなんて一度たりとも無いのに昔から知っている気もする。

 

「かつて貴女は言った、何事にも止ん事無き世界は絶妙な均衡によって保たれているのだと。ならば己が使命を思い出すまで白痴のままで世界に呑まれてからでも遅くはないと。世界に溶け込んだ上で、世界の特異点を――■■を退治するのが最も歪み無く世界を正せるのだと。嗚呼、貴女の輝かしさは正に我が女神のようだ。魂のあり方こそ、進んだ道のりこそ異なるがそれは同時に我が盟友の如き至高の存在であることに変わりはない。故に、八人の中でも()()()に貴女に会えたことを光栄に思う」

 

 二番目?

 

「おや、常日頃我が息子とその配下に相見えているではないか。自覚が無かったかね? 貴女も刹那を愛するわが息子――そう、()()の名を賜った者達に」

 

 ………まさか。

 

「未だ刹那と会った自覚が無いと仰るならば、私としては好都合だ。何せ私が一番に貴女と出会い、我が法を授けられるのだからな。貴女はさきほど忍に悪刀『鐚』の定義を問われたであろう? 定義――ふふふ、実に奥ゆかしくも人の身で決めつけるには甚だしきものだ。しかし……定義、定義か。雷の吸収から全身へ電流を流すことによる細胞活性、超回復。貴女は肉体の活性化と再生、瞬発能力の向上こそ『鐚』の真髄だとお思いではないかね。では――こう考えるのはどうだろうか? 卑しき畜生共によって貴女の傷付いた御身は『鐚』によって再生したのではなく、戻ったと。肉体活性による治癒速度の向上ではなく、御身が傷付く前の状態に戻ったのだと。未来への加速ではなく過去への巻き戻しが行われたのだと。そう即ち――回帰だ」

 

 回帰。つまりは――時の逆行。

 何故、貴方はそこまで私に助言をしてくれるのかしら。強いられているのならば謝罪の場を設けるわ。

 

「否――私は可能性の追求者だ。力添えにはならずとも、誰かの礎になれるのであれば嫌はない。ましてや至高の女神に準ずる魂とあらば本望なのだよ」

 

 そう言って、真っ黒だった影から一人の男が実体を現す。水面にたゆたう影から出てきた男は実に細身で、まるで絞り滓。輝かしき者の背後に指す影のそれという印象だった。舞台袖に佇む黒子でもなければ観客でもない。指揮する者でありながら常に影から出ることの無いような男だ。そして、背後を指し示した。

 

「さぁ戻り給え――否、戻れというのは的確ではないな。()きたまえ、貴女はまだここに来るべきでは無い」

 

 ――ありがとう。

 

「礼には及ばぬよ。これでも私はよく詐欺師だの魔術師だのと囁かれている身だ、あまり私の言葉を信じなさるな。あぁ――恐らく、貴女はこの後二番目の試練が待ち受けているであろう。唯一注意点があるとすれば、未知なるものこそ疑え、ご都合主義をいつまでも過信なさるな。貴女に、幸多からんことを」

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 ()()に気付いたのは参猿だった。全身から飛び出た千の『釘』は思いの外、肉体に負荷が掛かっている。一対一でも一体多でも、この圧倒的弾幕を目の当たりにすれば、大概の敵は殲滅し得るからだ。参猿も曲がりなりにも忍、格上であろうと九散にしてやったように心理戦に追い込み不意打ちを喰らわせればなんてことはない。全身骨格、肉体に歪みが無いことを確認し、絶命しているであろう九散を見て目を見開いた。

 

「―――は?」

 

 『釘』が、刺さっていなかった。

 それどころか、己の肉体に千本の『釘』がある感覚がある。肉体の歪みは修正されたのではなく、始めから無かったことになっているのだ。満身創痍どころか、まるで貒狸(みだぬき)と戦闘する以前――否、海蛇と戦闘する前の状態に戻ったようだ。

 

「不死――死なぬこと『鐚』の如し――()()()()

 

 死んだと思っていた筈の死体が蘇る――まるで悪夢のような光景だ。三日月の様に裂けた笑みを浮かべた九散は両の手を左右に広げて参猿へ迫る。それは雄と雌の求愛行動の一環にある生易しい抱擁なんかではない、処刑人の如き断罪の一撃への布石だ。

 

「まったくゥ…ある程度予想してはいてもいざ目の前で起こるとビビるもんやなぁ!」

 

 恐らく、これが己の中に住まう四季崎記紀の残留思念が言った■■■■の理――しかし、参猿の手で引き起こされた『釘』による負傷の巻き戻しを行ったのであれば、必然己の肉体内に『釘』がまだあるのであって。

 

「今度こそ正直に標本にでもなっとれや、穿刀貫体(せんとうかんたい)!!」

 

 全身から生えた『釘』は火中の栗の如く参猿を基点に全方位に放たれた。通常では有り得ないような複雑で多角的な軌道を描いた千の『釘』は弾幕の嵐となって九散の全方位を取り囲む。上下左右を千本の『釘』が飛び交い逃げ場を無くし、徐々に動きを制限していく。まるで『釘』そのものが結界だ。そして回避不可の千撃が殺到する。

 が―――九散は、静観して軽く腕を凪ぐ。

 

「不砕――砕かぬこと『鈍』の如し――超過駆動」

 

 ――弾幕の中心に、九散はいなかった。代わり、真っ赤な血の涙を流した九散が参猿の眼前に迫っていた。

 

「嘘…やろ…」

 

 九散の背後では獲物を逃がした『釘』が互いに衝突し合っていた。

 漆黒に染まった肌、反転した眼球、血の雨を受けたような深紅の髪と瞳。目の前に迫り必殺の一撃を屠らせようとする九散の姿は二度、見覚えがあった。一度目は御前試合の神楽において無涯との戦闘においてその異形の姿が見受けられた。二度目は城塞級巨大蟲『干城鍬形』との戦闘において破格の拘束力と無秩序な腐毒を出してみせた時の姿だ。だが、同じ姿ではあれど先の二件とは比べ物にならないほど異常だと肌で伝わった。全方位、蟻でさえも逃れることの出来ない『釘』の結界を、どうやって破ったのか? それこそまるで、時が止まったとしか――。

 

「(嗚呼――)」

 

 なんや、満足なんか。コレをあんさんは待っとったんやね。

 本懐を成し遂げた、その一端でもみれただけで満足だと、そんな感情が伝わってくる。己の内にいる四季崎記紀の残留思念が歓喜に打ち震えているのだ。徐々に残留思念が抜け消えていくのと、目の前に迫る死の塊を見て、参猿は笑った。

 

「――よかったなぁ」

 

 両腕が、鋏のように交差した。

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「やっぱりね」

 

 倒れた参猿の胸元を見て、九散は呟いた。参猿は、息をしている。殺していないのだ。胸元の忍装束をばっさりと斬り裂かれて大の字に倒れた参猿は、ぼーっと空を眺めていた。

 

「……ちょい待ちぃ、なんでワレ生きてんのや」

「確かめたかったことがあるのよ、貴女も薄々()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「はて、なんのことやら」

 

 シラを切ってみせた。元の姿に戻った九散に先程の威圧感が無いのか舐めた真似をしてくれる参猿の態度にカチンと来た九散は後の世で大成される反則柔道技・足がらみを喰らわせた。参った参ったと名前を掛けたように参猿は手で地を叩き付けた。

 

「参った、参った――って参猿ちゃんが言っちゃっとうでおっかし…ってあ痛ぁ――!? わかった、わかったからお情けで許して~!!」

「全く…反省の色も無いわね。聞きたいことが幾つか――いえ、これはもう答え合わせでいいでしょう」

 

 技を掛けつつ九散は仏頂面で言う。

 

「やれやれ…『三感の参猿』とはよく言ったものだわ。海蛇ちゃんが皮膚感覚、貒狸さんは…嗅覚かしら? それで、三人目である貴女が視覚、聴覚、味覚だったわよね。なんとまぁ嘘をヌケヌケと付いたものだわ」

「それがどないしたん? 真庭鵺組全員、五感を操る専門家の忍やで?」

「それが本当に三人なら、でしょう?」

 

 九散は斬り裂かれた参猿の胸元を指す。そこには九散が先程の戦闘で付けたにしては深過ぎる×(ばつ)字の斬撃痕があった。まるで、電熱にでも焼き切られたような。

 

「鵺とは確かに『平家物語』源 頼政が紫辰殿上で射抜いたとされる頭は猿、身体は狸、尾は蛇の姿をした妖怪のことを指すわ。でも、妖怪ではなくその人の有り様を指すのであれば――また意味合いは変わってくる」

「ほうほう、どんな?」

「――転じて正体不明なものであり、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これを解釈と唱えるならば、真庭鵺組は三人でありながら一人、一人でありながら三者三様の姿を見せる忍ってことよ。その胸の傷が決定的ね、それは貒狸さんに付けた傷よ」

「半分、正解やな」

 

 降参~、と言いたげに両手を挙げて宙に泳がせる。足がらみから解放させると、神妙な顔をして観念したようにぽつりぽつりと言葉を零した。

 

「ウチは――じゃない、()は一つの身体で三つの精神を生まれながらに持ってた訳じゃないのよ。生まれて戦国の世を三人で生きてきて…途中事故に巻き込まれて、それぞれ大けがを負った……でも、三人の身体がそれぞれ足りない部分を補うことで生きることが出来たの」

 

 恐らく三人の中で一番幼い末っ子に当たるであろう海蛇は、無邪気に笑いながら言った。

 

「私は――じゃねぇ、俺達ぁ過去、真庭忍軍の忍法の中にあった真庭鳳凰の忍法『命結び』を三人同時で使ったんだよ。生きる時も死ぬ時も三人一緒だ、ってのが俺達の中での誓いっつーか、約束事でな。……オイ結構恥ずかしいんだから笑うなよテメェ!」

 

 次男に当たる、溢れんばかりの殺人衝動を持つ貒狸は恥ずかしそうに言った。

 

「俺――やない、ウチ等の中に残留していた四季崎の力か、それとも真庭忍軍としての血なんか知らんけど…『忍法・命結び』は三人の生命力を束にしてようやく一人分の生を生み出したんや。勿論分化は可能やけど範囲は限られとるし、持続時間も無い。代わりに――」

「思考を統一化、もしくは伝播出来る。だから三人は共通して私に関する情報を得られたし、そして私を罠に嵌めることができた」

 

 三人が別々であったとしても出来過ぎだと思った。それは参猿戦の時、■■■■の理で己の時間を巻き戻した時だ。考えてみれば、『鐚』の再生能力は今まで傷や怪我のみであり、病気や症状までは治していなかった。それはつまり、海蛇戦で潜水病を、貒狸戦で熱中症を患ったことで参猿戦において『忍法・口留(くちど)目眩(めくら)耳塞(みみふさ)ぎ』なんていう偽りの忍法で九散を前後不覚に追い込んだのだ。いや、参猿との心理戦における知恵熱も関わっているのだろうか。

 いずれにしても、見事な手際だったと言える。天晴れだ。

 

「せやけど、九散ちゃん一個見落としてるで」

「何をかしら?」

「鵺は――いや、ウチ等鵺組は確かに三人で一人、一人で三人の忍や。けどな、鵺は蛇と狸と猿の他にもう一匹いるんやで」

「………え?」

 

 それは、すぐにやってきた。茂みを掻き分け木々を薙ぎ倒し全てを蹂躙して迫っていた。派手で、強大で、存在感がある存在なのに気付いてもすぐには動けなかった。

 そのとき、九散は生まれて初めて『恐怖』というものを体感した。

 

「鵺の()()は――虎なんよ。()()だけに、な」

 

 そして、ただ力で奮われた手が参猿の片足を掴み上げてそのまま九散へと振るわれる。ただただ暴力その一つによって、まるで参猿を棍棒のように叩き付けられた九散の肉体が抉られた。その感触を参猿の身体から伝わる衝撃で感じ取った異形の襲撃者が、言う。

 

「新しい」

 

 

 

 

 




 タグにめだかボックスがありますよね?(確信犯)
 次回、八丈島の変最終話になります。これが終わって最終章が4~5話…長かったなぁ
 刀語は先々週見ましたが…何度見ても七花vs右衛門左衛門の戦闘シーンはアツい!
 さて、もう梅雨晴れで猛暑、いよいよ夏の到来となりましたから、九散ちゃんみたいに熱中症にはならないでね!(あれは貒狸のせいか)
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