いやまぁ新番組に見入ってたわけですが、前回のでほとんど力尽きちゃったんですよねコリガ(^^ゞ
『市中見廻り組』及び『寺社見廻り組』合同での蟲奉行の救出、『新中町奉行所』と『蟲狩』の相対、『武家見廻り組』の江戸進行中の蟲退治―――これが、一日の間に起こった案件である。語られない事実として『新生真庭忍軍』の復活、八丈島の消失が挙げられるが、そのすべて諸々は当然のことながら将軍・徳川吉宗公の元に聞き及んでいる。江戸城の最上階、将軍の位に就いた者だけに代々宛がわれる執務室で今回の案件を整理した吉宗は疲労と焦燥で額に汗を滲ませていた。
「(くっ……なんてことだ…)」
心底舌打ちしていた。苛立っている訳ではないが、この状況にまで追い込んでしまった己の不甲斐なさに失望していたのだ。別段吉宗自身に責も咎もありはしない。だが、将軍として部下の負傷は軽んじてはならない。
まず、江戸で二つの見廻り組が席を外している間に江戸町で孤軍奮闘していた『武家見廻り組』。最後まで戦い抜いた尾上影忠を筆頭に全員が負傷。中には重傷者もいて武士としての生命を絶たれた者も少なくない。死傷者がいなかったことと、江戸町から一般市民の被害が無かったことが唯一の救いではあるが、その代償は大きく最低でも一月は『武家見廻り組』は動かせない。背中に守るべき市民を構え正に背水の陣で蟲討伐に勤しみ、普段の倍はいたであろう迫り来る蟲の大群を『武家見廻り組』一つだけで退けてみせただけでも幸運だ。
次に、『市中見廻り組』と共に八丈島へ向かった『寺社見廻り組』。以前無涯が所属していたとされる流浪の蟲専門戦闘集団『蟲狩』の一味と相対し、榊原夢久を中心に『寺社見廻り組』の大半が負傷、もう数名は行方不明。『蟲狩』の一味との戦闘の際に乗っていた大帆船が大破、何人かは海で遭難してしまったらしい。現在幕府から派遣された船団による捜索活動に専念している。救助された何名か、そして
そして、『市中見廻り組』。
「(………まさか…実質蟲奉行所に機能停止とは……)」
機能停止。そう、江戸町を蟲から守る五つの見廻り組の内三つは完全に機能不全を訴えていた。特に『市中見廻り組』の
『市中見廻り組』が与力・松ノ原 小鳥。江戸城屈指の実力者であり居合いにおいては右に出る者は居ないと言われていた彼だが、夢久同様砂浜に打ち上げられていた状態で発見されるも利き腕を骨折し左肩を脱臼、肋骨を四本骨折し臓器がいくらか傷付いており吐血が絶えない。推定完治日数、不明。
『市中見廻り組』が同心・一ノ谷 天間。幼いながら朝廷お抱えの御門家の血を引き継ぐ者として法力に富み、法術において江戸では随一の陰陽師。夢久同様――というか、『市中見廻り組』と『寺社見廻り組』全員が打ち上げられていたのだが、力の源だった法力が消失。一欠片の法力すらも感じられない真人間になった挙げ句両目を失明。全身打撲でそうそう動ける状態ですら無い。推定完治日数、不明。
『市中見廻り組』が同心・恋川 春菊。かつて『九十九斬り』と呼ばれ江戸町を震えさせた大罪人でありながら剣術に優れ、石の切り口が鏡と見紛うと言わしめる腕を持つ剣客。背後からの衝撃か攻撃があったのか、背骨がへし折れ首から下が動かせなくなってしまった。元から全身にあった斬り傷を上塗りしていくように新たに付いた傷から流れる出血は止まらず、一日に数十回は包帯を取り替えなければならないとのこと。推定完治日数、不明。
『市中見廻り組』が同心・火鉢。幕府お抱えの忍軍よりも頭一つ飛び抜けて隠密活動と火薬使いを得意とする忍。忍として――否、人としても最も使うであろう両腕が、肘から先を千切られていた。頭が衝撃を受けたのか言語がはっきりしないらしく、目覚めたとしても満足に話せる状態では無いだろうと言われている。推定完治日数、不明。
『市中見廻り組』が同心・月島 仁兵衛。『市中見廻り組』の中でも錆 九散についで新人、未熟な所はあれど尚武に燃え自己研鑽を怠らず日ノ本一の剣客を目指す侍。『市中見廻り組』が負傷する前から『蟲狩』の一味との戦闘と不可解な覚醒によって気絶。利き腕である右肩がざっくり抉られており二度と武士として生きることは出来ないとのこと。腕こそあるが手に力が籠めることが出来ず握力が付かなくなってしまった。推定完治日数、不明。
『市中見廻り組』が同心・無涯。『市中見廻り組』ならず『新中町奉行所』の中で最強と謳われている元『蟲狩』の一味にして最強の武士。身体こそ数カ所の怪我で済んではいるが、全員が被害を被った存在の気に当てられたのか全身を呪いのように覆う黒と白の刺青が精神を蝕んでいた。そして致命傷として手にしていた塵外刀が真っ二つに折れてしまい復元はおろか折れた刃を利用することすら出来ない。推定完治日数、不明。
「(ここまでで死傷者が出なかった、そして今でもまだ死者が出ていないのが本当の救いだ。だが……)」
吉宗はある一人の少女の顔を思い浮かべる。金の髪、端整な顔立ち、誰よりも着物が似合って見えて、それでいて無涯と実力伯仲の戦闘力を持つ驚異的少女。
「(彼女一人でも助かっていれば、なんて言わぬ。だが何故彼女だけがいないのだ……!?)」
『市中見廻り組』が同心・錆 九散。前々日本最強の錆 黒鍵と前日本最強の鑢 七実、日本最強の鑢 七花の血筋でありその流れる血に応えるように遺憾なくその実力と猛威を振るった少女。彼女だけが、八丈島から戻らなかった。八丈島消失の件でどうやら謎の爆発で島が消え去った際に同じ被害に遭ったのではないかという死亡説が九散の消失の暫定的仮説としてあがっている。他にも『蟲狩』に入った裏切り説や敵前逃亡説もあったが言った己が反故するようだった。当然だ、いくら気分屋に見えても『享保の神楽』を演じて見せた九散を見れば、自然とその可能性が無いことに行き着く。
結果、件の蟲奉行は確保出来たが一人の命を失い、蟲奉行所の実質壊滅と同時に九散を除く全員の命を救えた。
だが、まだ油断してはならない。
「(………報告では、一向に傷が治らないそうだが……)」
そう、治らない。
八丈島に向かった者の全員が推定完治日数はおろか、傷が塞がる見込みさえ無いらしい。精神的なものやちょっとやそっとでは治らない大怪我ならまだしも(といっても殆ど大怪我同然なのだが)、些細な傷一つさえも塞がらず絶えず血は流れ痛みは持続するなんて想像を絶する。これならばいっそひと思いに死んでいれば、などと思ってしまった。
「……吉宗公、おるか?」
「その声……入って良いぞ」
襖の向こうから聞こえた声に勘付いた吉宗は、己の額を濡らす汗を拭うと入室を許可した。襖が開き、足音立てず静かに入ってくるのは白磁の肌と髪を持つ幻想的な女性、蟲奉行そのひとである。姿は二十歳も行かぬ幼き少女に見えるが吉宗は知っている、彼女が己が生まれるよりも前から生きていたことは。
八丈島から戻ってきた者達の中で唯一怪我が少ないが故に動け、そして同時に口が効く者である。だが袖口から覗く包帯が、負傷した蟲奉行所の同心達と同じく傷が治らないことを証明している。
「容態はどうだ、蟲奉行」
「芳しくないが…妾のことはいい、皆は……一向に回復の兆しを見せん。そして………九散殿は、まだ見つからないのか?」
「………彼女は、殉死した。そう伝えた筈だが…」
「だったら、なぜ捜索者の一覧に九散殿の名があるのだ……お主も…いや、皆信じておらぬのだろう? 錆 九散の死を」
「………」
そう、誰一人として錆 九散の死を信じるものはいなかった。暫定的結論は、あくまでも暫定的だ。つまり如何様に覆す――否、覆してみせるということを暗に示しているのである。故に暫定的。そもそも、満身創痍とはいえ九散と神楽を交えた無涯が身体を残して帰って来たというのに九散が帰って来ないなんて有り得ない、有り得てなるものか。
「……しかし、彼女が帰って来たとしても当分蟲奉行所は瓦解状態だ。八丈島からの帰還から一週間が経過し奇跡的に蟲達の襲撃が無いから良いが、こんな状況では数日と経たず江戸は崩壊する」
「………分かっておる」
「…本当か? 蟲奉行、貴女の救出で想定外の被害が出ただけでなく、『蟲狩』によって蟲としての能力も奪われているのだろう。年端もいかぬ小娘に成り下がった貴女にこの江戸町を守る力は…」
「分かっておる!!!!」
凜とした声とは掛け離れた怒声が響いた。その声に怯むことなくしかと蟲奉行の恨みがましい視線を、吉宗は受け止めた。
「分かっておる…分かっておるよ!! 妾のせいで多くの人が傷付き、妾が無能なばかりにこの江戸を窮地に追い込んでいることなどな!! だからといって元凶である『蟲狩』が悪いなどと責任の押
し付け合いをしている場合ではない……!!」
瞼に溜まっていた雫を零しながら、言う。
「ただ……何も出来ない妾が恨めしい…!! 傷付いた者に何も施せない妾が、誰も守れない妾が憎いのだ……!! このまま、何も出来ぬなんて赦せぬ!!」
「そんじゃ、どーにかしましょか」
「……何!?」
「貴様っ…!?」
突如、その声は天井から聞こえた。吉宗と蟲奉行が仰ぎ見れば、猿のお面を被った袖の無い忍が天井に貼り付いていた。片足を失って尚その体勢を保てることこそ驚きだが、正体の知れない忍の侵入に吉宗は警戒し刀を抜く。そして侵入者の正体を知る蟲奉行は怒りの眼差しを向けた。
「貴様…『蟲狩』の一味だな…!? 九散殿と戦っていた…!!」
「おう、よー覚えてくれたんかい。そら感謝の極みやな」
「蟲奉行…知り合いか?」
「…報告にあった、忍だ」
「おっとととと、今回は蟲奉行とやらの暗殺でも将軍様の暗殺でもあらへんで」
「…何だと?」
よっこいしょ、と天井に貼り付いていた忍――真庭 参猿は片足で床に降り立つなり封書を差し出し、頭を下げた。
「今日はお二人にお話があんねんな」
てなわけで新章開幕!新章のタイトルは次回明かします!
今回の話…薄いなぁ、前回のが効いたかぁ…(いろいろな意味で)
今忙しいので前回の感想は後々返信します! おい我がPCよ、ログイン何回すれば感想書けるのだァー!?