【完結】ムシブギョー 十二ノ刀   作:一ノ原曲利

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 えぇ一週間も更新できず申し訳ありません(ぺこり)
 お盆は家族で関西、一日目に出雲、二日目に大阪、三日目に京都と三本尽くしで楽しんできました。くわしくは活動報告でいずれかのサイトに書くかと思われます
 お盆旅行もとい、最後の家族旅行終了後もお目付け役の兄が未だにわが家に居座り、さらに週末には検定もあるからいろいろとどたばたな日々です。おまけにバイトも復活してしまいましたからさぁ大変、休み寄越せ俺正社員じゃないんだぞ
 そんなわけで、大変お待たせしました最新話『西征篇』前半、どうぞ






二十七太刀目

 

 

 

【推奨雅楽:我魂為君】

 

 

 ――東軍。

 此度の『西征』において『攻め』と『守り』のどちらもをこなさなければならないのが東側に配置された兵達である。最も兵力を集めた方角であり、最も蟲達を侵攻させない方角。なぜならば彼等の背中には蟲共の猛威に怯える彼等の家族達がいるのであり、まさに背水の陣であることに他ならない――心理的作用として通常の責務に倍の働きをしてくれる、と八穂は言っていた。『西征』よりすこし遡った話ではあるが、『西征』が行われ『東の防壁』と名高い紀州藩に到達するまで行進した全軍で道行き跋扈する蟲共を皆殺しにしたのである。もとより蟲撲滅を掲げた『西征』、江戸から本州の太平洋と日本海を一直線に並ばせる長蛇の列で行進し取りこぼしの無いように関東、中部、東北――東日ノ本全土における蟲を根絶やしにした。これにより軍隊の背後から奇襲されない、東日ノ本にいる家族が安心して暮らせる、『西征』への肩慣らしという三つの利益を得たのだ。

 当然、幾度と無くその猛威を目の前で見てきた、立ち向かってきた一般人とはいえどまだ蟲退治に慣れた訳ではない。ならばと手始めに未だ東日ノ本に跋扈している蟲共を片付けられる程度の気概でも見せねば、人ではなく蟲が棲まう魔界である西日ノ本へ攻め入ることは出来ないであろう。故に、特に農村や町人など一般から来た志願兵や新米の町奉行所の侍達を向かわせ、夢久・影忠・忠相・鈴閣の監視下の元になんと犠牲者無しで事を成し終えた。

 東日ノ本の蟲撲滅ということで一気に祝杯を上げんと盛り上がりを見せたがあくまでも本命は『西征』。つまり日ノ本の国全土の蟲を根絶やしにするのが目的であることに相違ない。従って祝杯は全てを終えてから、と将軍吉宗公が進言し皆は明日に備えた。

 そして、翌日。

 朝日と共に『西征』が幕を開けた。

 

 

 松坂和歌山城の門を開錠し飛び出した兵は一気に北上する。現在蟲共が支配している地の境界線は畿内の摂津・和泉・河内、山陰道の但馬・丹波、そして彼等がいる南海道の紀伊である。総勢九十万の全軍を更に三分割しそれぞれの藩に設置された対蟲進入防止用に組み込まれた防柵をくぐれば、そこは人外魔境の蟲の国。封鎖されて以来二度と開かれることは無いであろう防柵の門を持ち上げれば、幾重にも重ねられた城塞級の蟲でも突破できない程の分厚い壁がせり上がり、大人数十人が並べるほどの門が開く。

 

「うおおおぉぉぉっぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「お前ら気合入れていけやぁオラァ!」

「最後決めた奴が討伐数入れるって規則忘れんなよ!? あ、でも全員手加減とかすんなヨ!!」

「一番殺しつくした奴が千両だぜ死ぬなよ!?」

「ああそうだ、帰ってさっさと酒飲もうぜ酒!」

「ええい小童共真面目にやらんか!」

「一匹残らず殲滅せしめろォ!!」

「これ終わったら…俺、告白するんだ…!」

「ひゅーひゅー! 全員で祝言上げてやるぜヒャッハー!」

「ってお前まだ告白段階なのかよさっさとくっついちまえよ!」

「これが終わって生き残れたらなぁ!」

 

 ――志願兵と奉行所の侍達を胡麻塩のように軍に織り交ぜて突撃。

 

「飛行型の蟲共を優先的に撃破しろ! 味方に当てようとはするなよ!!」

「了解!」

「砲撃よぉ――いっ!」

「俺の震える手が引き金を引くぜ……!」

 

 ――その補佐をすべく防護柵越しに夢久が率いる寺社見廻り組を中心とした砲撃部隊が砲撃。前線を広げつつ砲台ごと前進させる。

 

「だりぃしここじゃ星なんぞ落としたら迷惑か……あーだりぃ。だりぃけど蟲を()()()方がだりぃから――目障りだから、逝ねや」

「大×(ばつ)ですね。貴様等の相手は私ですよ害蟲共」

「蟲ケラどもがぁ……! ここがお前等の墓標だ、わが剣の前に沈むがいい!」

 

 ――万が一一般の兵でも手に負えない大型蟲が現れた場合、北奉行所率いる鈴閣、南奉行所率いる忠相、武家見廻り組率いる影忠達が率先して討伐。

 三段重ねの策を弄し、蟲共を殲滅する。

 

「まず我らが目指すは巨大繭がある大阪城! 前進あるのみッ!」

「全員、生きて帰って来いよぉっ! 生きるのを諦めるな、逃げるな!」

「「「おうっ!!!!」」」

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 ――西軍。

 蟲共が最も跋扈している地、畿内から最も離れた地である西海道を薩摩に縁を持つ鎧海族団達が担当つするのは至極当然の流れと言えた。築州、豊州、肥州、日州、薩州、対州、壱州の七つの国を擁する本州から切り離された島国は現在の江戸幕府でもその全容を把握仕切れていない。否――記録は残ってはいるのだが、蟲共に支配されて百年余り経過した今となってはいくら万全を期して向かったとしてもとても攻略は出来なかっただろう。特に、近年江戸幕府は外海からの脅威よりも陸地に棲まう蟲共の討伐に勤しんでいたわけであって、海上戦を得意とする水軍を持っていなかったのだ。

 ならば――得意な連中に任せるのが無難であろう。海の略奪者と言えども、蟲によって日ノ本の国が滅んでしまえば奪うものも無くなってしまう。ここは一時停戦を張り、あくまでも人間と蟲との全面戦争に臨むことで互いの利益を獲得しようというのだ。海を支配する賊と太平を築く幕府が手を結んだのは前代未聞の出来事であった。

 道中北軍の船を切り離して西海道に西海をぐるりと囲むように、鎧海族団の大船団計七十隻が海上で配置していた。陸地からは既に蟲共が暴れまわっているのが海岸線から見え、数里も前進すれば大型の蟲ならば噛み付けるほどの距離である。

 

「おーおーおー、もう夜明けかぁ」

 

 背後から陽光を浴びた鎧海賊団団長こと校倉 要は自慢の鎧甲冑を着込んだまま腕を組み、仁王立ちで船首に立つ。その方角こそ要の因縁の地・薩摩であり、団長である彼自らが最も攻略困難かつ超長距離である薩摩から一番槍に攻め込むのである。

 手始めに肥州、薩州から攻め入り徐々に東へ詰め、西海道の蟲を殲滅したら残っている船と蟲の死骸で長州へ橋渡しをして東へ突き進む計画だ。道中海上からの砲撃を頼りに陸地を支配するのが最も困難と言えるが、そこは彼等と共に来た武装巫女集団の出番である。

 仁王立ちする要の後ろから、ひょっこりと黒白の巫女服を羽織った色白童女――凍空 こなゆきがにんまりと笑顔を覗かせた。

 

「あららららら要お兄ちゃん、そろそろうちっちらも準備しなくちゃですかね?」

「おぅ……いやしかし、激しく心配なんだがその……本当にやるのか?」

「はい!」

 

 えらくいい笑顔で言いやがった。

 『西征』を――ではない。もとより要は義父である校倉 必の仇を討つべくしてこの『西征』に参加したのだ、今更及び腰になっているわけではない。では何故、鎧甲冑を着ているのに分かるほど動揺しているのか。

 

「だぁって、ほら…八穂さんが言ったじゃないですか。これが接岸しないで有効的に攻め入れられるって」

「そうなんだが……いやそこで流されちゃあいけない様な空気なんだが……」

「じゃあいっきまっすよー」

 

 悶々と悩んでいる内に、後ろから鎧ごと要を()()()()()。その光景におおっ、と後ろから歓声が上がる。同時に要と同じように鎧を着込んだ船員が腰を引かせているが、背後に立つ巫女に捕らえられていた。

 

「うっわ…ホントに持ち上がったよ…」

「団長の鎧は特別製なんだぜ? その重量をなんとまぁ…」

「ヤベ、早速俺ブルってきたわやめていい?」

「大丈夫、全員私達が逃がしませんから」

「鬼待遇だマジやめてぇー!」

 

 背後から徐々に船員達の阿鼻叫喚と巫女達の妖笑が木霊する。蟲と戦う前から危機に追いやられている気がする。

 

「案外軽いですね要お兄ちゃん。まぁ砲丸よりは重いかもしれないけど」

「あーあー…段々怖くなってきた。こなゆきさんよ……今から普通に攻め込むってアリでいいか?」

「無しです」

 

 きっぱりといい笑顔で宣告されたと同時に、鎧甲冑を纏う巨体の要は()()()()()()

 

「うぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「がーんばってくださいねー!!」

 

 こなゆきの手で投げられた要は天高く舞い上がり、やがて放物線を描いて落下していくと落下地点に蟇盆(たいぼん)に蠢く蛇の如く群れを成して跋扈していた蟲共を押し潰し、無事に薩摩の地へ着いた。

 至極簡単なことだ。こなゆきの腕力によって海上から兵を投げて送り出し、陸地の蟲共を粗方片付けてから海岸の安全を確認して接岸、総勢約四千という東軍の次に多い大軍を安全に陸に上がらせ進軍させるのが今回の作戦である。

 原則として、今回の作戦は発案した八穂が誓約として道中作戦配置につくまでにこなゆきが()()()発射させた砲弾が全て蟲を撃ち落していなければ通常通り砲撃で牽制しつつ接岸し各個攻め入る作戦になっていた。だが今回は珍しく気合を入れたこなゆきのありがた迷惑な行動によって船団に近付く飛行型の蟲を全て撃ち落してしまったがために、今回の作戦は決行せざる得なかった。

 

「さぁて次の人、いっきますよぉー!」

「嫌だァ! 俺、普通に蟲ぶっ殺してぶっ殺してぶっ殺すから投げるのだけは止めてェ!!」

「大丈夫ですよ、落下してたら十体くらい潰してますか―――らッ!」

 

 ぶぉん、とおおよそ色白童女の細腕が鳴らすとは思えないような振り抜く音と共に次の鎧甲冑を着込んだ男が投げ出された。先陣を切って部下達を安心させようと、団長である要自らが一番に投げ飛ばされる順番であったが――実に逆効果であった。

 

 ――余談ではあるが、今現在『西征』に備えて要達が着用している鎧はいままで着用していた鎧と全く異なる。半月前に行われた会談後、真庭 参猿の提案により四季崎 記紀のキチガイ技術をふんだんに盛り込んだ鎧を売り込みに掛かったのだ。要はしばしそれを拒否していたが参猿が次々と挙げる性能に眼が眩み、遂に真庭忍軍特製鎧甲冑合計七十着を買い取ってしまった。なんと、『西征』を無事に終えたら代金は要らないとのことだ。業腹である。

 だがここで、一つ思い返して欲しい。

 金にがめつい真庭忍軍が見返りを求めないなんてことはあるだろうか。鎧が頑丈さよりも空気抵抗を軽減する流線型に作られている点、高所から落ちても中の人には衝撃が来ない点、腰の辺りに鎹状の取っ手がついている点を見れば、おのずと参猿と八穂が結託しているのが分かるだろう。

 

 ――男は、弾幕張ってればいいのよ。

 

 扱いが酷すぎである。 

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 ――北軍。

 山陽道と山陰道の一部を任されたのは『語られざる歴史』から生き残り、尚且つ先代とは全く異なる変革を遂げた新生真庭忍軍とこの時代における蟲殺しの専門家である流浪の戦闘集団蟲狩だ。西軍の船を借りて配置に付くものの、船の数は五つにも満たないほど少数である。西軍のように大軍に大軍をぶつけて蟲を殲滅するのではない上に、担当する範囲だけで言えば一番広いのである。戦力の多さで言えば東軍、西軍、北軍の順であり幕府側の見解では最も困難とされている。

 だが、それはあくまでも幕府側の見解であって本作戦の発案者である八穂は最も早く片がつくと予想しあらかじめ殲滅し終えたら二手に分かれて攻め入る算段までつけている。なぜならば―――

 

「あややややややややや、海岸線にわんさかいますよ。あたしの黒い旋風(つむじかぜ)でも一掃は無理ですねコレ」

 

 船の上空、人間にはまず無い黒い翼を羽ばたかせる少女は、手元の紙に筆で山陰道の石州辺りの蟲の配置図を記帳しながら呆れ気味に方を揺らす。

 ―新生真庭忍軍真庭(くろ)組頭領・真庭 文丸(あやまる)

 蟲共と並んで人外魔境の妖怪の国から来たとまことしやかに囁かれている少女である。背中から生えた黒翼を羽ばたかせて自由に滑空するその姿はまさしく鴉天狗。真庭忍軍の中でも情報収集と現状確認を担当する文丸だが、小さな旋風一つで蟲を一刀両断出来る点から足手まといになることはまず無い。

 

「また文様はあんな高く舞って…もう少し落ち着いて欲しいものですねってと……直進すれば最低でも大型蟲五匹の手で接岸は阻まれるでしょう、ここから二里西側と一里五分離れた出雲の先の島ならば上陸は容易いかと」

 

 船首に立ち親指と人差し指で作った輪を覗き込むは白髪の少女。的確に指示を送り、上陸先の変更を伝える口調には一分の迷いも無い。

 ――新生真庭忍軍真庭烏組頭領・真庭 走犬(そうけん)

 椛の盾と刀を背負っているいかにも時代錯誤な格好ではあるがなんといっても眼に惹くのは頭に生えた耳。彼女も上空で自由気ままに空を舞う鴉天狗と同じ妖怪、白狼天狗と言われている。千里先まで見通す程の能力を持つと言われている彼女も同じくその能力から情報収集役に抜擢されている。だが当然ながら妖怪であるからでして、天狗の中でも随一の剣の腕を持つ走犬にとって蟲との相手は難しくない。

 

「ふむふむ出雲の離れ小島と西側ね……えーっと、蟷螂っぽいのと百足っぽいの。あと…蜂? 蚊? 分かりづらいわね、あとで蟲狩の人に聞こうっと」

 

 走犬の指示を聞いて船板上に敷いた紙に地名を書き記す。すると書いた地名の上に空いた余白に蟲の絵が克明に写し出された。何も無いところからじわりと浮かび上がる黒の墨汁がその地周辺にいる蟲共の全容が映し出されるなんて、まるで妖術だ。

 ――新生真庭忍軍真庭烏組・真庭 海姫(うみひめ)

 唯一三人の中で最も人間らしい人間の容姿をしており共通点といえば奇妙な帽子(頭襟(ときん))を被っている点か。しかし当然ながら海姫も二人と同じく妖怪の類であり文丸と同じく鴉天狗ではある――が、戦闘力は皆無である。だが文丸や走犬とは違い得た情報を紙媒体で絵として抽出出来る術は重宝されており集団戦闘においては遺憾なく効果を発揮する。なぜならば蟲に関する知識があまり無い真庭忍軍でも絵を蟲狩達に見せればその蟲が何なのかが判明し、効果的な対抗策を練れるからである。

 

「相変わらずあの三人は気楽よなぁ、物見遊山のつもりか」

「さてね、だが我等もそろそろ出陣さ。今のうちに用意するさね」

「私はもう行くぞ。海ならば私の領域だからな」

 

 ――新生真庭忍軍真庭(れい)組頭領・真庭 青龍。

 ――新生真庭忍軍真庭霊組頭領・真庭 白虎。

 ――新生真庭忍軍真庭霊組頭領・真庭 玄武。

 青、白、黒と三色揃いそれぞれの名に乗っ取った意匠を身に着ける三人は新生真庭忍軍でも創始者である真庭鵺組よりも古い。なぜならば彼等こそ、『語られざる歴史』に存在していた真庭忍軍の生き残りであり最古参なのだ。

 青龍、白虎、玄武とくれば大陸の伝説上の神獣、四神四獣を思い浮かべるだろう。日ノ本の国でも平安・平安京は四神相応の都といわれておりそれほど歴史は深い。東の青龍、西の白虎、北の玄武――とくれば、彼等の中にいないのは南の朱雀。そう、朱雀は真庭忍軍では永久欠番となっているのである。それもそのはず朱雀に位置する人物は『語られざる歴史』において殺されてしまったからにほかならない。元来、朱雀はもとより空想上の神獣とされているが朱雀は今でも、他の神獣と同一視されている。それは――鳳凰。

 それこそ、真庭忍軍十二頭領の中でも唯一神と謳われた男――真庭 鳳凰なのである。

 

 新生真庭忍軍真庭(ぬえ)組『三感(さんかん)参猿(まいざる)』『死釣(しづり)海蛇(うみへび)』『爆炎(ばくえん)貒狸(みだぬき)』。

 新生真庭忍軍真庭(おに)組『奔放(ほんぽう)青鬼(あおおに)』『乱神(らんしん)赤鬼(あかおに)』『創界(そうかい)牛鬼(うしおに)』。

 新生真庭忍軍真庭(くろ)組『虚偽(きょぎ)文丸(あやまる)』『千里(せんり)走犬(そうけん)』『迷画(めいが)海姫(うみひめ)』。

 新生真庭忍軍真庭(れい)組『蒼帝(そうてい)青龍(せいりゅう)』『地神(ちしん)白虎(びゃっこ)』『矛止(むし)玄武(げんぶ)』。

 

 これにて、真庭忍軍最高戦力が整ったのである。少数精鋭ながら間違いなく全員が人間の枠を踏み外した超人であることに代わりは無く、だからこそ八穂は真庭忍軍と蟲狩合同軍である北軍こそ最も最初に攻略せしめる軍であると確信している。

 

「しかし鳳凰殿も惜しかったのよな、もし生きていればこんな愉快な戦で金を手に入れられたと言うに」

「そうさね、だがまさか歴史がこんな風に変遷してしまうとは思わなかったさ。忍法・命結びで散々延命し続けた甲斐があったってもんさ」

 

 忍法・命結び――それこそが、彼等に神獣の名を名乗る名誉の証だ。真庭 狂犬のように精神を永遠に伝達することで生き永らえるのではなく肉体的に生き永らえるというある意味邪法に近いそれは、忍の世界でも禁忌の術であった。永遠に生き続ける不死の忍を目的として術の奪い合いが起きてしまっては世の摂理が狂ってしまうと判断した真庭忍軍創世記の狂犬、朱雀、青龍、白虎、玄武はあくまでも表立つ存在を真庭 朱雀から名を改め真庭 鳳凰と名乗り、残りの三人は真庭忍軍の栄枯盛衰を陰から見守り、伝承し続ける忍の忍になったのだ。

 

「あれ、真庭霊組のお二人さん」

「おお、参猿殿か」

 

 すると二人の前に参猿が落ちてきて看板に着地するなり辺りを見回す。此度の戦における助力を乞い、代わりにこの戦の指揮を任された彼女こそ、『語られざる歴史』から消えかけた真庭忍軍の希望だ。

 

「おや、まだ霊組は全員揃って無いんやね」

「む? いや……」

「玄武殿ならここに……」

 

 二人は振り返るが玄武の姿はどこにも無い。そういえば、途中から会話に参加していないことに気付いた。三人は玄武の暴れん坊加減を思い出し戦慄し、丁度海岸で爆音が聞こえて嫌な予感が的中したことを悟った。

 

「何事や!?」

 

 取り合えず分かりきってはいるが叫ぶ。すると蟲狩の一人である蜜月が走ってきて息を荒げながら言った。

 

「アンタんとこの黒い忍がすいすい海泳いで殴りこみに行ったんだよ! 百姓一揆じゃないのよ畜生!」

 

 ああ、やっぱそっかぁ。

 大体分かっていたので三人は冷静に対処した。玄武とはその名の通り亀――臆病で、いつも殻に籠もって外敵からの攻撃に耐える生き物ではあるが、真庭 玄武はなぜこんな奴に玄武の名を賜ったのかと思えるほど好戦的で野蛮な男だった。例えるならば、亀が甲羅を脱ぎ捨ててその甲羅で外敵を殺すといったところか。

 

「え~…じゃあ、戦闘開始っちゅうことで。海蛇、鎖で陸地と繋いで乗り込むで」

「はいッ!」

 

 忍ばない忍、それがいつもの真庭忍軍。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 ―南軍。

 以下省略。

 

「いやいやそれ無いだろ!? こんな広地に一人だけとかもっと言うことあるんじゃね!?」

 

 と、ぐんと呼ぶにはあまりにもお粗末なまさに孤軍、ぼっちの南軍として南海道の阿波、伊予、土佐、讃岐の四つの国を連ねる本州とは切り離された島を担当とするのが――変態剣士、汽口 慚愧(ざんき)である。

 此度の戦における唯一の欠点であり汚点とも言えるのがまさに南軍。だが和を乱し混乱させるような足手まといの元凶を一人だけ別の配置に付かせるのが最善と判断した八穂は正しい。確かにコイツはウチに来て欲しくない、と半月前の作戦会議で全員が感じた。

 

「あーあ。ったく…死ぬ前に九散ちゃんでヌキヌキポンしたかったぜ……俺、これが終わったら結婚するんだぜ! なんて死ぬ奴が言う台詞だよなぁ」

 

 人はそれを死亡旗と呼ぶ。返答してくれる人さえいない事実が一層慚愧の気持ちを急降下させた。南海道の南の海にぽつんと浮かぶ一人乗りの一艘の船の上で、慚愧は溜息をついた。

 

「暇だ暇だ暇だ……なんでこんな目に遭うんだろうなぁ……」

 

 こつん、という音と共に船先が岩場とぶつかる。落ち込み肩を落として木刀を担ぎ、ぶつぶつ言いながら慚愧は岸へ乗り込む。一歩足を踏み入れた瞬間――島中の蟲共が彼の存在を感知し一点に集結し始める。し

 

「だから一人ぼっちはやなんだよなぁ…だってさぁ」

 

 二歩、三歩と歩くごとに比例して慚愧の周囲一帯に蟲が集まる。だがそれに気付いているのかいないのか定かではないが、慚愧は俯いたままとぼとぼと歩く。そして丁度十三歩目を踏んだそのとき――取り巻いていた蟲共が一斉に慚愧へと喰い掛かった。何十もの巨大蟲に埋め尽くされて慚愧の姿は見えない。

 

「手加減が、きかねぇもんな」 

 

 だが、群れを成して殺到する蟲の山から聞こえる声が、彼の生存を告げていた。同時に蠢いていた蟲共の動きが静止し、次の瞬間には額から尾まで一直線に罅割れ慚愧を喰い殺さんとする蟲共を全滅させていた。木刀を握る手は今の一撃で既にボロボロで血が溢れるが、断続的に、そして常に彼の全力を出し続けるのが彼の戦い方である。蟲共の体液で濡れた木刀をぶんと振り回して払う。そして再び肩に担ぎ、死骸に成り果てた蟲を足蹴に様子見として取り巻いていた蟲共を眺めた。

 

「九散ちゃんとのきゃっきゃうふふでにゃんにゃんにゃんな人生を送る為に――お前ら全員鏖殺してやる」

 

 ――彼は、()()()()()彼の地にたった一人で送られてきた訳ではない。むしろ、誰かの邪魔さえしなければ本州から切り離されたこの島を制圧出来るほどの実力の持ち主だからこそ、彼は一人で蟲共を相手にするのである。

 孤影悄然。

 孤軍奮闘。

 一騎当千。

 誰かといれば誰かの足を引っ張ることしか出来ない変態侍は、一刻も早く一人という状況から脱却すべく全身全霊で蟲共と対峙した。

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

【推奨雅楽:修羅残影・黄金至高天】

 

 

 

 蟲共が巣食う日ノ本の国の西側の総本山、巨大な繭に占領された大阪城内で一人の男が腰掛けていた。

 燃え猛る炎のような真紅の髪。紅の衣を身に纏い、左頬に己が掲げた六紋銭の旗印を刻むその姿は見紛う事なき英傑・真田幸村である。かつては武田信玄に仕えし国衆であったが、織田軍との敗北を機に織田信長に降る。後に上杉の下にその身を引き取られ紆余曲折するも大名として独立し、豊臣家の下へ降った。過去の彼の戦歴は凄まじいものであり、其れ故の武勲によって広まった知名は計り知れず遂に『真田十勇士』たる精鋭まで手中に収めたほどである。

 だが彼は、今世の時代を気付く分岐点であった大阪夏の陣で落命したはずだ――ならば何故、彼は因縁の地である大阪城の座椅子に、優雅に腰掛けているのだろうか。死人であれこそ足はある。それだけではない、彼の体は人間のそれよりもむしろ蟲のような強固な素肌と緻密な間接、そして鋭利な四肢が存在していた。

 『蟲人(むしびと)』―――人間達は彼らをそう呼んでいる。

 蟲の肉体をもってして蘇りし死者。歴史に呑まれたはずの敗残者。生きている訳が無い英傑。そのような存在が、何故――

 

「幸村様」

「なんだ」

 

 ふと、座椅子の傍らから唐突に、そして何の前触れも無く声がした。だが瞼を閉じ眠りに入っていた筈の幸村は何一つ動じること無く返答する。足音も無く近付いてきたのは彼の部下、真田十勇士の一人であった――由利鎌之介である。

 否、蟲の肉体となっている今となっては『真田十傑虫』というべきか。蟷螂のような姿をしている彼もまた、蟲人であることに相違ない。

 

「猿飛佐助からの情報です、人間共が一斉に我らが棲まう地へ攻め入りました。東の地は拮抗状態ですが北、そして西の地は徐々に押されつつあります」

「――そうか」

 

 フン、と愉快そうに鼻を鳴らした。傲岸不遜、そして高慢に、しかしその仕草一つだけでも鎌之介は目を奪われる。まるで荘厳なる御神のような黄金の後光は彼が蟲の中で特別な蟲人とは一線を引いて上位の存在であることに他ならない。鎌之介ら真田十傑虫のみならず日ノ本に跋扈する全ての蟲共は、この真田幸村という名の獅子の髭に過ぎないのだ。絶大なる魅力を持つ男こそ、蟲共を統べる王なのだから。

 

「いや、私は王ではない。あくまでも我らが王はまだ眠っている」

「ッ……申し訳ありません、失言でした」

「いや、良い」

 

 そう言うと彼はゆっくりと座椅子から腰を上げる。組んでいた足一本を振り下ろしただけで、僅かに室内の装飾品に皹が入ってしまった。周囲の装飾品は劣化してなおその芸術性を失っていなかったがその芸術性は幸村を前にしては霞んでしまう。だが――否、だからこそ装飾品は刹那の輝きを見せて崩壊する。

 

「そうかそうか――遂に、人間共が攻め込んできたか」

「はい――それも、かつて無い大部隊です。いかがなさいますか?」

「変わらんよ」

 

 羽が開く。その拍子に部屋中に風が吹き荒び、家具は荒れ装飾品がすべて砕け散った。幸村は尚も目を閉じたまま腕を組み闊歩する。

 

「何も変わらぬ。我らが人間の頃よりやってきたこととも、我らが死に冥界でやってきたこととも、我らが今一度現世に黄泉還りこの蟲の肉体をもってしてやってきたこととも。嗚呼、いつの世も世界も変わらぬ。人と世は儚くも脆い。だが崩れ去るその一瞬こそ最も美しくそして光輝いているのだ。故に愛しい。なんと愛しく愛して止まぬのだろうか――卿も、そうは思わんかね」

「その通りです、わが(あるじ)

「ならばわかっておろう。我が軍靴に降りし真田十傑虫よ――丁重に持て成してやるが良い」

「「「ハッ」」」

 

 虚空から鎌之介以外に九人の声が響き、そして瞬く間に気配は消失する。鎌之介も同様に目にも映らぬ速さで城を出て、戦場へ向かった。彼らの楽園、幾戦もの血が流れる王道楽土たる戦場へ。

 

「嗚呼――」

 

 そうして誰もいなくなり、幸村は羽を動かす。一度目の羽ばたきと同時に大阪城の一部が爆破し崩れ去り、二度目の羽ばたきで粉塵と土煙を消し去りふわりと宙に浮かびその身を躍らせる。

 眼下に浮かぶは四方から燃え上がる戦火の炎。血湧き肉踊る闘争と混沌に満ちた戦場を肌で感じ取り、全身を焦がしかねない甘美なる感覚に歓喜し、漸く幸村は瞳を開いた。

 光り輝くは黄金の瞳。この世界で唯一覇道の頂点に立つ男は真紅の髪と漆黒の羽を携えて大阪の空に君臨した。

 

「私は全てを愛している」

 

 

 

 

 

 





 はい、いろいろとはっちゃけました
 まず東○キャラ。名前を逆さにするとあら不思議。本作では江戸に時代より生きし妖怪という設定です……天狗と鬼って仲いいからまちがってないよね?
 次に…プロットではこんなんじゃないつもりだったんだけど漫画でキャラ的に見て脳内修正、更にアニメ見て完全修正といったところですか。いやぁ真黒兄さんも夕方アニメに出るなんて出世しましたねぇ……元はエロゲ出身(だったような……)なのに(笑)
 
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