【完結】ムシブギョー 十二ノ刀   作:一ノ原曲利

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先日は東京行ってたので投稿出来ませんでした。ごめんなさい<m(__)m>


四太刀目

「あら、そうでしたか。それはそれは祖父母共々、なんとまぁ後世に恥じる振る舞いをしたものです。不肖ながら、孫である私めより謝らせて頂きます」

「いっイエイエ! とんでもない、錆様がわざわざ頭を下げる必要無いですよっ! ほら爺さまっ」

「儂ぁー幸せモンだぁ…いつ何時(なんどき)死んでも構いやせん…」

「(あぁ…完璧に骨抜きにされてる……!!)」

 

 いつになく惚ける祖父の醜態に呆れながら、春は差し出した茶と団子を傍らに膝を突いて頭を下げようとする―――いわゆる土下座をしようとしている金髪の遊女のような女性-錆 九散の頭を抑えた。無論土下座なんてさせない為に。

 あれから春自身の記憶にも無いのだが、後に効果音として「ズキュゥゥゥゥゥゥン!」と出そうなことをされて混乱していたであろう自分を九散が介抱したらしい。唇に感じるむず痒い温もりに体の内がほんのり温かくなりながら、春はその違和感を振り払うように大急ぎでおもてなしの準備に取りかかった。

 因みに春が覚醒した後二人掛かりで祖父を起こそうとしたが、既に意識が黄泉の川を渡り掛けてるのか昇天してしまったのか、いずれにしろ再起不能状態と化してしまったため覚醒は断念した。

 そして今回の件を春が説明するなり、茶を啜りながら黙って聞いていた九散は土下座しようとし、今に至る。

 

「あらあら、歳甲斐もなく土下座なんてことをしてしまい申し訳ありませんわ」

「ハハハ…そうですよ、ましてや錆様みたいな美人さんが私達に頭を下げるなんて…」

「あら、本当にお春ちゃんの言う通りね。武士たる者、切腹しなければならないわ」

「いえいえいえいえそのような意味ではありませんっ!! お願いですから本当に止めて………武士?」

「ん? どうかしたかしら?」

 

 九散の口から出た「武士」という単語に春が首を傾げる。話の流れからすると、九散はまるで己が武士であるかのように語った。だが春には芸者として出てもおかしくないような目の前の美しい女性が武士のようには到底思えなかった。

 第一に、帯刀していない。

 そもそも女性が帯刀しているというのも、そうそう見かけたことが無い。確かに(ひとえ)に武士と呼ばれても帯刀する事が原則というわけではない。数々の武勲を修めた者を武士と呼ぶこともある。だが彼女が切腹と言うからには刃物、つまり刀を所持している者――武士と言っているのだろう。

 第二に、九散本人が女性である。

 それは圧倒的に女性より男性の方が力が勝っているのが世の(ことわり)と言っても差し支えないのが現実であり、現に過去女性が(いくさ)に参加したという話など聞いたこともない。この日ノ本の国では古くから男性が戦場(いくさば)で戦うのが常であり、戦う男性の妻や他の女性は拠点で一日千秋の思いで帰還を待つのがもはや当たり前なのである。

 以下の点を踏まえても、春の目から見た九散が武士のようには到底思えない。金襴緞子の衣から伸びる腕は細くすべすべで色白く、当然傷があるはずがない。履き物だって歩くよりもお洒落に重点を置いているきらびやかな下駄は走るどころか歩くことすら容易では無いように見える。

 

「あらあら、そんなにまじまじと見られてしまっては困るわ。恥ずかしいじゃない」

「あっ…! ふ、不快に思ってしまったんでしたら申し訳ありません!」

「いいわ。別にお春ちゃんみたいな可愛い娘に見られるのは嫌じゃないもの。ふふふ……それより何か聞きたそうな顔をしていたわね、当ててあげましょうか」

 

 ぱちり。九散の片目の瞼がウインクした。

 吸い込まれるような碧色の瞳から香る色気に気恥ずかしくなった春は、顔を真っ赤に染めながら土産物屋に売っている玩具のようにコクコクと頷く。

 

「あらあら、素直でよろしいこと。そうね、お春ちゃんは私が武士には見えないって思ったのでしょう?」

「は……はい、そうです。失言でしたらお許し下さい」

「そんなに怖がらなくていいわよ、基本的に女の子には手をあげない主義だもの。それにこんな(なり)だからそういう疑いの目にはもう慣れたわ。でもこうして説明するのは初めてよ」

「そうなんですか…」

「ええ。……そうね、まず何から話せばいいかしら……私の流派が「刀剣を用いない流派である」ってところからかしらね」

「刀剣を…使わないんですか!? それはもう刀の流派でも何でもないんじゃ…」

「常識に囚われない、この世で唯一の刀剣を使わない流派があるのよ。かつて歴史上に存在していた幻の流派…虚刀流という流派がね」

 

 

 

▲ ▲ ▲

 

 

 

「私はその虚刀流の九代目頭首……いえ、どうなのかしら。正確には八代目と言うべきなのかしらね、正統後継者であった母は運動音痴で剣術どころか走ることさえ出来なかったもの」

「そうなんですか……」

 

 春の目から見れば、目の前にいる麗人も到底運動なんて出来そうもない(なり)なのだが、それは黙っておいた。

 刀を使わない剣術。聞いたことがない。

 春も江戸に長く住んでいるが、今となっては帰らぬ人となってしまった両親はおろか、そこで呆けている祖父もそんな話をしたことはなかった。

 

「あらあら、つい長話してしまったわ。ところでお春ちゃん、この文に書かれている場所はどこだか教えて頂けないかしら」

 

 スッと九散は着物の裾から文を取り出し春に手渡す。紙の手触りからかなり上等な質の良い紙であることがわかる。手に取った春は三つ折りにされていた文を綺麗に広げた。

 

「(新中町奉行所…蟲奉行所!? 仁兵衛様と同じお勤め所!! しかも御上直々の署名に印!! まさかこの人本当に……?)」

「見ての通りこんな身なりだから、何かと面倒なのよ。普段なら別にそんなこと気に留める必要は無いのに……湊での噂、聞いているでしょう?」

「あぁ…ハイ、異人とかなんとか」

「会話による意思の疎通、周りと遜色のない言葉。この二つを聞けば普通はそんな発想には至らない筈なのにねぇ。あ、一応言っておくけど私はこの日ノ本の国の者よ。ご先祖様はどうだったか知らないけれど」

「そうなんですね…そうそう、新中町奉行所はここから出て左へ行けばすぐですよ」

「あらあら、意外と近場だったのね。失念していたわ。ついでなんだけど、良かったらあそこまでの近道とか教えて下さる?」

 

 と、九散は茶屋の暖簾を押し退けて外へ出る。疎らにいた通行人がギョッとして異国風の珍しい金の髪をした九散に注目するが、気にしない。春も後を追って外へ出て、九散が指差す方角を見た。

 江戸城。

 現在の日ノ本の国で全ての中心と言っても過言ではないこの国の心臓部を指した。

 

「え…江戸城ですか!?」

「あらあらさっきから驚き過ぎよ。安心して頂戴、祖父のような城破りをするつもりなんてないから」

「城破り!?」

 

 道場破りならまだかわらないでもないが城破りとは一体何なのか。嫌な予感しかしない。

 

「そもそも江戸城へはちゃんと御上からのお許しと申請が無ければご入城できないんですよ?」

「問題無いわ、その文に「来い」って書いてあるから」

「ええっ!?」

 

 御上直々の招待!? そんなの、聞いたこともない。

 確かに手渡された文には入城許可申請の一文が書かれていた。異人――ではない、異人紛いを入城させるなんていままであっただろうか。御上の心中が知れない。

 

「あったでしょう?」

「ええ…ありました。そうですねぇ…ここからですとこちらからあの大きい長屋を回り込んで―――」

 

 そこで、言葉が途切れた。

 

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!!!!」

「!」

「!?」

 

 すぐ近くで男の絶叫が空気を裂いた。それと同時に家屋がバキバキと軋みながら倒壊する音が響いた。丁度、さっき道案内で言った正面の長屋だ。連鎖して通り沿いの横一列の家が物々しく破壊され、瓦礫の向こう側からぬっと異形の頭部が現れる。

 薄い粉に覆われたような全身の白。所々見受けられる黒い斑点。幼虫らしきウネウネした全身。(かいこ)だ。

 数体が群れを成して現れた。大きさは人間程度であれば人呑み出来る程度。下町の用水路から流れ着いたのだろうか、まるで武士のように編隊を組んでいる。となると奥には恐らく成虫に成り掛けている繭が存在しているはず。

 

「えっ、今の悲鳴……」

「お春ちゃん道案内ありがとう。お春ちゃんはお爺さんと家の中で隠れてなさい」

「錆様は!?」

「この蟲共を退治するわ」

「駄目です!! ここは虫方が来て下さるまで待った方が…!!」

「あらあら、でもそれではお春ちゃんの家が危ないわ。あなたの所の茶、もしかして駿河の国のものじゃない?」

「…ハイ、祖父が質の良いものをお客様に飲ませたいと…」

「あの蚕…茶喰蚕(ちゃばみかいこ)というのだけれど、普通の蚕は桑の葉を食べるのにあの害虫は茶葉を食べるのよ。ほら見て」

 

 九散が指差した先では。壊した家の台所にあたる場所で蚕が何かを啄んでいる。よく目を凝らして見ると、茶葉らしい緑の葉を壷から食べているようだ。

 

「蚕は草食なんだけどね、厄介なことに茶の香りを一度感じたらそのまま一直線に進む傾向があるから目の前の障害も大口開けて纏めて食べてしまう癖があるのよ。駿河の国でもかなりの被害に遭ったと聞くわ。となるとあなたの家が危ない」

「だったら尚更避難しないと!!」

「この距離ではもう遅いわよ。でも安心しなさい」

 

 九散は涙目になって引っ張る春の手をやんわりと解いて払い、優雅な足運びで茶喰蚕の元へ向かう。すると茶葉を食べ終えた蚕の内の一匹が春の店向かって一直線に駆けてきた。蚕と店の間には金の髪を靡かせた九散の姿がある。必然、全速力で駆け出す蚕は九散と激突した。春とその周囲で逃げ惑っていた民衆は目の前で起こるであろう惨状に思わず目を瞑った。

 だが、九散の悲鳴は愚か、血飛沫舞い鮮血が地を濡らす音さえも響くことは無かった。春は恐る恐る目を開ける。

 

「―――あなたの店は、お爺さんの夢の結晶なのでしょう」

 

 鈴のように凜とした声が、もくもくと舞う土煙から聞こえた。

 

「そんな赤裸々な告白(ハズバナ)聞いてしまったら、守るしかないじゃない」

 

 風が吹き荒れる。

 舞った土煙の中心から旋風の如き風が吹き荒び、土煙が瞬く間に晴れた。すると其処には、腕一本で蚕の全身を受け止めて不敵に笑う九散の姿があった。

 

不効(きかず)―――効かぬこと『鎧』の如し」

 

 がしっ、と頭を乱暴に掴み上げると蚕はその巨体を浮かせて無様にも暴れていた。だがそんな脆弱な抵抗が九散に効く道理が無い。再び腕に力を込めて、そのまま手首のスナップを効かせて()()()

 宙を舞った蚕の幼虫は、まだ茶葉を食べていた幼虫の頭上に投げ飛ばされその自重(じじゅう)で下にいた蚕の一匹が潰れた。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッ!!!!????』

 

 不快な呻き声が耳を劈く。目の前で何が起こっているか理解出来ないでいる春や町の者はその悲鳴に耳を塞いで涙を浮かべた。一方でそんな音をものともしない九散は、芸者のようにゆっくりと蚕の群れに歩み寄る。

 

「あらあら、その醜い身に相応しい悲鳴ですわ。私がこの場に居合わせていたことを後悔なさい。そして―――今までの行いを、是正なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 




茶喰蚕はオリジナルです。蚕って気持ち悪いよね
次回、第一次江戸怒りの日勃発!(半分嘘)
まぁ蚕如きでそこまでいかない…よね?
次回もお楽しみに!
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