……ということで投稿。久々に刀語アニメで見たけどやっぱ七実んいいなぁ……あの悪笑みがふつくしい
そして今回、刀語のみならず我が家にある西尾維新様の作品のほとんどを改めて読み返すことになりましたwww
それでは、どうぞ
武蔵国豊嶋郡江戸―――その中心。
荘厳で厳格、派手にして煌びやか。まるで日ノ本の国の贅沢を一点に集めたような城、将軍のお膝元である江戸城。明暦の大火による焼失によって経費削減のため本丸富士見櫓というとても大きいとは言えないものを代用しているものの、江戸の威光を示すには十分。その最上部、江戸城で一番高いところ――現日ノ本の国で人間が作り出した構造物の中でも最も高所に位置する部屋に、二人の影がある。
一人は徳川御三家の紀州藩第二代藩主徳川 光貞の四男にして江戸幕府の第八代将軍こと徳川 吉宗。増税や質素倹約による幕政改革、新田開発、そして市民の意見を取り入れるために設置され今の蟲奉行所を設立するきっかけとも言える目安箱など、のちの世で享保の改革と呼ばれる政策を施行した張本人である。現在幕府が財政難であるからか、吉宗本人の着物も公家のような煌びやかなものではなく、一介の藩主が羽織るような簡素な着物を着ている。
そしてもう一人―――日ノ本の国ではまずもって見ることのない金の髪、碧の瞳。異国風の、どこか日ノ本の国の者とは歩む次元がズレているような雰囲気を放つ女性こと錆 九散。身分、素性は勿論のこと、異形の美貌にして金襴緞子な和服がこの上なく似合う――似合ってしまう九散はどんなに着飾ろうとも、このような上座に座れるような身分では無い。決して。因みにいま着ている着物は数ある九散のお気に入りの着物の内の一つだ。先日鮮血で染め上げた着物は江戸城で洗って貰っているが、はたして綺麗になるのだろうか。
佇まいも格好も、仕草は勿論放つ気配も全く正反対な二人が、江戸城の最上部でしかも吉宗にお付きの者が全く居ないという異例の事態で向かい合っている。何も無いはずが――無い。
「改めまして――」
正座になった九散が手と頭を畳にぴたりと付けて、頭を下げる。
「虚刀流九代目当主にして十二使刀流開祖、錆 九散と申します」
「これはこれは―…いや、楽にして下され。与が江戸幕府八代将軍、徳川 吉宗だ」
「存じ上げております」
「
「いいえ、御上のご命令とあらばこの身、何処へでも馳せ参じましょう」
頭を上げてニコリと微笑む。当然、悪意など微塵にも感じない純朴な笑顔である。吉宗は小さく肩を揺らしたように笑った。
「こちらこそ、人払いをしてくれてありがたい」
「いいや、これからする話はとても他の家臣には聞かせられないものであるからな」
「その話とは」
「―――無論、
すると、今度は吉宗が頭を下げた。徳川幕府将軍――つまり、この日ノ本の国で最も偉い人間が九散に頭を下げているのだ。
「――この場に家臣が同席していれば、わたくしめは即刻打ち首となっていたでしょう。おやめください」
「それはならぬ。本来高々与が頭を下げるなどでは感謝しきれぬ
歴史の改竄。
それはかつて徳川ではなく尾張と呼ばれていた時代という過ちの歴史を正すというものであった。その未来を予見していたかの伝説の刀鍛冶・四季崎 記紀は己が手で歴史を改竄し、後の世に訪れる海外からの侵略、そして日ノ本の国の崩壊を防ごうと企んだ。それは知って知らずか奥州の顔役・飛騨 鷹比等により引き継がれ、尾張幕府八代将軍・家鳴
それが、
「皆、気付いている者はおるまい」
「ええ、本来は我らが一族四季崎の血―そして鑢家、錆家、他かつて四季崎 記紀が持ちし完成形変体刀十二本を所持していた者達以外は」
だが、歴史の修正に気付く者はそういなかった。民衆とて、将軍の今の代が死んだところで自分たちの生活にどんな問題があろうか。それは確かにお上より下される政治、改革、制度いろいろあるだろう。だがそれはあくまでもお上という自分たちでは到底及ぶことのない地位に就いている者から下されるという意識しか無く、自分達の頭が変わろうとも興味など毛頭無いのだ。
では、大名はどうだろうか。
大名も変わらなかった。かつての将軍・家鳴 匡綱の死は正史でいう五代将軍・徳川 綱吉の死と認識させられ、尾張にあった城はまるで何もなかったかのように消失し、代わりに江戸の城が建っていた。尾張を取り巻いていた城下町や周囲の城もこぞって江戸へ移動しており、劇的な歴史の修正の有様は九散が言った者達にのみ認識できていた。だが、
「………将軍様だけではありませんね。何人か家臣達も既にご存じなのでは」
「察しが良いな」
道理で、と九散は内心溜息をついた。九散が江戸城へ登城した時、普通異人紛いが何の礼儀も無く不作法に江戸城へ行けば取り押さえられて即刻首を刎ねられていただろう。だが九散が江戸城の門をくぐり、城内を歩こうとも特にこれといって怒鳴られることはなく、むしろ吉宗の部屋までの道を教えたのだ。
「…まず端的に申し上げます。この日ノ本の国が尾張幕府から
「そなたの祖母……否定姫と名乗られたお方ですな」
「はい。彼女は尾張城から祖父を逃がす道中、城に保管されていた四季崎 記紀が作りし完成形変体刀十二本以外の九百八十八本の刀を塩水で錆びらせて破壊したのです。それによりこの世に残っていた四季崎 記紀の分身…否、断片とでも言いましょう。それらが消え去り――歴史が、元に戻ったのです」
最も歴史の改竄を求めていた男、四季崎 記紀。彼が生み出した刀はその所持する本数によって国の強弱が決すると言わしめたほどである。であるが故に――彼の刀は歴史を大きく歪める結果となった。
「四季崎 記紀は歴史を改竄し、この日ノ本の国を守ろうと考えました。しかしそれは水泡の泡に帰し、それどころか自身の生み出した刀によって正史を大きく歪める結果となりました。ですが、彼が最後の最後に生み出した完了形変体刀
それにより、後の世に知れ渡る筈だった完了形変体刀二振りの存在は四季崎 記紀の刀全てを失ったことによりこの世界に維持し続けることが困難となり、いまとなっては虚刀流も歴史に残らない流派に成り下がってしまった。まぁその事実を知った七花は「まぁいっか」ということで済ませ、否定姫も「そんな結果も良くなくも無いわね」と否定的に嘯いていた。
「………二つ、聞きたいことがある」
「なんでしょう」
「…もし、そなたの祖父の手で尾張幕府を崩し、正史へと戻さなかった場合…この日ノ本の国はどうなっていた?」
もし、尾張幕府がそのまま徳川幕府の代わりに日ノ本の国を支配していたら。
もし、完成形変体刀がまだ残っていたら。
もし、虚刀流が完了していなかったら。
もし、七花がとがめと出会わなかったら。
この日ノ本の国は、どうなっていたのか。
「……二通りの未来があります」
「二通り?」
「ええ。もし祖父が尾張幕府を崩壊させていなくても錆家でもなんでも、どこかの誰かがそれを為し得ていたという未来」
後の世で人類最悪と呼ばれた男が提唱した二大理論が一つ、
「あるいは、家鳴 匡綱の代でなくともその次の代でも、十年後でも百年後でも、時と場所は大きく変わってしまっても行為そのもの、つまり尾張幕府に終止符を打ち徳川幕府に成り代わっているという未来」
それがもう一つの理論、
いずれもその流れが世界の意思のようであり、この世界の構造とも言えよう。やらなければならない、やるべきことを先送りにしようとやるまいと、その行為が成されるのは歴史という道筋で決められた事柄であって遅かれ速かれ誰かがやっていたということ。歴史は運命的に、そして自然的に修正するのがこの世界での必然であり、何をしたところで結局は修正され、元に戻ってしまう。つまり、
「考えても詮無きことです。結局は、尾張幕府など過ちの歴史であって徳川幕府こそがこの世界における正しい歴史ということです。繁栄も、衰退も」
もしも、なんて考えるのは無駄ということだ。結果が結果だけあって、それは吉宗の心に響いた。
「そうか……分かった。では二つ目だ。百年前からこの日ノ本の国を跋扈し始めた蟲達――それらはこの国における正史で存在すべきものであるのか?」
原因は不明だが、この世に現在蟲と呼ばれている存在が日ノ本の国を巣喰っている。吉宗が懸念しているのはその蟲が日ノ本の国の正史に居るべき存在であるか否か。もしいるべき存在であるならば、もう日ノ本の国に未来はないということに他ならない。その心中を察して、九散は眼を細めてふと立ち上がる。
「どうなされた?」
「ああ……そういえばこの江戸城、とても面白い構造をしていますよね」
複雑怪奇にして詳細不明。もし外敵に攻められてもいいように江戸城は複雑な造りになっていて、その様はまるで迷路。その構造故に、将軍は当然だが、江戸城を出入りする家臣達も江戸城の構造を把握し覚える必要がある。必然、記憶力が必要なのは国を治める者としては必須技能であり、城の構造を覚えられない者は親藩へと流される者が少なくない。
「さて、吉宗様の人払いを命じられてなお、こうして盗み聞きをしている輩は――どなたかしら」
唐突に、九散が襖に手刀を繰り出した。まるで槍のように鋭く突いた手は綺麗に襖を貫通しそして、襖の向こう側にいる者を捉えた。がしりとその手が相手の頭を掴んだのを確認すると、九散は強引に腕を引き襖を外してその者を引っ張り出した。
「ひいいいぃぃぃぃぃぃいぃぃいいいぃぃぃ!!?? な…何をする!? というか貴様、この俺に何をしている!?」
「あらあら、とんだ面妖な方が釣れましたわ。いかがなさいます?」
「その声…
どうやら吉宗の知り合いらしい。顔を伺ってみると、将来的に納豆の容れ物にでも描かれてそうなおかしなお面を被っていた。試しに剥いでみると、なるほどなるほど、微かに吉宗の顔の面影が無くもない。最近見ない眉目秀麗の男だ。
徳川 家重。またの名を
「……あなた」
「な…なんだ、っていうかいいから頭掴んでいる手を離せ!! 俺の持つ知識が潰れてしまうぞこの異人紛いめ!!」
「……よくお面を被るお方ね…そういう宿命なのかしら? 片眼が光ったりとかしない?」
「…は?」
「あらごめんなさい。独り言よ、忘れて貰って良いわ。私もどうしてそう思ったか分からないし」
とんだ気の迷いである。それは九散本人にもよく分からない。いわゆるお約束というやつだ。
突然の息子の登場に驚き…ではなく呆れを隠すことなく、吉宗は溜息をついた。
「家重…どこから這入ってきた。いや、どこから聞いていた?」
「全てだ! ハハハ驚いたか! しかし尾張幕府とは一体何だ!? 誤りの歴史とはどういうことだ!? そして女っいい加減手を離せぇ!!」
「あら、そういえばまだ離してなかったわね」
どうぞ、と言わんばかりに離した。襖から腕を抜き取ることで。
当然抜き取るまで掴まれていたわけで、家重の顔面は襖に見事ぶち当た鼻を痛めた。だがそれだけでなく九散の腕力によって体を持ち上げられていたこともあって、離した瞬間足の指を突き指した挙げ句尻餅をつき腰に痛みが走った。正に三重苦。
「っっっっっっっっ……!!」
「あらあら……さて、どうなさいます?」
「…仕方ない、仕切り直しだ。また後日、話すとしよう」
「あら、もう話すことなんて無いでしょうに」
「そんなことは無い、そなたの話は大変役に立つ。今度は畏まった相対などではなく腹を割って気軽に話し合いたいものだ」
「あらあら、お口の巧い将軍様ですこと」
悶絶する家重を傍らに二人はほくそ笑み、九散は一礼して部屋を出た。その際ふと敷居で振り返り、
「将軍様」
「なんだ?」
「改めて、虚刀流九代目当主にして十二使刀流開祖・錆 九散。この江戸……否、この日ノ本の国を守るべく精一杯蟲奉行所でお勤めに励む所存にございます」
「うむ。そなたの活躍、期待しておるぞ」
―――こうして、九散と吉宗との邂逅は終わった。
今回は普通の長さ。というより前回が頑張りすぎて長かったんですよねぇ…
いやだって三話も蚕討伐の戦闘やってても進まないでしょ? ちんたらしてるよりすぱっと終わらせたくて……
さてさて次は第二次江戸怒りの日!!(半分嘘)
そういえば自分、刀語の竹様画集の刀語絵巻のナンバーは0958でした。あと300人限定の否定姫賞も当たってたぜ!! いぇい!! 5人限定の真庭忍軍賞も欲しかったけど、個人的に否定姫愛してるからいいや(笑)