それによりハッキリと八雲はパチュリーの姿が見える
とても細い腕に、真っ白な肌、表情もどこか無気力に見える
八雲から見れば、彼女はとても戦うようなコンディションでは無い
それ以前に、戦えるのかどうかすら怪しいものだ
でも、それでも、彼女は八雲に立ち塞がろうとする
「待ってくれ!俺は君と戦いたくない!」
「私だって本当は戦いたくないわ」
「なら、俺を行かせてくれ!」
「それじゃ面白くならないのよ」
「どうして!」
「言ったはずよ、レミィが凄く楽しそうなんだもの、私もそれに便乗したいのよ」
「楽しそう!?アリスを幽閉して、殺そうとしてるのにか!?君はそんな奴の肩を持つのか!?」
それを聞いてパチュリーは首を横に振る
それは否定と、呆れが入り混じった様な、そんな感じだ
「もはや何を言っても無駄・・・のようね」
「・・・」
次の瞬間、二人の戦いの幕開けを告げるように、火炎の弾は弾けた
薄暗い図書館、いつもは静かなこの図書館も、今だけは違った
何かを吹き飛ばしたかのような爆発音
何かが張り裂けたような炸裂音
何かが急激に凍るような凍結音
様々な音が入り混じりすぎていて、それをなんの音と例える事はできない
そんな激しい雑音の中で、力と力がぶつかり合う
「出でよ!!雷蛇!!」
「金符『シルバードラゴン』」
八雲の突き出した腕から、雷で出来た蛇が現れ、パチュリーに襲い掛かる
それを迎え撃つパチュリーは、銀の球体を無数に創り出し、その電気を全て誘導、拡散させた
電力を失った雷蛇はそのまま消失し、今度は銀の球体が集まり、まるで龍を模したような姿を見せる
そのまま銀の龍は八雲に向かって倒れ込む
「出でよ!!光牙!!」
銀の龍に光の龍が牙を剥く
所詮は球体が集まっただけの造り物みたいな龍、重量は凄まじいが、壊すだけなら問題は無い
軽々と銀の龍を倒し、そこで八雲はずっと思っていることを口にした
「どういうつもりだ?」
その八雲の問いかけに、パチュリーは首をかしげる
「どうして攻めて来ない」
ここまでパチュリーは一度も攻めていない
今もそうだ、八雲が光牙を放った瞬間、パチュリーは何もしていない
今までパチュリーが行った攻撃は、八雲の獣魔術を相殺するために行われた術のみ
その相殺に使った術が強力なため、その延長線で八雲にまで術が届く
さっきの銀の球体で出来た龍みたいに
それを相殺する為に、八雲は更なる獣魔術を使う
本来であれば八雲は圧倒的に不利な状況なのだ
一回の応酬で八雲は2回、パチュリーは1回術を使う
おかしいではないか、八雲の方が一手多いのにもかかわらず、八雲が押される事はない
その答えは、パチュリーは2回目の術を使わずにただ見ているのだ
パチュリーが術を使うのはあくまで相殺目的であり、八雲を攻撃しようとしてのものではない
むしろパチュリーは待っているようにも感じた
――――早く次の術を見せろ、と。
「そんな瑣末事、どうでもいいじゃない」
「時間稼ぎのつもりか?」
あるいは八雲の消耗を狙う目的か
「違うわ、私は知りたいのよ。私の知らない術を」
「・・・」
ただ八雲が攻撃するので、その自己防衛とでも言うつもりなのか
それでその術を見て、覚えようとでも言うのだろうか
「だったら道を開けてくれれば後でいくらでも教えてやるって」
「ダメよ、私は今知りたいの。そうしないと今夜は眠れそうにないもの・・・でも拍子抜けね」
「・・・」
「獣魔術ってこの程度なの?少しガッカリだわ」
「・・・言ってくれるぜ」
八雲にも分かっている事がある
パチュリーは基本的に後出しなのだ
八雲の獣魔術を見てから、瞬時に迎撃、もしくは相殺に適した術を選択する
故に八雲よりもパチュリーの方が消耗は少ない
火には水、水には木、木には金、金には土、土には日、日には月
能力にはそういった強弱関係が存在し、八雲もそれは多少くらいはハーンから学んでいる
その強弱関係を常に突き、パチュリーは優位に立っている
「ならこれでどうだ!」
八雲はパチュリーに向かい、またもや獣魔の名を呼ぶ
しかしその名は、攻撃には適さない術であった
「出でよ!!闇魚!!」
八雲の宣言と同時に、魚の形状をした獣魔が生成される
頭は魚のそれだが、胴体は無く、闇に包まれている
この魚の属性は闇、そう判断したパチュリーは当然の様に相殺の術を発動させる
「月符『サイレントセレナ』」
それは月の光を吸収し、収縮したその光を矢にして相手に射出する術
闇には光、それは今までのパチュリーからみれば当然の判断と見れる
当たり前の様に、その光の矢は闇魚を容易く串刺しにして、その奥にいる八雲に目掛けて飛んでいく
その当然の結果、それを八雲は信頼していた
きっとパチュリーならそうするだろうと、信じていた
「藤井八雲の名において命ずる!出でよ!!
対光術用獣魔を八雲は呼んでいた
ダニのような獣魔が八雲の右腕に取り付き、パチュリーのサイレントサレナを受け止めた
「え!?」
その光景を見ていたパチュリーは何が起きたのか、分からなかった
幻想郷でも、相手の攻撃を相殺や、かき消す事はあっても
防御、相手の術を受け止める術者は多くない
「これでどうだ!」
ましてや反射させる能力者は皆無と言っていい
対光術の獣魔はその光をそのまま相手の術者に反射させた
パチュリーの撃ったサイレントサレナが、そっくりそのままパチュリーに跳ね返っていく
サイレントサレナの属性は光、光の相対関係は闇、闇の魔法で相殺が出来るのであればそうしたい
だが肝心のパチュリーには闇の属性は持ち合わせていない
故に、属性魔法ではなく、召喚魔法を選択した。
「来なさい!」
魔方陣を描き、その魔方陣から一人の少女が出現する
蝙蝠のような羽を生やした悪魔の少女が現れるも
「ごめんなさいね」
パチュリーは一言謝る
いきなり呼ばれた小悪魔は状況の整理が追いついていなかった
「!?!?」
呼ばれて1秒にも満たないであろう
小悪魔が見た風景は
自分に謝る主人
そして主人の敵であろう男、それと
――――自分に迫り来る、光の矢。
回避、防御、相殺、受け止める
そういった判断が出来る猶予すら与えられなかった小悪魔は、そのままサイレントサレナを直に被弾した
「~~~~~~~っ!!」
悲鳴にならない悲鳴を発し、小悪魔はそのままその場に倒れ消えていった
そう、小悪魔を呼んだ理由はただ一つ、単なるパチュリーの盾
様子を見ていた八雲は、その光景を見ていてなんだか申し訳なくなっていた
「まさか・・・今のって」
「貴方の真似をしてみたのよ」
シレっと言い切ったパチュリーに八雲は背筋が凍る感覚を覚えた
八雲の方は対光術用の獣魔であり、その獣魔は光術を反射させる事が本来の働きである
それに対して、さっきの少女は・・・そういう訳でもないだろう
まだ右手に残っている鏡蠱を見ながら、八雲は次の手を考える
八雲が思っている以上に、パチュリーはなかなかの
様々な属性に特化した魔法は、八雲の獣魔術の弱点を的確に突き、八雲の攻撃を阻害してくる
その洞察力は並外れたものがある
八雲は考えを改め、思考を変えた
この相手はただの少女ではない
様々な術を極めた能力者、と
策は、まだある
あとはどうするか
「獣魔術が知りたいんだったな」
「そうね」
「なら教えてやるよ」
八雲は右手に残していた鏡蠱を
パチュリーに向け
鏡蠱に念じる
その瞬間
鏡蠱から糸が吐き出された
「ふぅん」
その糸を、パチュリーは軽々と避けてみせる
どうにもこの世界は『避ける』という事に特化した戦いをする者が多い
だからそれを避けると、八雲は確信していた
「このとおり、獣魔術には一つの効果だけじゃない、鏡蠱は光術の反射が主な能力だが、こうして粘着性の糸を吐き出すことも出来る」
そう言って、八雲は鏡蠱を右手から切り離した
鏡蠱はそのまま糸を辿り闇へと消えていった
「応用も出来るし、機転も利く、君の能力とは違ってね」
「言ってくれるじゃない、でも私から見れば欠点を残した術なんて扱いに困るだけ・・・未完成品みたいなものよ」
「未完成か、それはちょっと違うな」
八雲の篭手がパキリと音を立てて、開く
その中には八雲の親友である導師が仕込んだ、折り紙付きの術式が仕込まれている
「成長途中なのさ!俺も含めてな!!」
欠点の排除、それは洗礼するにあたり、至極当然の事
「出でよ!土爪!!雷蛇!!」
獣魔術の同時召喚
下から土爪、上から雷蛇の同時攻撃
それをパチュリーは空に飛び上がり土爪を避ける
上空にいる敵に対して、対抗策の無い土爪はそれだけで無力化されてしまう
だが雷蛇はそうもいかない
上空の敵にでも、雷蛇は放電による攻撃が可能だが
雷蛇の決定的な弱点も、既にパチュリーに見破られている
それは実体が無い事だ
土爪には実体がある、だから物理的な攻撃による破壊と爪による切り裂き生まれる
だが雷蛇は違う、実体がないので、実態があるものに対しては無力なのだ
パチュリーはスペルカードですらない、ただの岩の壁を空中に作り出し、その岩で雷蛇を囲う
それだけ、ただそれだけで雷蛇は無力化されてしまう
絶縁されてしまうと、雷蛇は何も出来ない、それを突破出来ない
それはビンに入れたれた水の様に無力だ
どれだけ水が動こうと、ビンが割れる事なんてありえない
実体があれば、その岩を破壊も出来るだろう
ビンの中に、石が入っていれば、何かの衝撃で割れる事だってありえる
仮にそれが土爪であれば、容易く切り裂いたであろう実体のある岩の囲い
それが実体が在るか、無いかの、違い
実体の無いものは、実体が在るものに、弱い
それはパチュリーがずっと八雲にやってきたことだ
強弱関係で常に優位を取るパチュリーに対してスペルアサルトで勝負した時の八雲の勝ち目は薄い
それは八雲も既に承知している
故に、時間稼ぎと目暗ましのつもりで土爪と雷蛇を呼んだ
「我が名は藤井八雲、我が名において、かの者を呼ぶ」
全てはこの一撃のための時間稼ぎ
最大限の感謝を大地に送り、構えを取る
そして仕込まれた術式が、その効力を高める
かつてハーンがやっていた、当時の八雲の獣魔の能力を最大限にまで発揮させた祈祷の効力を、篭手に仕込んだ術式が代行で行っている
これも、ハーンが八雲の為にと考えた、獣魔術の切り札
「我に仇名す者を、その力を持って葬り給え!!」
八雲の精が強まっていくのを感じないはずがない
パチュリーも八雲の様子がさっきと違う事は重々承知だ
それでもパチュリーには余裕があった
『何をしても無駄、今まで見た獣魔は完全に対処できる』
ことごとくの獣魔に対して優勢であるパチュリーの術に
多少高まった程度の力で、そうそうパチュリーが敗れるはずが無い
それも十分に承知している
「出でよ!光牙!!」
それでも八雲は宣言した。同時に八雲の腕から、とてつもない威力の光術が放たれる
触れる者全てを消炭にするほどの威力を秘めた、八雲の文字通りの必殺の一撃は
『何かと思えば・・・あの龍ね、対処するまでも無いわ』
―――易々と避けられた。
「あんな直線的な攻撃で、どうにかなると思ってるの?多少威力が上がったからって・・・」
パチュリーは自分で言った言葉で気が付いた
何かがおかしい
避けれた?
避けやすい攻撃でいいの?
あんな避けやすい攻撃に、今出せる最大の力を使っていいの?
いいはずが無い!
考えなければ
そんな愚行を行うほど、目の前の相手は優しくない
意味があるはずなのだ
さっきの爪は・・・何も出来るはずが無い
私が飛んでいる限り、爪の攻撃は意味を成さない
さっきの蛇は・・・何も出来るはずが無い
岩で隙間無く閉じ込めた、仮にその岩を破壊するならあれ程の威力は必要ない
ではなんだ?
何か、重要な何かを見落としている
そこまで瞬時に考えた
考えた結果、一つの答えがパチュリーの脳裏によぎる
そうだ、『アレ』を忘れていた
悪寒が、パチュリーを包み込む
とっさに振り向いたパチュリーが目にしたものは
とてもじゃないが、どうしようもない現実だった
まるで散弾銃の様に分散した光牙が、今度はパチュリーの背後から迫ってきていた
隙間無く壁の様に張り巡らされた光術は、一発一発がどれもかなりの威力になっている
『分散させても威力が落ちきらないようにする為に・・・!!』
当たれば確実に相手を殺すほどの威力の術をあえて八雲が使った理由はパチュリーの考えた通り
通常の光牙の分散ではたいした威力にはなりえないが
最大限にまで威力を引き上げた光牙の分散では、分散した一つでも十分な威力になる
「避けるのが得意なら、避けられないようにすればいい。正攻法がダメなら、策を用意すればいい」
ただの分散でも効果が薄い、ならば相手の虚を突く
ではどうやって、その虚を突くのか?
絶対に来ないと思っている位置からの攻撃であれば、誰しも隙を見せる
それはパチュリーも例外ではない、あのベナレスだってそうだ
ではどうやって、予測外の位置から攻撃をするのか?
その為に、呼んでいた獣魔を消さずに放した
―――鏡蠱
パチュリーの背後に移動し、壁に張り付かせていた
八雲はそれを狙っていたのだ
予想通りパチュリーは簡単に光牙を避け、その奥に居た鏡蠱に光牙が当たる
当然反射するのだが、鏡蠱の反射は完全な反射ではない
ある程度の威力であれば術者に跳ね返せるが
許容を超えた威力の場合、八雲にも予想できない方向に反射してしまう事がある
もしくは―――術自体を支えきれなくなり、反射できなくなる
そうなれば起こりえるのは、光術が崩壊しプラズマ放電を発して周囲を破壊するか
滅茶苦茶な方向に撒き散らされるように、反射してしまう
八雲はあえて、後者になる様に光牙に仕込んでおいた
「くぅ!!」
パチュリーは即座に防御の方陣を作り出した
闇の魔法があれば、この状況でも打破できたかもしれない
しかし、その資質が彼女には無い
だから先ほどのサイレントサレナに対して、魔法で対処しなかった
ここで小悪魔を呼んだとしても意味が無い
一本の光術なら小悪魔にでも対処は出来るかもしれない
だが・・・拡散された光術では、対処のしようが無い
方陣だって、確実に防げる保証も無い
「もし未完成だったとしても・・・お互いで補えばいい!」
それが獣魔術の本領でもある
パチュリーは身をもって、それを体感した・・・。
あとがき
ちょっと今回はオリジナルの要素も入ってしまっていますが
でもまぁ、本編でも後々出てきてもおかしくはないかな?程度のものだと勝手に思っています。
その点につきましては、ご了承下さい(汗