東方不死人   作:三つ目

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手応えはあった。
これならあの瞬間移動でも回避なんて出来るはずが無い
防御も尚更だ、そんな易々と防げるほど甘い技ではない
なにせ私の全力なのだから、消し飛んでいて当然よ
本当にアンデットなら再生できるだろうけれど、それ相応の時間が掛かるはず

これで私の勝ち

その余韻に浸るように、私は床に座り込んだ
全身に酷い倦怠感が押し寄せてきている
妖力を使いすぎたみたい
疲れきった体に鞭を撃ち、首を動かして辺りを見渡すと、私の部屋はとても開放的になっていた
一面の壁、その全て無くなっていた
咲夜が能力を使って、この部屋の面積を一時的に広げてくれたおかげで屋敷の全てを吹き飛ばす結果にならなかったのは良しとしよう
私の技で巻き上がった埃が、まるで雨の様に重力のせいでパラパラと床に落ちてくる
全身でその埃を被ってしまっているけれど、それでも構わなかった
今はただ勝利の余韻に浸りたかった



浸りたかった



夢から覚め、現実に引き戻されたかのように
その余韻も、一気に消し飛んだ

あの男の姿を見るまでは

「勝負アリ、と言った所じゃな」

「・・・」

余裕綽々といった感じであの男は晴れた埃の中で腕を組み、立っていた
何も言えない、言葉が見つからなかった

「威力も範囲も申し分ない」

当たり前だ、私の誇る最大の力を出し切った一撃
それを目の当たりにしたのだから、この男の評価も当然

「じゃが、溜めと予備動作が長すぎる。あれでは大技を使うので備えて下さいと言っておるようなものじゃ」

と思いたかった

「それに消耗が大きすぎる、傲慢さだけで戦うからこうなる。必ず倒せる・・・とな、倒しきれなかったことを考えておらん」

傷・・・どころか、掠り傷一つすら付いてない
四つの小さな獣魔からなにやら障壁の様な物が出ている
私の技は、あんな小物で防げるほど柔な技ではない!!


・・・いや、そうじゃない


あれで防げるほど、私の術が甘かったという事か
しかし、あの障壁は全てを防ぐ程の強度があるのだろうか

残念だ、心の底からそう思う

「・・・良い顔付きになった、次があれば楽しめそうじゃ」

力を蓄えるために、ほんの少しでもいい・・・
私だって再生能力がある、時間があれば失った妖力も復元できる

だがそれは、あってはならない
今すぐにでも刈れる敵の首がある場面で
その敵が、待ってくれと言われて首を刈らない者はどれだけいるだろうか?

そんな奴は、出来損ないの三途の死神くらいなものだ

例え相手は遊びだと思っても、私は本気だ

そんな甘えは許されない




「お嬢様、もう―――」




咲夜がいつの間にか私の前に立っていた
さっきまで姿が無かったことを考えると、きっと時間を止めて移動していたんだ

咲夜は私の前に立っていた

でも私の方には向いていなかった

咲夜の背中を、私は見つめていた

「もう、お仕舞いでしょうか」

「ほう・・・」

咲夜の言葉を聞いて、あの男は手を顎に当て右頬を引き上げる

「お嬢様はまだ負けていません」

何を言っているのか判らない、私にはもう・・・この男を相手に戦える程の妖力なんて残されていない
あれが全力で、全身全霊
全てを出し切った、正真正銘の本気の一撃

もう次なんて無い

「紅魔館は、まだ負けてません!!」

咲夜はナイフを取り出し、前の男に向かい合う

どうするつもりなの、そんなナイフで倒せるような相手じゃないわ

「ここからは私がお相手致します、アンデット!!」

「よかろう、掛かって来るが良い」




紅い魔の館

咲夜の右手にはナイフが握られ、左手には懐中時計が握られている

 

「私は十六夜咲夜と申します」

「知っておる、影ながら見ていたのでな」

 

「では、知っていますね?」

 

咲夜は懐中時計を開く

中の針は動いていない、それを見た者は誰もが壊れていると思うだろう

ただの飾り、アンティークだと思うだろう

 

誰でもそうだ、誰でも

 

だがその懐中時計こそが、彼女の必殺を可能にする

 

「ここが私の戦場です」

 

まるで自分に言い聞かせるように、咲夜は囁く

 

「加減はしませんのでご容赦を」

 

そう、咲夜が言い終わると同時に・・・八雲の胸にはナイフが差し込まれていた

一体何が起きたのか、八雲の理解が追いつかない

 

何の予兆もなくナイフが現れ、いつの間にか刺さっていた

刺された感触などは無く、刺さった感触だけがダイレクトに来た

そんな能力などあるはずが無い

八雲は目を凝らし、何か変化は無いかを凝視する

 

「見ていても無駄ですよ、絶対に私のナイフは避けられません」

 

また、言い終わると同時に、八雲の胸に二本目のナイフが刺さる

咲夜はほとんど動いていない、しかしその手のナイフが最初と比べ、二本減っている

 

ただそれだけの情報でしかないが

 

相手が悪かった

 

「なるほど、時間・・・か」

 

呟くような八雲の一言が咲夜に突き刺さる

 

『・・・気が付くのが速すぎる』

 

冷や汗が伝って、地面に落ちる

 

「同じかどうかは知らんが、似たような力を知っておる」

 

似た力、それだけでは判別は難しい

どんな能力かまで判るはずはない

だが、時間だけは違う

 

 

八雲は考察する

 

仮に、炎の能力者が居たとする

発火するほど熱を上げて炎を出しているのか、それとも炎そのものを無から生み出しているのか

それをどちらか判別しろと言われても見ただけでは不可能なのだが

 

時間は違う

 

時間は重複したものが存在しない

代わりは無いので加工するしかない

 

加速、停止、延長、跳躍、停滞

 

精々、この5つ

 

咲夜に動いた様子は無い

どんなに速く動こうとも、見落とすなんてありえない

もし万が一、八雲でも捉えられないほどの高速、となると今度は風や衝撃波が生まれてくる

その副産物が無い以上、咲夜の加速はまず無い

 

ありえるのは残りの4つ

 

停止、言わずもがな、咲夜以外の全ての時間を止め、咲夜だけが動ける世界を作り出す

 

延長、簡単な例をあげるなら、1秒を300秒に伸ばす能力、こちらの1秒は、あちらの300秒となる

 

跳躍、出来事の過程を飛ばし、その結果だけを得る事が出来る、『ナイフを刺しに行く』という過程を飛ばし『ナイフを刺した』という結果のみを得られる能力

 

停滞、八雲の時間だけを止めてしまう能力、その間・・・全ての者は自由に動ける

 

この中のどれかになる、どれも戦闘において反則級の破格の性能

とは言え、コレダ!とピンポイントで当てる必要も無い

どれであろうとあまり大差はない

大差がないというのは、対処法という意味だ

時間を操れると言うメリットはとても大きい

操れる者は世界を支配できると言っても過言ではないのだ

それほどまで、操れない者との差が存在する

 

「惜しい、実に惜しい」

 

「何がでしょうか?」

 

潤沢の内容物がありながら、その器はあまりにも浅い

湯水の様に溢れて来る才覚を、拾いきれず漏らし続けている

そして漏れ続けている事に気が付いていない

 

故に出た惜しいという言葉

 

相手に命というものがあるのなら、まさに必殺だっただろう

動けない者の心臓にナイフを差し込むだけで事はあっけないほど簡単に終わる

常に相手は無抵抗なのだから、そこに争いは生まれない

まさに王者の力、覇者の力、絶対の勝者になるべく存在している力

 

それを持ち合わせていない八雲には、ただ咲夜の思うままにナイフで刺されていくしかない

 

それほどまでに八雲と咲夜には差がある、余裕で咲夜の必殺は完了する

 

だが万が一、心臓を刺しても倒れない敵が現れたら

時を操っても無意味な相手が現れたら

その差は価値を失くす、怖ろしいほどのアドバンテージは失われる

 

仮に八雲が時を操れるのならば、ベナレスなど相手にならないであろう

それほどのアドバンテージだというのに

 

「もっと己の力の優位性を認識するべきじゃな」

「優位性?」

「誰にも真似の出来ない悪魔の様な力を持ちながら、使い道はとてもお粗末じゃ」

「・・・」

「想定外を考え、思考を広げる所から始めると良い。想定外を潰せば、お主に敵う者は一人もおらん」

 

アドバイスとも取れる八雲の言葉に、咲夜はさっきとは違うやりづらさを感じる

肝心の八雲は、胸に刺さった二本のナイフを引き抜き、そのナイフを自らの腕に差し込む

まさかの自傷行為に、咲夜はあっけにとられていた

血が滴り落ちるほど深く差し込まれたナイフをまた抜き取り、咲夜の方へと投げ渡す

乾いた金属音が、落下と同時に響き渡る

 

「だが、儂には無意味じゃ、お主のジョーカーは既に死んでおる」

 

そのナイフを咲夜は拾い、構える

 

『お嬢様に危害を加えるとは思えない、しかしながら・・・お嬢様の敗北は、紅魔館の敗北』

 

八雲の言葉を、咲夜は思い出す

まるで心臓を射抜かれたような言葉だった・・・

 

「私はお嬢様のメイドであり、お嬢様の忠臣である自負があります。どれだけ白旗を揚げよと進言されても、退く訳には参りません」

 

「そうか」

 

「私は死んでも、貴方をここで止めて見せます」

 

どう足掻いても、八雲は咲夜の世界を突破する事は出来ない

咲夜が八雲に致命傷を与えられないのと同様に

逆に八雲も咲夜に致命傷を与える事も出来ない

互いに平行線、勝敗の無い泥仕合になることは目に見えていた

どれだけ八雲が攻撃しようとも、咲夜は時を操り全てを避ける

どれだけ咲夜が攻撃しようとも、八雲が倒れる事はない

 

これでは意味が無い

 

『さて・・・どうしたものかのう』

 

思案する八雲

 

しいて弱点を上げるとするならば、それは咲夜自身に強大な力が無いという事だ

もし八雲を行動不能にするほどの術を咲夜が持っていたとしたら、勝負は既に決まっていただろう

しかし、その『想定外』を考えていなかった

 

ナイフを刺しても怯まず、止まらず、死なない相手

 

それを想定しろと言うほうも無茶だが、対策くらいは考えるべきだったのだ

せめて封印や足止め等の力は持っておくべきだ

 

そして三本目のナイフが八雲に刺さる

 

「・・・流石に、慣れんわ」

 

いきなり襲い掛かる痛覚に戸惑うも、八雲はまた冷静に観察をする

 

『さっきまで滴っていた血の量が増えておらん』

 

自ら刺した傷を確認する

三本目のナイフが刺さる前と、刺さった後

その間で出血の量が増えていない

 

となれば、跳躍の筋も無くなった

 

もし『跳躍』であれば、時間を飛ばすという事になる

咲夜がもし跳躍の能力者であれば、能力を使うという事は咲夜以外の時間が飛ばされるという事になる

であれば飛ばされた時間。八雲が認識していない時間も出血しているはずなのだ

飛ばされた分の八雲が認識していない出血、それが無い

ならば、跳躍して結果のみを得ている訳ではないようだ

 

そして座り込んだレミリアを見る

彼女はさっきからあの姿勢のまま動いていない、もしも八雲だけが止まっていたなら、彼女は動けるはずなのだから何かしらのアクションがあっても良い

となれば、『停滞』でもない

そして、同じ理由で『延長』の線も無くなった

 

停滞と延長は、時を操るだけでなく、時間を作り出せるという特性がある

 

空白の時間を使い、いくらでも休憩が出来る、という事になる

 

もしその二つのどちらかなら、咲夜はレミリアの回復の為に時を操る事も出来る、何かしらのアクションというのはコレの事だ

八雲の時を操り、レミリアに空白の時間を与えるだけでいい、それだけでレミリアは復活してまた戦えるようになるだろう

 

しかし、それをせず、咲夜は八雲に挑んだ

 

『しなかった』ではなく『出来なかった』なら、どうなるだろうか?

 

時を操れば、八雲だけでなく、レミリアも巻き込んでしまう

指向性など無く、無差別に巻き込む、時間の能力

 

となれば答えは一つ

 

「停止か、お主は時を止めておるな?」

 

ピクリと咲夜が動いた

 

「どうして、それを」

 

「なぁに、簡単な理詰めを行ったまでじゃよ」

 

「・・・判ったとしても意味は在りません」

 

「さて、それは―――」

 

どうかな?と八雲が言おうとした瞬間、近くで精の爆発したような感覚を察知した

実際には爆発などしていない

 

ただ内に、精を溜め込み、それを内部で爆発させ、反動として利用する

 

そんなイメージ。

 

慌てて八雲は後ろに下がった

 

その瞬間、流星でも降って来たかと錯覚するくらいの衝撃波を浴びた

一瞬ではあるが平衡感覚を失い、八雲はよろける

 

何かが斜め上から八雲目掛けて降って来た、と言うしかない

それが術ではないのは明らかだった

 

壁を突き破り、降って来た

 

「お主は・・・」

 

激しい埃を撒き散らし、流星が凛と立ち上がる・・・その流星の正体は

 

「少し気が早いかもしれませんが、リベンジマッチと行きますよ!」

 

紅魔館の門番である、美鈴

あの衝撃波をただの飛び蹴りで作り出したのかと思うと、末恐ろしいものがある

 

「・・・」

 

その後ろには、紅魔館の魔法使いであるパチュリーまで居る

 

「勢揃いじゃな」

 

八雲の前に、美鈴、パチュリー、咲夜の三人が立ちはだかる

 

後ろのレミリアを、護る様に

 

『みんな、どうして・・・』

 

その光景に、レミリアですら戸惑っていた

 

『勝てるはずが無い、純粋な戦闘では勝ち目は無いわ・・・分かってるでしょう?』

 

心で呟く、それを口に出せるはずが無い

紅魔館の主である彼女の矜持が、それを口にする事を許さない

 

しかし、既にレミリアの心にはヒビが入ってしまった

 

八雲の幻影が、レミリアの影を縛る

 

さっきより、体力も妖力も回復してきている

そろそろ軽く動くくらいなら出来そうなものだが

 

立ち上がれない

 

立ち上がっても、八雲を打破出来ないのではないか?

 

その思惑が、レミリアの影を強く縛りあげていた

 

 

 






真っ暗な地下の部屋に、轟音と地響きが響いた
暗闇の中、彼女は目を覚ます
そして考えた
咲夜の結界のおかげで、この部屋には音が届かないようになっている
そして不要な揺れも起こさないように設計されても居る

にもかかわらず、振動と轟音が部屋中に響いた

先ほど美鈴が地面を穿ったものだが、彼女はそこまで知りえない

何かが外で起きている
だが、咲夜の結界がある以上、自由気ままに外に出ることも出来ない
前と比べれば、ある程度の自由は貰える様になったので満足はしている
これ以上のワガママは言えないと、自分自身に言い聞かせ納得していた

「・・・」

時計を見る、普通の人間では時計の針など見えないくらい暗くとも、彼女の眼にはハッキリと見えていた

大体、午後5時くらい

それを確認して、そろそろ起きておこうとベッドから離れようとした時に、再び振動と轟音が部屋中に響く

なんなのだろうか?
何が起きてるのだろうか?

興味が沸いてくるも、外に出るには咲夜の結界を解除する必要がある

ふと彼女は自身を封じている扉へと目を向ける

どうせ出れないのだろうと思っていたのだが、その考えは外れていた

「あれ・・・?」

扉が、少しだけ開いていた

衝撃により壊れてしまったようだが、少しおかしい

咲夜がこの部屋に掛けた特別製の結界までもが壊れている

だからこの酷い轟音と振動が部屋に届いたのだと納得して

彼女は扉に手をかける

さっきまで冷めていた感情が起伏する

冷え切っていた心は、期待感で温まる

これで行ける、この音を確かめられる

扉をゆっくりと手で押し開け、彼女は慎重な足取りですぐ近くにある階段を登っていく
おっかなびっくり登っていく階段はどこか楽しくて、彼女は立ち止まる事などしなかった

尚も響く轟音を目指して



彼女を封印していた結界を解いたのは、精食粒と呼ばれるものだった
最強のごくつぶしは、またもや余計なものまで喰っていた
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