それはいつの時でもそうだった
能力が己を滅ぼすのではなく、能力を恐れた者に滅ぼされるのだ
そしてその能力者の精神がおかしければ・・・尚の事
私の妹は、身に余る能力を得てしまった
そして、その能力に翻弄されていた
妹に与えられた世界は、どれも儚さを感じさせないほど脆く、今にも崩れ・・・壊れそうな世界だけだった
だからこそ、私は実の妹を幽閉しなければならなかった
隠匿する為に
その様な異能者は居なかった事にする為に
易々と、軽々と、飄々と、何も最初から無かった様に、私は妹を空気にしてしまった
だけど隠匿する事が、妹には救いになる
幽閉こそが、彼女の助けになる事だってある
例え、それに不自由を感じていたとしても・・・滅ぼされては何も残らない、何の想いも、残らない。
フランはそれをよく理解してくれた・・・でなければ黙って400年以上という時を過ごさなかったはず・・・
そして、そんな異能者を匿う一族として、私の周りの者までも同罪にされない為にも、同じ事が言えた
・・・吸血鬼は、そうした闇に滅んだ血統なのだから
これは、私の妹にだけではなく・・・私にも課せられた枷なのだ・・・
見つかってはいけない、隠さなければいけない
故に私は強くなければならない
誰にも弱みを見せず、誰にも解れを見せず
有象無象を黙らせなければならない、言い寄る者を、異を唱える者を、一人残らず黙らせる
だからこそ、私に敗北という二文字はない
私が敗北した時が、私の家族の綻びを意味しているのだから
「わ・・・たし・・・は・・・」
レミリアに、もう残された力は無かった
闇夜の加護があったとしても、光にあてられてしまってはどうしようもなかった
ナイトウォーカーの欠点、致命傷とも言える大きな弱点
土爪達の斬撃に問題は無い、あの程度であれば再生は容易だろう
だが、両肩を貫いた光牙達の傷はそうはいかない
再生が異様に遅い、これは今夜中の再生は容易ではないようだ
そう思うレミリアの前に、八雲が立ちすくむ
「・・・」
何も言わず、ただ様子を見ていた
二人の間に、少しだけ静寂があった
レミリアは苦悶の表情を浮かべ
八雲はどこか悲しげな表情で、倒れているレミリアを見下ろしていた
「負けて・・・ない・・・まだ・・・私は・・・」
少しは喋れる程度まで回復したが、それでも息苦しそうにレミリアは言葉を紡ぐ
それを聞いて、八雲は手をかざした
その姿は、あの光の龍を呼ぶ時に構える姿であった
「まだ続けるのか?レミリア・スカーレット」
認めたくない運命が実現してしまった
予想していた未来が、レミリアの心を斬り裂く
「・・・」
何も言えない、それでも何かを言おうとしたが、言葉を見失った
確かな想いだけを残して、言葉を失った
やはり自分では護れないのかと、落胆する
起き上がろうとレミリアは体に力を入れるが、両肩を吹き飛ばされてはそれも叶わない
かろうじて首だけは動くのを確認して、少し離れた位置に立つ八雲を見た
「封印するなり、焼いて灰にするなり・・・好きにしなさいよ・・・・・・」
レミリアのその言葉を聞いても、八雲は眉一つ動かさなかった
ただ、レミリアを見つめているだけだった
そんな八雲をレミリアは鼻で笑っていた
「・・・甘いのね・・・私の事・・・怒ってるんじゃないの・・・?」
怒り、それもある
だが今はそれ以上に、八雲には別の感情もあった
それをどう伝えようかと八雲が考えた瞬間
レミリアと八雲の間に、十字架が舞い降りてきた。
「・・・ッ!」
その十字架を見て息を飲み、レミリアの表情は動揺を露にした
「フラン・・・」
十字架は、フランドールだった
フランドールが両手を広げ、八雲に向かい合うように、そして姉を護るように、館から飛び、二人の間に降り立った
「話は聞いちゃった、咲夜が話してくれた」
申し訳なさそうなフランドールの声に、レミリアはただ溜息を漏らす
そしてフランドールは八雲に向かい合う
「お姉様を許してあげて」
「・・・」
それに対して八雲は何も言わなかった
ただの言葉では足りないと考えたフランドールは更に、付け足した
「私の事を好きにしていいから、お姉様は許してあげて」
「フランッ・・・ダメよッ!!」
「いいの、私が」
「フラン!!」
そんな姉妹のやり取りの最中、咲夜も現れた
時を止めて来たのだろう、急にフランの横に現れ、八雲に向かい合う
「フランドールお嬢様で足りなければ、私の命も好きにして頂いて構いません」
「咲夜まで・・・」
「私も居るわよ、レミィ」
「パチェ・・・」
「一応私も復活しましたよ」
「美鈴・・・」
先ほどの獣魔術の行使により、パチュリーの被甲は消滅したようだ
美鈴も既に動けるくらいには回復している
その様子を見て、レミリアは立ち上がろうとする
「まだ続けるのかと・・・言ったわね」
両腕が失われているので、再生した羽をはばたかせ宙に飛び上がり、地面に足を付いた
そして八雲を睨みつけながら吐き出すように声を紡ぐ
「続けるわ・・・!」
決死の様子に、八雲は首を横に振る
「まだ、無視をするのか?」
ようやっと、八雲が口を開いた
「ここにいる皆が君を護りたいと思ってるんだぞ、判ってるのかレミリア」
「・・・」
「家族を護りたいと想う気持ちは、君だけのものじゃない」
レミリアは何も言わなかった
「互いが互いを護るのが家族だろ。王だから民を護らないといけないとか、負けられないなんて理屈は元から間違ってるんだ、王が民に護られる事だってあるだろ」
「・・・」
「一人でなんでもかんでも背負って、ずっと家族の気持ちを無視し続けるのか」
「・・・」
「強くても、弱くても、どっちでも良いじゃないか、何かあったら一緒に協力して乗り越えて行けばいい」
「・・・まるで強者のセリフね」
「強くないさ、俺だって一人の力じゃない。多くの仲間が俺に力をくれたんだ」
ハーンの術式、マドゥライの教え、アマラの戦術
様々な経験を積んだ
それで仲間を失ったりもした
けれど、それで終わりじゃない
その得た経験を生かし、次に繋いできた
八雲は、そういった絆と想いをずっと繋いできた
「君は孤高すぎるんだよ」
「・・・」
「気高くあろうとするより、君はもっと家族に寄り添ったほうが良い」
気高さ、気概、誇り
吸血鬼として生まれ、吸血鬼として生きてきたレミリアには、どれもが当然で、当たり前の様に感じていた
孤高であろうとした
強くあるために
家族を守るために
だけれど、それは表面的なもので
レミリアが心の奥底で求めていたものは、ソレとは違っていたのかもしれない
「・・・」
それを今、見透かされ、自分でも薄々感じていた想いを見抜かれた
あろうことか、こんな会って間もない妖怪に
「・・・」
もう力だけでなく、心で負けを認めてしまった
どう足掻いても、勝てる要素が微塵も無い
やはり自分はまだ幼かった
幼すぎて見落としていたんだ
己の事を、そして妹の事、家族の事を
「咲夜・・・」
「はい、なんでしょうか。レミリアお嬢様」
「私の事は大丈夫よ、彼をアリスの元へ案内してあげて頂戴・・・丁重にね・・・」
「畏まりました」
ここまでアリスは何もしなかった
それがゲームのルールという事もあるが、それだけじゃない
何もしなかったというよりは、何も出来なかったと言う方が正しいのかもしれない
何重にも張り巡らされた結界がアリスの全てを隠匿している
フランドールに扱われた結界。それと同等の結界の中でアリスは待っていた。
ゲーム、遊びの結果を
それともう一つ
「遅いわね、藤井さん」
一応部屋に時計があるので時間を確認する事は出来る
アリスがこの部屋に入ってから、かなりの時間が過ぎている
あつらえられていたティーポットは既に空になり
何をする訳でもなく、何か暇を潰せる訳でもなく、何か出来る訳でもなく
ただひたすら待っていた
結果はもう判っているけれど、その結果報告を待ちわびた
そして今、待ちに待った運命の時が訪れた
外的要因で結界が消失した
誰かが解術したのだろう
やっとか、といった感じでアリスが椅子から立ち上がると部屋の扉が動く
本来、扉の動きと言うのは『開く』という表現が正しい使い方だろう
だが、この時は違った
『開いた』と表現するよりは、自然に『倒れた』と表現するほうが正しい
バタリと、それはまるで支えていた糸が切れた人形の様に、扉は力なく倒れ込んだ
「えっ・・・」
その扉の先に見える風景は、この扉に入る前とは大きく違っていて思わず驚愕の声が漏れる
まるで地震で倒壊したのか、それとも落雷にでも合い崩壊したのか、もしくは竜巻で破壊されたのか
立派だった紅魔館の面影すらない
扉の先には、ただの紅い瓦礫の山があるだけだった
「アリス!・・・無事だったか」
想像からかけ離れた風景の中、見知った一人の男がアリスに声を掛けた
その姿を認めて、尚も聞かずにはいられなかった
「藤井さん・・・まさかこれ」
八雲の後ろ、その背景にある瓦礫の方を指差し、アリスは絶句していた
「ちょっとやり過ぎた」
申し訳なさそうにしいている八雲だったが、この状況をどうしたものかとアリスも考えざるを得なかった
八雲が勝利する事はアリスにとって予想通りだったと言える
しかし、ここまでの被害が出るなんて思いもしなかった
そしてそれ以上に
「その服・・・」
昨日、アリスが八雲の為に作った洋服は見る影もなかった
服の殆どが八雲の血と土で汚れ、ボロボロになっている
「ごめん、大切に着るって約束したのに」
「大丈夫よ」
アリスは指に魔力を集中して、八雲の服の破れや傷をなぞっていく
「この生地は私の魔力で編んだものよ」
破けた服の部分を指でなぞると、ほつれから糸が飛び出し、糸同士が絡み合う
「私の魔力で直す事も容易いわ」
まるで服が、糸が意思を持ったかのように動き、即座に修復していく
汚れも同様に、八雲の血で染まった部分でさえ、元の色を徐々に取り戻していった
しかし、そんな事も些細な事の様に思えるほど、酷い風景が目の前にあり、アリスはそっちのほうに目が釘付けになっていた
『もしかしなくても・・・これは藤井さんとレミリアが争った跡・・・なのよね』
弾幕ごっこという枠を取り除いた場合
紅魔館の面子は強豪揃いと言えるだろう
組織の力もそうだが、それだけではなく、個の能力もとても高い
アリスから見れば、美鈴、パチュリーはまだ対処法もあるだろう、だが咲夜、レミリア、フランドールにおいては単独で攻略出来るかどうか怪しい部分である
スペルカードのルールという枠組みでなら何とでも出来るが、実践となると生半可では勝利する事すら不可能だ。
しかし、この男はそれすらも曲げて見せた
難しいと思う事を、やってのけた
勿論、八雲の勝利はアリスにとっては予想通りではあったが
だけどそれは、己の不死性を利用した戦法だと思っていた
死合なのだから、死ななければ絶対に負ける事はないという簡単なものでしかなかった
だけれど、これは
屋敷のほとんどが倒壊するような現状までは想像できていなかった
レミリアの心を折ったのではなく
レミリアに対して、ごっこ遊びではなく純粋な戦闘で勝利した
それだけでも凄い事だ
並みの妖怪では勝つことすら危うい吸血鬼を、それも月が見えるこの場で、打倒して勝利を収める事の難しさ
自身が戦闘したと想定して、その戦況を想像するだけでも嫌気が刺す
何せ相手は不死身と言われる妖怪の一つ、吸血鬼なのだから
不死身には不死身
目には目をといったところだ
そしてこの惨状を見て、アリスは目を伏せる
「・・・ごめんなさい」
ぽつりと、アリスは八雲に謝っていた
「私のせいで・・・」
しおらしくなってしまったアリスの様子を見て、八雲はアリスの頭に掌を乗せた
「何か理由があったんだろ?」
「・・・えぇ」
「なら、謝らなくていいじゃないか」
「でも!・・・でも・・・」
「気にするなって」
クシャリと、八雲がアリスの頭を撫でる
それだけで、何かを言おうとしたか吹き飛んでしまったアリスは、ただ俯いていた
うしろめたさと、申し訳なさが混ざり、なんと言えばいいのか判らなくなった
本心など、言えるはずがない
想いだけは沈黙するしかない
「・・・あ、ありがとう」
「あぁ」
ただそれだけの会話に、なぜ勇気が必要なのか
どうして、この人はこんなに笑っているのか
アリスは本当によく判らなくなった
だが、そんな空気をぶち壊す様に、冷や水を掛ける様に
「あらぁ?何々?どうしたのかしら?」
レミリアが八雲の後ろから現れ、妙にニヤけた顔でアリスに言葉を投げかけた
「ッ!なんでもないわ・・・よ・・・」
感情を隠そうと、声を荒げたアリスだったが、最後の方は間の抜けた声になってしまった
それもそうだ、レミリアの両腕は光牙に貫かれ、未だに再生できる兆しはないのだから
「その腕!」
「やられたわ」
ただ、簡単にまとめてレミリアは平然と言ったが、普通はそんな簡単な内容でもない
どちらかと言えばかなりの大事なのだが、再生能力の高い妖怪にとってはまるでトカゲの尻尾が切れた程度の内容に過ぎない
時間が経てば再生出来る
自身のことを良く理解しているが故に、それ程の動揺も無いのだった
だが、それ以上に驚愕な部分がアリスにはあった
レミリアの両腕が無くなっている事以上に
レミリアが両腕を失う要因を、八雲が作り出せた事に驚愕していた
あの烏天狗ほどではないが、レミリアもかなりの移動速度を誇る
それを捕らえ、そしてレミリアに大きな打撃を与えた
確かに、スペルカードのルールに則っていたら、これは盛大な違反行為ではあるのだが、それをお互い無視し、容認して戦った結果がこの有様という訳だ
『ひょっとしたら・・・藤井さんは、私の想像を遥かに超えているのかもしれない』
まだアリスは八雲の全力で行われる戦闘を目にしてはいない
だが、この惨状を見れば、そしてレミリアの様子を見れば、それは嫌でも察する事が出来てしまう
アリスが様々な思考を張り巡らせている中で、今度は吸血鬼の従者がどこからともなく現れ、新しい紅茶を持ってきていた
「良い教訓になったわ、それに大切なものも見つけられたわ、その感謝の印として今宵は紅魔館に泊まっていきなさい」
レミリアが咲夜に目配せをすると
瞬時に図書館にあった円卓をアリスの居た部屋に持ち込み、人数分のカップを用意した
「いや、そんな・・・」
と遠慮する八雲をギロリとレミリアは睨みつける
「不服、かしら?」
妙に不服という言葉を強調したレミリアの言葉に、八雲は逃げ口上すら思い浮かばなかった
それにしても、さっきまで死ぬ気で戦っていた相手を家に泊めるとは、どんな神経なんだろうと八雲は半ば呆れながらもその言葉に甘える事にした
その後、美鈴を除いた全員で、先の戦いの談義が行われていた
パチュリーは八雲の使用していた基本原理とその起動条件、そして獣魔術を熱心に聞き込んでいた
フランは八雲の命の在り処と不思議な感覚を持つ妖怪の言葉を聞き入っていた
レミリアはそんな八雲との会話を聞き、茶々を入れていた
咲夜はもう八雲と対峙するのは御免だと一言残し、全員の世話係りと、館の清掃を妖精たちに言い伝える
美鈴が居ない理由は、簡単なものだ
館が倒壊している部分の瓦礫を館の外に運び出していた、ようは肉体労働である
アリスは、その会話にただただ耳を傾けているだけだった
「つまり、獣魔術は寄生させて使役させるものなのね、寄生と言うよりは共生の方が正しいのかしら?」
「力を借りている、という意味では共生なのかもしれないかな」
「あの瞬間移動はどうやってるの?」
「それについては説明が難しいな・・・これは俺の友人が作った術式だからなぁ」
頭をポリポリと掻く八雲にパチュリーの瞳が輝いていた
「叶うのなら、その友人に逢ってみたいわ、そんな術を作り出せるアイディアを私なりに応用できれば・・・私の魔法を更に高められるもの」
確かに、と八雲は心の中で頷いた
パチュリーの性格とハーンの性格は合いそうな部分がある
ハーンの術式との融合が出来るのならば、それはとてつもない力になる
しかしながら、それを想像した八雲の内心はそこまで穏やかではない
『新しい魔法が出来たから試し打ちさせて欲しいの』
と、気軽にお願いしてくるパチュリーを想像してしまったからだ
考えても怖ろしい
もしも短距離転移を憶え、ベナレス同様に自在に扱えてしまったら
あの超重量の銀の龍を転移させかねない
それだけじゃない、彼女ならハーンが考えていた術や魔法そのものの転移を成功させ、文字通りの全方位の攻撃が可能になるかもしれない
そうなった時、八雲は勝利出来るのだろうか?
それを3秒考えて思考を放棄した
結果はすぐに出た
・・・絶対に勝てそうにない。
そして会話は、八雲の影の話に変わった
「ねぇ、アレは一体なんだったの?まるで鬼神の如くだったわ」
レミリアが半ば反則だと言いたげな表情で聞いていた
その言葉に咲夜の眉もピクリと反応した
「アレは・・・あの人は・・・」
コネリー、本名はベム・マドゥライという
八雲の師であり、一度ベナレスに勝利した実績を持つ、八雲の知りうる限り最強の魔道士だ
とりあえず、全てを説明しても彼女たちは理解出来ないだろうと思い
八雲なりに噛み砕いた説明をしていた。
「へぇ、師匠がいたの」
「まぁ、ね。もう亡くなってしまったけど」
「ん?亡くなったって、どういう事よ」
前のめりになるレミリアに
「意識だけを俺に移植していたんだ、マウスって術で自在に呼び出せたんだけど、もう壊れて・・・あれ?」
まさかと、八雲は思う
マウスと同様の効果を得ていた瞬間があった
戦いの中で、八雲はコネリーの存在を確かに感じ取っていた
「マウス!!」
起動した瞬間、それは壊れた術ではなく、完全なマウスが八雲の手に形成されていた
「どうして、壊れた筈なのに」
不思議がる八雲に、今度はアリスが声を掛けた
「きっと幻想郷のせいじゃないかしら」
「この世界の・・・?」
「えぇ、壊れても、忘れ去られた幻想であればコッチに来れる可能性もあるわ」
「でもどうして」
「その、マウス・・・だっけ?藤井さんの世界では藤井さん以外は忘れてるんじゃないかしら、それにそういった術や概念は元の形に戻る可能性もあるし、壊れた術ではなく、忘れられた術としてコッチに来たって事ね」
「・・・なるほどな」
この世界に来た瞬間に、壊れた術ではなく、忘れ去られた術として認識されているとは
なんだかちょっと悲しい部分もあるが、それについては言及しても仕方がない
それに起動させた瞬間に、マウスの術や思考を引き出せるのも、八雲には大きなアドバンテージになる所もある
しかし、そのマウスには八雲にしか分からない違和感があった
『コネリーさん』
呼びかけても、そのマウスの中にコネリーの意識はなかった
ただの無、術式だけ預けられ、コネリーの意識だけ綺麗さっぱり消えていたのだった
しかし、便利なものだと八雲は考えていた
『壊れた術でも、こっちの世界では再現されるのか』
のん気に
酷くのん気に
愚か者と嘆き、悲しまれるほどのん気に、うすぼんやりとそう考えていた
そして、その異常性にすぐに思い当たる最悪のケースを思い浮かぶ
「ちょっと待ってくれ!!!」
八雲は座っていた椅子を吹き飛ばす勢いで立ち上がった
数秒前の自分を殴り飛ばしたいほどの衝撃を八雲は受けていた
「ちょ、え?なんなのよ」
急な怒鳴り声に、アリスとフランは驚き
レミリアとパチュリーは冷静に、次の言葉を待つような素振りを見せていた
「壊れた術が元の形に戻るだって!?」
「そうだけど、なんなのよ」
ツーッと嫌な汗が八雲の頬を伝う
「なぁ・・・みんな」
深刻そうな声で八雲は呟く
「この世界で、呪術や付術に特化してて、なおかつ医術に精通している人はいないか?」
ここまで言い切り、八雲は自分で何を無茶な事を言っているんだろうと一人ゴチた
それもそうだ、医術に精通しているなら、人を陥れる呪術など習得するはずもないのだ
逆もそうだ、付術に特化させているのなら、医術など必要としない、己の術で治療できてしまうからだ。
落胆し、頭を抱えた八雲を他所に、レミリアは呟いた
「居るわよ」
「居るわね」
それに同調するパチュリー
「居たっけ・・・?」
フランは?マークが3つくらい出てるような表情をしている
「へ・・・?居る?」
「あー、あの人ね」
アリスも心当たりがある様な反応を示す。
「連れて行ってくれ!今すぐに!!」
アリスの左右の肩を両手で掴み、八雲は焦った表情で懇願するが
「それは無理、この時間じゃ怪我人以外に会う方法はないわ」
レミリアが八雲の言葉を刺し止める
「そんな悠長事言ってる場合じゃないんだ!」
「焦って相手の機嫌でも損ねたら、私以上に厄介かもよ?それでも押しかけるつもり?それで嫌われたら何もしてくれないかも」
そこまで言われると、八雲も何も言えなくなる
どんな人柄の人物かも分からない以上、下手に動き、何もしてもらえないというのは最悪の結果だ
「んじゃ、明日にでも出発すればいいじゃない」
レミリアは嬉しそうに口を歪ませて笑っていた