スペルカードルールに則って弾幕ごっこをするのなら、スペルの最大持続時間は100秒を超えてはならないという規定がある
だが肝心のその相手が、弾幕の『だ』の字も知らないズブの素人であれば、黙って見逃してあげるのも上級者の務めなのかもしれない
といえば聞こえはいい
実際は違った、魔理沙もアリスも制限の事などどうでもよくなっていた
魔理沙は探究心で、アリスは意地で、この虫のような鎧と戦い続けている
『こりゃ凄いぜ!八雲の術は幻想郷にないものだ。倒してみたいぜ、倒して後で扱い方を教わりたいぜ!!』
『外来人相手に私と魔理沙の二人がかり、どれだけ攻撃しようと鎧は無傷・・・なんて術なの!?でも、絶対に倒すわ!!素人相手に負けてらんないのよ!』
互いの思考はズレてても、収束する先は同じ
どちらも八雲を降したい、と考えている
そこにルール違反での敗北と勝利では意味が無い、魔利沙もアリスもソレは望むところではない
目の前の相手を降したい、自身の魔法の完成度を証明したい
ただそれだけの為に、今は戦っていた
鎧獣魔の特徴、それは驚異的な防御力にある
どの様な攻撃でも弾き、いかなる攻撃をも防ぎきる、まさに鉄壁と呼べる防御力
その防御力は圧倒的な硬さによって支えられている
甲はダイヤモンドの様に硬く、いかなるダメージでもものともしない
斬撃はもちろん、レーザーといった熱攻撃、魔理沙の扱う魔法のミサイルのような爆発にも耐えられる
まさに圧倒的で、鉄壁な護りの獣魔
だがそれには重大な欠点がある事を、アリスは気が付いた
まず一つ、鎧獣魔の重量
それだけの防御力を発揮する鎧獣魔を装備している八雲は、装備する前と比べたら断然に遅くなっている
そして背中に生えている羽では既に自重を支えきれていないようだ
その証拠に、さっきとは攻撃法がまるで違っている
更に、遅ければ遅い分、それを命中させる事は困難になってくる
特に魔理沙もアリスも弾幕戦ではかなりの手誰だ、今の八雲程度の攻撃速度では万が一でも当たる事はない
そして二つ、攻撃の単調化
防御力を過信してるのか定かではないが
その防御に頼りすぎていて、攻撃はハッキリいってお粗末なものだ
毎度その鎧は地面からバッタの様な跳躍で魔理沙とアリスの元へと突っ込んで爪を振り回す
避けられれば地面に落ちて、また跳躍
ずっとその繰り返し、それを避けるなんてあまりのも簡単だ
敵の攻撃を安易に避けられ、一方的に攻撃できる
本来であれば楽勝ムードが出ようものだが・・・
二人は肝心のその鎧に傷一つ付けられない
しかし、それももう攻略法をアリスは考え付いていた
まずは中身の問題
八雲があれを装備して、八雲が操作しているのなら
その中身にまで響くような衝撃を与えればいい
衝撃でなくとも、冷気や火炎の様な中身へ間接的にダメージを与えるタイプの魔法であれば
中の八雲へダイレクトにダメージが届く
そしてもう一つ
「魔理沙、いい考えが浮かんだわ」
「いい考えって、あの化物鎧を倒せるのか?」
「えぇ、次に飛んできたら―――返り討ちにするわ」
「よし、乗ったぜ!その考え!」
ノリノリの魔理沙だったが、アリスのその作戦を聞くうちにどんどん雲行きが怪しくなる・・・
「いや、それ本気か?死ぬぜ?私が」
「大丈夫よ、私は死なないわ」
「それじゃダメだろーがっ!」
「ほら、もう喋ってる暇は無いわ、次の跳躍が来る!」
アリスの視線の先、それはまた飛来して来た蝙蝠の羽を生やした虫の鎧
一直線に魔理沙へと突撃してきていた
「くっそー!やればいいんだろ!」
それは空元気なのか、本気で言ってるのかは判らない
でも魔理沙の覚悟も決まったようだ
アリスの作戦、それは・・・
「突撃よ!!」
「えぇい!女は度胸だ!!」
アリスを乗せて、鎧獣魔
だがそれは勿論ただの突撃という訳ではない
「行きなさい!呪いの藁人形!」
アリスが一つの人形に意思を与え、魔理沙の箒の先端に張り付け、固定する
本来は他人を呪う為の人形、胸には大きな釘が打ち込まれている物だ
その釘はアリスの特別製、アリスが作り出し、アリスが差し込んだもの、故にアリスの魔力影響を受けやすく、アリスの魔力で思い通りに強化も出来る
アリスのありったけの魔力を注ぎ込み、強化された釘は、今は被甲へ向けられている
「貫けえええぇぇ!!」
硬いものには、とある弱点が存在する
それは一点集中型の衝撃力
アリスは被甲が超高硬度の鎧と見当を付けた
硬ければ硬いほど、その耐久力は上がる
一見無敵に見えるその硬さも、衝撃には勝てない
ただのガラスを曲げる力だけで割ろうとするならば、それは意外に難しい
だが衝撃で砕こうとするなら、道具さえ揃えば誰にでも出来る
魔理沙の突撃力に、藁人形の巨大な魔力釘
その一点集中型の衝撃力に賭けてみたのだ
対して、一直線に跳躍した被甲は軌道を変える事は出来ない
假肢蠱の効力で生えている羽は、どちらかというと着地補助用で備えられたもの
空中で方向転換出来るほど、有効なものでもない
となれば、二人の衝突は避けられない
「ガアアアアアァァァ!!!」
まるで知能の無い妖怪の様に被甲は吼え
「うおおおおおおおおおお!!!」
それを迎え撃つように、魔理沙も吼えた
そして、藁人形の釘は
被甲の胸に、突き刺ささり、甲に亀裂が走る
「やったぜ!!」
してやったり顔な魔理沙はスカートの中に潜ませていた八卦炉を取り出す
それにありったけの魔力を注ぎ込み、魔力を熱へと変換させていく
そして熱はどんどん上がり、今度は爆発的なエネルギーに変換されていく
「こいつでトドメだ!!」
それはパワーを主張する魔理沙の必殺の一撃
―――恋符
「マスタアアァァ!!スパァァァーーーーーク!!!」
とてつもない熱の暴走
それを直に浴びて、助かるはずも無い
被甲であれば防げるだろうが、それも正常な状態であればの話
今は胸に釘が深く刺さり、その周囲に亀裂もある
胸に刺さってた釘は熱で溶け、その隙間から被甲を中身から焼いていった
「ギャアアアアアアアアア!!!」
虫のような鎧は、断末魔の悲鳴を上げていた
熱に耐え切れず、脆い関節の内側から火柱が上がる
「やばい!やりすぎたか?」
「不死身って言ってたし、コレくらい大丈夫でしょ」
焦る魔利沙にアリスは冷や水をかけるように冷静だった
『本当にやりすぎたかしら?でも自業自得よ・・・魔法使いの魔法を舐めた、貴方のね』
と、心の中で呟いていたアリス
勝利を確信していた
目の前に、熱に悶える鎧の獣魔があったのだから
しかし・・・
「藤井八雲の名において命ずる!」
その鎧の中に、八雲の姿は無かった
「なっ!?」
「えっ!?」
二人の少女が同時に振り向いた
その声のする方へ
「出でよ!(最小の威力で)
それは拡散させ、網の様に張り巡らされた電気の渦
攻撃力はかなり薄くなっている
当たっても、少し痺れる程度にまで弱められた雷蛇がまず魔理沙を捕らえた
「いっつ!」
アリスはその攻撃に気が付き、咄嗟に魔理沙の箒から飛び離れたが、箒の先端に取り付けられていた藁人形の糸で誘導された電気がアリスをも襲った
「くっ・・・!」
完全に不意を突かれ、二人同時に感電したせいで、どっちかが助けるという行動もとれず
やられた二人はただ呆然と目の前の男を見つめていた
「これで、一対一の同点だな」
糸目の男はニコリと笑っていた
「いいえ・・・一対二で私達の負けよ」
「私とアリスが同時に当たったからな、タッグだとそういうルールになるんだぜ」
「そうなの、か?」
いまいちルールが把握できていない八雲はあっけらかんとしていた
「凄いぜ!八雲!これでも私は結構本気でやったんだぜ!」
「凄いのは二人の方だ、まさか被甲をあんな形で倒すなんてな、俺には真似出来ない」
互いの健闘を称えて、ほほえましい感じになったところで魔理沙は切り出した
「さてと・・・教えるだけじゃ便利屋が廃るぜ、だから八雲の帰る手段を知ってるかもしれない奴の所まで案内してやるぜ」
快活に笑う魔理沙
「だからさ、行く途中で八雲の・・・その・・・あれだ」
「獣魔術、でしょう」
「そう、その術を教えて欲しいんだ!」
教えて欲しい、と言われて獣魔術は教えられるものではないのだが
魔理沙は自分が扱えるものだと信じているようだ
「悔しいけれど、負けは負け。でもそれとは別に私も興味が沸いてきたわ・・・藤井さんにじゃなくて、その術にね」
まるで小悪魔の様に笑うアリス
「勘弁してよ・・・」
妙に懐かれてしまったと感じた八雲は一人ゴチていた
「そういや魔理沙、一つ聞きたいんだけど」
「んあ?なんだ?」
「どうしてその人物の事を黙ってたんだ?」
「あー・・・それはだな・・・・」
「んー」やら「えー」やら、ぼそぼそと誤魔化そうとする魔理沙にアリスが割って入った
「その情報で何かを得ようとしたのよ、例えば藤井さんの何かと交換、とかね」
「・・・なるほど」
「いいじゃないか!過ぎたことを悔いてもお腹は膨れないってな!それより早く行こうぜ!」
それから三人は雑談しながら飛び立っていった
この幻想郷を支える巫女の元へ・・・