「出でよ!
宣言と共に、男の手から光の龍が現れた
肝心の美鈴は呆けてしまっていて、まともに対処できそうも無いが
その光の龍が一直線に咲夜に向かっているので美鈴の方は特に問題にはならない
どちらかというと、咲夜の方の問題
ではあるのだが
弾幕戦を主にしている彼女達に、ただの直線攻撃では当然当たるはずもない
容易く避けられるが、ここは確認しておこうと咲夜は
――――時間を止めた。
止まった時間の中で昨夜は
『光の術?空中の光を屈折と収束による熱攻撃・・・という訳ではないですわね、宣言と共に召還でもしたのかしら?』
だとすれば相手は召喚師という事になるのか
それとも、光を専属にしている魔法使いで、無から光を生み出したのか
そこまで思案したが、咲夜にその判別は効かない
『ここは美鈴には悪いけれど撤退が正解みたいですわ』
相手の情報が足りなすぎる
ここで挑むのは相手にとって都合が良い可能性だってある
相手が初見殺しの技を持っている事だって十分ありえるのだから
相手の戦力は未知数として扱うべきなのだ
なにせ今回の相手は、あの巫女を破った噂の妖怪なのだから・・・
ただの光の魔法使いであれば、十分に止められる技量が美鈴にはある
仮に止められなくとも、美鈴相手に無傷で紅魔館へと足を運べるはずは無い
それからでも遅くは無い。
相手が手負いになってからでも、遅くは無い
相手の戦力を把握してからでも、遅くは無い
その牙が・・・お嬢様に届きさえしなければ、遅くは無い
そこまで考えて、咲夜は時を――――動かし始めた。
八雲の放った
だが瞬きするよりも速く咲夜は消えた様に移動し、中庭にいた
放たれた
「美鈴、ここは任せます!私は一度引きますわ!」
そう言い残し、またメイドはまた消えるように移動して行った
今度はどこに行ったか分からないが、紅魔館のどこかに居るのは間違いないだろう
「えぇー・・・任せますって・・・」
言いつけられた美鈴は気まずそうに、八雲に向かい合う
八雲も殺傷能力の高い光牙を放ったのは警告のつもりだったのだ、もちろん狙ってはいたが当てるつもりなんて無かったのに、まさか消えるように避けるとは思いもせず少し戸惑っていた
「あはは・・・どうしましょう?」
「どうするもこうするも、俺はアリスを迎えに行くさ」
「でも、私は貴方を止めるように言われてしまいました」
「そうみたいだなぁ・・・」
既に二人の間の闘争心は薄かった
またもや気まずい空気になった二人
そこで美鈴は気を高め、地面を踏み抜いた
「!?」
その一撃は地面を穿ち、軽いクレーターみたいな窪みが出来上がる
その衝撃は近くに居た八雲に届き。地震の様に軽く揺れる
「私はこのように気を操れます。コレは内気功の一種で硬気功と呼ばれるものです、私なりの応用も多少は含まれて居ますが」
「いいのか?手の内を明かして」
「私も見ましたから、あの光の龍を・・・」
これでお互い様です、と美鈴は言った
「さぁ、続きと行きましょう」
流れるように美鈴の型の動きを見せる
「少々邪魔が入りましたが・・・私はまだ続けたいです」
久々の近接線での戦いに美鈴は焦がれていた
遠距離戦闘の多い幻想郷では珍しい近接戦闘の相手が目の前に居るのだから、それを止めるなんて出来ない
元々美鈴は遠距離戦、それも弾幕ごっこのルールは苦手なのだ
だから本来の力を発揮すれば他の誰にだって、そう簡単に遅れはとらない
あのレミリアにだって、近接戦闘のみという縛りであれば互角の戦いは出来る自信だってある
「そうしたいのは山々だけど、状況が変わった」
「そうですね、ですから手合わせではなく・・・お互い真剣勝負で!!」
キラキラと輝くような笑顔で美鈴は構えていた
そこには何の邪も無く、それは心の底から覗く美鈴の本心
強い相手と戦える喜び
美鈴はまぎれもなく武道家だった
「でも加減は出来ないかもしれない」
「必要ありません」
スパっと美鈴は言い切り
八雲も、それで理解した
「・・・分かった、行くぞ!」
美鈴は八雲が思ってる以上の武道家だと
美鈴はハンデがあると思っていた
八雲には、さっき咲夜から受けた傷がある
そのナイフの傷を考えると、八雲は本来の力で戦えるはずがない
そう、”勘違い”していた
「うそ!?」
その傷を無視したかのような踏み込みに、美鈴は驚いた
右脚にも、確実にナイフが刺さっていたのに
まるで傷が無いような踏み込みに、美鈴は思わず声を上げてしまう
左足を軸に飛び上がり、一回転
そしてその遠心力を利用してナイフで刺されたはずの右脚で、八雲は美鈴に回し蹴りを繰り出した
その威力は美鈴が考えていたよりも遥かに重く
今度は美鈴が八雲の予想外の踏み込みに対応できず、真正面から受け止める形となった
しっかりと受け止めた・・・ガードしたはずなのに、美鈴の左腕が悲鳴を上げる
「やはり思った以上にやります、ね!!」
そのお返しと、美鈴は右手で正拳を放ち
それを八雲は左腕の篭手で弾く
「そっちもな!」
今度は八雲の右ストレートを、美鈴は器用に左足の上段蹴りで合わせ、その軌道を反らした
その有様を、美鈴は疑問に思っていた
「右足も・・・右腕も・・・傷は痛まないんですか!?」
それはそうだ、刺された傷がこんなにも速く治るはずがない
治すような魔法や術を、八雲が使う素振りを見せていない
ならば、傷が残っていてもおかしくはないのに
「切傷ならすぐに治るさ、そういう体質なんだ」
あえて无の事は伏せる八雲
不死身である事も、今は明かさない方が良いだろうと思い、そこまでは語らない
同じ妖怪でも、こうも違うのかと美鈴は興味をそそられていた
「凄いですね!貴方はなんの妖怪なんですか?」
「・・・今は言えないな」
「ならこれが終わったら教えてくださいね」
普通に会話しているが、二人の手と足は止まらない
まるで功夫映画の様に、流れるような応酬が行われていた
美鈴が放ち、八雲が受ける
八雲が放ち、美鈴が受ける
放ち、受け、反撃
反撃、受け、放つ
ほとんど互角の速度で二人の拳は交じり合っている
『まさか、ここまで出来るなんて・・・!』
思った以上、どころではない
美鈴の拳は、脚は
全て八雲が受けてしまう、受け流し、威力の殆どは殺されている
さっきのはラッキーパンチだったと、美鈴は焦り始めていた
そんな応酬の中、八雲が切り出した
「”お嬢様の食事”と言っていたな」
「咲夜さんの話ですね」
「あれはどういう意味だ?」
「血ですよ、お嬢様は吸血鬼なので血が食事になるんです」
「・・・なるほどな」
「あの話が本当なら、今頃アリスさんの血を抜いているでしょうね」
それを聴いた瞬間、八雲の速度が上がった
美鈴ですら眼で捉えるのがやっとだった
反応できるはずがない、美鈴がそう思う前に、八雲の拳が美鈴の腹部を捕らえた
「ゴホッ!」
衝撃は肺にまで届き、肺の中の空気が押し出す
美鈴の体はくの字に折れて、両手で腹部を抱える
その隙を見逃すほど、八雲は甘くは無い
「藤井八雲の名において命ずる!出でよ!」
「!!」
さっきの召喚術、そう思い美鈴は即座に体勢を立て直した
あの光の龍は正面から当たるわけにはいかない
あれの威力は、まさに必殺と呼べるほどだ
もしも防御し損ねたら、命の危険がある
むしろ防御ではダメだ、回避に専念せねば危ない
だが八雲の構えは先ほど見せた構えではなかった
手を差し出さず、またもや左足を軸に一回転している
遠心力をそのまま右足に送り込み、再び先ほどの回し蹴りを放った
「同じ技で―――ッ!!」
発声はフェイントで、本命は回し蹴りによる打撃
しかも的確に顎を狙った一撃
その一撃で美鈴の意識を刈り取ろうという魂胆だと、また美鈴は”勘違い”していた
「
その回し蹴りを受けた瞬間、美鈴の体は切り裂かれた
三本爪の獣魔、それを八雲は脚で生成していた
八雲の初めて従えた獣魔が美鈴に襲い掛かる
「キャアッ!!」
悲鳴をあげ、美鈴は思わず後ろに退き、しゃがみこんだ
何が起きたのか分からない・・・
ただの回し蹴りを受けたら、まるでナイフで全身を切り裂かれたようなダメージを負っている
もちろん、八雲の方でも加減している
本気を出せば鉄すら切り裂く
「すまない、手荒な事をして」
「いいんですよ、言ったでしょう?真剣勝負と」
満面の笑みで美鈴は座り込んでいた
まだ美鈴には余力があるように見える、
「・・・今回は私の負けですね」
美鈴は降参した。
どういう事だ?と八雲は首をかしげた
まだ美鈴は余力を残しているのに、なぜ?
もしかしたら加減したとはいえ、考えている以上のダメージを負ったのかと考えて八雲は美鈴に近寄るが
「見ないで下さい!!」
悲鳴のような拒絶の声に、ビックリして八雲は立ち止まった
美鈴の降参の理由、その答えはすぐに八雲も理解した
「あっ!ご、ごめん!!」
美鈴のチャイナ服が
チャイナ服を支えるために、美鈴は立ち上がることが出来ないでいたのだ
それを見てしまった八雲は思わず美鈴に背を向けた
「えっと、大丈夫!見えてないから!ほんと!!」
なんと声を掛けていいのか分からなくなった八雲はそんな事を口走り、そそくさと舘に向かおうとする
「許しませんよ・・・」
美鈴は顔を伏せ、震える声で伝えた
「もう一度手合わせしてくれるまで許しませんからっ!」
恥ずかしさから涙目になりながらも、満面の笑みで心の内を明かす
「あぁ、分かったよ。またやろう」
「ですが次は・・・あの・・・」
恥ずかしそうに顔をまた伏せる美鈴に申し訳なさそうに
「・・・
と八雲は言う
そして同時に心に誓った。
どんなに加減をしても