クレヨンしんちゃんif 作:セラフ
閉店した肉屋の庇の下で、しんのすけはポツポツと雨粒が落ちる様子を見ていた。
雨粒は道路に黒の斑ら模様を描いていく。
先程まで晴れた青空だったのに、今ではすっかり灰色の雲が空を覆って雨が降っていた。
「うーん、早くしないとアクション仮面が始まっちゃうぞ」
雨が早く止まないか、としんのすけは地団駄を踏む。
だが流石にどうしようもない。しんのすけは諦めて、降ろされたシャッターに背中を預ける。
そして、雨はいつ止むのかーーそれを考えながら、しんのすけはセミの抜け殻ごっこを始めた。
「ねぇ、あれって野原さんとこの息子さんじゃない?」
「あぁしんちゃんね。またセミの抜け殻ごっこでもやってんでしょ。いつもの事さ」
商店街を行き交う主婦達や店主達は、しんのすけを気にも留めなかった。しんのすけも周りを気にせず、セミの抜け殻に成りきっていた。
五分、十分、と潰れた肉屋の壁に幼稚園児が張り付いてる光景が流れていく。
側から見ると異様な子供だ。
しかし雨足がまた強くなってきた頃、その子供に声を掛ける者が現れた。
「野原しんのすけ……」
「お?」
しんのすけに声をかけたのは男だった。
男はミルク色のローブを着て、フードを被っていた。僅かに見える顔と青い髪は神秘的で、人では無いように思わせる。
「あんた誰」
「私か、私の名は……ハイドラ……」
「ドロドロ三角関係の?」
「それは昼ドラ。違う、私の名はハイドラだ」
「変わったお名前ですな。オラ野原しんのすけ。ピッチピチの五歳児だぞ!」
そう言ってしんのすけは挨拶がわりに尻を見せる。
さぁあなたもお尻を見せろと言わんばかりのしんのすけの視線に、ハイドラは一瞬困惑の表情を見せた。
「そ、そうか」
「それでハイドラのおじさん、オラに何か用?」
ハイドラは「あっあぁ」と言って、小さく咳払いをして真っ直ぐに見つめた。
「野原しんのすけ、君に頼みがある」
「ほうほう……やだ」
「まっまだ何も言ってないだろう」
「え〜だって知らないおじさんだし〜怪しいぞ〜」
「……確かにそうだな、でもすまない、無理矢理だがきいてもらうぞ」
「あ〜ん強引〜痛くしないでね……」
意味ありげに頰を染めるしんのすけ。
マセてるな、とハイドラは困り気味に口元を歪める。
「それで、頼みってなんなのおじさん?アクション仮面が見たいからなるべく早くお願いだぞ」
しんのすけは「仕方ないなぁ」と言って、肩をすくめる。そんなしんのすけに、ハイドラは「ありがとう」と小さく言った。
そしてハイドラはゆっくりと頭を下げた。
「野原しんのすけ……世界を救ってくれ……」
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『こちらが先月見つかった軍記、透魔記です。これは現在日本で残されている軍記の中でも最も古いもので、発見された場所は埼玉県の春日部市……』
「へーこんなスゴいものが春日部にねぇ」
掃除、洗濯、を終えて、野原みさえは居間でテレビを見ていた。
『こちらの軍記はかすかべの森、美術館に保管されています。明後日には一般公開もされるそうなので、週末はこの軍記を観に美術館に来てみては如何でしょうか?』
「ふーん、軍記ねぇ。でもウチのお馬鹿は興味ないだろうなぁ」
興味無さげにそう言って、みさえは煎餅を一枚とって食べた。
そしてダラダラとテレビを見ながら時間が過ぎていく。
みさえが全て煎餅を食べる頃には、5時を過ぎようとしていた。
「しんちゃん遅いわねぇ」
みさえは立ち上がり、居間のカーテンを開けた。
外は雨が降っている。前が見えない程の大降りだ。
どこかで雨宿りをしているのかーーみさえは心配になり、娘のひまわりを連れて車で迎えに行く事にした。
しかし、しんのすけは何処にもいなかった。いつも遊んでいる公園。よく通る商店街。しんのすけが現れる場所を探したが、みさえは見つける事が出来なかった。
しんのすけの友達達の家にも行って確認したが、しんのすけはいなかった。その頃にはもう19時を過ぎていた。
その日、しんのすけは帰ってこなかった。
ありがとうございました。