クレヨンしんちゃんif   作:セラフ

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本当はゲームの第1章から書きたかったのですが、上手く書けずオリ展から始まります。3話辺りからゲーム本編になると思います。


第1章 突然の来訪者

その国の朝は闇から始まる。

空には延々と灰色の雲海が続き、太陽を出す事を許さない。朝を告げる獣達の咆哮が国に満ちる時、民は朝が来た事を知る。

暗き朝を迎えるその国の名は暗夜王国。大陸を二分する程の領土と強大な軍事力を持った西洋的文化が見られる王国である。

暗夜王国の王都『ウィンダム』に悲鳴の様な咆哮が響き渡る。

朝が来たのだーー朝に気付いた民達は其々の家にある蝋燭を灯す。

連鎖する様に小さな灯りが生まれていった。王都を空から見下ろせば、闇の中を蛍が舞う様な景色に見えるかもしれない。

次第に人々の喧騒が現れ始めた。王都に敷かれた石畳の道を馬車が駆け抜け、暗鬱だった朝に爽快な風を吹き込んだ。

王都の暗き朝はゆっくりと終わりを告げようとしていた。

しかし王都の中心に位置し、地下に作られた王城『クラーケンシュタイン』だけは得体の知れない影が蠢いていた。

 

暗夜王国北の城塞にてーー

 

王都が活気づき始めた頃、暗夜王国の北に作られた城塞も遅い朝を迎えていた。

荒野に囲まれた王都と違い、北の城塞の周辺には緑に溢れている。木立の中を野ウサギが跳ね、野鳥達が八重に飛び回る平穏な森がある。

そんな風土のせいだろうか、この城塞に暮らす人々は穏やかで心根が優しい。

その中で1番優しい心を持った青年は今、ある違和感を感じ眠りから覚めようとしていた。

青年は眠っている途中突然、額に違和感を感じた。

マシュマロの様な物体が額に押しつけられている。いや、よく感じれば顔全体に押しつけられている。

そんな違和感をかれこれ30分程味わっている。

この青年は寝起きが悪い。人に叩かれない限り起きない程悪い。

だが流石に我慢が出来なくなり、青年はとうとう目をあけた。

 

(╰U╯ )

 

何だこれーー青年はまずそう思った。

見えるのはコレ→╰U╯ 。見覚えがある様で見た事のないものだ。いや、それより何故視界が一面肌色なのだろう。いつも見慣れた部屋の様子が見えない。

 

(まるで何かが覆いかぶさっているみたいだ……)

 

青年は疑問に思いながら、上体を起こそうとする。

しかし首に強烈な重さを感じた。

そこで初めて青年は気付く。何かが自分の顔を覆いかぶさっている事に。

急いで青年は自分の顔を覆いかぶさっているものをヒッペ剥がす。

そして青年は見た。凛々しくプリンと輝く小さな尻を見た。

青年が驚きの声をあげようとした瞬間、その尻の狭間からプスっと短い音がした。

 

「くっさあああああ!」

 

目が染みる程の強烈な放屁。青年は整った顔を歪ませ、臭いを霧散させようと顔を横に振る。

寝ぼけ眼だった青年は完全に覚醒した。

上体を起こして青年は改めて手に持った尻ーー少年を見た。

少年は黒髪で赤い服を着ている。下は何も履いていない。だが青年が寝ているベッドの片隅にパンツと黄色のズボンがある、恐らく少年のものなのだろう。

青年はとりあえず下半身丸出しの少年にパンツを履かせた。

 

「とりあえずパンツは履かせたが……何なんだろうこの子は」

 

目の前でスースーと呑気に寝息をたてる少年を見下ろし、青年は何故自分の部屋に小さな子供がいるのかを考える。

この少年は何者だろう。何で下を履いていなかった、いやそれよりどうやってここにーー

青年がいる部屋は城塞の中心に建てられた石塔の頂にある。この部屋に来るまでには千段以上の階段を登らなければならない。

ならば迷い込んだという可能性は低い。

自分が部屋に連れ込んだーーそれは絶対にない。

 

「分からない……この子に聞くのが1番か」

 

幾ら考えても分からない、青年は寝ている少年を起こそうと身体に触れた。

そこで青年はある物を目にした。

少年はペンダントをつけている。ハートの形で、蕾の様な膨らみの中心に青い宝石が埋め込まれている。

それを見た瞬間、宝石の輝きを懐かしいと思った。何故か分からない、だが幼い頃、記憶が定かでないが見た事があると直感した。

 

「このペンダントは一体……」

 

青年はペンダントをよく見ようと顔を近づける。少年と青年の顔が少し触れた。

その時、部屋が勢いよく開いた。

 

「おはようございますカムイ様!今日も良い朝です……ね?」

「フェリシア煩いぞ。まだ寝ていらしたら、あっ起きてたんですねカムイ…様……?」

 

部屋に入って来たメイド服を来た少女と執事服を着た青年は、ベッドの上にいる主人を見た途端驚愕の表情を張り付かせその場で固まった。

 

「あぁおはようフェリシア、ジョーカーどうしたんだ一体?何でそんな驚いた顔を……」

 

その時、青年は理解して言葉を失った。

今のこの状況、側から見れば青年が寝ている少年のパンツをずらそうとしている様に見えるのだ。

 

「カ、カカカカムイ様……なっ何を!」

「落ち着けフェリシア。カムイ様、お楽しみの所申し訳ありませんでした。ご安心ください。このジョーカー、今見たものは墓場まで持っていきますゆえ……」

「ちょっと待ってくれジョーカー!違うんだ!これはその……誤解だ!」

 

そそくさと部屋をあとにしようとする二人を必死に呼び止め説得する。

説得されてる間二人は疑り深い表情のままだったが、どうにかして仕えるべき主人の必死の懇願を受け入れた。

 

「なるほど、朝目覚めたらこの子供がカムイ様のベッドの上にいたと……」

「それでカムイ様がこの子を起こそうと顔を近づけたら、私達が部屋に入り誤解をしてしまった……」

「そうだフェリシア。俺はこの子に何もしていない。変態にしか見えないかもしれないが信じてくれ」

 

変態とみなされてる青年カムイは未だに表情が晴れない二人を見つめた。その瞳に偽りの色はなく澄んだ赤い眼光が収まっている。

真っ直ぐな視線に射抜かれた二人は、ようやく疑念の表情を解いた。

 

「カムイ様、私は信じます!」

「俺も信じます。どうかお許しください」

「別にいい。信じてくれてありがとうフェリシア、ジョーカー」

 

カムイは誤解を解き終えてホッとした表情を浮かべる。

しかしそれも束の間、眠っている少年が発したとある寝言がカムイを地獄に叩きつけた。

 

「お〜もうれツゥ……そこはダメだぞ……」

 

このあと二人をまた説得するのにかなりの時間を要した事は言うまでもない。

 

ーーーーーーーーーー

 

騒々しい朝を終え、時刻は昼を過ぎようとしていた。

北の城塞周辺は未だに夜の様に暗い。

しかし陽光を出す事を許さなかった雲海が所々千切れ始め、雲間から一筋の陽光が顕れる様になった。

その暗闇の中に消える光芒を、窓際の側で佇みながら従者フェリシアは見ていた。

 

「きれいです……」

「フェリシア、何ボサッと突っ立ってやがる、お前も掃除しろ」

 

同じ従者仲間であるジョーカーに毒づかれ、フェリシアはハッと我に返り掃除を再開する。

現在二人は従者専用に建てられた屋敷の一室を掃除している。

部屋の中は動線10歩以上とそこそこに広く、簡素なベッドと棚が隅の方に並べられている。

そのベッドの1つには例のじゃがいも頭の少年が眠っていた。

 

「それにしても、この子全然起きませんねぇ」

 

フェリシアはベッドの上で眠る少年を横目に、箒を掃きながら言った。

 

「もう昼なのにまだ起きないなんて……何かの病気でしょうか……」

「フローラに診せたが問題は無いと言っていた。こいつはただの目覚めが悪いガキだ」

「ムッ何ですかその酷い言い方。ジョーカーさんは心配じゃないんですか?」

「心配なんかするか。むしろ心配するのは俺達の方だ」

 

ジョーカーは神妙な表情を浮かべ、フェリシアを睨む。フェリシアは箒を掃くのを止めて首を傾げた。

 

「分からないかフェリシア。カムイ様はこのガキを連れ込んで無いと仰った。ならばこのガキは城塞の警備を抜けてカムイ様の部屋に入った事になる。あとコイツの顔をよく見ろ。暗夜の顔ではない。隣国の奴らに似た顔の特徴を持っている」

「まさか……白夜王国のスパイとでも言うんですか!?」

「その可能性はある」

「でもこんなに小さな子供ですよ?あり得ません!」

「だとしても危険は無いとは言い切れない。だから準備しておけ」

「何を準備するんだぞ?」

「決まっている、ガキを殺……!?」

 

ジョーカーとフェリシアはその場に一瞬固まった。

先程までベッドの上で寝ていた少年がいつの間にかジョーカーとフェリシアの間にいたのだ。

ジョーカーは反射的に腰に隠した暗器を取り出して、切っ先を少年に向けた。

凶行に及んだジョーカーに、フェリシアは慌てて少年を抱き寄せてジョーカを睨みつけた。

 

「ジョーカーさん!何をしているんですか!」

「退けフェリシア」

「嫌です!暗器をしまってください!」

「そのガキは音も立てずに一瞬で俺達の間に現れた。白夜には気配を殺す事に特化した集団がいるらしい。そのガキも」

「馬鹿ですか!それならカムイ様や今近くにいる私はとっくに死んでます!落ち着いてくださいジョーカーさん!」

 

フェリシアとジョーカーのお互いの視線が重なり、一触即発の空気となる。

しかし自身の命が狙われた緊迫した状況にもかかわらず少年は

 

「おねいさんのお胸……オラ幸せ……」

 

何とも幸せそうにフェリシアの胸に顔を埋めていた。

 

その後、フェリシアがジョーカーを説き伏せた事でその場は丸く収まった。

少年が敵国の白夜のスパイか今は考えない。少年を知る事が必要だーー

そんなフェリシアの真っ当な意見を訊かされ、ジョーカーは暗器をしまった。

 

「ジョーカーさんがカムイ様を思ってこの子を警戒するのは分かります。でもいきなり襲うのは……」

「あぁ確かに駄目だな…すまない、浅慮だった」

 

眉間に皺を寄せて、ジョーカーは自身の行いを悔いた。同時にすぐに少年を殺そうとした自身の愚かさに苛立ちを感じた。

ジョーカーが落ち着きを取り戻すのを見て、フェリシアはホッと溜め息を吐き、自らの胸に顔を埋める少年に笑顔を向けた。

 

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。オラ幸せ〜」

 

少年は全く気にしていない様子だった。

気丈に振る舞っているのだーーそう見えたフェリシアは少年を守りたいと思った。実際は少年はただフェリシアの胸に顔を埋める事に夢中で、周囲の状況を理解していないだけなのだが。

 

その後、フェリシアとジョーカーは少年を連れて、屋敷の大広間に向かった。

大広間に並べられたソファに3人は向かい合うようにして座った。

 

「ほうほう、これはお見合いというヤツですな。ねえねえおねいさんのお名前は」

「私ですか?私はフェリシアでーすって違います!これはお見合いじゃありません!」

「そうなの?なら……あなたにうちのフェリシアちゃんはあげませんわよ!」

「…何で彼女の両親に挨拶に来た設定になっている。あと何でお前が母役なんだ」

「え〜ならなんなの〜」

 

マイペースで奔放な少年だ。フェリシアとジョーカーは先程までの緊迫した状況を少しだけ馬鹿らしく思った。

しかしジョーカーの顔には警戒の色は解けていない。今から行う尋問で少年を見極める。場合によっては手荒な事もしなければならない。

最初に問うたのはジョーカーだった。

 

「おい小僧、どこから来た」

「オラ?オラは春日部からやって来たんだぞ」

 

春日部、その言葉にジョーカーは記憶を巡る。暗夜王国にそんな地名はない。

やはり他国者、白夜の人間かーージョーカーの顔に警戒の色が濃く現れ目を細める。そして同時に疑問に思う事があった。

暗夜王国と白夜王国は一国民の生活水準が違う。

暗夜王国は白夜王国より領土を持っているが、その全ては草すら生えない貧しい大地で民は常に飢餓に苦しんでいる。反対に白夜王国は豊かな資源と食糧に溢れている。

わざわざ恵まれた環境を捨てるだろうか。いやそれは無い。

ならば暗夜王国の王子であるカムイを暗殺しにきたと考えた方が幾つかの辻褄が合う。しかしこんな子供がーー

冷徹な表情のまま考え込むジョーカーに、少年は少し顔を強張らせた。

 

「おにいさん、お給料日3日前の母ちゃんと同じくらい怖い顔だぞ……ねえねえフェリシアおねいさん。オラ怖〜い」

「えっだっ大丈夫ですよ!ジョーカーさんはいつもこんな感じで無愛想ですから!」

「フォローになってないぞフェリシア。それより小僧。次の質問だ」

「あーんオラモテモテ〜」

「尻を振るな………なぁ小僧。お前はどうやってここに来た。それと目的は何だ」

 

ジョーカーは1番聞きたかった事を少年に聞いた。

この少年が本当の事を言うか分からない。だがもし嘘をつくような発言や素振りがあれば、ジョーカーは少年に残酷な事をする覚悟があった。

ジョーカーの真剣な表情を見て、少年はふざけた態度を抑えて応えた。

 

「オラはね、カムイおにいさんをお守りする為に此処に来たんだぞ!」

「カムイ様を守る?」

「そーそー昼ドラのおじさんに言われてやって来たんだぞ。いやぁモテる男は辛いですなぁ。でもチョコビ100000000年分もらったし〜」

「チョコビ?何ですかそれ?」

「チョコビはお菓子だぞ!フェリシアおねいさん食べる?」

 

いつの間にか、少年はピンク色のワニが書かれた緑色の紙箱を持っていた。

その紙箱の中にはキラキラと輝くポリ袋があり、ポリ袋の中を開けると甘い香りを漂わせる茶色い菓子がこぼれた。

少年はその1つをぽいっと口にいれた。

 

「やめられないんです。このサクサク感……」

「へー美味しそうですね。私も1つ」

「おいフェリシア食べるのをやめろ!毒の可能性もあるんだぞ!」

「そんな事ないですよぉ?美味しいお菓子です。ねー」

「ねー。それなのに、こんなに美味しいのにこの人いつも要らないばかりで構ってくれないの……」

「それは酷いですね、ジョーカーさん、奥さんを大事にしないといけませんよ?」

「っガキにのるなフェリシア!それに俺とこのガキが夫婦だと?気持ち悪い!」

「気持ち悪いですって!?あんまりだわ!私もうフェリシアちゃんを連れて実家に帰るから!ウンザリよ!」

「ウンザリなのはこっちの台詞だ!あーもう白夜のスパイだとか関係ねえ。粛清してやる!」

「いやん、痛くしないでね……」

「チョコビ美味しいですぅ」

 

大広間は混沌の場と化した。もう誰にも止められない。

その様子を大広間の柱に隠れながら見守る少女がいた。

 

「出ていけない……」

 

少女は三つ編みにした青い髪に触れながら言った。

 

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