クレヨンしんちゃんif   作:セラフ

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本編にいくのはまだ数話先になります_(:3 」∠)、


第2章 居候と老人

「何故だ……どうしてこうなるんだ……」

 

ジョーカーは立ち尽くしていた。現実を受け入れる事があまりに難しいからだ。

自分の部屋にいるのに落ち着かない。いや、これからは自分の部屋では無くなるのだ。

時間が巻き戻らないだろうか。とジョーカーは壁にかけた時計を睨むが、針は止まらず進むばかりだ。

諦める様に、ジョーカーは溜息を吐いて肩を落とした。丁度その時、部屋の扉がゆっくりと開かれた。

 

「ほうほう、ここがジョーカーちゃんのお部屋ですか」

 

 

 

しんのすけが現れたその日の夕方ーー

 

夕食を終えて、しんのすけをどうするかの話し合いがされた。

話し合いは従者達のまとめ役的立場にあるギュンター主導のもとで行われた。

しんのすけを追い出すか、それともこの北の砦に留めるのか。

しんのすけは敵なのか、味方なのか、しんのすけを寄越したハイドラという人物は何者かーー

あらゆる意見が交わされた。

それら全てをギュンターは判断し、そして結論を出した。

 

「取り敢えずしんのすけは執事見習いとしてこの砦で預かろう。そうだな……世話役はジョーカー、お前に任せよう」

 

 

 

そして現在ーー

 

「いやぁムサ苦しい部屋ですが、ゆっくりしてくだされ」

 

「ここは俺の部屋だ!お前が」

 

「ほっほ〜いこのお布団フカフカですなぁ」

 

「…人の話を聞け!っ何で俺がコイツの面倒を見なければならんのだ!あとベッドの上で跳ねるな!」

 

しんのすけは尻を出しながら、まるでトランポリンを跳ぶようにベッドの上で跳ねている。

メイキングしたベッドが、シーツが、シーツの角が乱れていく。

厳格な執事のジョーカーにとってそれは許せない事だ。

 

「このクソガキ、止めろと言ったら止めろ!」

 

「そう言われるとやりたくなっちゃう多感なお年頃〜」

 

ジョーカーの何かが切れた。

 

「やはりコイツは殺……」

 

額に青筋を浮かべ、ジョーカーは腰辺りに隠した暗器に手を伸ばす。

殺しはしない。ただ静かにするだけだ。殺しはしない、決して。

そのままジョーカーはしんのすけから目を離さず、一歩近付いた。

しんのすけはジョーカーに気付かずに未だベッドの上で跳ねている。

好機ーージョーカーはしんのすけに手を伸ばした。

しかしその時、しんのすけが消えた。

呆気に取られたジョーカーは耳に生暖かい風を感じた。

 

「はむ」

 

「……なっ!はぁん♡」

 

消えたしんのすけはジョーカーの肩に乗っていた。そしてジョーカーの耳を甘噛みした。

突然の事でジョーカーは崩れ落ちた。

 

「なっなっ、このガキ……」

 

「ほうほうジョーカーちゃんはお耳が弱いんですな、風間君みたいだぞ」

 

「……ジジイすまねえ。やっぱり俺は無理だ。こいつは絶対ぶっ殺す!」

 

ジョーカーは肩にのっているしんのすけを掴み宙に放り投げた。

 

「おっ?」

 

「クソガキ覚悟しろ」

 

ジョーカーはしんのすけに向かって青銅の暗器を投げる。

その暗器は先端が丸い殺傷性の無いものなので、当たっても気絶する程度のものだ。

暗器は一直線にしんのすけ目掛けて進み、しんのすけの眉間を捉えた。

しかし暗器はしんのすけに当たる事なく、宙を切って向かいの壁に当たった。

しんのすけはまた消えていた。

 

「なっあのガキ何処に……」

 

「ここだぞ〜」

 

ジョーカーは急いで後ろを振り返った。

ジョーカーが見たのは、しんのすけがベッドの上でチョコビを食べている様子だった。

ジョーカーの怒号が砦中に木霊した。

 

ーーーーーー

 

煖炉に焚べられた蒔が音を響かせながら火を弾く。

音は天井に吊らされた簡素なシャンデリアを通り、数秒の倍音を残して消えていく。乾いた冬の空気のせいか、音は明瞭な響きを持っている。

老人はその音に耳を傾けながら、ゆっくりと息を吐く。

老人の名はギュンター。従者達の長的な立場にあり、この暗夜王国北の砦にてカムイと並ぶ権力を持った老騎士である。

 

褐色の肌に深い皺を刻ませギュンターは、朧げな記憶を引っ張り出していた。

 

あれはそうだーー

今もはっきりと思い出す。

空を穿つかの如く建てられた塔。それは虹の塔と呼ばれ、塔の試練を乗り越えた者に無限の力を与えると言われていた。

私は力を得る為にあの場所に向かった。

守る者を奪われた私は、復讐する為の力が欲しかった。

試練は形知れぬ猛者達との闘いだった。闘いは数日にも及び、果ては無いように思えた。

最後の猛者を討ち取った時、私は倒れた。

目も開かぬ、手足は切り下ろされた様に感じた。

意識が暗闇の中に落ちていくーー

その時、私は老人の声を聞いた。

 

「お前が得た力は復讐の力だ。今より数十年後の未来、お前はその力を振るって近しき者を殺めるだろう。だが、その力を止める者が現れる、そしてお前に真の力を預けるだろう。その者の名はーー」

 

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「野原しんのすけ……」

 

記憶にある声は確かにそう言っていた。力を止める者は野原しんのすけだと。そして真の力を預けると。

あれから数十年経った。

今はもう復讐の為に力を振るおうなど考えていない。憎悪の火はとっくに消えた。この砦に暮らす我が子達が憎悪を消してくれた。

私が得た力はあの子達を護る為のものなのだ。いつしかギュンターはそう思うようになった。

だが、あの声の通り野原しんのすけが現れた。

それは自分が復讐の力を振るってしまうという事だ。

 

「私は……ど「こんのクソガキがぁあああああ!!!」

 

ジョーカーの怒号にギュンターはハッと顔を上げる。

ダダダダダンッ!と床が抜ける様な音が響くと、再びジョーカーの怒号が聞こえた。

 

「ケツだけ星人ブリブリ〜!!」

 

「待たんかジャガイモ頭!」

 

もう何かやらかしたのかーーとジョーカーは口元を歪める。その表情は笑っている様だった。

 

「まったく世話のかかる…」

 

ギュンターは重い腰を上げて溜息をつく。

すると溜息と同時に、自分の中にあった不安が出ていくのを感じた。

この時ギュンターはふと思ったーーただ今を護ろう、と。

 

「……私も老いたな」

 

ギュンターは自然でどこか哀しげな笑みを浮かべた。

そしてゆっくりと前を見据え、ギュンターは部屋を去った。

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