ありきたり物語   作:名状しがたい魔王

2 / 9
森と命と方向音痴

鬱蒼とした森の中、流れる真っ赤な血、ああ、此処で死んでしまうのだろうか?追いかけてくる足音は近く、しかしどうやら見つかってはいない様・・・・まあどのみちこのままじゃ逃げ切るその前に血を失って死んでしまうけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・様子がおかしいな。」

 

俺は街の門を出て30分くらいほど走ったところにある森に来ていた。何時もは此処で昼食を食べているとそれを好機と思った若い隠れ狼が物陰から襲ってくるものなのだが・・・今日は何事もなくもらった昼食を食べきってしまった。弁当の箱を布に包みベルトに付けてしまう、そして息を大きく吸い込み吐き出し目を閉じるそこから息を止め周囲の気配を探る、俺の右側の岩の裏になにかがいる、息が荒い、ダメージを受けているのか全く動く気配はなくジワジワと気配が薄くなって行く。さらにその奥には少し大きめの気配、だが狼の様な動物ではなく・・・人間、人間の気配だ。そして左側のこの動きは・・・

 

「惜しい。」

 

比較的大きな草むらから音も立てず獲物の頸筋に向かって一直線に飛んでくる『隠れ狼(ハイドウルフ)』その息を殺し隙を伺う戦い方はまるでアサシンだ。

 

ジャックは肩幅に開いていた足を地面をする様に動かし左から飛び掛かってくる狼に向かって左足が前に右足がそれより少し後ろになる様に構え鋼鉄鎧に包まれた左腕を狼の口に突っ込む様にして狼の動きを止め右手で左に挿してあった剣を抜刀、その勢いで振り抜き獣の首と胴体を分断する。

 

戦いはまだ始まってばかりだ、狼というのは基本群れで行動する生き物だ1匹いたら・・・

 

「「ガアアアアアア!」」

 

もう2匹や3匹、或いはもっと居るだろう今回の依頼は隠れ狼の討伐それは確かに1匹でも達成ではあるのだが通常群れとの戦闘になり多いときは百を越す群れとの単独戦闘になる。

 

(周囲の気配に変化なし狼の総数は推定5匹最初の1匹は一番弱っていた年寄りだ。残りは子供か元気な若者ってところだな。)

 

ジャックはそう確信しつつ左右から挟む様に飛び掛かって来た狼2匹のうち右側にいた方に剣で砂を巻き上げ目を潰すが左側の狼は構わず突っ込んで来たので左腕について居る最初の1匹の頭を振り払いぶつける、空中で物をぶつけられ地面に無様に叩きつけられた狼を尻目に目や鼻に砂や小石を受けた右側が立ち直ったが脳と心臓を右足を踏み込む事でリーチを最大まで伸ばしたジャックのロングソードに貫かれ死亡、地面に落ちた方が背後からジャックを襲うが右足を後ろに引き急速に振り向いた勢いを利用して右手の剣を振り抜かれ飛んで来た狼はもう少しというところで首が飛んだ。

 

残りの2匹は母と子供らしく岩陰に隠れていた出産したてで動くことができない様だった、しかも母親の右後ろ足は存在していなかった。狩が出来ない狼の親子はこの状況では此処で死ぬか別の魔物や猛獣に殺されるかの二択だジャックは迷いなく2匹を殺し依頼を完了した。放置すれば彼等を討伐しに来た人間として責任を投げ出す様なものだと思ったからだ。

 

「・・・」

 

討伐証明の尻尾を三本貰い三匹分の毛皮を剥ぎポシェットから出した袋に入れ狼の親子はその岩の前に深い穴を掘り火葬して埋めた、死体はそのままにするとどういうわけか動く死体になってしまうなのでこの国では動物、人間、魔物その全ては燃やしてその灰にする事を義務付けられて居る。

 

少しの間跪き祈りを捧げる。別に信心深くはないが何かを殺めた後はその命への感謝をする様にジャックは心がけていた。

 

「いやー、良い剣さばきと体さばきです。独学ですかね?」

 

祈りを捧げて居る途中背後に気配が近ずいて来ていたが怪しい動きも無かったので放置して居るとなんとも胡散臭い感じのする声と共に話し掛けられた。仕方なく振り返ると全身甲冑の騎士がいた。しかし、その鎧の何処をみても所属を表すものが無い、判るのはその腰にある豪奢な細工をされたレイピアは見た目の美しさと裏腹に恐ろしい鋭さがあるという事だ。

 

「そうだな、見様見真似と独学だ・・・ところでこんなところで何を?

 

本来は挨拶や名前を尋ねるなどいろいろ有るだろうがこの胡散臭い人間の様な気配を持つ者を信用してはならない、深く入ってはならないと勘が告げていたので軽い牽制を込めて返答と共に目的を聞く。

 

「ふむ・・・」

 

此処ではぐらかされてもよし、何かをされれば逃走できる様に思考する。

 

「実は・・・」

 

さてどう答えるだろうか?

 

帰って来た答えは意外性と共に壮絶な呆れをもたらした。

 

「兎の捕獲を試みたのですが罠が壊れたのでそのまま追いかけて捕まえようと思い追いかけると道に迷ってしまったのです。」

 

「・・・」

 

胡散臭い感じは残るが頭に手を当てて『ハハハ』と困った様に笑うのをみても、その甲冑鎧の所々が泥で汚れていたり転んだのか真新しい傷がついてるのを見ても、どうやら本当らしい。

 

「できれば此処が何処か教えて欲しいいんですが・・・」

 

「・・・はあ、此処はイーストの街の近くの『隠れ森』その入り口辺りだ。」

 

「え!?ああ、ありがとう。うん、ほんとありがとう。」

 

現在地を聞かれたので応えると驚いた様で礼をしつつ、自分の懐から地図を取り出し唸りながら自分が来た道を辿っていくのか森の中へ入って行った。

 

 

 

 

 

少々変わった事もあったが無事薬草を採取しそこで草を食んでいた兎も首尾よく捕獲したジャックはポシェットに畳んであった大きめの鞄を取り出し中に毛皮を入れた袋と兎を入れた組み立て式のケージ、薬草100束、隠れ狼の尻尾を入れて日が暮れる前に帰ろうとしたその時だった。

 

突然森の中で爆発が!そしてそれに掻き消されそうだったが微かに悲鳴が聞こえた。

 

「っ!」

 

彼はお人よしだった。爆心地近くで彼が見たのは先ほどの甲冑鎧を着た別人が甲冑鎧を着たさっきの地図の人を吹き飛ばし女の子を襲っているところだった。

 

ジャックは無言で投げナイフを投擲し甲冑鎧の隙間を狙うが、流石に当たらずこちらに振り向いた甲冑の中身は・・・

 

「『動く死体(リビングデッド)』だと!?」

 

「ヴァああああ!!」

 

どうやら夜の仕事は休みの様だ。




隠れ狼

森のハンター、森のアサシン、仰々しい名前がたくさん有るが実際多くの新人冒険者の壁で有る。気配を探り十全に体を鍛えなければいけない相手で毛皮は森に溶け込む様な色に随時変化、大抵は黒か緑。足音や息遣いは捉えるのが難しい。爪や牙も脅威だが真に脅威なのはその連携で有る。しかし中級者や上級者ともなれば特に問題ない相手でもある。

レイピア

細剣とも呼ばれるほど細く鋭い刀身を持っていて基本攻撃は刺突で有る。しかしその使い手の技量で凄まじい対人性能を発揮する技巧派の剣、ジャックのロングソードが耐久性百とするとレイピアは五十あればいい方で耐久性は期待できない。

鋼鉄

初心者が最初に目指す防具や剣の素材、強靭で堅牢、武器でも鎧でも素晴らしいパフォーマンスを見せるが欠点として出すなら少々重いところだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。