帰りが遅かったため夜の間宿の仕事が出来なかったので店仕舞いの前の片付けを一人でやる事にした。
(どうせ鎧の手入れと剣の手入れ道具の点検でほぼ寝ることは無いだろうな。明日は狩は休むか?)
テーブルと椅子を担ぎ、床を箒とバケツとモップで片付けていく、この宿で泊まっている冒険者は怪物退治や傭兵の様な稼業をして居る者らが多く、彼らは基本粗野であったり粗暴であったりと掃除する身としては厳しい気性のものが多いが、彼らの多くは領主お抱えの冒険者であったり、街の英雄であったり、それなりに金払いもよく、酒と肉とベッドがあれば基本大人しいので金蔓なのだ。
・・・まあ、そう言った者に憧れていた頃もあったが実際のところ彼らの死亡率は高く、強さを証明する何かしらの功績がない限りお抱えになる事も、圧倒的強みがなければ英雄にもなれない。俺の剣と体術は怪物退治に向いているわけでも無いし、何より『冒険者』という職業にある種の浪漫を感じてなった訳なのだから新大陸や新種の生物の発見などを目標に身を立てていきたい。
箒を片付けて本格的に床を磨き始める。
唐突だが、『魔法』ないし『魔術』という物を学んだ事もあった、残念ながらある一点を除き全く才能がなかった訳だが・・・今、この宿が明るいのも『魔術師』や『魔道士』と言った学者が頭をひねったことで出来た便利な物の恩恵だ。こう言った新たな『物』を作るのもまた冒険なのだろう、実際かの有名な魔導技師エドモンドは試行錯誤と古代遺跡やダンジョンの観察を経てこの店や外の道を照らしている『光』を持続させる魔法を作った。ダンジョン、古代遺跡、まさに冒険だ。
(む、少し酒が入っているからか考えがまとまらないな。)
モップとバケツを片付け、テーブルと椅子を並べなおす。その後厨房に行き食器を洗う、どうやら店長が気を利かせて少し洗ってくれた様だ。
皿を洗いながら今日戦った『動く死体』の騎士とその後街まで運んだ二人について考える。
先ずあの死体騎士と方向音痴騎士は同じ鎧を纏っていたことから同じ組織に所属していたのだろうか。戦闘であまり観察できなかったが大剣の柄にもレイピア同じ豪奢な意匠があった様な気がする。確か・・・
(何かの花と鳥か何かだったと思うんだが・・・仕方ない、少し調べるか。)
しかし、本当にあれは唯の『動く死体』だったのだろうか、以前ギルドの資料室で見た特徴には彼処までの強化が入るという記述も無かったし、以前墓地で戦った物も彼処までの技のキレやスピード、筋力はなかったと思うんだが・・・
(これも要調査だな、それにしても・・・あの意匠、本当に何処かで見た様な気がするんだが・・・)
それにあの少女、服装やあの見事な金髪、まるで何処かの姫君の様な気品。
(しかし、このあたりの国で内乱や王族などの脱走事件は無かったはず、何処か遠方の国だろうか。)
考えが深まり判らない事が多くなるに連れて彼の好奇心、探究心は高まって行った。
「ふう、もう朝か。」
結局装備の点検をする為道具を持って外の井戸に着く頃には地平線から陽が上がる頃だった。全ての装備の洗浄、整備が完了し宿の自室で給仕服に着替え朝から昼前まで朝食と昼食注文その後の清掃まで乗り切りギルドに尻尾と薬草、残飯を食べさせたら無駄に元気になった兎を納品、毛皮も売り払い宿に帰った彼は夜まで寝てしまうことにした。
「ふむ・・・姫様?此処は何処でしょうか?」
「ふん、貴方に姫と呼ばれる縁はありません、と言うか何故こんな狭い街で宿にたどり着けないのですか!?」
「いやー、自分、不器用でして。」
波乱の時は近い。