ありきたり物語   作:名状しがたい魔王

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これは一人の男が不死に成り果てるまでの話

「あははは!にいちゃん!エールを四つダァ〜!」

 

「かしこまりました。」

 

夜の酒場は騒々しく、客も酒が入り呂律が回らない。注文を聞き取るのも一苦労だ。しかし、酒の入った客は良く情報や噂を聴かせてくれる。

 

給仕服の下に鎖帷子を着込み、懐にナイフと縄を仕込みながら音を立てずに給仕していくジャックはある意味その分野において右にでるものは居ないのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

今夜は普段より傭兵の様な輩の出入りが多く、その口からは近々此処の街を拠点に大規模な山狩りが行われることや、王都の方で起きた勇者誕生の噂、それと同時に起きた謎の襲撃事件・・・様々な話が飛び交う。

 

陽気な音楽や温かい料理、酒の組み合わせは容易に口を軽くする、逆に言えばそれまでに高揚している訳で、何人かは暴れ始めたり、喧嘩に発展しそうになるが其処をどうにかするためにジャックがいるのだ。

 

この日は三人程馬鹿が暴れたのでジャックの捕縛術と体術が炸裂したが問題なく夜の酒場営業時間は終わり今晩はゆっくりと眠れる予定だった。

 

戸を閉めようと正面玄関に手を掛けようとすると凄まじい勢いで戸が開き、其処には何故かボロボロになった騎士が兜を外しホッとした表情を見せた、足下を見ると騎士と同じくボロボロになった少女が涙目で此方を見上げていた。

 

「うう、つ、着いたわ、遂に着いたのよ『羊亭』に!」ブワ

 

「あははは、まさか半日も掛かるとは〜」

 

「・・・まあ、上がれ。」

 

色々と疑念はあるが彼らを拾って街の治療院まで運びそのまま放置していたという背景もありジャックは自分の自室まで二人を通した。店主に少しばかりの説明をし店主も毎度の事なのであっさりと話は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何のようなんだ?感謝の言葉は要らないぞ、通りがかっただけなのでな。」

 

陽が落ち月が中天に差し掛かる時分、ハーブティーを出しながら要件を聞くジャック。

 

少女は昨日の泥だらけ状態からは見違えるほどの可憐さを放っていた、ただ全体的に何故か今度は煤で汚れてはいるが、それでも『美少女』と言う言葉が似合う容貌であった。

 

騎士は兜を外し鎧も随分と軽装になっている、顔は予想できてはいたが軽薄そうな、狐のような糸目と常に上がった口角を持つ詐欺師風の顔付きである、だがそれでも一般的には『美男子』と言えるのだから少しばかり腹立たしい。

 

「ふむ、要件、要件か。・・・とりあえず、要らないと言われはしたが言っておかねば気が済まんので言っておこう、昨晩は『我が騎士』を鎮め、私を助けていただき感謝している。」

 

ハーブティーを飲み、感謝を述べる少女。やはり相当な身分なのか、はたまたそうであったのか年の割に老成した喋りと礼儀の正しさだ。

 

(『我が騎士』か。)

 

ジャックは自身が今、相当な厄介ごとに巻き込まれているのでは無いかと言う確信の様なものを感じた。

 

「では同じく、昨晩は命を救っていただき有難うございます。・・・まあ、感謝を述べるだけでしたら流石に此処まで押しかけることは無いです。少しばかり私の身の上話を聞いていただけませんか?」

 

「・・・」

 

騎士は少女と目を見合わせその後に喋り始めた。此処から彼らの関係の一端を見れた様な気がするが果たして・・・・

 

「わかった、その『身の上話』と言うのを聴いてみよう、その上で何故あなた方が御伽噺に出てくる様な理想国家『イスタリア』の紋章を、その存在しないはずの王家の意匠をその剣に刻んでいるのかに着いて聞くとする。」

 

「「・・・!」」

 

掛かった。

 

ジャックは勤勉であった。彼は覚えている限りで騎士のレイピアにあった意匠を描き出し、その意匠について

少しでも多くの情報を集めた。そして導かれたのがこの国の人間なら、もしかするとこの世界の人間なら誰もが知っているであろう一つの童話だ。

 

内容としてはありがちなもので、理想郷の様な国『イスタリア』の姫が邪龍に花嫁として攫われる、其処に勇者が現れ邪龍を討伐、姫を助け出しそのまま結婚、イスタリアの王となり幸せに暮らす。そう言った類の童話だ。

 

彼らの表情こそ変わらないものの雰囲気が一変した。そう例えるなら・・・『この場から一歩でも動けば首が飛ぶ様な』そんな緊張感が溢れてきたのだ。

 

「・・・ふふふははは!いやー、見た目の粗暴さに騙されました、まさか此処まで頭の回る方だったとは・・・いやいや失敬。」

 

「笑いすぎだ、このアホ騎士が!」

 

・・・やりとり自体は緊張感のカケラもないが。

 

ひとしきり少女がその細身に似合わない力で騎士をたたき伏せるという珍妙な絵図らが有ったが問題ない。

 

行儀よく座り直した少女が問う。

 

「其処までわかった上で我をどう捉える?貴公は。」

 

その瞳には僅かな怯えと期待、そして大きな諦めがあった。

 

「・・・かなり飛んでいる推論だが、御伽噺は間違っていたのかもしれない、そう、例えば邪龍に攫われた姫が邪龍の血によって不死となり、姫を連れ帰った勇者がそれに気付き今の『イスタ』この国を築くために、自身が真に国の王となる為姫を『穢れた不死身』とでも言って追放ないし討伐の動きを見せ・・・」

 

「もういい、貴殿の推理力が我々の想定をはるかに超えたものであり、そしてその妄想とも言える推論がほぼ当たっているのを保障しよう。確かに私は『イスタリア第一王女』にして『龍血の不死』だ。それでだ、それを知った上で貴公は私の願いを聞いてくれるだろうか?」

 

不死、不死身、彼女の不死身はどうやら其処まで強いものではないらしい昨日は出血で死にかけ・・・いや、もしかすると彼女を傷つけた武器の問題かもしれない。

 

部屋に静かなしかし鉛の様な重い空気が流れる。

 

「其処に報酬と財宝があるのなら聞こう。俺は冒険者だからな。」

 

そう答えると少女は輝く様な笑顔をしてから少し曇った表情を見せる。

 

「むう、其処は無償じゃないのか?」

 

「駄目ですよ姫さま、この人にも生活というのが有るんですよ?」

 

少しすねたようにしながら少女は考え言った。

 

「最早今では古代遺跡呼ばわりされている『王都イスタリア』迄私達を護衛して貰えないだろうか!」

 

ジャックは少し考える。もしこの依頼を受けるとなった場合どんな不都合があり、どんな得があるのか。

 

「・・・ちょっと地図を貸してくれ。」

 

「はい。どうぞ?」

 

きつね顔の騎士から彼らの時代の地図を借り、自身の持つこの周辺の地図の写しと重ねる。

 

(距離にして二日、いや少女がいるのを考えれば四日程を見たほうがいい。往復すると八日、最長で十日か?)

 

現在、彼はこの奇妙な二人組に協力しようと考えている。そして同時にこの宿を離れることも視野に入れている、些か冒険者にはこの街は静かすぎたのだろう。

 

「俺はー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、部屋にほとんど無かった荷物を全て鞄に入れ、部屋の掃除を済ませ装備をする。

 

「そうか、行くのか。」

 

宿の店主は短く答えると今週の分の給金をそっと渡される。そして、手作りの退魔の護符を渡される。

 

「あの子の気持ちだ、どうか生きてそしてできれば帰ってこいよ。」

 

「ありがとう。」

 

ジャックはこの宿と街に感謝とそして別れを告げ、旅立つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず右ですか?」

 

「頼むから道を歩いてくれ。」

 

「何故こんな騎士しかいないのだ・・・」

 

少し前途多難な感じもするが。彼等の戦いは始まったばかりである。

 

 

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