ありきたり物語   作:名状しがたい魔王

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幕間、宿屋の少女とお人好し

それはありがちな話だった。この世界の人間ならどこでも聞くようなそんな当たり前に残酷な唯の悲劇になるはずだった物語。

 

「ふんふふんふふーん。」

 

彼女はミーシャ、イーストの街で宿屋を営む父と自身を産んで直ぐにこの世を去った顔も知らない母を持つ可憐な美少女である。どうやら街から少し離れた、それでも門番が彼女を視認できる距離で野イチゴを採っている。腕に掛けられた籠の中にはその機嫌の良さから分かる通りの量の野イチゴ、この甘味の少なく、そして高価な時代彼女のような女子が夢中になって野イチゴを集めるのはよくある事だった。

 

「グッヘッヘッヘ、親分、あの娘とかどうです。きっと高く売れますぜ。」

 

「その前の味見(・・)も最高そうだなぁ・・・グハハハ!」

 

しかし、幾ら街の近くといっても外は外、近くに如何にも気色の悪い盗賊がいたのである。

早速盗賊は彼女を拐おうと飛び出しナイフを首に突きつける。

 

「きゃ!むむぐぐ!?」

 

「これで一丁あがりよ。」

 

「へへ、さっすが親分!」

 

非力な彼女はナイフを首に突きつけられ怯えて縮こまり盗賊はその間に彼女を簀巻きにしようとする。

しかし、ここは街の近く、それに門番が彼女を見守っている訳なので・・・

 

どうやら門番は弓の使い手だったらしく盗賊達が門番に気付く前に鋭い矢を二本放つ。

 

「ホゲ!?」

 

「ぷげら!?」

 

のちにわかった事だがこの二人の盗賊は街でも相当有名な間抜け二人組だったらしくこの前の晩に豪勢に飲み食いをしていたらしい。

 

「大丈夫かい?さ、街に戻ろう。」

 

「は、はい。」

 

盗賊達を射抜いた門番がミーシャに駆け寄り声をかける。そして自然な流れでミーシャを後ろから護衛する形で街まで行く・・・ように見えた。ミーシャが完全に油断した隙に背後から睡眠促進の効果のある薬品を染み込ませた布をミーシャの口に押し当て抵抗させる事なく門番はミーシャを捕らえた。

彼女にとって最大の悲劇は門番が一番クズだった事、そして門番の様な職種を動かせるクズが確実に街の有力な権力者だという事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ううん?」

 

彼女が目を覚ますと其処は見たこともない様な暗い所だった。彼女は馬鹿では無いので自分を捕まえたのは門番だと察したが、此処が何処で何故自分が囚われて居るのかまでは判らなかった。

 

「むぐ。」

 

口には布が嚙まされており悲鳴をあげる事も儘ならない、手足には肌と枷の間に柔らかい布を巻いてあるもののやはり枷は枷、動きは制限される。同時に自分が柔かいベッドの様なものの上にいるのに気付き自身がこの後どうなるか、賢い彼女は気付きいっそのこと自害しようかとも考えたが口に布がある為不可能だった。

 

「どうやら目覚めた様ですな。」

 

「!?」

 

突然扉が開き明かりがつく、入って来たのはよく夜の酒場営業時によく来ていた父と同年代の大商会の経営者、黒い噂も無くとても評判の良い彼を見て驚くミーシャ。

 

「フフ、漸くこの時が来ました。ああ、恨むなら貴方の父を恨むか貴方の母に瓜二つな自身の姿を恨んで下さい。」

 

そう言いながら丁寧にミーシャの口布を外しながら普段は優男と持て囃される整った顔を醜悪に歪ませる。

 

「な、んで?」

 

未だ薬品が効いているのかそれとも自身のよく知る人物が実は恐ろしい物だったと言うのを見せ付けられ硬直しているのか途切れ途切れに言葉を紡ぐミーシャ。

 

「なんで・・・ですか、まあ、未だ薬品が効いている様なのでそれが切れるまで少しお話しましょうか。」

 

「・・・」

 

商会の長は少し苦しそうな顔をしたが部屋にあった柔らかそうな椅子に腰をかけまるで何時も酒場で父の昔話をするかの様に不気味なくらい優しく、そして通常通りのトーンで話し始めた。

 

「私と貴方の父そして貴方の母はほとんど同時期に、冒険者として出会った。という話は前にしましたよね。」

 

其処から始まったのはありがちな、そして切ないある男の負け戦だった。

 

ほぼ同時に始まった恋と言うレース

 

冒険者であるが故の苦悩

 

仲間達との関係のめまぐるしい変化

 

そして・・・敗北

 

「フフフ、私としたことが少し話し過ぎましたね。」

 

「!」

 

そういって彼は怯えるミーシャを押し倒し馬乗りに近い状態になる。

彼の目はミーシャを見ている様で彼女しか見ていない、そんな虚ろな目を見て更に怯えるミーシャしかし、彼女にとって幸運だったことがある。それは手枷に布を入れてある事から分かる通り手枷から布を抜けば細い彼女の手首は直ぐに抜けるほどのスペースがあった事。

 

「えい!」

 

「!?」

 

遠い目をしながら話をする男を見ながら、その長話の隙に布を抜き手枷と手首の隙間を大きくして置いたのだ。

 

全く予期していない押し返しに派手にベッドから転げ落ちる商会長、その隙に足枷も抜いて扉に走る。しかし無情にも鍵がかかっており背後には既に商会長が迫って来ていた。

 

「流石彼女と彼の娘ですね・・・正直あの枷程度抜けてもらわなければ困っていました。そう、その僅かにあった希望を踏みにじられた様な苦渋に満ちた表情が見たかったのですよ。」

 

「っ!助けて!」

 

ニタニタとしながら悠然と近ずいてくる商会長。助けを求め声を上げるミーシャ。

 

「無駄です。此処はイーストの中にあってほぼイーストでは無い無法地帯の貧民窟です。しかもその地下ともなれば助けなど来ませんよ。」

 

しかし商会長が余裕を持って入られたのは此処までだった。なんと階段を降りて来る音がして来たのである。

 

「なんだと?クソ、どいつもこいつも・・・!」

 

「きゃっ!」

 

商会長は杖を手に取りミーシャを抱えて迎撃態勢をとる。足音の主は金属製の扉のノブを何回かひねり開いていないと感じると扉を切り裂いた。

 

「お前が犯人の様だな。」

 

二十歳位だろうか、金属鎧で覆われた左腕を真っ赤に染め右手には真紅に燃え上がる刀身を持つ大きな片手剣を持った鋭い目の男が入って来た。

 

「邪魔をするなぁ!『水の魔弾』!」

 

冒険者としてかなり上位に入っていた商会長はブランクがあったとは思えない軽やかな動きでミーシャを抱えたまま杖を振りかざし火の対応属性である水系魔法を放つ。

 

「水の高位弾丸系魔法、補助に風と土系派生の重力魔法。ふむ。」

 

水でできた魔弾を避けながらそう呟いた男は燃え上がる刀身に左腕を乗せまるで血を吸わせる様に剣先まで撫で呟く。

 

「血魔術『主付与:凍結』『副付与:旋風』」

 

「血魔術だと?はは!あのマイナー魔術にまさか使い手がいるとは思わなかったよ!『嵐の魔弾』!」

 

相手の使う魔術、魔法がわかった時点で魔法使いや魔術師の戦いは決するという。そのため無詠唱や偽装詠唱はかなり一般的で今の様な一騎打ち状態にならなければまず魔法名や魔術名による攻撃力や効果のブーストはしない。

 

商会長は相手が付与を何処にするか最後まで確認せずに風と水の複合魔法を放った、そしてそれが彼の敗因だった。

 

「我が具足(・・)に吹雪の加護を!」

 

「は!?」

 

そう言い放ち商会長の嵐の魔弾を氷ずけにしながらそれを踏み台に付与効果の消された唯の剣で首を飛ばした。

 

「無事・・・では無さそうだ、顔が赤い・・・何かの薬品か?」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

そして今度こそ無事に助けられたミーシャは自分も自分の母と同じで目つきの悪いちょっと筋肉質な剣士が好きなのだと確信した。

 

 

 




魔法

対価は精神力、故にその効果や威力は使い手の想像力次第で変動する。創造性が高くその代わり強固な信念や想像力が無ければ威力は落ちる。
遥か昔神々に並ぼうとした人間が創り出した技術。

魔術

対価は様々、基本生贄や捧げものによって発動する、威力は一定で研鑽と試行錯誤、大量の捧げものなどでブースト出来る。また、宗教系の回復術や邪教の怪しげな術も内包している。
遥か昔神々の権能を借り受け遂には神すら下ろしたという人間の業。

魔法の基本五属性と派生無限

火、水、土、風、無の五属性が最もスタンダード無以外はそれぞれ強弱があるが、魔法の場合ほとんど術者の想像力次第なのでぶっちゃけ意味がない。
派生属性はあり過ぎてよく分からないと言うのが現状で土の派生属性と一言で言っても重力や金属、果ては錬金なんてものもある。有名どころは水と風の比率によって変化する嵐、氷、雪や水の単体派生で毒、氷などがある。
属性派生は単体派生でも複合派生でも現れるものがあるので相手が錬金系のゴーレム精製しかして来なくても実は爆発したり、実は中身はアイスゴーレムだったりと色々。

血魔術

ジャックが唯一使える魔術。才能があると言えば聞こえは良いがマイナー、怪しい、資料無し。と三段揃った失われた魔術。彼の『付与』はこじつけじみた裏技であり正式な使い方では無い。現状金属製の物と相性が良い事、自分の血が楽で高効率だが高い生命力を持つ生き物や処女の血には特殊な効果があると言うのが判明している。また、恐らく本来は召喚術であると言う事まで判明しており実際『付与』と言うよりは異界から血を触媒に炎や氷を召喚している様なものらしい。さらに言えば魔術と言う特性上人間より上位の超常的な物に力を貸してもらうので文言に『加護』と入れれば良い意味での強化が『呪い』と入れればデバフの様な効果も出せる。
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