ありきたり物語   作:名状しがたい魔王

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第8話

夜が明ける、焚き木の前に座っていたのは剣を研ぎ、軽く鎧を点検するジャックであった。姫は相変わらずテントでまるで死んでいるかのように無呼吸で寝ている。その従者たる騎士も人前で鎧を脱ぎたく無いのか、それとも他の理由があるのか夜中に森の中に入って行った後帰って来ていない。

 

「血の匂い・・・か。」

 

ジャックは森の中で起きている、騎士によって起こされている事について今は言及しないでおく事にした。・・・人間が永くを生きるために犠牲はつきものだと言うことだけは心しておく。

 

気分が少し沈んだが朝飯を軽く作り姫を揺する。今日はこの先にある『第五迷宮都市外縁』にまで辿り着ければ三日程の旅になり、今日も野宿の場合四日の旅になる。此処のあたりは迷宮都市とイーストの二つの街の中間の為それほど大きな中継地点もない、と言うかもしジャックの一人旅なら途中途中獣に絡まれるとしても寝ずに昨日の内に着ける距離だ。それを考えるとやはり少女と言える姫の歩幅と凄まじく方向感覚の可笑しい騎士のコンビネーションは一緒に旅をしたく無い奴等ナンバーワンに輝けるだろう。と言うか昨日の蛇行行軍の走破距離だけで既に直線で歩いた場合街にたどり着けていたと言うのがまた悲しいと言うか苛つくと言うか。

 

(と言うか何故街道を進むだけの話を此処まで面倒臭くできるのか理解に苦しむな。)

「フィーリア姫、朝だ。起きてくれ。」

 

「ふみゅう?あしゃにゃの?」

 

寝ぼけているのか、それとも素が出ているのかヨロヨロとフラフラと立ち上がろうとしてジャックにくっつくフィーリア。

 

「取り敢えずサンドウィッチを食べたら出発する。ほれ。」

 

「もぎゅう!」

 

そして、その眠そうな様子を見てさっさと出発したいジャックが姫の口に容赦無くサンドイッチを突っ込む。

 

「あのー、一応王族なんですがw」

 

「お前もだ、さっさと縄を腰につけろ。」

 

いつの間にか帰って来ていた騎士が涙目でサンドイッチをたべているのを見てニヤニヤしているが昨日の蛇行を繰り返しされると不死身ではないジャックの身がもたないので騎士の口にもサンドイッチを捻じ込んだジャックはテキパキと野営の片付けと方向の確認、そして騎士がぶつくさ言いながら腰に巻いた縄を片手に、未だ寝ぼけている姫を軽く担いで野営地を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『枢機卿、例の勇者は上手くいきそうか?』

 

豪奢な空間に相応しい威厳と意志を感じる声。

 

「ククク、ええ、異世界から来た愚物(勇者)は順調に・・・所でどうやら血魔術の使い手がいたそうです。また、勇者を殺されては敵いません、どうか御一考を。」

 

それに答えるのは身に纏うシンボルや手に持つ聖典が空々しい程の邪悪。

 

『・・・良きにはからえ。』

 

まるで光そのものの様な神気を放っていた人物は少しだけ翳りを見せながらも自身の騎士に命を下した。

 

「「「「御意、我等『邪龍討伐隊』にお任せを!」」」」

 

どうやら世界は動き始めてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

夕方、陽は未だ在るが彼らの表情が明るいとは口が裂けても言えなかった。

 

「フォック、お前・・・いや、もういい。」

 

珍しく疲れを前面に出したジャックは簀巻きにされ最早仲間とは思えない様な運搬方法をされる事になったフォックを憐れむ。

 

「ジャックよ、今度から棺桶でも担ぐか少しだけ相談しようではないか。」

 

フィーリアもハイライトが消え去った目で簀巻きにされているフォックを背中にくくりつけ何か恐ろしいことを呟いている。

 

「いやー、予定通り着いたじゃないですか!」

 

「「お前を縛って半日走ったからな!この馬鹿!」」

 

彼の方向感覚の一般人との違いがはっきりと判明した。先ず、彼は『真っ直ぐに歩く』と言う行動が出来無いのだ。常に酩酊状態の人間が歩いている様な感じの乗りで全くふらつきもし無いのに唐突に斜めや酷い時には逆に行こうとする。と言うか実は『道に沿う』と言うことが不可能なのではないかと言う可能性まで出て来た。

 

「・・・確かお前らは此処の迷宮に入って其処の第5階層目までいか無いといけ無いんだよな?」

 

「・・・うむ、迷宮に呑み込まれた我等が王都は現在その様な位置に在る。王家の抜け道や秘密の転移呪文なども遮断、若しくは使用不可になっておる。」

 

迷宮都市の高い壁の足元まで来て姫と冒険者が感じたのは期待やロマンを通り越す程の不安だった。

 

 

 

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