アンデッドの開放…本来ならば一万年に一度のはずのバトルファイト…それは本来よりも早い周期で起こり、人類はアンデッドの脅威に曝される事となった。それは、一人の男の欲望の為に。
その戦いの中で、一人の少女を守る為に『氷雪の蜘蛛の騎士』はその欲望に利用され、新たな力を与えられ、己が師と呼ぶ『紫電の甲虫の騎士』と刃を交えた。
その戦いは紫電の甲虫の騎士が最後の切札を封印する事により、戦いは終わった。だが、その平穏も僅か二年で破られる事となる。再び封印されていた50体のアンデッドが開放され、『剣のカード』は己の主の元へと座したまま、ジョーカーのカードは未だ封印されたまま…。
「これで良しと。あとは…。」
先日の戦いの折に拾ったラウズカード…自分の愛用していたスートのカードの一枚『スペード3』『ビートライオン』のカードを二枚拾い上げ、一枚をポケットの中に…もう一枚をブレイバックルと共に仕舞う。
そして、テーブの上に置いてある物を片付けると、箒を持ってきて床に落ちている紙の破片を履き始める。他にも汚れが気になったのか、翔はそのまま部屋の掃除を始める。
「ん? これは…手紙?」
部屋の掃除をしていた翔は床に落ちた、一年前にブレイバックルが届けられた際の箱を拾い上げる。一年間も埃を被っていた箱。それはブレイバックルと共に烏丸の形見となってしまい今まで捨てられずに居たのだ。
そして、それは床に落ちた時、その衝撃で被っていた埃と共に二重底になっていた部分が落ちていた。
入っていた物は僅か一枚の手紙…捨てようとすれば、気付いたかもしれない…気付かずに捨てていたかもしれない。形見となってしまい捨てられずにいた事で、それは結果的に気付く切欠さえも得られなかった。だが、今それを見つけ出す事が出来たのだ。
手紙に書かれている文字は間違い無く、送り主である烏丸所長の者である事は間違いない。書かれている言葉…それは『もう一枚のジョーカー』と、『伝説種の不死者』…そして、同封されていたのは…
「…ラウズカード!? この絵は…鳥と……ケルベロス!? …でも、絵柄が違う。」
一枚は前回のバトルファイトの中で作り上げられた人造のカテゴリーAのアンデッド、ケルベロスの絵が書かれたラウズカード。そして、もう一枚は赤い鳥の絵が書かれたラウズカード…スートは奇しくも『スペード』…そして、書かれている文字は…。
「って、拙い、誕生日パーティーの準備に集まる予定だった!?」
その二枚のカードをブレイラウザーと共にポケットの中に突込み、部屋を後にした。
再び開放されたアンデッドと、先ほど発見した烏丸からの手紙、そして…新世代の(新しい)ライダー達の存在と、幾つもの疑問を感じながら翔とクウヤは『JACARANDA』で天音の誕生日パーティーの飾り付けをしていた。
「それで、天音ちゃんには暫く会えなかったけど、どう?」
飾り付けをしながら、近くでパーティーの飾り付けをしていた黒いロングヘアーに眼鏡をかけた少女『天王寺 カスミ』にクウヤはそう問い掛ける。
天王寺の死によって再び保護者が居なくなった彼女は、
「………うん、クウヤちゃん。…それなんだけど…。」
「どうしたんだ?」
クウヤの問いに言葉を濁す幼馴染の態度に不信感を感じたのか…クウヤは心配そうに問いかける。
「それがね…最近ちょっと、あの子おかしいの。」
「うん。」
クウヤの問いにカスミに代わって答えたのは天音の母の『栗原 遥香』。目を伏せながら、寂しそうに遥香とカスミはそう答えたのだった。
『…寂しそうか…翔さん、それってやっぱり…。』
『ああ。始さんが居なくなった事が原因なんだろうな。』
クウヤは翔の方へと近づいていき小声でそう話しかける。心当たりは二人共知っていた。彼女達もそれが原因だと思っているはず。それは間違いなく、仮面ライダーの仲間の一人、『仮面ライダーカリス』であった『相川 始』が居なくなった事なのだろう。
だが、始が居なくなった原因も知っている二人としては何も言えないのだ。……特に最後のアンデッド『ジョーカー』として彼を封印した翔には…。
「…クウヤ…お前は仮面ライダーに戻りたいか?」
「いえ。もう必要無い力なら持つ必要は無い…そう思ってます。」
「同感だけどな…結果的に、昨日は
「ライダーである事は良い思い出だけじゃないですけどね…。」
『仮面ライダーである事』は『尋常ならざる力を得る事』なのだ。それは諸刃の剣である事は翔も、クウヤも理解している。
使えばどんな敵でも倒せる圧倒的な『力』。同時にそれに取り込まれ、溺れ、利用され、堕ちて行く。一歩間違えれば二度と引き返せない場所へと飲み込まれていくであろう危険な力。
クウヤはレンゲルのカテゴリーAであるスパイダーアンデッドの邪悪な意思と、天王寺の野望に利用され堕ちかけた。翔もキングフォームの…カテゴリーKの力に飲み込まれ暴走しかけた。
「そうだな。楽しい事も有ったけど…辛い事も多かったからな…。」
クウヤも翔自身も戻る事ができた。だから、全てが終わった後、二人はブレイバックルとレンゲルバックルを一切の躊躇無く返却したのだ。だが、翔の手元には逃れられぬ呪いの様に、ブレイバックルは戻ってきていた。
「そうですね。結果的に…オレがレンゲルだった事が
一度は自分自身が…二度目はクウヤを利用しようとした養父に道具として利用されて。もう、その天王寺も居ない。アンデッドも居ない。二度と彼女を傷付けた力を…『仮面ライダーレンゲル』の仮面を被る必要は無い。
全ては過ぎ去った『過去』の事になった…そのはずだった。
「でも、戦いは終わってなかった…か。」
「そうですね。」
二人の表情は険しい物へと代わる。つい先日、全て封印したはずのアンデッドは再び現われ、翔は再び仮面ライダーブレイドへと戻った。それは二人の目の前で広がっていた現実の光景なのだ。
「…なんだか…現実だって言うのに、信じられませんね。」
「ああ。信じられないのはオレも同じだ。」
悩みぬいた結果…一人の少女の悲しみの結果…やっと得ることの出来た平穏…それが崩されてしまったという事。自分達の努力と苦悩の全てが否定された気分になる。
二人がそんな会話を交わしているとドアベルが鳴り、翔よりも年上に見える三人の若者達が入って来た。
「お前達は…。」
「…どうしてここに…。」
翔は入って来た三人を睨みつける。
「僕が招待したんだ。」
三人の後ろから新たに一人の男が入ってくる。『白井 虎太郎』…仮面ライダーの戦いをサポートしてくれた者の一人で、ここに居る遥香の弟でも有る。翔達仮面ライダーの活躍を書いた本『仮面ライダーと言う名の仮面』が一躍ベストセラーとなった青年。
「二人は知らないだろうけど、この人達も仮面ライダーなんだよ。昔のライダーと今のライダー。やっぱり、仲良くした方が良いんじゃないかな? それに、みんなで対談でもやってもらうと、新しい本のネタになるんだよねー。」
「…対談…ですか?」
「…一応、始めましてって言うべきか?」
虎太郎からの紹介を受けた後、不信感を露にしている翔とクウヤ、三人の間に妙にギスギスとした空気が流れる。
「白井さんから聞きましたよ。君がブレイドだったのか。お会いできて光栄です。」
タレ目気味の誠実そうな青年。…先日ブレイドに似た武器を持ったライダーに変身していた青年がそう言う。
「しっかし、想像してたのとは全然違うよな。そっちのは、レンゲルだろ?」
「なんだと。」
生意気そうな青年の言葉に、クウヤが怒りを露にしながら声をかける。
「ほーんと、なーんか頼りなーい。」
最後に女はあからさまに見下した風に言う。面と向かって話すのは始めてだが、彼等が自分達に対して良い印象を抱いてない事がわかる。もっと正確に言えば、『過去のライダー』である翔達を完全に見下している。
「ロートルの素人よりはマシだとは思うけどな。」
流石に頭に来たのか翔はそう言い返した。
「なんだと、誰がロートルだ。」
「これは失礼。もう耳も悪くされていたんですね。ねえ、そこの…オ・バ・サ・ン♪」
明らかにバカにした態度で女の方へと向き直り、そう言いきった。
「な、なんですって!?」
「ちょ、ちょっと、落ち着けって!」
翔の言葉に激昂する女を誠実そうな青年と生意気そうな青年が押さえる。
「それで、デザイン手抜きの量産型ライダーが何の用だ? って、聞くまでも無いか…これだろう?」
翔はポケットの中から取り出した『他のカードと分けていたビートライオン』のカードを、押さえられている女の前で、ひらひらと見せびらかす。それを奪い取ろうとした女の手を素早く避け一歩後に下がる。
「ええ。残念ですが、伊達君。我々は忙しいんだ。今日もそのカードを返してもらいに来ただけだ。返してもらえるかな?」
「それはいいけど…その前に後の人を紹介してもらえないか?」
本当にカードの回収が目的なのだろう、女を押さえるのをもう一人に任せて、誠実そうな青年が前に出て言いきる。翔はその青年…いや、入り口の向こう側へと視線を向けながらそう告げた。
「そうですか、それでは紹介しますよ先輩「先輩は止めてくれ、オレはまだ19なんだ。」…では、伊達君、風見君、紹介しますよ、俺達のチーフを。」
誠実そうな青年がそう言うとドアベルが鳴り、一人の男が入って来た。その人物は、
「やっぱり、貴方だったのか…。久しぶりですね、『橘さん』。」
かつての『仮面ライダーギャレン』、『橘 朔也』だった。
「気付いていたのか、伊達?」
「…ダイヤ…クウヤのレンゲルの発展系と言えるライダーシステムに反して、ギャレンに近いデザイン…もしかしてと言う程度には。」
翔の言葉を聞き、着いて来いと言う態度で踵を返し出ていく朔也と三人…翔はクウヤへと視線を向ける。クウヤは翔に視線を向けられると軽く頷き、遥香に虎太郎、カスミの三人に『ちょっと出てきます』と言い、店の外へと出ていった。
そんな二人を追いかけて虎太郎も店の外へと出ていく。残された二人は天音の誕生日前に起こった波瀾に小さく溜息をつくのだった。…これが、新たなる最大の波瀾の幕開けになるなど予想もせずに。
翔達が案内されたのは、都会から少し離れた所に相応しく、余り高くない白い建物。ガラス張りの部分が多く、それなりにおしゃれな建物である。
「53体のアンデッドを封印し、我々のライダーとしての仕事は終わった。」
「…終わったはずだったと言うべきですね。現状を考えると…まさかとは思いますけど…『もう一体のジョーカー』でも居たんですか?」
「そんな…まさか…。」
「その通りだ。アンデッドがまだ一体残っていたんだ。もう一体のジョーカーがな。何故気が付いた?」
翔とクウヤの言葉に橘は完結に答えた。…その声は何処か感情と言う物を忘れ去ってしまったかのように。
「…ラウズカードはトランプと同じ。ダイヤ、ハート、クラブ、スペードの四種に1であるAから始まり13のキングまでの13枚…合計52枚にジョーカーを加えた53枚だけでなく、『もう一枚のジョーカー』が入りゲームに使うワンセットのデッキになる。故にアンデッドの中にももう一体ジョーカーがいるのでは? と、そんな可能性も考えていただけです。」
翔は冷静に答える。そう、ジョーカーは二体いるのではと言う可能性も考えていた。最後に封印されたジョーカー以外のアンデッドであるダイヤのカテゴリーKを封印した時、大破壊が起こった事で否定されたと思っていた。そして、それは自分だけでなく、亡くなった烏丸も考えていたのだろう。
「流石だな。私と烏丸所長が全てのカードを永遠に封印しようとした、あの日。」
朔也の口から語られるのは、その日の…運命の日の事実。まるで、彼等が来る事が分かっていた様に待ち構えていた『白いジョーカー』に襲撃を受けたと言う。『全てのアンデッドを封印した』と思っていた二人にとって、それは予想外のことで有り…。
「烏丸所長は命を落とし、ジョーカーとダイアのカテゴリーAを除く全てのアンデッドが開放されてしまった。なんとか、半数は人知れず封印できたのだが…。」
「そんな…そんな大事な事、何でオレ達に言ってくれなかったんですか、橘さん!?」
「無駄だ。ブレイドとレンゲルに変身する為に必要なカテゴリーAも解き放たれてしまったんだ。君達はもう変身する事はできない。」
クウヤの言葉に朔也は冷たく言いきる。だが、翔もクウヤもその言葉に引っかかる物を感じていた。そう、ブレイドに変身する為のカテゴリーA『ビートルアンデッド』は開放されていない。何故なら、現在進行形で翔の手元に有るのだから。
(…じゃあ、オレにブレイバックルとカテゴリーAを届けたのは、烏丸所長だけの意思?)
「って事で、今は私達が仮面ライダーって訳。」
そんな翔の心境を知ってか知らずか、朔也は話しを進める。
「改めて紹介しよう。『志村 純一』。」
誠実そうな青年が小さく会釈する。
「『禍木 慎』。」
生意気そうな青年が半歩前に出る。
「『三輪 夏美』君だ。」
最後に紹介された女が皮肉気な笑みを浮かべ、
「よろしく。そして、サヨナラ。」
「そうだな、力が要らないなら、サヨウナラだな。オレ達はオレ達で勝手にやらせてもらうよ、オバサン。」
「いい加減にしろよ、何時まで先輩面してんだ、お前。ッ!?」
翔の言葉に突っかかって来た慎の頬を僅かに切って、朔也の元へと一枚のカードを投げ渡す。
「よせよ。所詮君は過去の人間。もう仮面ライダーじゃ…それは!?」
翔へと突っかかる慎を諌めながら、言いきろうとした純一に翔はそれを見せる事で答える。
「悪いけど…オレは『今も』仮面ライダーだ。」
ブレイバックルとカテゴリーAのカードを見せながら翔はそう言いきる。
「…図に乗るなよ。」
「喧嘩なら相手になるぞ。」
そんな売られた喧嘩を高く買った様な態度を見せる翔を睨みつけ、バックルを取り出しながらそう言う慎。当の翔はうっすらと笑みを浮かべながら、バックルへカテゴリーAのカードを指し込む。
「大変です、翔さん!」
「大変だ、伊達君!」
先ほどから会話に参加していなかったクウヤと虎太郎が慌てた様に声をかける。完全に新世代の三人を意識の外へと追いやり、翔は彼らの方に視線を向ける。
「どうした?」
「天音ちゃんが警察に捕まったって!」
「それで、遥香さんが迎えに良くそうなので、カスミが留守番しているそうです。」
「…なんだって?」
同時刻、有るビルの屋上
53種のアンデッド…そのどれとも似ても似つかない異形の陰が町を見下ろしていた。その姿…それは、伝説にのみ存在している神獣『麒麟』に似ていた