「えっと、そう言う訳でそっちに行くのは少し遅くなります」
『そうか。……ところでクウヤ…』
「…何ですか?」
携帯電話の向こう側から聞こえてくる翔の言葉には、楽しげな物が有るのは分かる。…重ねて言うが、クウヤは確かに翔の事を尊敬しているが、尊敬していない部分もある。
『…二股の相手がアンデッドなんて随分と面白い人生送ってるな♪』
「二股って何ですか!?」
人をからかうのが好きな所はそんな尊敬してない部分の一つである。
『どっちかに刺されない様に気をつけろよ♪』
「ええ、取り敢えずオレがそうなったらオレが死んでる絵しか浮かびませんしね!」
と、周囲の目も気にせずに思いっきり叫んでしまう。翔の言った状況を想像すると、どうしても後に浮かんでくるのは刺されているのはクウヤだけだったりする。…少なくとも、ラウズカード無しならアイは痛いだけで済むだろうし。
『…まあ、話は変わるけど…。橘さんから聞いた白いジョーカーの事で一つだけ浮かんだ考えがある。…それがオレの考え過ぎなら良いけど、万が一の時の事を考えて、お前にも伝えておく』
「はい」
翔の声色が真剣な物に変わり、同時に空気の重みも増す様に感じられた。
『白いジョーカーはBOARDの関係者の中に居る』
「っ!?」
翔の言葉にクウヤは思わず息を呑む。
『…飽く迄状況証拠を積み重ねた結果導き出された推測だけどな』
「…詳しく聞かせて貰っても、良いですか?」
『…先ずは橘さんと烏丸所長からラウズカードが奪われた状況。可能性は二つ、アンデッドの気配を感知したのか、最初からその事を知っていたか、だ。それと、態々ブレイバックルとカテゴリーAをオレに託した理由まで考えると………』
「前者の可能性が高いと言う事になる。そう言う事ですか?」
『ああ。まあ、飽く迄推測だけどな…。一応、警戒程度はしておいてくれ』
「分かりました」
そう言って携帯電話を切るとクウヤは翔…と言うよりもJACARANDAに居るカスミ達に連絡するために外に出た、カテゴリーペイジの上級アンデッドであるドラゴンアンデッドことアイと一緒に入ったファーストフード店に視線を向ける。
本人曰く、『一緒に遊ぶ事』がドラゴンアンデッドことアイからのクウヤへの試練らしいので、残念ながらJACARANDAでの天音の誕生日の準備には参加できない。
そんな訳で内心では翔やカスミ達への申し訳なさを感じながらも、アイを待たせている席へと戻っていく。
「あっ、遅かったわね」
「先輩に遅くなるって連絡してきたんだよ」
呑気にハンバーガーを食べながら手を振って戻ってきたクウヤを出迎えるアイの姿からは、どう考えてもアンデッドとは程遠い物が感じられる。
取り敢えず、翔にはアイの事は説明したのだが、やっぱり直ぐには理解して貰えなかったりする。何気にラウズカードを渡されたクウヤにしても信じられない物があるのだし。
「…で、何でハンバーガーなんだよ?」
「うーん、アイちゃんとしてはホットドッグでも良かったのよね。だって、平和の味じゃない、こう言うの?」
「平和の味?」
「そっ、子供が食べて笑顔になれるのは平和の味って奴でしょ」
所々に有る言動は、何処か彼女が見た目どおりの年齢でない事を示しているのだが、やっぱり彼女のイメージと繋がらなかったりする。
「それで、次は何処に連れてってくれるの、クウヤ?」
「リクエストとか無いのか?」
「ム~、普通、こう言う時って男の方からエスコートしてくれるモノじゃない?」
クウヤの言葉に不貞腐れた様子を見せながら不満げに言うアイ。
「…単なる高校生に多大な期待はするなよ」
「…正しくは“レンゲル兼高校生”じゃないの?」
「…そこはせめて、高校生の方を先にしてくれよ。…先ずはゲームセンターにでも行ってみるか?」
「アイちゃんとしては、どちらかと言えば遊園地の方が良いんだけど、ゲームセンターで良いわよ」
「だから、距離と高校生の財力考えろ!」
「えー、レンゲルのアルバイト代って出てないの?」
「…いや、オレの場合組織が一度潰れてからライダーになったからな」
だから何気に給料が出ていた翔とは違い、クウヤの場合は
「ム~、じゃあ遊園地は次の機会で…あとは買い物とか…」
「いや、何処に置いとく気だよ、家有るのか?」
「う~…そう言うのは買うのを想像するのが楽しいんじゃない?」
「…改めて聞くけど、お前は本当に上級アンデッドか?」
そう言ってしまったクウヤに罪は無いだろう。どう考えても従来の上級アンデッド達と違って普通の少女にしか見えないのだから。
「失礼ね、アイちゃんは立派な上級アンデッドよ」
「悪い、何処からどう見てもそうは見えない」
「「…………」」
アイの言葉を簡潔にクウヤが切り捨てると二人の間に暫くの間沈黙が流れる。
「…辞めましょうか、どっちにしてもこんな所で証拠を見せる訳にもいかないし」
「確かに…それもそうだな」
そう結論付ける二人だった。流石にこんな人目の多い所でアイが上級アンデッドだと言う証拠を見せられても騒ぎになるだけだ。
主に彼女自身のドラゴンアンデッドとしての姿やら、アンデッドの血とか。前者は兎も角、後者は人に見られなければ大丈夫なのだろが。
「じゃ、早速ゲーセンにでも行きましょうか」
「ああ」
内心、どう対応すべきかと考えながら、クウヤはアイに連れられて店を出て行く。
店…ゲームセンターの中に入った二人はと言うと、
「ちょっと、少しは手加減してよ! 私、ゲームって初めてなんだから!」
「悪いけど、このキャラを使って簡単に負ける訳には行かないんでな。それに、このゲームはオレも初めてなんだよ」
格闘ゲームの対戦を楽しんでいたりする。妙に仮面ライダーに似たキャラクターを使った格闘ゲーム。共に棒状の武器を使うレンゲルに似たキャラだったりする。
何気に仮面ライダーとアンデッドによる初心者とは思えないハイレベルな攻防はギャラリーの注目を集めている。
「このォ、アイちゃんを舐めないでよね!」
「そっちこそ、オレを誰だと思ってる!!!」
最後に同時のタイミングで使用した必殺技が互いのライフを完全に削り取りドローとなった瞬間、周囲のギャラリーから喝采の拍手が巻き起こる。
「ム~、何かすっきりしないわね。別のゲームで勝負よ」
「良し、今度はあれで勝負だ!」
そう言ってクウヤが指差したのはレースゲーム。しかも、バイクになっている所から…。
「ム~、まさか得意分野に持ち込むなんて…随分卑怯な事するわね、ヒーローなのに」
「バイクの運転経験は有るけど、それほど得意じゃないし、レースはした事は無いから問題ないだろ?」
付け加えて言うなら、クウヤはバイクの免許は持っているがレンゲルになるまで運転した事はなかったりする。
こうして、今度は仮面ライダー対アンデッドのレース対決と言う妙な構図の第二ラウンドが始まったのだ…。
「チッ!」
「ふふふ、一応は得意分野で勝って吠え面かかせてあげるわ!」
「思い通りには行かせないぜ! このまま逃げ切る!」
僅かな差でクウヤがリードするも、アイは十分に追い下がりゴール直前で画面の中の二人のマシンが横一列に並ぶ。
「「行っけぇー!!!」」
微かに相手を追い抜きあいながら、ゴールを潜ろうとした瞬間、
「なっ!?」
「えぇ!?」
突然電気が切れてゲーム画面が真っ暗になってしまう。突然の事態に呆然とする二人だったが、直ぐに再起動する。
「…また引き分けね…。って、何だかゲームセンター自体から電気が消えたみたいだけど、どうしたのかしら?」
「停電か? ったく、こんな時に…」
「仕方ないわね、他に行きましょう…っ!?」
「どうした?」
急に表情を変えるアイに疑問に思いながらクウヤが声をかけると、ゲームセンターの外から悲鳴が聞こえてくる。
「まさか!」
「そっ、アンデッドね。…残念ながらこの気配はカテゴリーキングじゃないわ」
クウヤはアイが言い終わる前にゲームセンターを飛び出していった。
「っ!? 寒い…?」
悲鳴が上がっていた場所に近づくに連れて襲ってくる凍えるような寒さ。レンゲルバックルを再び手にした時に手持ちのカードは確認したが、残念ながら、かつて愛用していたカードの何枚かがなかった。
幸いな事にかつて所持していたカードの中の♣10の『リモート・テイピア』のカードだけは封印されたままだった。
少なくとも、アンデッドの中で冷気を操りそうな相手は自分のスートにしか居ない。しかも…。
「やっぱり、お前だったか…」
唸り声を上げて周囲を凍結させながら悠々と歩いてくる白い巨体と腹の部分に何故か扉を思わせるパーツを持った熊の様なアンデッド。ホッキョクグマの祖となりしアンデッド『ポーラーベアアンデッド』。
クウヤはAのカードをセットしたレンゲルバックルを装着、そして、
「変身!」
『OPEN UP』
眼前に出現したチェンジスパイダーのオリハルコンエレメントを潜り抜けると、クウヤは仮面ライダーレンゲルへと変身する。
「はあ!!!」
唸り声を上げてレンゲルを叩き潰そうと腕を振り下ろしたポーラーベアアンデッドの一撃を避けながら、長柄武器である醒杖レンゲルラウザーのリーチを活かしつつポーラーベアアンデッドの頭に打撃を与える。
「グゥ…」
「くっ、効いてないか」
反撃を避ける為に後ろに下がりながら、力で負けていると悟ったレンゲルは距離を取って戦おうとするが、ポーラーベアアンデッドの腹の扉が開き、
「な!?」
腹部から放たれる冷気がレンゲルを襲う。
「そこからか!? 冷凍庫かよ、そこは!?」
冷気を避けながら突っ込みを入れてしまったレンゲルだった。冷気を吐き出すと言うのは予想していたが流石に腹部から冷気を打ち出してくるとは完全に予想外だった。
そんなレンゲルを体を捻り追う事で冷気を浴びせようとするポーラーベアアンデッド。冷気を受けて全身を凍結された上でポーラーベアアンデッドのパワーによる追撃を受ければ簡単に粉砕される。動きを奪われただけでも十分過ぎるほど脅威だろう。
「グォォォ!!!」
(…どうする? 流石に『ゲル』のカードじゃ返って拙い事になるし、何とか冷気をどうにかしないと、やられる)
思えば何度も世話になったカードだけに早めに封印したいと言う気持ちはあったが、想像以上にポーラーベアアンデッドは強い。
(…こうなったら、一か八か)
レンゲルラウザーのカードトレイを展開させ、その中の一枚を抜き出し、そのカードをスラッシュする。
『SCREW』
クウヤが使ったのは♣3の『スクリュー・モール』のカード。レンゲルラウザーに纏われる渦がポーラーベアアンデッドの冷気を切り裂き穂先に集中される。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
そのままポーラーベアアンデッドの冷気を切り裂き、奪い取りながらポーラーベアアンデッドへと突撃。そして冷気を纏ったレンゲルラウザーをポーラーベアアンデッドの腹部へと叩きつける。
「グォォォォォォオ!!!」
自身の冷気をそのまま返された事でポーラーベアアンデッドの腹部が凍結し、それによって悲鳴を上げるポーラーベアアンデッド。それによって一瞬だけとはいえ動きと打ち出していた冷気が止まる。
「今だ!」
その隙を逃さず素早くカードをスラッシュする。
『STAB』『RUSH』
使ったカードは♣2の『スタッブ・ビー』と♣4の『ラッシュ・ライノ』。出現した二枚のカードの幻影がレンゲルへと重なると、手の中でレンゲルラウザーを一回転させ、二枚のカードの効果で強化されたレンゲルラウザーのラッシュがポーラーベアアンデッドへと叩きつけられる。
「グォォォォォォォォオオ!!!」
それによって吹飛ばされたポーラーベアアンデッドの体が後方に吹飛ばされて叩きつけられると、バックル部分が開く。
素早くブランクのカードをポーラーベアアンデッドへと投げつけると、ポーラーベアアンデッドの体はラウズカードの中に封印され、封印されたカードはレンゲルの手の中へと戻っていった。
「…♣6…」
必殺技となる強力なコンボを使う上で欠かせないカードがクウヤの手の中に戻った。変身解除の意を込めてレンゲルバックルを外すと変身が解除される。
「ふぅ…」
安堵の息を吐くと何処からかパチパチと拍手が聞こえてくる。
「お前…」
「見せて貰ったわ。危なくなったら私も手を出そうと思ったけど、その心配はなかったみたいね」
「見てたんなら、助けろよ」
「少なくとも、比較的強い程度の相手に負ける、レンゲルじゃないでしょ?」
「うっ…」
そう言われると何も言い返せなくなる。確かにポーラーベアアンデッドはそれなりに強かったが、それよりも強い相手とは戦っている。
「さっ、用事が有るんでしょ、早く帰りましょうよ」
「って、おい! 付いてくる気か?」
「まあ、アイちゃんに付き合わせて時間を取らせちゃったみたいだからね。アイちゃんもパーティーの準備を手伝ってあげようと思ったのよ」
そう言ってアイは一度息を吐く。
「まあ、こんな状況じゃ遊ぶ気になんてならないしね」
そう言って再びアイに連れられていくクウヤ。………翔に言われた言葉が妙に現実味を帯びてきた気がするのは、気の所為だと思いたい。
つづく…