Fairy tail 緋色の弓矢   作:呉 大林

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緋色の髪

左手で弓を持ち、右手で弓矢を弦とともに引く。幾度となく握ってきたその存在は手にある大きな豆に沿うように握られた。左目を閉じ右目で、遠くに見える細長い空を横切る物体に焦点を合わせた。ケイは眼がいい。これは元来のものではなく、後天的に魔法として埋め込まれたものだからだ。遺伝子に左右されずに自分の手で作ったものだけを信じる。それは大人になっていない子供でも当然のように分かる常識だ。何も考えずに右手を離した。右からヒュッと音がしたと思うと、鳥はその姿を徐々に大きくしながらこちらに落ちてきた。ドサリ、と地面に落ちたそれを拾う。浜辺の砂は幸運なことにサラサラとしているもので、鳥の羽に付着したそれは払うことで簡単に取れた。

「大物だな」

そう呟き、空を見上げた。星は輝く。狩人として生きてきたケイにとって自然の中でふと見上げる大きな存在としての空や星は畏怖の対象と共に、愛でるべき存在だ。ただケイは先と同様に眼がいい。それこそ夜の帳が下りても遠くにある鳥などは寸分違わず射ることが出来る。ケイの目には星の輝きは人工灯にも引けをとらぬほどに光って見えた。

「寒いな」

そう言って鳥を手に持ちその場を後にしようとした。最後に海の先に見える天にも届くかのように思われる歪な建設中の塔を目に焼き付けるように視界に収めた後、反転して浜辺を背にするように歩く。ふとケイは自分の眼が見間違いではないかと思った。冬の浜辺は寒い。それこそ服を何着も着込むことで漸く体の熱を保てる。しかしその女の子は浮浪児のような出で立ちで浜辺に倒れていた。咄嗟に近づき、喉に手をやると微かに脈を感じた。早く手当てをしなければ危篤な状態だと分かっていたので体の下に両手を入れ持ち上げた。

ふとその時、長い髪が座ってない首のせいで下に垂れた。慌てて首の下に左手を持ち直そうとする。その時に髪に手が触れた。手は冬の寒空の下で狩りをしていたからか、かじかみ、風しか感じないほど感覚を失っていた。その状態でもその髪の感触だけは際立つように流麗で美しいものだと認識できた。

「……っ。皆……。」

少女は口にした。寝言だと分かっていたので大した返事もせずに先を急いだ。ケイはこの少女を運ぶ間、何も考えることはできずずっと上の空だった。とめどなく溢れる思考は整合性を持たず、思いついては消え、関連性を持っては切れて行った。そんな中でずっとケイの心の中で燻っていた疑問があった。

(この少女はあの塔と何か関係があるのか…?)

そう思いつつ漸く浜辺を出た。浜辺の先は森が続いている。鬱蒼と生い茂る森の中で微かな明かりで全てが見えるケイはつまづくこと無く先に進んでいった。近くの木は歪に曲がり、遠くの木々の隙間からは悪魔でも潜んでいるのではないかと思わせるような闇が広がっていた。幾度と無く繰り返して来た狩りの中でもここは慣れないなと思って、下を向きながら歩く。

(いつもとは…違うな)

そう思って笑った。広がる視界には闇の中でも美しく照る緋色の髪があった。

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