僕の名前はユウキ、カガヤ・ユウキ。
これから話すのは、僕が体験した光の勇者の物語だ。
僕は子供の頃、テレビで放送してたヒーローがカッコ良くてその真似事をよくしてた。
特にウルトラマンが好きで、父さんと一緒にウルトラマンごっこして遊んでいたっけ……。
子供の頃の憧れを忘れることはなかったし今でもウルトラマンは好きだが、だんだん子供の夢は忘れてしまっていた。
ヒーロー、英雄なんてのは物語の中にしか実在しない、作り物の存在だと思っていた。
そう、あの時までは――――
「シュアァッ!」
轟音、地響きと共に大地に降り立つ赤い巨人。
その姿はこの世界では架空の存在とされる、ウルトラマン達に似た姿。
「行くよ、ブレイブ!」
『よしッ!』
僕に応え、地を駆けて怪獣に立ち向かう巨人。
僕と一体化したウルトラマン、ブレイブ。勇者の名を持つ光の国から来たウルトラ戦士。
“本物”のウルトラマン!
× × ×
五年前 日本・東京
「初めまして地球人。私の名はゲルゼ。私とゲームをしましょう」
それは突然告げられた。
世界各地、主要都市の上空に現れた謎の宇宙船。そして、ゲルゼと名乗る人物の声。
ゲルゼは続ける。
「ゲームは五年後に日本から始めます。その内容は、私が一年以内にこの地球を征服できるかどうか。一年以内に征服できれば私の勝ち、出来なければあなた達の勝ちです。ルールは特にありません。それでは五年後に、また会いましょう」
一方的に話をして謎の宇宙船とゲルゼは消えた。
最初は誰も信じず、ただの悪戯だと言って一蹴した。僕も信じなかったね。
当時の政府や世界の首脳陣も何か対策をする訳でもなく、そのまま変わらない日常を過ごしている。
そして人々は、ゲルゼの一件を忘れていった。
*
それから五年が経った
五年後 同地点
「お久しぶりです地球人。五年経ったので約束のゲームを開始しましょう。今から一年、頑張って私の可愛い怪獣達に抗って下さいね?」
現れると同時にそう宣言したゲルゼ。
買い物に来ていた僕は、その光景を近くで見ていた。
五年前にあった悪戯か。ホントに五年経ってからやるなんて、また律儀な奴だな。そう思っていた。
けれどそんな考えは、これから起こる現実によって、本当の侵略なのだと思い知らされる。
宇宙船から一つの光が地上へ落ち、その光が形となって現れた巨大な怪獣。
「あ、あれは……あの怪獣は……!」
現れた怪獣には見覚えがある。
細身の身体に生える青味がかった黒い鱗と鋭い棘。
退化している小さめの手から伸びる爪、対峙する者を睨むその双眼の目つきからも凶暴性が判る。
その姿はウルトラマンに出てくる怪獣と同じだった。
「おぉ、宇宙怪獣ベムラーか! 懐かしいなぁ」
「あれ、本物なの……?」
「またCGとか使った悪戯じゃねぇの? 五年前みたいにさ!」
傍にいた高校生ぐらいの若い男が笑いながら携帯で写真を撮っている。
(あれがCG? いや、違う!)
僕には感じられた。あのベムラーは生きている、本物であると。
だが見れば、周りの人々も皆同じく、呑気に写真を撮っていた。
しかし、それはすぐに恐怖へ変わった。ベムラーが熱線を放ったんだ。
巻き起こる爆発と衝撃。
「何だよあれ!?」
「に、逃げるぞ! 早く!!」
「助けて! 死にたくない!」
周りにいた人々も混乱し、一斉に逃げ始めた。
「さぁ、ゲームスタートです!」
そう言い残して、ゲルゼと宇宙船は消えた。街で暴れるベムラーを残して。
ベムラーは熱線で周囲を破壊しながら歩いて来る。
僕も逃げようとしたけど、恐怖で脚が震えて動けなくなっていた。……今となっては情けないことだけどね。
ゆっくりとベムラーが迫ってくる。
「な、何で……! 早く逃げなきゃ……!」
動けなくなった僕はなんとか逃げようとした。
その時、ベムラーがいる方向に泣いている子供がいるのに気が付いた。きっと親とはぐれて逃げ遅れたんだろう。
ベムラーが熱線を再び放ち、それが子供がいる頭上のビルに直撃する。
助けるんだと思うよりも先に、身体が動いた。怖くて震えていたはずの脚が、いつもより力強く地を蹴るのを感じる。
(間に合え……っ!)
そう願った瞬間、胸ポケットに入れていたお守りの石が輝いた。
しかしそれを気にせず、子供の元まで駆け寄って、咄嗟にその子を庇う様に抱く。
瓦礫が落下してくる直前に僕の意識は途切れた……。
『――キ。ユウキ』
「だ、誰? それに、ここは?」
『私はブレイブ、ウルトラマンブレイブ。君の子供を助けようとした行為が、私を甦らせてくれた。私は君と一体化したんだ』
「ウルトラマン!? 本物なのか!? それに、一体化した……? いや、それよりもあの子は無事なのか!?」
『心配はいらない、無事だ』
どうやら瓦礫が直撃する瞬間、このウルトラマンが守ってくれたらしい。安全な所へ送ったという。
良かった……と安心していると、ベムラーが迫っていたのを思い出す。
「そうだ、ベムラーは!?」
『む、奴の攻撃が来るぞッ!』
ベムラーはこちらに向けて熱線を放つが、僕の腕は無意識に動いてバリアを展開する。
これにはベムラーのみならず、僕とブレイブも驚いた。
『初めて一体化したはずだが、ここまで上手く出来るのか』
「いや、それは僕が知ってるからだと思うよ……」
『知っている? その話を詳しく聞きたいが、今はベムラーを倒さないとな』
ブレイブは不思議そうに聞くが、すぐにベムラーへと意識を向ける。
「……そうだね、僕もウルトラマンに聞きたい事が沢山あるんだ!」
『私の事はブレイブと呼んでくれ』
「分かった! 行くよ、ブレイブ!」
言葉を交わし、ベムラーに向かって構える。
ブレイブと一体化したからなのか、恐怖は感じない。今の僕には戦える!
その勇気と力が溢れてくるのを感じて、自然と身体が動く。
「シュア!」
ベムラーの腹に飛び蹴りをして着地。流れる動作で、同じ箇所に回し蹴りを繰り出す。
怯みはしたが、あまり効いていないのかまだ動けるようだ。ベムラーが反撃にと、突進して頭突きをしてくる。
僕達は受け止めようとするが、思っていたよりも衝撃が強い。後ろによろめいたその隙を逃さず、ベムラーは尻尾による追撃をする。
ベムラーは攻撃の手を休めず、回転した勢いをそのままに、振り向きざまに熱線を放ってきた。
連続攻撃をまともに受けた僕達は、吹っ飛んだ衝撃で後ろのビルへと激突する。
「ぐっ、強い……!」
『大丈夫か、ユウキ?』
「あぁ、平気だよ」
『マズイ……もう一撃来るぞ!』
ベムラーが更なる攻撃として熱線を放とうとする。
しかしその直前、ベムラーは別の場所から攻撃されて怯んだ。
一体何が? そう思い攻撃してきたところを見る。攻撃したのは自衛隊の戦闘機だった。
ベムラーが戦闘機へ向け熱線を放とうとしたが、今度は地上から戦車の砲撃を受けた。
僕達を援護してくれたのか……?
『ひとまずは助かったな』
「ああ。だけど、これ以上暴れさせる訳にはいかない!」
『そうだな。それに私達も、そろそろ時間のようだ……』
ブレイブがそう言った途端、カラータイマーが鳴り始めた。
ウルトラマンは地球上では約三分間しか活動出来ない。きっとブレイブも同じなのだろう。
一気に決めるしかない。そう思い、立ち上がる。
「ベムラーはまだ弱ってないみたいけど、どうするの?」
『なら、ブレイブブレードを使おう』
「ブレイブブレード?」
『ああ。私の両腕にあるブレイブブレスから発生させる、エネルギーの剣だ』
言われて、ブレイブの両腕を見る。
黄金に輝く神秘のアイテム、ブレイブブレス。メビウスやヒカリの持つブレスよりも少し小さいけど、形がどこか似ている。
その右腕のブレイブブレスへエネルギーを溜め、光の剣を出現させる。
『行くぞ!』
「よし!」
ベムラーの懐へ走り出しブレードで一閃。そのまま斬り抜け、振り返って背中にもう一撃加える。
かなりのダメージを与えられたようだが、まだ倒れない。ふら付きながらもこちらに向き直る。
ベムラーは熱線を放つが、僕達は難なくそれを斬り捨てた。
そして力を溜め、とどめの一撃として胸へ袈裟切り。
「セアァッ!!!」
しばらくベムラーは動かなかったが、やがて力尽き、地面へ崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ……」
『ユウキ、良くやったな』
「ありがとう、ブレイブ。ところで、このベムラーどうするの?」
『あぁ。爆発しない個体は通常、怪獣墓場へ直接移送するんだが――』
そう話していた時、そこに再び宇宙船が現れた。
そしてゲルゼが話しかけてくる。
「まさか、この世界にもウルトラマンがいるとは。これは予想外でしたよ」
ゲルゼもウルトラマンが現れるなんて、考えてもなかったのか。まぁ僕も驚いたけど。
しかし、この世界にもだって……?
僕は問いかける。
「ゲルゼ、君は何者なんだ?」
「答えて差し上げたいのですが、今はまだ教えるつもりはありません。心配しなくても、いずれ分かりますよ」
『お前の目的は何だ? 何故この地球を狙う?』
ブレイブもゲルゼに問う。
「初めましてですね、ウルトラマンブレイブ。私の目的はただゲームを楽しむ事ですよ。地球の征服など、次いででしかありません」
『何……!?』
「この地球も近いうちに滅びます。そんな星を征服しても、長くは持たない……。ですから、滅び去る前に私の遊び相手にして楽しむのです」
「何を勝手な!」
僕は怒り、宇宙船に向けて光弾を放つ。
しかし宇宙船に光弾が当たる事は無く、宇宙船を覆うバリアによって防がれてしまった。
「くそっ!」
『落ち着けユウキ。生半可な攻撃をしても、あのバリアは破れない』
「フフフ、その通りです。では今日はこのくらいで引き下がるとしましょう。ベムラーは回収させて頂きます。次のゲーム、楽しみにしておりますよ」
ゲルゼがそう言うとベムラーは光となって宇宙船へと戻され、そして宇宙船も消えた。
『ユウキ、私達も一体化を解除しよう』
「……そうだね」
そう交わして、僕達――正確に言えばブレイブが、だね――も消えた。
*
ブレイブとの一体化を解除した僕は、戦ったところから少し離れた場所にある建物の屋上にいた。
ここからだと街が見渡せる。眼前に広がる光景は、まさに惨状と言えるものだった……。
「街があんなに……」
『確かに酷い……。だが君が戦ってくれたおかげで、被害をこの程度に抑える事が出来たんだ』
「無我夢中だったけどね。でも、そうかも……」
ベムラーが現れた時の事を思い出して、考える。
あのままブレイブが助けてくれなかったら、この街は……いや、それどころか日本はどうなっていたか……。
きっと、目の前に広がるこの光景よりももっと酷い状況になっているだろう。
同時に忘れていたはずの恐怖も思い出され、身体が震えた。
『ユウキ? 大丈夫か?』
「ご、ごめん……。もしあの時、ブレイブが助けてくれなかったらって考えたら、少し怖くなってね」
『……すまない』
「なんでブレイブが謝るの?」
『助けられたのは私も同じだ。本来ならば、私は一人で侵略者と戦わなければならない。この様な被害が出る前に……。しかし君を巻き込んでしまった』
ウルトラマンは地球でも一人で戦う者もいる。セブンやメビウスみたいに人の姿を借りて。
ブレイブも、本当は一人で戦ってきたんだ。でもそれなら、なぜ僕がブレイブと……? ブレイブも助けられた……?
「そう言えば、何で僕はブレイブと一体化したの?」
『その事も含めて、きちんと話さなければならないな。しかし今は、家へ戻った方が良いんじゃないのか?』
そうだった。
母さんと父さんは無事なんだろうか?
「なら、家で色々話そう。僕もブレイブも、互いに聞きたいことがあるしね」
『そうだな。……歩けるか? 無理なら私が――』
「大丈夫。ちゃんと自分の足で帰れるよ」
ブレイブは少し心配性?
いや、ウルトラマンは大体こんな感じなのかも知れないね。
そんなことを考えていると、ふと疑問が湧いてきた。
「ねぇブレイブ、今のブレイブってどうなってるの?」
『昔、君が拾った石があるだろう? それが今の私だ』
拾った石というのは、お守りとして持っていた2cm程度の透明な蒼いクリスタルの結晶のこと。
僕は胸ポケットに入れていた石――ブレイブ――を取り出す。
子供の頃に偶然拾って、何となくお守りとして持ってただけなんだけど……。
『私と君は、こうして出会う運命にあったのかもしれないな。君には辛い事かもしれないが――』
「ブレイブ。僕はね、こうしてブレイブと会えて一緒に戦えるんだって思うと、なんだか凄く嬉しいんだ」
『ユウキ……ありがとう』
「気にしないでよ。それじゃあ、積もる話の続きは僕の家に帰ってからってことで」
運命、か……。確かにそうなのかもね。
これが後に起こる僕とブレイブの長い闘い、その始まり。
これから僕はこの先、待ち受ける強敵と夢のような奇跡を体験していく事になるんだ……!
× × ×
この日、世界中に地球が未知なる脅威に脅かされているという事実が叩きつけられる。
それと同時に、ウルトラマンが架空の存在ではないことも明らかになり、その情報は瞬く間に全世界に齎された。
「この情報は本当なのか?」
「はい。事実、東京の市街地に被害はありますが、現れた巨人によって最小限に抑えられました」
「巨人……ウルトラマンか。とても信じられんな……。これが夢なら、早く覚めて欲しいものだ」
そう言って男――アメリカ大統領、ゴードン・ダグラス――は自嘲するかの様に笑った。
無理もない。この世界においてウルトラマンとは、テレビやショーで活躍する空想のキャラクターだ。
それが突如、本物のウルトラマンが現れ人々を救ったのだ。ありがとうウルトラマン、で済む話ではない。
それは即ち、我々人類の知らない宇宙の秘密があり、まだ見ぬ脅威があるという事に他ならない。
「五年前の宣言を受けた時点で、対策をするべきだったな……」
今更後悔しても遅い。そんなことは分かっていても、そう言うしかなかった。
だが、まだ最小限の被害。今からでも遅くないのではないか? とも思えた。
仮に五年前に対策をしても、ブレイブが戦うのは避けられぬ運命なのだが。
「今すぐ各国の首脳に招集をかけてくれ。日本はそれどころではないだろうが、な」
「承知致しました」
秘書にそう言い、ゴードンは席を立つ。
これから迫り来る外敵、宇宙からの脅威へ対抗出来る組織を結成しなければならない。その為の準備に。