ユウキとブレイブの活躍によって、ゴメスが倒されたその頃――。
地球の衛星軌道から僅かに外れた位置に一機の宇宙船。その船内に備え付けられた王座に座っているのは、この地球に対して、一方的な侵略ゲームの宣言をしたゲルゼだ。
彼の前には複数のモニターがあり、そこには地球の様子が、そして中央にはウルトラマンブレイブの姿が映し出されていた。
「流石はウルトラマンブレイブ……と言いたいところですが、今回は一体化した人間の力が大きかったのでしょう」
それは先程、ブレイブがゴメスとの戦いで見せた電撃戦法の事だ。
光の国のウルトラ戦士で、あのような戦い方をする者は少ない。しかもブレイブは宇宙警備隊のルーキーであり、長い間力を失って眠っていた。そんな彼が、あの戦い方を思い付くとは考え難い。
そして何より、この地球ではウルトラマンは特撮として親しまれ、実に多くの戦士が知られている。その中にこの技を使った戦士もいた。
ゲルゼは宣言をしてから開始までの五年間、それらの情報を集めていたのだ。
「初めは私も驚きましたが、大変素晴らしい勉強になりましたね。フフフ、これはゲームがますます楽しめそうですよ」
そう言ってゲルゼはもう一つのモニターに目を向ける。そこには、ブレイブに倒されたゴメスが映されていた。
「それにしても、この地球にも怪獣が眠っていたとは……。また現れるようなら、手に入れておきたいですねぇ」
今回のゴメスはブレイブが苦戦するほどの相手だった。そのような怪獣がまだ眠っているのなら、是非とも手に入れたいとゲルゼは思っていた。
ゲルゼの手持ちは強力な宇宙怪獣が多い。しかしその怪獣達も、いずれはブレイブによって倒されるだろう。ならばそれらを切り札に、この地球で捕獲した怪獣で消耗させたいと考えた。
場合によっては手持ちの怪獣を使わなくとも、この侵略ゲームに勝つことが出来るかも知れない。強力な怪獣がこの地球に眠っていれば、の話ではあるが。
「しかし、本能に従うだけの野生怪獣を待っていても仕方ありません。次の準備を始めましょうか」
ゲルゼはモニターを消し、右手に握られていた
その中の一つのスロットが黄色い光と稲妻を放ち、ゲルゼと船内を鮮やかに照らす。
「次のゲームが楽しみですよ、ウルトラマンブレイブ! フハハハ!」
声高らかに笑うゲルゼに呼応するかのように、光を放つスロットの中からもキィィ、キィィと甲高い怪獣の鳴き声が響いた。
× × ×
ブレイブがゴメスを倒してから三日が経った東京。
新設された基地の指令室。その設備を見て、満足そうに頷く男が一人いた。
彼はミズキ同様、左胸と背中にGDのロゴが入った白と蒼の服装を身に纏っている。
シミズ・タカシ。彼はゲルゼの侵略をきっかけに新設された、対怪獣特別対策チームの隊長を任された。
「隊長、準備が整いました」
シミズの背後から女性が声を掛けた。ミズキだ。
彼女は同チームの副隊長を務めている。
「よし、それじゃあ行くか」
「はい」
彼の言葉に同意して、ミズキは他に二人いるオペレーターに声を掛ける。
「私と隊長は少し外に出ます。何かあれば、すぐに連絡を入れてください」
「了解しました!」
「隊長、副隊長、お気を付けて」
システムチェックをしていた二人のオペレーターが作業していた手を止めて答える。
初めに大きな声と敬礼で返事したのは、栗色の髪を後ろに結った女性。対照的に平静な声で返答したのは、メガネを掛けた男性だ。
この二人も、シミズやミズキと同じ制服を着ている。
「……ねぇねぇ、コバヤシ君はあの二人がどこに行くか聞いてる?」
二人が指令室から出ていくのを見送ると、女性オペレーターが男性――コバヤシに声を掛けた。
コバヤシは一つ溜息を吐いて、作業を再開させる。
「知りませんよ。それよりニシハラさん、手が止まってます。早くチェック終わらせましょう」
「えー……良いじゃない、少し休憩しようよー」
そう言って彼女――ニシハラは大きく伸びをする。
「隊長達が戻るまでには作業を完了させたいので。終わらせたら休憩しても良いですよ。だから、もう少し頑張りましょう」
「相変わらず真面目さんだねー……。あ、じゃあ終わったら、美味しいケーキご馳走してよ! それなら頑張るから!」
「コーヒーなら構いませんが、ケーキはダメです」
「……ケチー」
そう言いつつも、ニシハラも作業を再開した。
暫くすると、コバヤシは再び溜息を吐いて彼女に声を掛ける。
「はぁ……この後、私は怪獣の資料を確認するので、そちらを取って来てください。その間にケーキを買ってきます」
「えっ!? 良いの!?」
ニシハラが勢いよく立ち上がって尋ねる。
「ただし一つだけです。ですから、隊長達が戻ってくるまでには――」
「やった! それじゃあ、一気に終わらせるよー!!!」
「……聞いてませんね、全く……」
そうコバヤシは呟いて、三度目の溜息。そしてまた作業を進め始めた。
*
一方、シミズとミズキの二人は組織に支給されたばかりの専用車を走らせ、ある場所へと向かっていた。
運転席にはミズキが、助手席にはシミズが座っている。
「いよいよ本格的に準備完了ですね」
「そうだな……。基地の設備は万全、申請してた装備なんかもそろそろ来る頃だろう」
「これで次に怪獣が出現しても、私達が対処出来ます」
「どこまで通用するか分からんがな」
彼が答えたその言葉は、ミズキも同じ考えであった。
前回現れたゴメスは自衛隊が攻撃する前にウルトラマンが倒し、自分達もそのデータ収集だけだった。よってあの怪獣に、現在の武器でどの程度まで戦えるか分からない。
そしてその前、ゲルゼのベムラー。あれは不意打ちによる攻撃で怯ませる事は出来た。しかしこれも、実際にはどこまで効くか分からなかった。
戦闘機や戦車だけの問題だけではなく、隊員が扱う銃火器にも不安が残る。いや、こちらの方が問題と言えるだろう。
怪獣は遥かに大きな存在だ。幾ら銃の威力があっても、怪獣からすれば豆鉄砲も同然。例え人間サイズの宇宙人が相手でも、その身体に傷を負わせる事も出来るかどうか、といったところか。
だが、
「今の武装で効果がなければ、私も手を貸します」
とミズキは言った。
その事にシミズは少し驚く。
「……良いのか?」
「守る為に必要なら、協力は惜しみません。私は最善を尽くしたいんです」
彼女は前を真っ直ぐ見詰めたまま、その想いを口にする。
それを聞いたシミズは「考えておく」とだけ答えた。
彼がそう答えるのには理由がある。それはミズキの秘密をまだ他の隊員に明かしていないからだ。
隊長である自分は知っている。だが、他のメンバーにそれを説明するか、それは決めていない。
それをしないまま彼女の知識と技術を使っていいのか、その考え故に、彼は分かったとは言えなかった。
それから少し間をおいて。
「ところで、皆とはどうだ? 上手くやれそうか?」
と、シミズは外の景色に視線を向けながら、ミズキに尋ねた。
「問題ありません」
対してミズキは静かに言う。
それを聞いたシミズは「なら良いが」と思い、もう一つ気になっていた事を聞く。
「それなら、そんな堅苦しい言葉遣いは止めたらどうだ?」
「それは……」
「少しは肩の力を抜け、俺達は軍隊じゃない。地球を守る為のチームだ」
「…………」
彼は外への視線をそのままに言う。
その言葉に、考え込むミズキ。暫くすると彼女が答えた。
「そう……ね、善処はするわ」
ミズキがこう言うと、それを聞いたシミズは苦笑する。
「おいおい……善処ってお前、それほとんど無理って言ってるようなもんじゃないのか?」
「無理とは言ってないわ。少し難しいだけ」
「俺とはそういう風に喋れるだろ。それを他の連中ともやれってだけだ」
「……貴方とは古い付き合いだからよ」
彼はミズキを見遣る。
そんな事を言った当人は少し照れた様子だった。彼女のその様子を見て、シミズは思わず笑ってしまう。
「……何ですか?」
その反応が気に食わなかったのか、ミズキは声を低くして口調を戻す。
それに加えて、鋭い眼光が彼を射抜いている。
「っと、すまない。悪気があった訳じゃない、怒らないでくれ」
シミズがそう言うと、ミズキはタイミングよく信号が赤になったのを見て停車させる。
「笑われたんだけど?」
「わ、悪かった!」
そして彼女は助手席の方へと顔を向ける。
その表情には笑顔が浮かんでいるが、それを見たシミズは反射的に謝った。
「……まぁ良いわ。それより、本当にその子を引き入れるの?」
そんな彼をよそに、ミズキはシミズの手元に目を向けながら尋ねた。その手には以前ミズキが使っていた記録用デバイスがあり、その画面にはユウキとブレイブが映し出されている。
二人が向かう場所、それはウルトラマンに変身した青年、カガヤ・ユウキの家だ。その目的はユウキを自分達が所属する防衛隊へ勧誘する事。その為に、彼と会おうとしているのだった。
「ああ。必要な戦力……という言い方はあまりしたくないが、俺達には彼が持つ、ウルトラマンとしての力が必要だ」
「その子、受けてくれると思う?」
「会ってみないと分からんが、俺は受けてくれると思っている」
「そう……。それなら私も、きちんと手伝うわ。まぁ、あまり期待はしないで欲しいけれど」
――私の立場が複雑なのだから。
信号を確認して、ミズキは再び車を走らせる。
少し申し訳なさそうに「悪いな」と口にするシミズ。それに彼女も応える。
「別に構わないわよ。必要な事だから」