ToLOVEる - FIRE GENERATION - 作:改造ハムスター
ブゥーーンン……
地球で買った出前配達用のバイクを走らせ、俺はかつての「結城宅」へ向かっていた。
「……着いた」
まさかここの長男が、銀河の覇者になるとは誰も思っていなかっただろう。
「おじゃまするぜ」
「ここがパパのお家?」
「そうです、昔のね。もうご両親も引っ越されて、誰も住んでいません」
目を覚ましたアッシュとともに、さびれた階段を駆け上がる。
「ここだ」
トイレの向かい側、ドアに小さな看板がぶら下がっている。
そこには、可愛らしいサッカーボールの絵とともに、「リトの部屋」と書かれていた。
ギィィ……
(鍵が開いてる)
誰か入ったのか?
部屋に入るなり、俺はクローゼットを蹴り破った。
「うらぁっ!」
バキッ
扉が落ちた先に、
広大な空間が出現する。
「これって……」
「ララ様……アッシュのお母様が造られた研究室です」
「どうしてこんなとこに?」
アッシュの問いには答えず、部屋をあさる。
(あったあった)
俺はダンボールの中にあった「デダイヤル」を、アッシュに渡した。
「これは……!」
「アッシュ、あなたを、アーサーと、バイクに乗った男どもが狙っています。俺はあなたをお守りしなきゃならない。
俺がバイクを運転するんで、アッシュが後ろに乗って追っ払って下さい」
「でもどうやって」
「そのデダイヤルから、ここにあるララ様の発明品を取り出せます。今のうちにどんなんがあるか見といて下さい。
あと、これも」
俺はアッシュにもう一つ、「万能ツール」も渡した。メカを作る万能工具だが、武器にもなる。
「ザック!私は、戦ったりなんて」
「アッシュ!」
アッシュの肩に手をかける。
「今はその時です」
温室育ちのプリンセスが、不安げに瞳を揺らす。
「俺も、面倒事を避けるために、地球に逃げてきたつもりだった。
でも、どうも違ったみたいです。この地球はもう、とっくに「平穏な惑星」なんかじゃない。
結城リトが即位した時から……すでに、何かが始まっていた」
「そんな、どうして……」
「この世には、平和を望まない奴がいる。
次期デビルーク王候補者、あなたの兄弟たちですよ」
「!…………」
「欲しいものは、どんな手段を使っても手に入れる連中です。そして奴らが求めているのは、王座、ただ一つ。
アッシュ、あなたは自分の立場をわかっていますか?」
「……こ、婚約者……」
「確かに、それもある。でもそれだけじゃない」
「え……?」
「「女王」ですよアッシュ。あなたは女王として、次期デビルーク王の有力候補者に挙げられているのです」
「そんな!私はそんなもの」
「デビルーク王としての実力、人格、家柄、全てを考えた時、消去法であなたしかいない。
ご自身でも分かるでしょう」
「……」
王女が、弱々しくうなだれる。
次期デビルーク王。
通常なら「デビルーク」の姓を持つ、王子が受け継ぐものだ。
確かに、王子はいる。だが王になるには余りに野蛮で、狡猾だった。
しかも王子は双子だった。物心ついた時から互いの地位を意識し始め、部下や人民を率いて、幾度も内戦をやりやがった。こいつらのおかげで、デビルーク星は乱世に突入したようなもんだ。
こんな奴らに王座は渡せないと判断した王室は、双子の王子どちらでもなく、長女、つまり王女に、デビルーク初の「女王」として、王位を継承させようと考えた。
それがアッシュだ。
だが、政府や国民が猛反発した。女を王座に着かせるなど、銀河に示しがつかない、デビルークの恥だと。
そこで新たに出た案が、現デビルーク王、リト様を決めた時と同じ手法、
「王女アシュラと結婚した男を、次期デビルーク王に決める」
これが決議され、馬鹿な政府は、全宇宙に「婚約者候補」を集める御触れをだした。
結果がこのざまだ。史上最大規模の「王位継承戦争」が始まった。
銀河中の無法者が、欲望のままにアッシュを奪いに来る。
リト様の血を引く兄弟たちは、女王候補のアッシュを殺して、王座を奪いに来る。
噂では肉親であるにもかかわらず、アッシュと結婚しようとする兄弟もいるらしいがな……。
「……ザック、私……」
アッシュの肩が、小さく震えている。
俺は、両手を肩にかけた。
「大丈夫です、アッシュ。
俺があなたを護る」
……この状況では、こう言うしかないでしょう。
廊下に出て、階段を降りる。一階から、二階の別のドアに目をやり、小さな看板をじっと見上げた。
『美柑の部屋』
(お袋……)
俺は、あんたの子じゃないんだよな……。
ということは、当然、結城リトの子でもないわけだ。
ホッとしたような、悲しいような。
「……準備できたよ、ザック。
行こう」
再びドレスフォーム(ジャージ 笑)に戻ったアッシュが、階段を降りる。マスクもちゃんと着けてますね。
俺たちはバイクに跨り、夜の彩南町へ繰り出した。
ー午前1時 彩南町ー
「西連寺が屋根から念力で援護してくれます。俺が運転してるんで、アッシュは奴らのバイクを!」
「わ、わかった!」
背後からアッシュの頼もしい返事が返ってくる。さすがアッシュ、もう覚悟を決められた様ですね。
ザーッ
『結城君!商店街の方から、2台!』
無線から、西連寺の声が飛び込んで来る。
「了解」
ハンドルを握る手が汗ばむ。
ギュン!
角を曲がると、報告の通り、2台の族車が襲いかかってきた!
「グヘヘ、アシュラは俺のものだぁっ!」
「死ねっ、結城ザク郎!」
バットが振りかざされる。
「アッシュ!」
「つるつるスリップくん!!」
ヒュッ!
アッシュの手からメカが投げられ、
ビシッ
突如、路面が凍りついた!
ズダーーッ!
二台のバイクが折り重なって滑り転げ、
ドガァアン!!
後方で爆発する。
2人の暴走族は、道路に投げ出された。
『もう1台ッ!』
「終わりだぁあっ!!」
ダダダダダダッ
エアガンを乱射し、ひときわデカいバイクが突進してくる。
ガチャン
ギアを下げ、急旋回。
「うおおおおっ!」
地面すれすれまで車体を傾け、俺は敵のバイクに潜り込んだ。
「今です!」
「とるとるハンドくん!」
ガチィッ
アッシュが操るマジックハンドの様なアイテムが、敵のバイクの前輪を捉える。
「おりゃあっ!」
バキィン!
アッシュが思い切り前輪を引っこ抜き、
「うわ、うわわわわ、
うわーーーっ!」
ドォッ
前輪を失ったバイクが、ショッピングモールに突っ込んだ。
「いいっすね、アッシュ!」
「だ、大丈夫かな、あいつら……」
この状況でも、アッシュは敵の心配をしている。
やっぱりデビルークの中じゃ、一番人間が出来てるな。
路地裏をすり抜けると、にわかに景色が開け、無数の灯りが夜空を照らす。
「ここは……」
「大通り?」
ブゥン!
ブゥン!ブゥン!
「オラオラァッ!」
「その姉ちゃんよこせぇーーっ!!」
無数の排気音とともに、残る全てのバイクが向かってきた。
「ザック……」
「まじかよ」
どう切り抜ける……ッ
その時、
「念力集中ッ!」
頭上から鋭い声が響き、
ビシィッ
暴走族たちが、一瞬で固まる。
「西連寺ッ」
「結城君!今のうちに」
西連寺の構えに、周囲の空気が荒ぶる。整った髪は崩れ、鬼神の如き顔が露わになる。
「念力拡散ッ」
シッ!
ドゥッ!!
静かな殺意から、強烈な拳厚が飛ぶ。うねる波動。30余名の暴走族たちは一斉に投げ出され、ライダーを失ったバイクが虚しく折り重なった。大人しそうに見えるが、こいつは空手の有段者だ。
「ナイスだぜ、西連寺!」
俺はバイクを反転させた。
その時!
「結城ザク郎
覚悟!!」
ダカダカダカダカッ……
鎧を着直したアーサーが、ララ様の発明品の一つ、「うまパカくん」に乗って来た。
「あーっはっはっは!ララ様の発明品、ダイエット用にしておくなど惜しいわ!」
「くるくるロープくん!」
アッシュが、その名の通りの発明品をアーサー目掛けて投げつける。
ビュン!
ロープくんがアーサーの首を捉える。
「甘いッ!」
ズババン!
だがアッシュのメカは、アーサーの光子剣に虚しく斬り刻まれた。
「ハァッ!」
ブゥーーンン!!
迫る光の刃と、うまパカくん。
「しまっ……」
「ッシャアッ!」
ガギィインン!!
俺はアッシュに覆い被さり、右手を上げ、磨き上げられたフライパンでガードした。
キィ
「ック!」
くそっ、片手じゃさすがに防ぎきれねぇっ……!
「ハッハッハ、結城ザク郎!炎を出すことしか出来ない、地球人並みに貧弱な貴様が……」
「……」
「誰かを護りながら、
俺に勝てると思うなぁあっ!!」
ズバンッ
バイクから全身が投げ出される。
「ザック!!」
俺は、奴に競り負けてしまった。
ズザァァアッ
地面を転がる。
……地球に来て、なまったかな……。
くそ、全身が痛ぇ。
「終わりだ、結城ザク郎」
うまパカくんを降りたアーサーが剣を構え、近づいてくる。既に正気に戻っているようだ。
終わったな。
俺は何とか立ち上がり、アーサーに向き直った。最期に一つ、聞いておきたいことがある。
「……アーサー。てめぇは結城リトの子どもじゃねぇ。しかも家臣だ。王位継承権すらねぇだろ。何でアッシュに手を出す。何のつもりだ」
するとアーサーは、急に忠臣らしい、しかし狂気的な笑顔を浮かべ、剣を横に構えた。
「フン、何を言っている。
私は、アシュラ様を殺しに来たのだ」
……なに?
「その迷惑なプリンセスがいるばかりに、長男であられるハンニャ様が、いつまでも王になれない!
私はハンニャ様のために、アシュラ様と、その婚約者候補ともども、葬り去るだけだ……。
貴様もなぁーっ!!!」
…………。
(ハンニャ・アスタ・デビルークだと?)
暴走族「M.B.C」の背後には、第二王子ビシャモがついている。
そしてこいつは、第一王子ハンニャに仕えているらしい。
……なるほど、そういうことか。
こいつら皆んな王子たちの駒なんだ。
アッシュを殺すための。
俺は王にもデビルークにも全く興味はない。
だが、あのバカ王子たちのために、この命をくれてやる気もねぇよ。
もちろん、世話役として5年間お護りしてきたアッシュの命もな。
ブォッ!!
アーサーの剣、イマジンソードの刃が、夜の彩南を映し出す。
「ワーハッハッハ!格闘ナイトの力に沈めぇ!!!」
俺は後ろを向き、
線路を飛び越えた。
「……へ?」
プァアーーン
轟音と共に、特急電車が接近する。
この町で配達してりゃ、どこに飛ばされれば有利かぐらいわかります。
「あばよ、馬鹿ナイト。
宇宙まで飛んでいきな」
「……!っくそぉっ」
「電車」と言う名の地球の乗り物が、アーサーの全身に衝突する。
ゴッ!!
鈍い音と共に、
アーサーの身体が、夜空の彼方へ消えていった。
…………
「アーサー、ハンについてたのか」
俺の後ろで、アッシュがポツリと呟く。
「しかもビシャは、地球に勢力を伸ばしてる」
「めんどくさいっすね」
少し離れて、西連寺が不思議そうにこっちを見ている。
「あいつも、私の顔見ても平気なんだな」
西連寺を見ながら、アッシュが呟いた。
「マジで?」
さすが俺のダチだ。
「お前以外にも、そんな男がいるんだな……。
もっと早く、地球に来ればよかった。
ザックと一緒に」
胸の前で小さく手を握り、アッシュは自分に言い聞かせている。
西連寺を見る。確かに、理性を失っている様子はない。だがアッシュを見るあの熱い目は…………。
まためんどくさいことになりそうだ。
ふいにアッシュが、俺の方に振り返った。
「私、ザックが好き。
初めて会った時から、
ずっ……と…………」
アッシュが、その綺麗すぎる視線を、じっと俺の目に注いでくる。
「あなたが出て行ってから、毎日ずっと忘れられなくて……
馬鹿になりそうだった」
俺は思わず、目の前の王女を見つめた。それは、世話役としてすぐ側で仕えていた時と全然違う、初めて見る表情だった。
俺の視線から逃れるように、プリンセスが、恥じらいの表情とともに下を向く。
だがそれでも、彼女は懸命に自信を作り、再び俺を見上げた。
「だから、おまえが振り向いてくれるまで、私は此処にいる。それで宇宙がどうなろうが知ったこっちゃない。自由に生きる!
おまえが、ずっと昔。私にそう言ってくれたみたいに……。
めんどくさいぞ。悪いけど」
少し涙ぐみながらも、ちょっと口を歪ませて、悪戯っぽく笑い、
そして、
「私、温室育ちだけどさ、
ずっと、あなたのそばに……いさせて」
太陽のような笑顔が、アッシュの顔に輝いた。
その笑顔が苦手だというのに。
「……お幸せに」
複雑な笑みとともに、西連寺が暗い夜道へと消える。
その反対側には、ボロボロの暴走族を束ねる新たな人影があった。
「彩南の問題児はテメェだな……結城ザク郎、アシュラ」
「リュウさんっ!」
暴走族どもが、いっせいに「リュウさん」に向かって頭を下げる。
「この町の均衡を崩しやがって……、制裁が必要だな」
リュウさんと呼ばれてる奴が、俺を指差した。
「俺がいる以上、お前が王になるなど許さねぇ。
覚悟しとけ」
そいつも暴走族を引き連れ、闇に消えて行った。
今あいつ、妙なこと言ってきたな。
何か知ってるのか?
王宮にいた方が間違いなく気が楽でしたね。今更ですが…………。
横では、まだ幼いプリンセスが小さな手を差し出し、穢れを知らない目でじっと俺を見つめてくる。
まぁ、いいか。
俺はアッシュの手を取った。暖かい。確かに、宇宙からこの温もりが消えるのはもったいない気がするな。
……とりあえず、
「喋り方はこれで勘弁して下さい」
そうアッシュに呟いた。
to be continued