隣で支えるとまり木〜夢のような日々〜 ※凍結 作:マウス254
ふー……授業が終わった。僕の学力はそこまで高い方ではないので、寝ちゃうとあっという間についていけなくなってしまうのだけれど、睡眠欲には勝てないよね。人間の3大欲求の1つとして数えられるくらいのものだから仕方ないね。
「橘君? ちゃんと聞いてましたか?」
「は、はい。大丈夫ですよ……」
「そのおでこが赤くなってるのは何が原因なのかしらね」
「……」
さーて、取り敢えずお手洗いにでも行くとしますか。
「あっ、こら! 橘君! まだ話は……」
「すみません先生! 急に腹痛が!」
「嘘をつかないでー!」
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「さて、と。」
休み時間。この時間、僕は友達と話すか、寝てるかのどちらかがほとんどだ。殆どの人がそうだろうけど。ただ、今回は次の授業の準備で忙しくなってしまい、今微妙な時間を残して作業が終わったところだ。
「おー橘。お疲れさん。」
「梅原か。見ていたなら手伝ってくれても……」
「その時は働きに見合う報酬をくれよ?」
「僕は親友がそういう人に育ってしまったことに遺憾の意を表明する」
「いや、誰でもそうだろうよ」
「絢辻さんとかも?」
「あの人は例外な」
「だよね」
彼女は今も教科書を開いて勉強している。1秒たりとも無駄にしてなさそうな生活は僕には真似出来ないよ。
「絢辻さんは、別格だよな〜。クラス委員をやっていて、クリスマス委員も務める。それでいて成績もトップクラス。ルックスも性格も抜群」
「非の打ち所がないよね」
「ああいう人を彼女にしてみたいよな……」
「……ハードルが高すぎない?」
「おいおい、低すぎる目標より、高すぎる目標の方が燃えるだろ?」
「その話は納得できるけど、現実を見ないのは非常に危険だと思うよ」
僕の言葉に梅原は顔をしかめる。理解は出来るけど納得はできないといった感じか。
「なんで最初から無理だって決めつけちまうんだよ! 諦めたらそこで試合終了だ!」
「僕バスケ部じゃないし……スリーポイントシュートも苦手」
「元ネタは今はどうでもいいんだよ! ……お前も彼女作るんだろ?確かに絢辻さんクラスは厳しいのかもしれねえが、もう少し前向きに頑張ってみないと友達以上の仲は手に入れられないぜ?」
「それは分かってるけど。理解するのと実行するのはまた別問題なんだよ……」
「お前は慎重派だもんな」
「……」
う~ん……今冷静に考えてもやっぱり想像が出来ないな。僕今年のクリスマスをどんな風に過ごす事になるのだろう?
実際決意したはいいものの、ハッピーエンドを迎えるかは僕次第だし、ぶっちゃけそのハッピーエンドになる可能性自体あるのか疑わしい。
中学の嫌な思い出に引きずられて、後ろ向きな思考になるのは仕方ないんだよな……
「……焦って失敗するのも問題か。今日一日位はどんな人を目指すのかじっくり考えればいいさ」
「そうさせてもらうよ」
「ま、お前が止めても俺は彼女作るからな!」
「止めるとは言ってないでしょ。お前に負けるつもりは無いからな」
そう言うと、梅原は嬉しそうな顔をする。僕が本当に止めるとは思ってなかっただろうけどそれでも心配だったのだろう。
「上等! ……あ、そうだ。話が変わるがお前、数学の宿題はちゃんとやったか?」
「ある程度は進めたけど……」
「見せてくれ!」
「報酬を要求する」
先程の仕返しとして、同じことをやってみる。僕も絢辻さんじゃないからねえ……
「……水道水なら幾らでもあげられるぞ?」
「交渉決裂だね」
「くっ、そこをなんとか」
「はあ……今は保留にしておくから、えーと……はいこれ」
「お前は神か」
「普通の人間だよ」
「サンキュー橘! この借りは今度別の形で返すぜ!」
「はいはい」
あいつこういう時は調子いいんだよね……まあ、僕が見せてもらったことも少なくないから別に不満とかはないけど……
そういえば、今朝あんな決意をしたけどどうしよっか。
いやだってさ、普通に考えていきなり女の子が空から降ってくるとかしない限り、僕には運命的な出会いとかなさそうなんだよね。
小学生の頃からそうなんだけど、僕はどちらかと言えばやっぱり男子の奴らと組んでいることが多かったから、女子と話すコミュニケーション能力は人並みであるし、話の引き出しも適したものを引っ張ってこれるか、と言われれば微妙だ。
友達に3、4人の女子の輪に突っ込んで話ができる猛者がいたけど……それは僕には無理だろうな。
キーンコーンカーンコーン
っと、授業か。さて次は……古典か。苦手だけど……寝ずに頑張れるかな。
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放課後、皆帰宅や部活の準備をしながら、それを終えた人から教室を出て行く。
梅原は剣道部なんだが、あいつの憧れの先輩がいなくなってから幽霊部員気味だ。今日も部活はある筈だが、サボるつもりの様だ。
「今日は先に帰るわ。じゃあな橘!」
「分かった。またね〜」
さて、僕も残ってる用事が済んだら帰りますか……
取り敢えず明日の授業を確認しながら持って帰る物を確認し、カバンの中に物を詰め込んでから、忘れ物がないか確認し席を立つ。
まだ残っている人はいたが、絢辻さんはその中でも忙しそうに書類処理をしていた。
やはり、幾らクラス委員の仕事が減ったからといって、掛け持ちは相当の負担になっているようだ。周りが気付いていないというわけでは無いようだが、遠目から見るだけでも分かるプリントの多さに手伝おうとする人は居ないようだ。
「暇だったら手伝ってあげたいんだけどね……」
今回は僕も自分のプリントを先生に急いで提出する用事がある。提出期限まで残り僅かしかないので他の人に構ってると間に合わない可能性がある。
絢辻さんも自分の事がやりたいだろうというのは分かるんだけど……こればっかりはどうしようも無い。
「これなら暇そうだった梅原に手伝わせて、2人を近づけてみても良かったな」
とは言え、もう梅原はいないし、提出期限も迫ってる。急いで職員室に向かって、用事を済ませてきちゃおう。
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体育科の先生にプリントを提出しに行ったその帰り、僕は体育館の近くの道を通っていたのだが、そこで黒猫を見つけた。
「あれ?猫か……首に鈴をつけてるけど、誰かの飼い猫かな?」
ニャー チリンチリン
「あ、待ってよ」
黒猫は校舎裏の方に走っていった。あの猫が何処から来たのか追いかけて確かめたくなってしまうのは仕方ないと思う。皆も野良猫とか見たらそうなるだろう。
あ、でも僕野良犬は見たことないんだけどなんだろ……って関係ないよね。もうあの猫は曲がり角についてしまいそうだけど見える範囲で、追いかけてみよう。
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「やっぱり、見失っちゃったか……」
ここら辺で見失うかな、と思ったら予想通りの展開でした。どうしようかな……別にあの猫は僕にとって何かあるわけでは無いんだけど……
探してみるなら階段の下か?いや、その奥の建物とフェンスの間を通って何処かに行ってしまった可能性もある。
「悩みどころだよな……」
「何が悩みどころなんです?」
え?人?
「うわあ! き、君は?」
彼女がどこから来たのか、何時からここにいたのか分からない。僕が鈍すぎて気付いてなかっただけかもしれないけど。
そして彼女はジト目で僕を見る。いや、あの、何もした覚えないよ……?
「水泳部の者ですけど。貴方はどちら様です? 覗きですか?」
「いやなんで」
「ここの近くで水泳部は活動していていることは知ってると思いますが、特に用事があるわけでもないのに来る男子がいるとすると……」
「隠れて覗きに来た、と?」
その答えに彼女はうんうんと頷く。いや、頷かないでほしいのだけど、彼女は当然こちらの事情を知ることなく話を続ける。
「話が早くて助かります。早速先生に……」
「ま、待って待って! 僕は覗きに来たわけじゃないんだ!」
「覗きに来た人皆そう言うと思うのですが」
「いや、まあそうなんだけど……」
そう言われると何も言えない。昔から言い訳が下手だとあらゆる人に言われたが、今回も駄目だったよ。
「なら大人しくお縄についてください」
「いや、僕無罪だから!」
確かに用もないのにここにいるのは不自然なんだろうけど……犯罪者扱いですか……
「取り敢えず自己紹介させてよ。僕は2-Aの橘 純一。ここには首に鈴をつけた黒猫を探しに来たんだ。」
「私は1-Bの七咲 逢です。ここには覗きをしに来た人を逮捕しに来ました」
「だから! 僕は覗きじゃないって!」
「冗談です。しかし……」
「どうした?」
「先輩だったんですね。落ち着きが無いから同学年かと思ってました」
中々に酷い言葉をぶっこんでくるなこの子。短気な奴とかこれ聞いたら絶対殴り掛かるぞ。
「と、取り敢えず、黒猫がいないのなら何もすること無いし、早く帰らないといけないから失礼するね」
「黒猫を探しに来たという設定はもういいんですよ?」
「まだ疑ってるの……」
「冗談ですよ。反応が面白くてつい。すみません先輩」
「まあ良いけど。またね七咲」
「はい、では」
そう言って彼女と別れた。後輩なのに終始僕のほうが弄られていた気がする……オンナノコ怖い。
と、いうのは冗談にしても、凄いなあの子。美也(僕の妹)と比べて落ち着いていて静かだ。ああいう妹も欲しかったものだが、美也が嫌なのかと言われればそうではない。……シスコンでは決してない。兄としてのフォローだな。
「よし、じゃあ僕も帰りますか」
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「ただいま〜」
「おかえり、にぃに」
話しかけてきた妹、
まあ、また会うかもわからないのにいきなり彼女のことを聞いても意味はないだろう。それに美羽も変に思うだろうしな。
家にいる限りは何時でも聞けるんだ、もし学校で会うことが増えてきたらその時に聞こう。
「今日の晩御飯はハンバーグだよ〜」
「おっ、それはいいね」
「早く準備してね」
「分かった」
さて、荷物を置いてきますか……
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「にぃに」
「うん?」
「少し変わった?」
「いきなりどうした」
「なんか、去年この時期になると少し暗くなってたのに、今までと変わってないから不思議に思って」
「ああ……それは……」
そしてみゃーに、今朝梅原と相談していた事を話した。もう一度、頑張ってみることを。
「それは良いことだよにぃに!」
「笑わないんだ」
「笑うと思ったの? そんな訳無いじゃん! 去年のこの頃のにぃには、少し無理をしている感じだったから……」
「……そうか」
家族に感情とか、精神関係の隠し事ってほぼ通じないよね。誤魔化してその場で納得してもらっても何時かボロが出て確実にバレちゃうんだもの。
「今誰か気になってる子いるの?」
「そもそも、親しい女子が余りいない」
「積極的に話しかけないと!」
「いや、それは恥ずかしい」
「ヘタレ」
「んなっ! それは酷くないか!」
「挑戦してみるって言ったのはにぃにじゃん! 少しはリスクを背負い込んで進まないと駄目だよ!」
「お前去年の僕知ってるよね!」
「知ってるけど、だからこそ今年は頑張るんでしょ! 自分の宣言した事くらいちゃんと実行しなさい!」
「うぐぅ……」
「明後日までにそういう報告来なかったらお菓子1個奢ってね」
「何故そうなる」
「そうでもしないとやらないでしょ?」
「……」
なぜ今日の僕は女子に振り回されるのだろうか。あれなのか、僕にコミュニケーション能力が無いのがいけないのか、それともこの子達が特別なのか。
いや、何にせよみゃーの言う通りではある。幾ら梅原からテクニックを教わったとしてもそれを使うことが無かったら宝?の持ち腐れだ。
まあ急いては事を仕損じるというが……僕にそんなことを言ってられる余裕はないか。
「よし、それに乗ろう。ただし僕に進展があったらみゃーが奢ってよ」
「それはやだ」
「何それずるい!」
「だってみゃーは手伝ってあげてるんだよ? なんで逆に奢らないといけないのさ」
「じゃあ良いよ。さっき言ったことは気にしないで」
「え、それはずるいよ! そうやって言ってることをすぐに撤回するのは良くない!」
「意地悪な妹に奢るお菓子は無いよ」
「にぃにのけち!」
「なんとでも言えば良い」
「うう……」
「さて、僕は自分の部屋に戻るよ」
「あ、にぃに!」
「お菓子なら奢らないぞ?」
「そうじゃなくて!」
「じゃあ何?」
「……頑張ってね。応援してるから」
「……ありがとな、みゃー」
「うん!」
こういうところの気遣いをしてくれる所は本当に感謝してる。世間からすると、僕達兄妹の仲はかなり良い方だと思うし、そのお陰で家で2人共楽しく過ごせている。
家で会話が絶える時というのはみゃーがいない時と言ってもいいだろう。僕や両親があまり話さないというわけではないが、あいつがいると騒がしくなる。いい意味でね。
中学生のあの時にもあいつなりに色々言葉をかけてくれたのは嬉しいことだったな。その後からかわれたけど、それ位は許せる。
……今日はこれでお終いだな。明日の準備もできたし、寝ますか。おやすみなさ〜い……
今回も読み切って下さりありがとうございました!
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12/26 美也を間違って美羽にしてました。申し訳ありません。