翌日、俺達はバスに揺られながら、宮島へと向かっていた。
同じ、広島といっても、庄原から宮島へはなかなか距離がある。
途中からは、フェリーに乗って島へ渡る必要があるのだ。
「みんな!お菓子食べる?ポッキー持ってきたんよ」
七海ちゃんは、昨日話した事をさっそく実行しているようだった。
みんなと距離を感じると言っていたけど、七海ちゃんは悩みすぎだ。
客観的に見ればみんな仲のいい友達に見えるし、変に気を遣っているやつなんて1人もいない。
あとは、七海ちゃんの考え方次第で悩みなんてすぐに解決するだろう。
俺は窓の外をぼーっと眺めながらそんなことを考える。
「ほら、律人なにぼーっとしとるん?ポッキー食べるじゃろ?」
月に肩を叩かれ、視線を車内に戻す。
月は七海ちゃんにもらった一本のポッキーを差し出していた。
「ありがと。少し考え事してた。」
「律人は暇さえあればなんか考え事しとるよね。」
ポリポリとポッキーを食べながら俺の隣に腰を下ろす。
俺も受け取ったポッキーをかじる。
「そんな、常にはしてないよ。あ、そうだ、月、成海さんとはどうなったんだ?」
「あ〜、諦めた!あの人、うちがどんなに頑張っても心動かないんやもん。もしかしたら、そのくらいで諦められるゆーことは元々そんなに好きやなかったんかな?」
いつの間にか、月の恋愛も終わってたのか...
月とは最近あんまり2人で話す機会がなかったからな、お互い部活で忙しかったし。
「そっか...知らなかったよ。大丈夫?」
「大丈夫に決まっとるやん!律人、最近はうちにあんまり構ってくれんからなー...」
構ってくれないって...月は子供みたいな事を言う。
昔から、男勝りで堂々としていた月だが、俺に対しては、ごくたまに、こんな事を言ったりする。
そんな時の月はしおらしくて、普段の感じからは想像出来ないから、対応に困る。
「お互い部活で忙しいから、2人で話す時間はなかなか無かったよな。ごめん。」
「そんな、真面目に答えんでよ、半分くらい冗談やから!まぁ同じ目の色同士仲良ぉしよーよ!」
同じ目の色同士仲良くしよう...か
月が転校してきて、最初にかけた言葉がそれだったな。
東京では、ハーフやクォーターなんてあんまり珍しくなかったんだけど(多くもないけど)広島では、物珍しさによってくるやつらがいたからな...
大抵そういうやつらは、子供ながらの、純粋な悪意を持っていた。
変にからかってきたりしてくるのだ。
そんなことを気にして、金髪だし女の子ということもあり、そう声をかけたんだ。
青大達は蒼目を見るのは2人目だったのだが、純粋な金髪を見るのは初めてだったらしく、テンション上がってて、月に怒られてたな...
「物忘れする月が、よくそんな昔の言葉おぼえてたね。」
「失礼やね!忘れんよ!それに、あの時は、律人のおかげで1人やないって感じれたんじゃし...」
俺にとっても同じような子がいるのは嬉しかったし、妙に親近感が湧いたもんだ。
「それは俺も同じだよ。」
月はふふっと笑い、ぐいっとこちらに近づいてきた。
「なぁ律人...ポッキーゲームしよっか...?」
ポッキーをくわえ、妖艶な表情でそんな事を言ってくる。
月のやつ、ほんとに高校1年かよ...色気でまくってるし...
俺は少しドキッとしたが、悟られないようにしてはぐらかす。
「からかうなって。」
「なんで?幼なじみなんやし、キスぐらいええんよ...?」
瞳をうるませ少しずつ俺の顔に近づいてくる...
「律くん...なにしとるん...?」
その光景を一番見られたくない相手に見られてしまった。
七海ちゃんの後ろから黒いオーラが見える...
月があちゃー見られてしもーたか。と呑気に舌を出して
「七海ちゃん、そんなに怒らんでね。...うちだって、自分のほんとの想いに気付いたんじゃから。」
月は七海ちゃんに何かをささやき、青大たちの方へ歩いていく。
月のやつ、逃げたな...どうするんだよ、この状況。
七海ちゃんはそのまま月がいなくなって空いた俺の隣の席に座る。
ちらりと七海ちゃんの方を見ると、相変わらず怒っている。
というか、なんで怒ってるんだ?七海ちゃんはもう俺のことは好きじゃないはずだし...前好きだった相手が他の子と仲良くするのを見るのが嫌だってことなのかな?
「律くん。私頑張ったよ。」
七海ちゃんは先ほどのことにはふれずに、そう言った。
口調は相変わらず怒っていますという感じだ。
「そ、そっか。頑張ったね...。」
七海ちゃんの雰囲気に気圧されながらそう答えた。
七海ちゃん怖いです。その後ろのオーラをどうにかして下さい...
「ほめて。」
「う、うん。頑張ったね。」
俺はさっきと同じ言葉を繰り返す。
しかし、七海ちゃんはそれでは満足してくれないみたいだ。
「頭なでて。」
「えっ?いや、それは...」
「はやく。」
こっこえ〜、こんな七海ちゃん初めて見るんだけど...
これが1歩踏み出したってことなのか?
七海ちゃんの素に少したじろぎながら、有無を言わせない言い方に言う通りに頭を撫でる。
なでなで
「ん...」
七海ちゃんは気持ちよさそうに目を細めている。
可愛いな...猫みたいだ。
髪の毛は絹のように細く、指通りがよく、さらさらで撫でているこっちが心地よくなるほどだった。
不意に、あの夜の光景が思い出され、俺は恥ずかしくなる。
「っ...///もっもういい?」
「ふぇ?あっ!うん!大丈夫!」
七海ちゃんも我に返ったのか、急に顔が赤くなる。
勢いで髪をなでてと言ってしまったことに恥ずかしくなったんだろうな。
七海ちゃんは真っ赤になって俯いてしまった。
ふと、周りを見ると、青大、尊、柚希ちゃん、月がこちらをうらめしそうに見ていた。
「こんなとこでいちゃいちゃしよるやつらがおるぞ。」
「こっちは乗り物酔いでつらいっちゅーのに追いうちかけられたわ...」
「なっ仲良しだねー!」
「えーなー七海ちゃん、うちにもしてよ律人。」
みんなはそれぞれの思いを口にする。
月のやつ、こうなったのは誰のせいだと思ってるんだよ...
それを、かき消すように担任の声が聞こえる。
「おーい!みんな!注目!そろそろフェリー乗り場につくけぇ忘れもんのないようにの!」
ここからはフェリーに乗り換えて宮島へ向かうようだ。
まったく、まだ宮島についてすらいないのに、とんだ災難だな...
フェリーに乗り換えて宮島に向かう。
宮島、厳島、呼び方は色々あるらしいけど、一番イメージするのは水上に立っている大きな鳥居だろうな。
「律人ー、助けてくれぇ...吐きそうじゃ...」
相変わらず、尊は乗り物酔いがひどいらしい。
なんかの漫画にも乗り物酔いに弱い、主人公がいたな...
尊は顔が青ざめており、ズーンという効果音が聞こえるほどうなだれ、吐き袋を握りしめていた。
俺はあらかじめ用意していた酔い止めの薬を渡す。
ほんとは、乗り物に飲む前に飲むのが正しい使用法なんだけど、ないよりはいいはずだ。
「ほら、一応飲んどきなよ。」
「おぉ、ありがとう律人...」
「ほんまに、アンタはいつもいつも乗り物酔いしてるわね。」
「それで、毎回律人が看病しとるんじゃもんな...お決まりの光景じゃ。」
確かに、毎回俺が看病するハメになっている。
バスの時は席が離れていたうえに、月と七海ちゃんのことがあったからあんまり構ってあげられなかったけど。
青大も月もほっときっぱなしだからな...
まぁ、こうは言っても尊が本気でひどくなった時は2人とも心配するんだろうけど。
「律人も毎回毎回優しくしよると、尊のやつ調子のるよ?」
「月ももう少し尊の心配してあげなよ、可哀想じゃん。」
「それは律人に任せるわ!」
尊、どんまい。即否定されたな...
こういったら、流石にかわいそうだけど、月は尊には友達以上の感情はまったくないだろう。
というか、月は俺達3人には友達以上の感情はいだかないだろ...
昔から仲良くしてきて、なんでも知ってるような間柄だし、今更恋愛には発展しないと思う。
「あっでも、律人が具合悪くなったら、うちが膝枕してあげるからその点は任しとき!」
七海ちゃんがピクリと反応して、視線が痛い。
「あはは...俺は乗り物酔いはしないよ。」
そんな中、柚希ちゃんが大きな声を出す。
「あー!鳥居おっきー!!見てみて!」
厳島神社の鳥居が見える。
初めて見ると、あの大きさと、水の上にあるっていう不思議さもあり、びっくりしてしまうもんだ。
「俺らは何度も行っとるからのー。」
「もう青大くん!もう少しいい反応してよ!盛り下がるじゃない!」
お決まりのようなやりとりを眺めていると、フェリーが宮島に到着した。
「わー!ほんとに鹿がその辺にいるよ!かっわいー!!」
柚希ちゃんは鹿と戯れていた。
昔の俺を見てるみたいだ...俺もあんな風にはしゃいでたのかな...
そして、俺達は厳島神社などをまわり、後半からは自由行動となった。
俺たちは最初は表参道を見回ることにした。
それにしても表参道は店が多いな...
お土産店がいくつもあり、お決まりの紅葉饅頭や、揚げもみじなんかもある。
紅葉饅頭だけの専門店も歩いてみたかぎり5件以上はあった。
観光客もたくさんいて、賑わっている。
とりあえず母さん達になんか買っていくか...
俺は近くのお土産屋に入り、お土産を選ぶ。
何にしようかな...やっぱり無難に紅葉饅頭かな?
悩んでいると七海ちゃんが声をかけてきた。
「お土産探し?」
「うん、母さん達になんか買っていこうかなと思って。七海ちゃんも?」
「え?あ、うん!そう!」
(ほんとは律くんがここに入っていくのが見えたからついてきただけなんだけど...)
「何買うか、もう決めてるの?」
「うーん...あっ、このしゃもじとか良さそう!お兄ちゃんに!」
七海ちゃんが手に取ったのは必勝と書かれたしゃもじだった。
成海さんは今年が最後の夏だし、お土産としてはなかなかいいと思う。
「それいいね。」
「律くんは何買うか決めたん?」
「まぁ、無難に紅葉饅頭かな?うちの家族、みんな甘い物好きだから。」
母さんも婆ちゃんも爺ちゃんもみんなしてうちの家族は甘党なのだ。
もちろん俺も例外ではなく甘いものは好きだ。
母さんの時々つくるチーズケーキはお店に出せるくらい美味しい。
「そうなんや!律くんも甘いもの好きなん?」
「うん。好きだよ。」
「私も好きなんよ!お菓子作りもたまにやったりするんよね!」
「へーそうなんだ!すごいじゃん!」
「律くんの方がすごいよ!料理すごく上手やったよ!」
「スイーツ系は食べるのは好きだけど、作るのは苦手なんだよね...」
「そう言いながら器用にこなすのが、律くんだからね!」
「そんなことないよ。それより、あんまり長居すると、青大たち見失っちゃうから早くお土産選んじゃおうよ。」
「そうやね!」
俺は結局、紅葉饅頭の味の種類が豊富なセットを買うことにして、七海ちゃんは必勝の文字が入ったしゃもじを買っていた。
店の外に出ると、揚げもみじを食べている柚希ちゃんが鹿に囲まれていたり、青大がそれを助けようとして、鹿にタックルされていたりとなかなか大変な様子だった。
うわっ...青大、そこは痛いな...
鹿の頭突きを男の急所にくらい、悶えていた。
その後、俺達はロープウェイに乗ることになり、高台にきていた。
柚希ちゃんは、相変わらず楽しそうで、青大に近くの島の名前を聞いたりしていた。
「柚希ちゃん、楽しそうやね。」
「そうだね。七海ちゃんも楽しめてる?」
「うん!もちろん!すごく楽しいよ!」
ほんと、七海ちゃんの笑顔は反則だ。
あ、そういえばあれ渡すなら今だな...
「七海ちゃん、はい!これ!」
俺はポケットから、七海ちゃんにストラップを手渡す。
紅葉を型どった可愛らしいストラップ。
この前、体調が悪かった時のお礼をまだしていなかったからだ。
「この前、体調悪かった時にいろいろ迷惑かけちゃったから...そのお礼!」
七海ちゃんは驚きの表情を浮かべる。
そんなに驚くことかな?俺ってそんなに薄情に見えるのかな?
確かに、熱を出したのは結構前のことで少し遅れちゃったけど...
「...私からもあるんよ...」
...あー、だからあんなに驚いてたんだな。
七海ちゃんが手渡してきたのはストラップだった。
それも、俺とまったく同じの紅葉を型どったストラップ。
「私も、この前熱出しちゃった時看病してくれたお礼。」
「わざわざいいのに...というか全く同じものって...」
俺達はなんだか無性におかしくなり笑い出す。
「ふふっ!案外私たちって似た者同士なんかな?」
「あはは!ストラップなんていくらでもあるのにね!」
ほんとに、ストラップなんていくらでもあるのに、まさか同じものを選ぶなんて...
それがおかしくて、そして、何故か嬉しかった。
七海ちゃんと心が繋がったような気がしたから。
プレゼント貰うのって、すごく嬉しい。七海ちゃんが、俺のことだけを考えながら選んでくれたものだから。それが同じもので、同じような理由だったら尚更だ。
ひとしきり笑い終え、改めて七海ちゃんにお礼を言う。
「ほんとにありがとう。七海ちゃん!大切にする!」
「こちらこそ!...宝物にするね。」
おおげさだなぁ、でもこのストラップは偶然が重なり特別な思い出が詰まった二つとないストラップになったんだしな。
大事にしよう。
ふと、周囲が静かなことに気がつき、辺りを見回してみる。
嫌な予感がする...
すると、案の定、今朝と同じような光景が広がっていた。
デジャヴだ...
「ほんまに、いちゃいちゃしおって...」
「こっちはロープウェイでダメージうけとるんにまた追い打ちかけるんか...」
「いいな、おそろい...」
「律人!うちにはないん?うちも律人のことお見舞いにいったんやけど?」
青大と尊は相変わらずで、柚希ちゃんは羨ましそうにストラップを見つめている。
月に関しては、もちろん自分のぶんもあるよね?という表情でこちらを見てくる。
「七海ちゃんには一番、世話になったから...月達にも感謝してるよ!」
そう言うとみんなは納得してくれた。(約1名は不本意そうだったが...)
そして、俺達は宮島を後にした。
フェリーから見る、夕焼けに照らされた厳島の鳥居はとても神秘的で綺麗だった。
応援のメッセージや、お気に入りなど本当に感謝です!
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1週間に最低でも2回は更新していきたいと思っていますので楽しみにしていてください!
これからも末永くよろしくお願いします!