君のいる町 if   作:中矢

18 / 33
18回目の投稿です!


幸せにするのに必要なことは。

俺は家につき、そのままベッドに倒れ込む。

 

「...大嫌い...」

 

さっきの光景が何度も頭の中で繰り返される。

初めて聞く、七海ちゃんの怒った声。

でも、表情は悲しみに似たものだった。

七海ちゃんに大嫌いと言われた時、理由を聞くことも、言葉を発することも、動くこと事さえ出来なかった。

 

コンコン。

 

部屋の扉がノックされる。

 

「律?入るぞ?」

 

返事も待たず部屋に入ってきたのはじいちゃんだった。

 

「どうしたんじゃ?さっきの子に振られたんか?」

 

じいちゃんはストレートにそう言ってきた。

今の俺には笑って流せる余裕なんて無かった。

 

「ごめん、今は一人になりたいんだ...」

 

「まぁ、そう言わんで、じいちゃんに話してみ。」

 

「でも...」

 

「家族なんじゃから...それに、律は一人で抱え込む子じゃからな。なに、年寄りがただ孫と話したいだけじゃとおもぉて気楽にええんじゃ。」

 

じいちゃんはベッドに座り、優しい声色で話す。

 

そんな声に、俺はじいちゃんに話すことにした。

 

七海ちゃんと中学の頃に出会ったこと。

その子の事を青大が好きになったこと。

そんな中で俺がその子に告白されたこと。

その時に、自分の気持ちに気づいたこと。

青大の事を考えると応えることが出来なかったこと。

しかし、青大が俺の気持ちを偶然知って諦めたこと。

七海ちゃんと同じストラップを買っていてプレゼントしあったこと。

先ほどの出来事も全て。

 

1時間くらいじいちゃんは何も言わずに黙って聞いてくれた。

 

俺も本当は誰かに全部きいてもらいたかったんだろうな...

 

全部聞いたじいちゃんは一言こう言った。

 

 

「律、本当は気づいとるんじゃろ?気づかんふりしとるだけじゃ。」

 

何のことかはすぐに理解した。

 

俺は本当は分かっていた。

 

気付かない振りをしていただけだったんだ。

 

七海ちゃんが俺に対して、まだ好意を持ってくれていることに。

 

だけど、怖かったんだ。

確信が持てない気持ちを信じれるほど俺は強くもないし、出来た人間じゃない。

それに、結果的には好きな人より、親友をとった俺が七海ちゃんの気持ちに応える資格なんてないと思った。

何より好きな人に好きと伝えることより、七海ちゃんが俺のことはなんとも思ってないと言われて傷つくことの方が怖かったんだ。

 

その小さな、可能性の低い不安が、俺を弱気にさせ、気付かないふりをさせていた。

 

さっき七海ちゃんが怒った理由も、悲しい表情の意味も分かってたんだ。

 

 

「律、少しだけ昔話でもしようかの...」

 

そう言ってじいちゃんはゆっくり話し出す。

 

「昔はな、今みたいに好きな人と結婚できるような世の中じゃなかったんじゃ。決められた相手との結婚...親が決めた強制に近いお見合いじゃな。わしもそのひとりじゃった。決められた相手がおって、その人と結婚することになっとった。じゃけど、わしには好きな女子がおったんじゃ...清楚で可憐でみんなからの人気者...いわゆるマドンナ的存在じゃ。それがばあちゃんじゃ。」

 

じいちゃんは懐かしむように一言一言、遠い昔の出来事を話す。

 

「ばあちゃんとは、わしが13の時に出会ったんじゃ。ちょうど律が七海ちゃんと出会ったのと同じ時期じゃな。ばあちゃんは、優しくてよぉ気の利くべっぴんさんじゃったんじゃ。わしもいつの間にかばあちゃんのことがすきになっとった。」

 

けどな...と悲しそうな表情のじいちゃん

 

「ばあちゃんにも、わしと同じように親に決められた相手がおったんじゃ。しかもその相手はわしの親友じゃ...」

 

まるで、俺と青大みたいだ...

 

「わしがそれを知ったのは夏祭りの日のことじゃ。親友は息を切らしながら走ってきて、嬉しそうにそのことを教えたんじゃ。わしはその時にばあちゃんのことを好きだったんじゃと気付いた。そして、そのことは誰にも言わず隠し通すことにした。」

 

じいちゃんも同じだ。親友のために、好きな人を諦めようとした。

 

「でも、そのことを知ってから、わしの中で日に日にばあちゃんへの想いが強くなっていってな...そんな時に、わしの許嫁だった子が言ったんじゃ。」

 

 

『あんたの気持ちはわかっとる。雫のことが好きなんじゃろ?だったらぶつからんでどうするんね。もしだめでもうちがあんたと結婚しちゃるんじゃけん堂々といけばええが!』

 

『何勝手いいよるんじゃ!わしの気持ちも知らんくせに偉そうに!』

 

『...見れば分かるんよ。どんだけあんたのこと見てきたとおもーとるん?あんたが自分の気持ちに嘘つくんは見てられん。じゃから、あんたがやりたいよーにやりんさいよ。あんたが悩んだことに対して素直にだした気持ちなら、間違いも正解もないんやから。』

 

『...なんでそんなこと言えるんじゃ...』

 

『あんたのこと好きやからに決まっとるじゃろ。隠し通すのが本当に正解じゃと本当に本心からおもーとるん?好きになるのに資格なんかいらんわ!幸せにするんに必要なのは覚悟だけじゃ!あんたの人生なんじゃから、親のこととかうちのこととか気にせんではよいってきんさい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言われてわしは雫、ばあちゃんの所へ行ったんじゃ。そしてわしらは結ばれた。わしの親友もわしの気持ちには気付いとったんじゃ。素直に祝福されたわ。」

 

じいちゃんは話し終えて俺を見る。

 

「律、美奈子の言葉が律の胸にも響いたんやないか?」

 

好きになるのに資格はいらない、幸せにしてあげるのに必要なのは覚悟だけ...か。

 

美奈子という人がどんな気持ちでそんなこと言ったかは想像がつく。

じいちゃんのことが好きで好きでたまらなかったけど、それでも、じいちゃんの幸せを願った。

例え、自分との婚約がなくなったとしても。

そして、じいちゃんもそれを受け入れたうえでばあちゃんのところに行ったんだ。

 

「俺は...じいちゃんみたいに強くないよ。」

 

「律は強い子じゃ。きっとお前にもわかる時が来る。さて、わしはそろそろ寝るぞ!明日はばあちゃんとデートじゃ!」

 

そういって、じいちゃんはベッドから立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「一歩踏み出す勇気を七海ちゃんに教えたのは律じゃろ?なら、律がそうせんでどうするが。律が七海ちゃんや青大を励ます時に使った言葉は全部自分に対しての本心じゃったかもしれんぞ。」

 

じいちゃんはそのまま部屋を出ていった。

 

その通り...なのかもしれない。

一歩踏み出す勇気が足りないのも、素直になれないのも、全部俺だ。

 

でも、だからと言ってすぐに答えが出るわけでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、謝りのメールを七海ちゃんに送っても、返信はなく、宮島で買ったおそろいのストラップを眺めながらじいちゃんの言葉を考えていたらいつの間にか朝になっていた。

 

もうこのまま、ずっと俺達の関係は壊れたままなのかな...

 

俺は布団から出る気になれずゴロゴロと過ごしていた。

母さんは今日は仕事に出ていて、じいちゃんとばあちゃんは市内にデートに行くと行って、車で出ていった。

本当にいつまでたっても仲がいいんだな、じいちゃんとばあちゃんは。

昨日の話を聞いてから、じいちゃんがどれだけばあちゃんを愛しているかわかったし、ばあちゃんも同じようにじいちゃんを愛していることを改めて実感した。

 

♪〜

 

俺のケータイが着信を告げ、七海ちゃんからかと思ったが相手は違った。

 

着信:加賀月

 

俺は、電話をとる。

 

「もしもし?」

 

「あ!もしもし?律人?起きとった?」

 

「起きてたよ。どしたの?」

 

「いやー暇やったから今日遊べんかな?て思って!」

 

よりによって今日か...今日は何もする気が起きないな...

悪いけど月の誘いは断ることにした。

 

「ごめん、今日はいいや...」

 

「...なんかあったん?」

 

さすがに付き合い長いだけはあるな...

それとも、おれってそんなにわかりやすいのかな?

 

「なにもないよ!今日はゴロゴロしたい気分だからさ!」

 

俺は不自然に思われない程度に元気な声で話す。

 

「...じゃあ、律人のゴロゴロに付きおーてあげる!」

 

...?

 

そんな時、家のチャイムがなる。

 

めんどーだし、居留守使おう。

 

「こらー!居留守使うな!」

 

電話越しと、家の外から大きな声が鳴り響く。

まさか...

 

「月...いまどこ?」

 

「律人ん家の前!」

 

俺は、ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。

眩しい光に一瞬目がくらみ、視力が回復して見えたのは金髪の女の子が家の前にいる光景。

 

「...なにしてんのさ。」

 

「遊びに来たんよ!はやくドアあけんさいよ!」

 

強引すぎるでしょ...

俺は溜息をつき、月に伝える。

 

「...ちょっと待ってなよ。今降りてくるから。」

 

「おっけー!」

 

俺は眠気でだるい体を引きずりながら、1階に降り、鍵を開ける。

 

「おっはよー!律人!」

 

「...おはよ。」

 

月は朝っぱらから...と言ってももう9時過ぎだが、俺とは反してすごく元気そうだ。

 

「ほらー!もう少し元気に挨拶しんさいよ!」

 

「...おはよーございます。お上がりくださいませ。」

 

「よろしい!おじゃましまーす!」

 

少し嫌味っぽく言ってやったが、月には効果なしだったようだ。

月は家にあがり、さっさと俺の部屋に向かっていく。

まったく...遠慮って言葉を知らないんだから。

七海ちゃんとは、正反対だ...

 

俺は、悩みの種となっている女の子のことを一瞬考え、すぐに気を取り直す。

 

月のあとを追い、俺も自室に向かう。

 

部屋に入ると、月はさっそくくつろいでいた。

 

「はー、律人の部屋はいっつも綺麗にしとるんやね!しかもなんかええにおいするし。」

 

月はくんくんと犬のように部屋のにおいを嗅いでいた。

 

「恥ずかしいからやめて。というか、いきなりどしたのさ?」

 

「別に理由なんかないよ?ただ単に律人に会いに来ただけ。」

 

昔から月はこういうやつだった。

葵さんが母さんになついて、ふらっと家に来るみたいに、月も、理由もなく1人でふらっと俺の家に来ては、漫画を読んだり、テキトーに過ごして帰っていく。

いきなり押しかけてくる割には、俺自身あんまり嫌ではなかった。

月は2人の時はいつもより無口になるし、うるさいと思うことも煩わしいと思うことも特にない。ただ、たまに、漫画やゲームに飽きたりすると俺にちょっかいを出してくるくらいだ。

 

「あー!この漫画、最新巻でとったんやね!読んでええ?」

 

「うん。いいよ。お菓子とジュース持ってくるからテキトーに読んでなよ。」

 

「いつも、悪いねー!お願いします!」

 

俺は1階に降りて、テキトーにお菓子とジュースを持って上にいく。

 

月は、いつも通り、静かに漫画を読んでいる。

 

黙ってればお人形さんみたいなのに...もったいないよな...

 

金髪の少しはねた髪の毛、透き通るような白い肌、俺より少し明るい蒼い目。

 

月ももっと女の子らしくすれば、成海さんでも、余裕で振り向かせることが出来たんじゃないか...いや、月のよさはそんなとこじゃないし、好かれるために性格を変えるような女の子じゃないか。そういえば、じいちゃんの話に出てきた美奈子という人と月って何となく似ている気がする。

 

「ん?なに?うちのことじーっと見て。」

 

「月は黙ってればお人形さんみたいだなーって思ってさ。」

 

「なっ、何言いよるん!///」

 

少しからかってみると、月は赤くなる。

この前の仕返しだ。

 

「ごめんごめん、てか、俺昨日から寝てないから眠いんだよね、」

 

なぜか、今になって眠気が襲ってきた。月が来て、余計なこと考えなくなったからかな?

 

「そーなん?寝てええよ?膝枕でもしてあげよーか?」

 

「馬鹿なこと言ってないで漫画に集中しなよ。テキトーにゲームとかもやってていいから。」

 

「ちぇー。了解!おやすみ。」

 

俺は月の声を聞き、意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月side

 

漫画の最新巻を読み終えたウチは、ベッドで寝ている律人を観察することにした。

 

ホンマに整った顔しとるなー。

 

睫毛とか女のウチより長いし、肌も女の子みたいに綺麗やし、髪もさらさらじゃ。

今は眠っとるから見えんけど、ウチと同じ蒼い目もすごく綺麗で深みがあって、整った顔をさらに引き立てる。

 

 

ウチは昔、自分の蒼い目と金色の髪が嫌いじゃった。

 

子供の頃は人と違うことが悪やから、仲間はずれの対象になる。

さらに、だまっていじめられるほど可憐な女の子じゃなかったウチはますます孤立していった。

 

そんな時に、転校の話がでてきて、律人達と出会うことになる。

 

ウチはどうせまた、この瞳と髪の色のせいで孤立するんじゃろうな...と半ば諦めの考えを持っとった。

 

そんな日常を変えてくれたのが律人と青大や尊じゃった。

 

律人はウチと同じ白人の血が流れていて瞳の色が蒼いのにも関わらず、堂々としていて、ウチの瞳と髪を初めて褒めてくれた男の子で、何度突き放しても、ウチの手を引いてくれた。

 

男なんて一人じゃ何もできんで、弱虫なものとおもーとったけど、強くて、信念があって、優しくて真っ直ぐな律人を見て、初めてこんな男の子もおるんじゃと思った。

 

そんな律人じゃったからすぐに心を開けたし、この人の前なら、ありのままのウチでおってええんじゃと思った。

 

だから、ウチが律人のことを好きだという事実に気づいた時、本当に自然に受け入れられた。

 

七海ちゃんとは律人絡みでよー話すようになって親友じゃとおもーとったから、律人のことを好きじゃと気づいた時は真っ先に話した。

 

七海ちゃんは「じゃあ、ライバルになるね。今まで応援してくれてありがとう。でも、律くんだけはあげんよ!」と言って、認めてくれた。

 

ホントは、批難されるんやないかとおもーとったんじゃけど、そんな心配はいらんことじゃった。

 

律人が七海ちゃんに特別な感情をもっとるのは何となくわかっとったし、今日もきっとなんかあったんじゃな、とは気付いとった。

 

だからと言って、問いただしたところで律人はそんな弱みは見せんじゃろうし、そんなことをしても、律人のためにならんとおもーたから、いつも通り、ただ側におることを選んだ。

 

今のウチに出来るのはこれが精いっぱい。

でも、きっといつかは気持ちを伝えて...

 

そんな事を考えとったら、律人が目を開ける。

 

「人の顔じーっと見てどうしたの?」

 

「わっ!び、びっくりした!起きとったん?」

 

「寝てた。月のせいで起きた。」

 

律人は寝起きで頭がまわらないのか、単語単語で話してくる。

相変わらず寝起き悪いのは変わっとらんね。と笑ってみると、

そうかな?と眠気を含んだ気の抜けるような笑顔をみせる。

 

こんな風に毎日律人と過ごせたらどれだけ幸せじゃろう...

ウチは時計を見る。1時をまわっていた。

 

「律人、そろそろ起きてなんか食べよーよ。」

 

「うーん...もう少し寝る...」

 

「もー!律人はダラダラしすぎなんじゃ!ほっといたらずっと寝とるんじゃから。」

 

「...わかったよー。」

 

律人はふぁーと欠伸をしてベッドから出る。

 

「なに食べたい?」

 

「オムライス!あのパカーてなるやつ!」

 

「月もまだまだ子供だね。わかった、じゃあ下いこっか。」

 

律人はぽんとウチの頭に手を置いて部屋の外に歩いていく。

たまにこういうお兄ちゃんっぽい事されるのも律人になら悪くない。

出来ることなら、この先もずっとこんな風にいられますように...

 

ウチは誰にでもなくそう願い、律人についていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼ごはんを食べ終わり、俺達は部屋に戻った。

オムライスに月とケチャップで書いてやると喜んでいたので、そういうのをみると相変わらずだなと思う。

俺も月みたいに素直に気持ちを表現出来ればどんなに楽だろう...

 

そんな事を考えていると、家の電話がなった。

 

俺は月を部屋に残し、電話にでる。

 

「もしもし!一ノ瀬さんのおたくですか?」

 

「はい。そうです。」

 

「落ち着いて聞いてください!一ノ瀬総一朗さんと、雫さんが事故にあわれて意識不明の重体です!至急病院に来てください!」

 

電話越しに聞こえる騒がしさと裏腹に、俺の心は静まり返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




場面が移り変わりすぎて読みづらかったかも知れません...

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。