君のいる町 if   作:中矢

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30回目の投稿です!

今回からは文化祭のお話です!




お嬢様と執事

俺は、ぼんやりと教室の窓の外を眺めていた。

 

太陽の光が眩しい。

鳥たちは、まだ暑さの残る空を気持ちよさそうに飛んでいる。

 

一昨日、俺は祖父の元許嫁である、本郷美奈子さんに会った。

 

そこで、二人の出会いや、結ばれる過程などを聞くことが出来た。

聞いた結果、俺はどちらかというとばあちゃんの方に似たんだろうなと思う。

おそらく、俺がばあちゃんの立場なら全く同じことをするだろう。

というより、実際に同じことをしてたから話を聞いている時は自分のことと重なってしまった。

美奈子さんの為に、じいちゃんを諦めようとしたばあちゃん。

青大の為に、七海を諦めようとした俺。

 

だけど、今は違う。相手が誰でも、七海を誰かに渡すつもりなんかない。と、心から思える。

 

じいちゃんの伝えたかったことは恐らくそういうことなんだろう。

 

誰かの為に自分を犠牲にすることがほんとに幸せなことなのか? と。

周りの幸せを考え過ぎると自らの大切なものを失うかもしれない。と。

 

「叶うはずのなかった恋······か。」

 

「ん? 何か言った?」

 

隣の席から、七海の声が聞こえる。

 

「ううん、なんでもないよ。」

 

「そっか! それより、文化祭の実行委員だって、なる?」

 

ホームルームは文化祭の実行委員決めが行われており、柚希ちゃんと青大がすでに挙手していた。

実行委員······か、なったとしたら、帰りは遅くなるだろうし、母さんが心配だな。

そう思ったが、俺は先日、母さんに言われた言葉を思い出す。

 

『律人、私のことは気にしなくていいから、律人は一度きりの高校生活、しっかり楽しみなさい! 家のことはなんとかなるなる! 任せといて!』

 

って言ってたな。

 

母さんのことは心配だけど、俺が気を遣うと逆に悲しむだろうし実行委員、なってみるかな。

 

七海に実行委員になることを伝え、二人で挙手する。

 

「よーし、そしたら実行委員は桐島、枝葉、神咲、一ノ瀬で決まりじゃな!」

 

クラスメイト達からパチパチと拍手が起こる。

 

さてと、なったからには最高の文化祭にしないとな。

 

窓の外から差し込んだ光で出来た日向はいつの間にか影に居場所を奪われていた。

 

 

────学校は午前で終わり、放課後に四人で文化祭の出し物について話し合っていた。

 

「さて、確かうちのクラスの出し物は喫茶店だったよね?」

 

俺はぼんやりしていて聞いてなかったのだが、七海からクラスの出し物は喫茶店ということで決定していると聞いた。

 

「問題はどんな喫茶店にするか······なんだけど。」

 

俺は三人を見る。

 

「はーい! はいはい! はいっ!」

 

「うるさいわ! 枝葉!」

 

柚希ちゃんはこれでもかと言うくらい手を挙げて案を聞いてほしがっている。

青大はいつも通り、柚希ちゃんに鋭いツッコミを入れていた。

これまたいつも通り、柚希ちゃんは言い返す。

まるで夫婦漫才だな······

 

「はい、じゃあ柚希ちゃん。」

 

「はいっ! メイド喫茶がいいです!」

 

「衣装がないじゃろ! それに、女はええけど、男はどうするんじゃ。」

 

「無かったら作ればいいじゃん! 男の子は······んー。」

 

柚希ちゃんは考え込んでしまった。

 

そこに、七海ちゃんが助け舟を出す。

 

「女の子はメイドさんで、男の子は執事さんっていうのはどうかな?」

 

執事か······メイド服を着るよりはマシかな······

 

「それいいね! さすが七海ちゃん!」

 

七海は柚希ちゃんから褒められて「そうかな······」と照れている。

 

「じゃけど、まじで衣装はどうするんじゃ? メイド服だけでも大変なのに、執事用のスーツなんて作れんじゃろ······」

 

それはもっともだ。

メイド服はなんとか出来るかもしれないが、執事用のスーツ全員分なんて流石に手に入りそうもない。

 

しかし、七海は得意げに教室の後ろにあるダンボールを持ってくる。

ドサッと机の上にそれを置くと、中を開けてみせる。

 

「じゃーん! 実は、一昨年のお兄ちゃん達の出し物が、執事喫茶だったらしいんよ! だから、執事用のスーツは全員分あるから!」

 

教室の後ろに置かれたダンボールの中身がまさかこれだったとはね······

七海は俺にウインクしてくる。

 

「さっすが、七海ちゃん! よしっ! これで後は、メイド服だけだね!」

 

七海と柚希ちゃんはメイド服の作成方法を思案していた。

 

俺と青大も顔を見合わせ考えていたが、さすがに女の子の服、メイド服のデザインなんて分からないし、どうやって作るかなんて思いつくはずもなかった。

 

「えーっと、ここをこうやって。」

 

「うんうん、いいね!」

 

「それでこうして。」

 

「うんうん!」

 

「こんな感じかな?」

 

「いいよ! 七海ちゃんセンスいいっ!」

 

女性陣は着々と進んでるみたいだ。

七海が主体にデザインを決めている。

 

「なぁ、律人。」

 

「ん? なに?」

 

「これ······律人着てみらんか?」

 

青大はメイド服のデザインはそっちのけで一着のテイルコートとスラックスを取り出していた。

そして、不敵な笑みを浮かべながら俺に迫ってくる。

 

「ちょっ、青大? 怖いんだけど······」

 

「ええから、ええから。」

 

俺は少しずつ後ずさりする。

女性陣はメイド服の話に夢中でこちらに気が付かない。

 

「律人、ちょっとだけじゃから。なんにも怖いことないが······」

 

あやしい、あやしすぎるよこの会話。

イケナイ関係に聞こえるよ、そういう趣味ないよ。

 

「わ、分かった、分かったから。せめて、更衣室で着替えさせて······」

 

俺は青大のただならぬ雰囲気に気圧されて、更衣室に向かった。

 

「あれ? 律くん? どこいったんやろ······」

 

「青大くんもいない······あっ! もしかして、サボってる!?」

 

「律くんに限ってそれはないと思うけどなぁ······」

 

「そうだよね······律人くんがいるもんね!」

 

俺が、青大に連れられている間にそんな会話があったらしい。

 

もう少し早く気づいてよ······

 

 

 

 

────更衣室で学校指定のカッターシャツの上からテイルコートを羽織り、グレーのベストに袖を通し、付属のネクタイを締め、セットのスラックスをはく。

 

「······わるふざけで着せてみたんじゃが······似合いすぎじゃろ。」

 

「気慣れないし、なんだか変な感じなんだけど······というか暑いし······」

 

鏡に映る自分は、なんだかスーツに着せられているようで落ち着かない。

 

「写メ撮らしてくれ!」

 

「はー······いいよ、といってもどうせ文化祭で着るんでしょ?」

 

「律人はマネキンじゃ、こんな感じのスーツってことを報告せんとな!」

 

青大はしきりにいろんな角度からシャッターをきる。

最近、時々青大はおかしくなる。

普段は普通なのに、たまに悪ふざけを始めるとこうなる······

 

「それにしても、やばいのォ······ブチ似合っとるが。」

 

そう言ってぐるりと360°俺を見る。

 

「スラッと伸びた足! サラサラの黒髪! 透けるような白い肌! ミステリアスな蒼い目! 本物の西洋の執事じゃ! リアル執事じゃ!」

 

テンションメーターが振り切れそうな······いや、すでに振り切れている青大を宥めていると、さらに悪ノリを始める。

 

「そうじゃ! 神咲にも見てもらおう!」

 

「なっ! 何でだよ!」

 

「ええじゃろ! どうせ文化祭で見せるんじゃ! 先に彼女に見せんでどうするんじゃ!」

 

くっそー······こうなったら仕方ない。

 

「よーし、分かったよ。その代わり青大も着なよ! 柚希ちゃんに見せよう!」

 

「なっ! 俺はええが! お前の隣じゃと惨めじゃ!」

 

「何でさ! それに、柚希ちゃんならどんな青大でも褒めてくれるって!」

 

俺だって恥ずかしい思いするんだ、青大だけ逃げさせないぞ。

 

俺はあらかじめ持ってきておいた二着目のスーツを渡す。

 

「いっ! いつの間に!」

 

「ふんっ、こんなこともあろうかと、準備してたんだよ!」

 

「ひっ卑劣な······」

 

そして、青大も道連れにスーツを着ることになった。

 

 

 

────その時、七海達はというと。

 

「おっそいなぁ、律くん······ほんとにサボってるのかな?」

 

「んー······さすがに律人くんに限ってそれはないでしょ。青大くんなら分かんないけど······」

 

「ふふっ、それもそうかも。」

 

「······ねぇ、七海ちゃん。」

 

「なに?」

 

「律人くんとどこまでいったの?」

 

「え、えっ!? な、なにが?」

 

「もしかして、最後までしちゃった?」

 

「そっそれはまだだよ!」

 

「へぇー、それじゃあ、その手前まではしたんだ······」

 

「ちっ違う!······キスまでしか、してないよ······」

 

「もちろん深い方だよね?」

 

「う、うん······」

 

「わー! すごい! どうだった、どうだった!?」

 

「どうって······えっと、その、きっ、気持ちよかった······かな。」

 

「きゃー! 七海ちゃんエッチ!」

 

「ちっ違う! もうっ! そういう柚希ちゃんこそ、青大くんとどうなんよ!」

 

「······私、青大くんに嫌われてるのかな?」

 

「えっ、どうして?」

 

「だって、すぐ怒るし······私のこと、うざそうだし······」

 

「そんなわけないじゃん。青大くん、柚希ちゃんのこと絶対好きだよ。」

 

「ほんとに······?」

 

「絶対そうだよ! 周りから見れば一目瞭然やもん!」

 

「ほんとかな······」

 

「ほんとだよ! あっ! そういえば知ってる? 文化祭のあとの後夜祭の言い伝え······」

 

後夜祭の言い伝えとは、律人達の通う高校では文化祭の後の後夜祭でキャンプファイヤーを行い、その周りでフォークダンスを踊る。

そして、みんなの前で意中の相手を連れ出し、告白するというものだ。

勇気と度胸が試され、告白の成功率も高い······らしい。

 

「知ってるよ! 今日、尊くんが言ってた!」

 

「その時に、青大くんに連れ出してもらえるように誘ってみたら?」

 

「そんなの、恥ずかしいよ!」

 

「大丈夫だよ。それに、誘わなくても、連れ出してくれそうだし······」

 

「うーん······考えてみる。」

 

「うん! 頑張ってね! 応援するし、協力するから!」

 

「ありがとう、七海ちゃん!」

 

 

 

────俺達は教室の前で立ち止まる。中からは二人の楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「これ、落ち着かないんじゃけど······」

 

「だから言ったじゃん! もうここまで来たんだし見てもらおうよ。」

 

青大はいまだに「うーん······」と唸って駄々をこねている。

大体、青大が先に始めたんだから······

そう思いながら、俺はドアに手をかける。

 

「行くよ。」

 

「分かったよ! 行けばええんじゃろ!」

 

ガラッと教室のドアを開ける。

 

「あっ! 律くん! 戻って······きたん······やね······」

 

「おそいよ! 二人とも! どこ······行って······たの······」

 

二人とも固まって、動きを止めてしまった。

うわっ、これってひいてる感じなのかな?

最悪じゃん、なんか「張り切って着てみたけどどうだよ? イケてるだろ?」ってアピールしてるみたいで物凄く恥ずかしくなる。

青大なんてそっぽを向いて恥ずかしさに耐えている。

 

「律くん······」

 

「青大くん······」

 

「「かっこいい!!!」」

 

二人は小走りで駆け寄ってきて、俺達の姿をみまわす。

 

どうやら、ひかれてたみたいじゃなかったようで少し安心する。

 

二人は青大がしていたようにいろんな角度から俺たちを見て、感嘆の声をあげていた。

 

「いいっ! いいよっ! 青大くんも律人くんもすごく似合ってる!」

 

「律くん! 写メ撮ろっ! ねっ! いいよね? いいよね?」

 

思った以上の食いつきで俺は呆気にとられる。

七海はカメラを内カメラに切り替えて、写真を撮っている。

呆気にとられながらも俺は表情をつくって対応する。

 

「七海ちゃん! 撮ってあげるよ!」

 

「うん! お願い!」

 

七海は俺の腕をとり、ギュッとくっついてくる。

 

あまりの、テンションの上がりように少し戸惑いながらも俺はカメラに視線を向け、はにかむ。

カシャッというシャッター音が何度か聞こえ、七海が写真を確認している。

チラリと青大を見ると、この状況が逆に恥ずかしさを煽り、耐えられないようだ。

 

「青大くんと柚希ちゃんも撮ってあげるよ!」

 

次は青大が標的となり、柚希ちゃんは楽しそうにカメラに笑顔を浮かべている。

 

「ばっ、ばか! あんまり、くっつくなよ!」

 

「ほらほら! 照れないでいいじゃん! ちゃんと笑ってよね!」

 

カップルと言われても異議を唱える者はいないだろうな。

どう見ても。

 

撮影会が終わり、女性陣は一息ついていた。

 

「ふぅ、ご馳走様でした。」

 

「二人ともすごく似合っとるね!」

 

「ありがとう。」

 

「照れくさいのォ······」

 

柚希ちゃん、ご馳走様って······

男みたいだ。と思ったのは俺だけじゃないはずだ。

 

「あっそうだ!」と柚希ちゃんがこそこそと七海に耳打ちする。

七海は顔を赤くしながら、俺に近づいてくる。

 

「あ、あのね? 律くん······」

 

「どしたの?」

 

「お願いがあるんやけど······」

 

なんだろう、撮影会は終了したし、特に思い当たることがない······

 

そして、七海は俺の耳元であるお願いを囁いた。

 

「えっ! むりむりむり! それはやりすぎだよ!」

 

「お願いします! 一回だけ!」

 

青大はすでに柚希ちゃん達サイドにまわっており、助けはない。

裏切ったな······

 

七海は顔を赤くしながら手を合わせて懇願してくる。

 

「うっ······わ、分かったよ······」

 

やったぁ! と可愛く飛び跳ねる七海を見て、この笑顔の為ならと決意する。

 

柚希ちゃんは期待したような眼差しでこちらを見つめる。

七海も同じく、そんな感じだ。

 

ふぅ······まじで、恥ずかしい······

仕方ない! 俺も男だ! やってやる!

 

ふかく深呼吸して、俺は七海ちゃんの前に跪き、右手を左胸に当てながら、俳優顔負け(自分で言う辺りどうかとおもうけど······)の表情で七海を見つめる。

 

そして······

 

「七海お嬢様、私はどんな困難からも貴方を守り抜いて見せましょう。どんな時も側にいると誓いましょう。私は生涯、貴方のものでございます。」

 

俺は、七海と柚希ちゃんが今、ハマっているらしいドラマのセリフを言わされたのだ。

それが執事と主の恋愛モノでこのシュチュエーションにぴったりだったらしい。

 

柚希ちゃんからは歓声があがり、青大は俺の恥ずかしさが移ったのか顔を赤くし、七海は青大以上に顔を真っ赤にしていた。

 

これは俺の黒歴史になるな······

 

そう思いながら、自分の顔が恥ずかしさで物凄く熱いことに気付くのにそう時間はかからなかった。

 




閲覧ありがとうございました!

記念すべき30回目の投稿、いかがでしたでしょうか?
そして、なんと自分の二次創作が君のいる町のSSまとめで紹介されている事を読者の方にお聞きしました!
それもこれも皆様が支えてくださっているおかげだと思っております!

まだまだ長くなると思いますが、気長に付き合って頂けると嬉しいです!
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