コビーがふと視線を上げると、茶色いものが視界に入った。
こき使われすぎて、変なものでも見えたのかと思ったが、それは縄で繋がれた二つの樽だった。
その樽はゆっくりとこちらまで漂って来て、そして砂浜に乗り上げた。
樽からくぐもった声が聞こえる。
「…着いたの?」
「うわっっ!!!」
「お兄ちゃん?何をびっくりして…」
突然樽が静かになった。
「?中に人がいる訳じゃあるまいし…。」
コビーは興味本意で近付くと、その樽をしげしげと眺める。
彼は首を傾げながら、軽く握りこぶしをつくり樽を叩いてみた。
コン。
「ヒィッ」
ド ンッ!!
「どうしたレネー!!」
コビーが驚いてそちらに目をやると、麦わら帽子の少年が樽の残骸を纏って立っていた。
髪と目はどちらも黒く、目の下の傷が印象的だ。
彼はコテンと首を傾げた。
「…ん?何だお前?」
「あなたこそ何でそんなところに入ってたんですか!!」
「ん?レネーが樽の中は落ち着くって言うから入ったら、気付いたら寝てた。」
コビーはあっけらかんと言い放つ麦わら帽子の少年から、もう一つの樽に視線を移した。
怯えの混じった声がもれる。
「寝る時は起こしてって私、言ったよね?あああ後そこの人間、ととりあえず1mばかり離れてください。」
「大丈夫そうだぞレネー。こいつ弱そうだし。」
「あ、本当だ。ありがとうお兄ちゃん。」
「よわ…まぁ、否定はしませんけど…。」
「つーかお前、何してたんだ?」
彼はその言葉で自分の立場というものを思い出した。
「コビーです…。うわ、そうだ早く戻らないとアルビダ様に!!!」
「誰だ?」
「知らないんですか!?海賊ですよ海賊!!」
「え?海賊版?…海賊版…つまり私は存在自体が許可されていないと暗に告げられて…「なぁお前、何か食うモン持ってないか?」…。」
ぶつぶつと呪詛の様に言葉を紡ぐ樽を無視して少年はコビーに問い掛けた。
「え、良いんですかほっといて。まぁ…。森の中に入ればあると思いますけど。」
「そうか。レネー、ここに居ろよ。食えば治る!!!」
そう樽に声を掛けると、少年はまっしぐらに森へ入って行った。
入れ代わる様にドスドスと大きな音を起てて男達がやって来る。
「おぃコビー!!何やってんだ!!」
「いや、その、樽が。」
コビーは口ごもった。何と説明すれば良いか分からない。
「樽ぅ?」
そこで初めて樽の存在に気付いた彼らは、コビーから樽に視線を移した。
「…中身は入ってんのか?」
「まぁ、入っているといえば入っているのですが、その。」
要領を得ないコビーに、男は凄みを利かせる。
「…コビー、お前はここで何も見なかった、良いな?」
その言葉の真意を汲み取り、コビーは慌てた。
「ぇえっ!?でもそんなことしたらアルビダ様に怒られちゃいますよぅ。」
「分かってンな?」
「は…はい勿論!ぼ、僕は何も見てません!えへへへ…」
「おぃてめぇら。」
「あぁ。」
彼らは頷きあうと樽を担ぎ、歩き出す。
気付かれたくないならここで飲めば良いのに、なんて少し考えてあぁ、コップも何も無いのかと一人で納得。つまるところ現実逃避をしつつ仕事を怠けていると思われたら堪ったものではないので、コビーは慌てて彼らの後を追いかけた。
「れぇぬぇぇええええぇ!!!」
少年がバンッ、と扉を開けて入って来たのと、彼らが小屋に着いたのはほぼ同時だった。
「ん?増えてる。誰だお前ら。」
「「てめェが誰だ!!」」
「俺か?俺はルフィ、海賊王になる男だ!」
胸を張って答えた少年…ルフィを、彼らは嘲笑した。
ルフィはむっとして言い返そうとしたが、怒声に掻き消される。
「煩いよあんた達!!」
小屋が破壊され、現れたのは件の女海賊アルビダだった。
謎の疾走感。
暇つぶしにでもお読みください。