「ただ今帰りました…あら?どなたかしら。」
所々擦り傷を追ったカヤさんが帰って来た。
元気そうな執事の様子に心底ホッとした顔をしつつ、私に問い掛ける。
「えっと、その、先程侵入しました海賊です。…レネーと申します。」
「まぁ!では船長さんの妹さんね。メリー、お茶を。」
「…畏まりました。」
先程とは打って変わって、カヤさんは私に親しげだ。
執事の方は何か言いたげだったが、一礼して部屋から出て行く。主人の決定に従うらしい。
彼女は外套を脱ぎ、椅子に体を預けた。
「あの、兄が何か言っていたのですか?」
「私、船をあなた方に譲ろうと思ってその事を船長さんに言ったら、妹が来たら先に船に乗せるようにとこっそり頼まれたの。妹さんがどんな人かはお聞きできず仕舞いだったけれど、分かって良かった。」
お兄ちゃん…せめて容姿くらい言おうよ。
私を名乗る別の人がいたらどうするのさ…。
まぁ、いないと思うけど。
うやむやになった私が屋敷に侵入した理由も、兄と合流するためだと解釈したらしく彼女からの追及はなかった。
間違っちゃいないけれど無用心過ぎると思う。
私と執事は海賊襲来事件の詳細をカヤさんに聞かされた。
鼻の人の頼みで、事件は村の者には伝えないことにするらしい。
その方が村人の為になるとか。
鼻の人は海賊が来る旨を村人に伝えていたから、彼の言った事は全て嘘になる。
執事がそのお人好しっぷりに驚いていた。
私は兄が彼を仲間に誘うことを確信した。大丈夫だもん、大きい船あるから隠れるもん…。
カヤさんは兄を案内するそうで、私は執事と一緒に一足先にゴーイングメリー号と邂逅した。
船は詳しくないから良く分からないけれど、船首を飾る羊は中々愛嬌のある顔をしている。
案内しようかと聞かれたのを全力で辞退して、一人で船内を探索。
早速、甲板から続くレンガの建物に入ってみる。
椅子がいくつか並んでいて、その奥に…??
これは……………だ、台所だ!!!
ふぉぉお初めて見た!!!!!!
これが噂に聞く台所!!!!女子力が100くらい上がった気がする!!!
凄くテンション上がった。
あっでも、コック仲間にしなきゃまともに使える人が……よし、次行こう次。
今は何も考えたくない。
船内は元々カヤさん達用に作られたため、中々に豪華だ。
バーなんてものまである。
必要そうなものは乗せたと言っていたが、ペンキや絵の具まであったのには驚いた。
どうせ誰も絵を描いたりしないだろうと、絵の具だけ拝借。
粗方探索し終わった頃、デッドスペースに作られた天井が低めの部屋を見付けた。
小さめの窓からは穏やかに海が広がっている。
…ここにしよう。まだ時間はある。
私は扉を外しにかかった。カモフラージュは得意中の得意だ。
「おい、レネーは良いのかよ。アイツらから隠れてるっぽいからさっきは言わなかったが…。」
「先に乗ってる、ハズだ!!」
「ハズかよ!!!」
ゾロったらマジ神。兄ならこうはいかない。最近やっと"こっそり"を覚えたけど、言わないなんてあり得ないもの。…まぁ、そもそも人前に出ない私が悪いんだけどさぁ。
私は壁に耳を付けた。
足音は二つ。他に人はいない。
私はそっと扉を押した。
「うぉっ!!!?」
「おうレネー、部屋そこにしたのか。噂をすれば風邪だな!!!!」
「影だ、アホ。」
狭い部屋に二人を招く。
食堂の椅子を一個持ってきたけれど他には何も無いも同然なので、みんなで床に座った。
因みに端数になった椅子はお誕生日席風に配置してきた。
「二人に言わないでくれてありがとう、平気になったらその内突然現れると思うから引き続き黙っててね。」
「分かったけどよ…お前、また樽で寝る気かァ?」
前の住処はまた壊されたので、私は新しい空の樽を部屋に持ってきていた。
ゾロはそれを見咎めて呆れ顔だ。
「駄目?」
「ハンモックがまだあるから一つ持って来る。」
「メシどうすんだ?」
「テキトーに獲るつもりだけど…お前らは私のお母さんか。」
「俺たちの母ちゃん???」
「あ、いや、概念的な話。」
ますます疑問符を浮かべる兄に、使う言葉を間違えたことを悟る。
でもなんて表現したら良いのさ。
「まぁ良いや。あ、レネー、この船大砲あったぞ。後で撃ってみるけど驚くなよ〜。」
ニシシと笑う兄にゾロは色々言いたげだったけれど、壊すなよと言っただけだった。
大分兄の生態が分かってきたらしい。
「レネー、大発見だ!!!」
兄がハンモックを片手に部屋にやってきた。
発言者的にゾロが来るのかと思っていたけど、ゾロの手を煩わせるのは申し訳ないから良かった。
「どしたの??なんか上が騒がしかったけど…。」
分かっていた大砲二発の後にも、破壊音がしていた。
その後もなんだかバタバタしていたし…。
「なんかゾロの知り合いが来た!!船がちょっと壊れた。」
「早くも!?」
「でな…………ライム食わねェと死ぬんだ!!!!」
「…えっと」
「ナミが言ってたんだ、スゲーだろ!!!」
「あー…あー、うん、凄いね。」
今、初めてナミさんがいて良かったと思った。
フーシャ村の酒場は人が多いので、物心ついた頃には行っていない、つまり記憶にない。
ダダンのところにはそもそもキッチンと呼べるものがあったのか怪しい。
敬語は使えるけど彼女もまた限りなく野生児。