深夜にこっそり風呂に入り、適当に魚介を獲ったり肉を食べたりするのにも慣れて来たある日。
あ、兄の仕業になっている食材消失事件の一部は私ですごめんなさい。
…それは兎も角、とうとう海上レストランとやらに着いた。
時々良い匂いがただよって来る。
目的は勿論コックだけど、普通に働いている人間が頼まれただけで海賊になったりするのだろうか?
きっと兄のことだから無理矢理にでも料理の上手な人を仲間にしそうでちょっと怖い。
流石にこの、船が横にある状況で海に飛び込んだらバレるので私は暇を持て余していた。
一回くらい一般客っぽく入ってみようかなぁ、なんて思いつつ睡眠を取り、目覚めて絵でも描こうかと窓を見たら、船が進んでいた。あれ、もう出発して……船に兄の気配がない!
私は慌てて廊下に出た。
船室前で足を止め、息を潜めて中を覗く。
オレンジの髪の毛が見えた。
ナミさんだ。
……やっぱり、裏切った。
彼女が何処に向かっているとか、何で裏切ったかなんて聞かずに、私は彼女の意識を落とした。
その直後だ。
「うぁっ!?」
なんか揺れた。
凄く揺れた。
起きていないかを確認して…ってあれ、よく見たらこの人間泣いてる?
裏切ったという事実は変わらないが、なんとなく乱雑に扱う気持ちが薄れてそっと床に下ろした。
甲板に出て原因を探ると、私は自分の目を疑った。
船が真っ二つになって海に沈んで行くのだ。
そりゃあ船も揺れる訳だなぁと現実逃避しつつ双眼鏡で確認。
肉眼で見えたことからも分かっていたけど、凄く大きい船だ。あそこにあったらメリー号もやられてたかも。
海軍の船は無いからあの人達の誰かがやった訳じゃなさそうだけど…この辺にもすごい人がいるんだなぁ…。それとも足を伸ばしてイーストブルーまで来ただけかな。
まぁ、そこそこ離れた位置にいる今は関係の無い話だ。
あ、そういえば昔兄と集めたガラクタに、錆びたネジがあったなぁ…。
満身創痍だけど元気、というなんとも矛盾した状態でゾロが部屋に入って来た。
「ゾロ、その怪我は…?」
「殺りあって来た。」
ゾロは凶悪な笑みを浮かべた。
わーそれもしかしなくても船割った人とだよね。
酷い怪我だと思ったけれど、あれをやってのける人とならむしろその程度の怪我で済んだって言った方が正しいかもしれない。
「楽しかった??」
「…次は、絶対倒す」
「頑張ってね。」
安い言葉かもしれないが、私から言える事は少ない。
しばし雑談していたが、ゾロが思い出したように言った。
「つーかよレネー、ありゃお前の仕業か?」
あれと言われて思い当たることはただ一つ。
あたかも本棚を固定するネジが古くなっていて、揺れによりナミさんに落ちてきたことを装って私の犯行を分からなくしたのだ。
その後乗り込んだ兄達をこっそり窺っていたら、失敗に終わった裏切りの理由をナミさんが説明…というか弁明していた。
そりゃさ、彼女が絶対悪でないことは承知していたけど、ちょっと複雑な気分だ。
一億で村を魚人から買い取る、とのことだが…私だったらその一億で確実にその魚人を倒せそうな人を雇う。
金の上での約束は守る男だそうだが、約束なんて口八丁でどうとでも変えて来るだろうに。
…結局、人間を信じるからいけないのだ。
兄がもう俺たちは仲間だろ的なことを言って全員で何とかパークに向かうことになった。
感情論としては私はナミさんをまだ仲間って思えないけれど、兄が私を頭数に入れてくれているなら客観的には一応仲間なんだよなぁ…。うーん私は彼女と仲間としてやっていけるのだろうか。今のところ無理だ。
私は目下の悩みを誤魔化す為にゾロをちゃかした。
「バレた?ゾロは気付かないと思ってた。」
「どういう意味だよそりゃ!!…まぁ、意識落とされたことは何度もあるしな…。」
ゾロは遠い目でため息を付いた。
とりあえずテキトーに労っとこう。
「良く分からないけど、お疲れ。」
「…まぁ、今回は助かった。」
「ホント?じゃあ私、ずっと自船警備員してる!!!」
「それは止めろ。」
えー…。
「今、寝たり絵を描いたり、したいことしかしてないから凄く楽なんだけど。」
「絵?………なんでルフィはウソップじゃなくてお前に頼まなかったんだ…?」
ゾロは私の部屋にある描きかけの絵を見て不思議そうに言った。
「何の話??」
「いや、何でもねェ。お前ら兄妹の似たとこ探す方が難しく思えてきたってだけだ。」
私に悪い所があり過ぎてって話ですね分かります。
アローンパークに行く前に、ナミさんは寄りたいところがあるからとココヤシ村に着けた。
兄たちはそのまま本拠地に向かうらしい。正面突破だ。というかナミさん以外作戦を立てる気なんて毛頭なかった。
だって脳筋だもの。
ウソ氏が、なんだかんだ理由を付けてナミさんと一緒に行こうとしてる。
「私もちゃんとそっちに向かうわ。アンタたちが失敗しても…………しなくても。それが、私のケジメ。」
「失敗なんかしねェよ!!」
兄は胸を張って答えた。
*
*
*
結局ウソップ(?)はナミさんと船を降りた。
私は尾行中。あの話が演技だとは思いたくないけれど、理由を詳しく話さずにみんなと別れようとするって、怪しすぎるもの。
「…私は正直、アンタたちと会わなかったことにしてこのまま別れるのが最善だと思ってる。」
「誰も賛成しないと思うぜ。」
「分かってるわよ、そんなの。」
「じゃあなんで言ったんだ?」
「…ただの意思表示よ。てかウソップ、アンタはアーロンと戦いたくないから降りただけでしょ、付いて来ないで。」
「な、なんでバレたんだ!!!?」
ウソップ(!)はナミさんの言葉に目を見開いた。
むしろなんでバレないと思っていたの?
「そ、それよりお前、このまままた裏切るつもりじゃねェだろうな?」
「あら、お望みならそうするけど?ルフィと私が仲間だって私からアーロンに伝えたわけじゃないから、アンタらが負けた後に何事もなかったかのようにアーロンから村を買い取ることも私には可能なのよ?」
ナミさんは挑発的な笑みを浮かべる。
「とにかく、付いて来ないで。」
彼女が向かった先は簡素なお墓だった。
彼女を信用していないのは勿論だが、理詰めで言いくるめるタイプの彼女が突き放すような言い方をするのだ、何かあると思った。
「ベルメールさん…。」
故人と思われる名前を呟くと、ナミさんは膝をつく。
よくある悲劇だ。だから、兄を裏切っていい理由にはならない。
私はそう自分に言い聞かせながらその場を離れた。
キャラが摑めない。
満身創痍の相手に楽しかった?と聞くのが普通の気弱少女と違うところ。