『完結』黒歴史の輝き   作:万歳!

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第2章 王国動乱
第1話 準備


「レエブン侯。まずは謝罪をさせてほしい。私は侯の事を誤解していた」

 

 たっち殿が風に当たりに行っている中、この場にいる全員が大きな息を吐いていた。それはたっち殿が怖かったからだ。一人だけ嬉しそうにしている狂信者がいたが。

 

「いえ、私も誤解されるように動いている身ですので……それにしても戦士長殿、恐ろ、いえ、素晴らしい人物に出会いましたね」

 

「ああ、彼がいれば王国の膿をすべて削ってくれる。もちろん私も王国の淀みを少しでも削るつもりだが」

 

「それは私たち、蒼の薔薇も同じ気持ちです。それにしても、レエブン侯が王派閥だったとは……それにザナック王子が気づいていたことも、バルブロ王子が麻薬組織から金銭を得ていることも予想外です」

 

 そのバルブロ王子が、麻薬組織から金銭を受け取っていたことに対して、ラナー王女が視線を下げる。もしかしたらラナー王女も内心で怒っているのかもしれない。

 

「それにしても、どうすればあそこまで強くなれるんだ? はっきり言って心臓が止まるかと思ったぞ。冒険者たちは全員あんなのを相手にしてるのか?」

 

 ザナック王子が蒼の薔薇に対して質問した。確かに冒険者の事に疎いものが、あれほどの殺気を感じたのだ。生きているだけでも儲けものだろう。心が弱ければその場で死んでいる。

 

「……申し訳ありません王子。冒険者はあそこまで強くありません。私たちでは10秒も時間を稼げないでしょう。比較できるとすれば法国が信仰する六大神等の神話の世界を生きる人たちだけです」

 

「はっ、そんな化け物と出会って生き延びて王派閥の味方に組み込んだ……戦士長。この功績は大きいぞ。正直なところ俺は恐怖しかない。だが、たっち殿がいれば王国の闇を消し飛ばしてくれる力があることも理解できた。そしてそうなった場合俺が、王座に座ることになることもな」

 

 そう。今までであればガゼフは誰が王の後に座ろうとも、変わらないと思っていた、だがここにいるザナック王子なら王国の闇を壊滅させた後、立て直せる可能性が高い。

 

「ところでラナー、俺が王座に座ったら、民を慰撫するためにお前とクライムの結婚を正式に認めてやる」

 

「お兄様!?」

 

 クライムが目を見開いている。確かに平民でのクライムとラナー王女が結婚すれば、吟遊詩人たちが歌う物語のようになるだろう。それが国民を勇気づけるのも間違いない。

 

「それなら法国もその結婚を祝福する祝辞を送ろう。いや神官長を派遣して結婚式を挙げさせてもいい。代わりに人類を守るための知恵を貸してほしい」

 

「ニグンだったか? 人類を守るとはどういうことだ?」

 

 その言葉にニグンは大きく溜息をはいた。王国の連中はなにも理解していないと憤るように。ガゼフは目をそらす。

 

「そうだな、王国が立ち直ってくれるのであれば、情報の共有は必要だな」

 

 そう言うと、一度ニグンは目を閉じて第二王子ザナックを見ながら話し出した。

 

「現在人類は滅びの真っ只中にいる。いや今だけではない。六大神様が降臨されたときからずっと人類は滅びの危険性の中にいる」

 

「……それはどういうことだ? 王国は確かに膿だらけではあるが、滅びに瀕しているとは思えないが。いや確かに膿だらけで滅びに瀕していると言われれば否定できないが、人類が滅びの真っただ中にいるとは思えないぞ?」

 

 その言葉にニグンは言葉を荒らげようとしてやめたようだ。自分は竜王国を見てしまった。ゆえに確かに人類が滅びの真っただ中にいるのを理解できる。

 

「竜王国という国があるのはさすがに知っているな? その国では人間はビーストマンの餌となっている」

 

「えさ、だと」

 

「そう餌だ。蒼の薔薇に質問する。成人した一般人の難度はどれぐらいだ」

 

 嘘偽りは許さない強い目で蒼の薔薇をニグンが見つめている。それにラキュース殿が目をそらす。ガガーラン殿は敵愾心を。忍者の双子の内心は分からない。そしてイビルアイ殿が答えだした。

 

「3だ」

 

「そうだ、対してビーストマンの難度は30だ。それも特別鍛えられた個体ではない。ビーストマンの平均が30だ。重ねて蒼の薔薇のイビルアイに問う。難度はどれぐらい上までなら打倒可能だ」

 

「普通は10、相性が良ければ15といったところか、それ以上は虐殺だ」

 

 その言葉を言うとイビルアイ殿は沈黙した。そしてニグンがこちらを見た。問いかけられる内容も恐らくわかる。

 

「ガゼフに聞く。お前は英雄だ。貴様ならビーストマンを多く狩ることができるだろう。だが一般人がビーストマンと戦えばどうなる?」

 

「ほとんど抵抗ができずに負けるな」

 

「もう一つ聞く。お前はビーストマンの餌になった人間を見たな? それを証言できるな?」

 

「……ああ」

 

「待て待て待て、竜王国はそんなことになっているのか? なら何故、王国は無事なんだ?」

 

 その言葉に蒼の薔薇が目を背けた。ニグンは溜息を吐きながらザナック王子の質問に答える。

 

「我々が台頭しようとしている亜人を狩っているからだ。もっとも蒼の薔薇は私たち人間を餌にする亜人と共存できると考えているようだが」

 

「どういうことだ?」

 

「我々が亜人種を殺すのを邪魔してきたのだ」

 

「……アダマンタイト級冒険者は亜人種と共存できると考えているのか?」

 

「それは……」

 

 ラキュース嬢が言葉に詰まっている。分からない。自分には何が正しいか。そして蒼の薔薇で一番人情味があるガガーラン殿が反論した。

 

「確かによーそこの陽光聖典の隊長が言うことも一理あるかもしんねぇ。でもよ、何の罪もない亜人たちを殺す必要はないだろう。それにエルフを奴隷にする必要もないだろう」

 

「エルフは共同戦線をすると言いながら、我々を裏切った! そんな奴らとともに戦えるか! ……と以前なら言うところだったんだがな。法国はエルフに関しては方針を変更する。ともにエルフの王や亜人たちと戦うなら奴隷にはせずに味方として遇するとな」

 

 それにガゼフは驚いた。奴隷売買は法国の利益になっているはずだからだ。それをやめるとはなぜだろうかと考えて、思い当たった。

 

「……ちなみになんでだ?」

 

「たっち様が『困っている人を助けるのは当たり前』という信念を持っているからだ。人類のために戦ってくれるのだ。我々だって譲歩はする」

 

「ならよ、亜人たちとも共存できるんじゃないのか?」

 

「確かにたっち様が国家を作るのであれば、そういった国家も可能かもしれない。いや本来なら法国に来ていただき、そうすべきだ。死の神スルシャーナ様の例もあるしな。だがたっち様はゆぐどらしる、出身世界への帰還を望んでおられる。だからそのプランは取れない」

 

 そう確かに、たっち殿が国を作るのであれば亜人種とも共存できる国家ができるだろう。問題はどこに作るかだが。そしてニグンの発言で思い出したことを蒼の薔薇に質問する。

 

「蒼の薔薇の皆さんは世界を超えて転移できるアイテムや魔法を知らないか? たっち殿は王国の問題を片付けた後でそれを報酬としてもらいたいと言っているんだが……」

 

「おい、イビルアイ。どうなんだ。そんな魔法あるのか?」

 

「私が知る位階魔法では無理だな。可能性があるとすれば始原の魔法か」

 

「始原の魔法?」

 

「ああ竜王たちが使う魂を使った魔法だ。それを使えば可能性はある。問題は協力してくれる竜王がいるかだが」

 

 そこにレエブン侯が待ったをかけた。今は他にはなすべきことがあると。

 

「その話は確かに重要だが、まずは王国の膿を片付けることを優先すべきではないかね? 特にどこから仕掛けていくか。我々の得ている拠点の情報は九つ。八か所同時に回れるとして。どこを優先するべきか考えるべきだろう。私としては麻薬部門にたっち殿を行かせるべきだと思うが」

 

「確かに、バルブロお兄様を追い落とすのには麻薬部門を狙うのが一番ですね。そして、一番優先順位が低いのは……奴隷部門」

 

「ちょっとラナー!! あそこでは地獄の思いをしている人たちがたくさんいるのよ! 麻薬部門も大事だけど奴隷部門も狙わなきゃ」

 

「ラキュース。奴隷は人間よ。簡単には動かせないわ。だから裏に潜るのに一番時間がかかる。だから麻薬部門をたっち様に制圧してもらった後にすぐ奴隷部門に仕掛けてもらえばいいわ」

 

 そういうことならとラキュース嬢は引いた。そしてそれぞれどの部門に攻め込むか詳細を詰めていった。途中レエブン侯が王派閥の兵士を集めるのに部屋から出て行ったが。

 

 そしてたっち殿が戻ってきた。

 

「皆様、先ほどは頭に血が上り申し訳ありません。それで私がどう動くべきか、決めて頂けましたか?」

 

 その言葉にラナー様が答える。

 

「まずたっち様には麻薬部門を攻略していただきたいと思います。そして一般の兵士とクライムを連れていっていただけますか? その後、奴隷部門に攻め入って頂ければと思います。近くに兵士は待機させておくのでその者たちと合流して仕掛けてもらっていいですか?」

 

「承知しました。どちらも我が神に誓って困っている人たちを救い出してみせましょう。それでです」

 

 そしてたっち殿が一言、言った後アイテムが机の上に人数分おかれた。

 

「これは持ち主と私を会話させる道具です。仮に危険になれば私を呼んでください。助けに行きますので」

 

 その言葉にザナック王子があきれたように、話し出す。

 

「おいおい、そんなアイテム国宝級じゃないか」

 

「ふむ、私が持っているアイテムでは下位にあたるものなのですが……そうですねこの国ではアダマンタイトが一番頑丈な金属と言われていますが、それ以上の金属も持っていますよ? というより仮に私が身に着けている鎧に傷をつけることができる者がいたら、称賛の言葉を投げかけましょう」

 

「それも、ただの人間が手に入れられるアイテムじゃないんだろう? じゃあ俺はレエブン侯と話してくる。任せたぞ。ラナー」

 

「はい、お兄様。仕掛けるのは夜として、それまで時間がありますね……もしよろしければたっち様の冒険の話を聞かせて頂けないでしょうか?」

 

「それはいいわね。たっちさんがどんな冒険をしたか私も気になるわ」

 

 確かにそれは自分も気になる。だがそれ以上にすべきことがある。

 

「たっち殿。もしよろしければこの場にいる全員を鍛えてくれないか? 私たちではたっち殿に手も足も出ないのは知っているが少しでも近づきたいんだ」

 

「私からもお願いします。この中で一番弱いですが、ラナー様を守るために力を得たいのです」

 

 クライムが大きく頭を下げる。そうクライムは強くなる必要がある。ザナック王子の方針でラナー王女と結婚するなら少しでも強くならなければならない。

 

 その相手として、たっち殿は最適だ。

 

「ふむ。そういえば蒼の薔薇の皆さんもフル装備のようですね。いいでしょう。場所はありますか?」

 

「訓練場がある。あまり使いたくないが私の権限で貸し切りにするつもりだ……見学者はいてもいいのか?」

 

「私も加減はします。ですがそれでもショック死してしまう可能性はあります。それでよければ」

 

「騎士や戦士たちは死ぬ覚悟がある。問題ない」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 私はたっち様に感謝していた。自分も訓練を受けていいと言われたからだ。気づいているか気づいていないか、ガゼフはたっち様の訓練を受けたせいか、一段と強くなっている。恐らく現在のガゼフには陽光聖典が武装を剥ぎ取って戦ったとしても勝てるかわからない。

 

 勝利を得るためには最高位天使を召喚するしかないだろう。自身より圧倒的に強いたっち様と戦ったことで進化したのだろう。

 

 自分は陽光聖典の隊長だ。ならばアダマンタイト級冒険者に単独で勝てるようになりたい。漆黒聖典に所属できずとも……。そのための訓練だ。

 

 だがこの場にただの訓練と思って立っているものは一人としていない。一番弱い者でさえ何かをつかみ取ろうとしている。

 

 そして氷柱のような殺気が自分たちに降り注いだ。だが加減されているようだ。苦しいが動くのを困難にするほどではない。

 

 青の薔薇やガゼフとの共闘、自分でもおかしいと思うが今はそれが必要だ。そして蒼の薔薇はガゼフとガガーランとクライムという兵士に魔法でバフをかけだした。

 

 自分にできるのは天使を召喚すること。動かずに見ているだけだが防御力を上げることができる。その天使を召喚しこちらの準備は完全に整った。

 

 ガゼフがまずは駆け出した。そして最初から大技を使う。一撃に全てをかける気だ。私はそう読んだ。圧倒的な差がある以上それは正解かもしれない。確かにこれは訓練だ。けれども相手は圧倒的格上。ならば全てを出し切らなければ意味がない。

 

「おお!! 閃光烈斬!!」

 

 その一撃は確かに英雄に到達したものが放つにふさわしい一撃だった。それは蒼の薔薇もクライムも動きが止まって、ガゼフの一撃を眺めている。

 

 これは常人がたどり着くことができない才能があるものの到達点だ。

 

 しかし、ぷれいやー様はただのブロードソードで完璧に受け流した。美しかった。その動きが、我々より洗練されていると言えばいいのだろうか。

 

 そしてガゼフは流水加速を使い死地から逃れようとしたが、残念ながらたっち様は逃がしてくれなかったようだ。蹴った反動で逃げようとしたのだろうが、その足を片手で押さえられて投げられた。

 

 それをガゼフは体を回転させダメージを逃しながら、自分の横に着地した。

 

「くっ、さすがに同じ手は通じないか」

 

「二度目ですからね。蹴って、危険地帯から離れようとするのは」

 

「そうだな、ガガーラン殿! クライム同時に仕掛けるぞ!」

 

「了解だ、おっさん!」

 

「了解です、ストロノーフ様!」

 

 そして三人がかかる前に双子の忍者が忍術を発動した。どうやら動きを止めようというのだ。だがそれは……。

 

「っ阻害に対する完全耐性!」

 

「くっさすがというところかだがこれならどうだ! 魔法抵抗突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)水晶の短剣(クリスタルタガ―)!!」

 

 イビルアイが放った魔法は、当たる直前で掻き消えた。

 

「馬鹿な! いや違うな、当然か。だが時間は稼いだぞ!」

 

 戦士3人が同時に襲い掛かる。一番弱いクライムの上段からの斬りおとし、それだけはニグンから見ても見事なものだった。だがそれは剣の腹面を拳で叩かれて、届かなかった。

 

 続いて刺突戦鎚を使った武技を発動したガガーランがたっち様に襲い掛かるが、全てブロードソードで受け流される。

 

 だがそこに隙を見出したのだろうガゼフが横から切りかかる。これは鎧に当たるかに見えたが、たっち様は片手で刺突戦鎚を受け流しながら、空いたもう一方の手でガゼフの剣を指で挟んだ。

 

 それは圧倒的力の差があるからこそできる、絶技だった。

 

 ガゼフは指の力だけで剣ごと投げられる。そしてガガーランは技が終わったのだろう隙をさらしている。そこをカバーするようにラキュースが叫ぶ。

 

超技暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!!」

 

 それに対してたっち様は真正面からただのブロードソードで、風圧だろうか? それだけで無力化した。

 

 さらに双子の忍者が仕掛けるがそれも片手間で対処されて、いったん全員で集まる。

 

「思っていた通り勝ち目はないわね」

 

「そうだな」

 

「ふむ、作戦タイムですか、では仕切り直しと行きましょう。殺気を一段階高めますので、それに耐えて私に一太刀浴びせてみせなさい」

 

 その殺気に全員が立ち眩みを覚える。自分に殺気を向けられるのは慣れるものではない。だがそれでも戦わなければならないときがある。

 

 今度は自分も接近戦も越してみせると意気込み、訓練は夕方まで続いた。

 

☆ ☆ ☆

 

 ラナーは考えていた。何故たっち様は自分と同じぐらい賢いはずなのに、頭脳を弱めに見せているのだろうかと。何かわけがあるのかもしれないが、それはどうでもいい。

 

 クライムと結婚できるようになる。それだけでラナーは幸せだ。

 

 現状ではこれ以上の選択肢はない。だから思う。上手く八本指を潰してくれと願う。

 

 愛しのクライムに首輪をつけられる日は近い!




さすがラナー様! たっち・みー(偽)様の正体に一番近づいたかも!

明日の更新もあります!
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