たっち・みー(偽)「スタンバイ」
「……っち!? 魔神を単騎で討伐した
少々焦っていた。
一人は漆黒聖典、番外席次。だが彼女は動けないだろう。
ならばもう一人、たっち・みー様ならどうだろうか。恐らく勝てるだろう。ならば我々は時間を稼ぐのみ。
(くっ、これなら連絡を取れる、アイテムを返却しなければ!)
そう、自分が使うことはおそらくないだろうと、メッセージより確実性の高い連絡を取れるアイテムを返却していた。自分は疲労無効のアイテムを頂いているのでそれ以上は過分だと思ったのと、王国での粛清劇が終わったので必要ないと思ったのだ。
「確か、蒼の薔薇とガゼフ、あとクライムだったか彼は返却していなかったな。なら時間を稼げば…」
周りには
「冒険者たちは聞け!! あの存在は最高位天使である
その言葉に弾かれたように、冒険者たちが動き出す。冒険者の指揮はこの都市の冒険者組合長に任せて、自分は陽光聖典の者たちへの指揮を優先する。
天使たちが触手によって薙ぎ払われる。だが威光の主天使は別だ、触手をはじき返しながら、
さすがは魔神を単騎で倒したと言われる存在だ。だが、拮抗しているのか、
そして待望の援軍が到着した。王国戦士長、ガゼフだった。
「ガゼフ、今すぐたっち・みー様に連絡を取れ!! この存在はたっち・みー様以外では討伐不可能だ! 最高位天使でも足止めが関の山だ! 急げ!」
「――分かった!!」
そしてガゼフがアイテムを取り出し、たっち・みー様に連絡を取っている。たっち・みー様は事情を説明すればすぐにこちらに来てくれるだろう。元居た世界へ帰還する情報を不意にさせるのは非常に申し訳ないが。後で法国が何らかの代償を払う用意が必要だろう。
とにかく今はたっち・みー様が来られるまでの間、時間を稼げばいい。
「天使たちは全軍突撃!! 倒されたものから順に再召喚を行え! 出し惜しみはするな!!」
陽光聖典の者たちに命令を下す。よく見れば冒険者たちも魔法で攻撃しているようだ。だが、ほとんどダメージになっているとは思えない。それでもいい。時間を稼げれば。
そしてガゼフが待望のセリフを口にした。
「連絡がついた! たっち殿はすぐにこちらにアイテムで転移してくれるとのことだ!!」
「そうか!! なら……待てガゼフ、まさか真正面から挑もうと考えていないだろうな!!」
「たっち殿だけに、血を流させるわけにはいかない!!」
「馬鹿を言うな!! それは自殺だ!! お前が戦う場所はたくさんある!! こんな所で犬死にするな!!」
殺そうとしていた相手に生きろというのは不可解だ。だが、これからは人間種が生き延びるためにはこの男は必要だ。それを勝ち目がある戦いで自殺させるわけにはいかない。
そう押し問答していると。蒼の薔薇が到着した。自分より関係性のある彼女たちならガゼフを止められるはずだ。
「蒼の薔薇!! ガゼフを止めろ!! このバカは
「ストロノーフ様!! あれはアダマンタイト級冒険者でも相手できないわ! あれに勝てるのは神の域にあるたっち・みー様だけよ!」
「そうだぜ、おっさん!! 今挑むのは自殺行為だ! せめてたっちさんが到着してから突撃すべきだ!!」
「あれは無理」
「英雄でも無理」
「……そうだな、少し冷静さを欠いていたようだ。すまない」
そして拮抗していた戦いが終わる。
まずい、まだたっち・みー様は到着されていない。そしてただ、唯一
「ちぃ! そうだ! ガゼフ!! 従属神様はどうした!! 従属神様は難度240のはず。ならたっち・みー様が来られるまで時間を稼ぐことができるはずだ!!」
「……すまない。ハンゾウ殿は王の護衛を任せている」
その言葉に怒鳴る。
「この大馬鹿者!! 王の護衛に従属神様を使うのは過剰戦力だろうが!! それなら少しでも亜人を討伐するようにしろ!! 今すぐこの国の王に連絡を取って――」
「――その必要はない」
そう言うと転移門から、この国の王と、それを守護する従属神様が現れた。
「王よ! 何故この場に!!」
「私だけではないぞ?」
そう言うとガゼフに付き従う戦士団や騎士たちとクライムが現れた。
「この国は今まで民のための政治が行えなかった。だが今は違う。なら戦うしか無かろう。それにだ、勝ち目がないわけではないのだろう? たっち・みー殿が来られるまで時間を稼げばいいのだから」
その言葉に民たちは感銘を受けているようだ。確かにようやく王族が本当の意味で統治者になりこのようなことを言ってくれるのだ。嬉しいだろう。
「ランポッサ王!! 従属神様は連れてきているな!? ガゼフ今すぐ時間を稼いでくれるように頼め!」
「分かった! ハンゾウ殿、そういうわけだ。たっち殿が来られるまで、あのモンスターの足止めを頼む!!」
「了解しました! と言いたいところですが、足止めは不要のようですね」
「何?」
「上空をご覧ください」
そこには、赤いマントを翻した、英雄がいた。
☆ ☆ ☆
たっち殿はおそらく空を飛ぶアイテムを付けて、滞空していた。そして木のモンスターはたっち殿に気づいたのだろう。触手でたたみかけていた。だが、その攻撃が届くことはなかった。全て、剣で弾きおとしていた。
それに思わず見惚れる。よく見れば鎧以外の装備が異なっているように見える。たっち殿の本気での戦闘のためかもしれない。最低でも剣は今まで見たものの中で、最高峰の物だった。恐らく自分が持つ
そして六本の触手を切り払い、本体にたっち殿は突撃しようとした。だがそれだけは許さないかのように触手が暴れていた。だが、それすらも器用に撃ち落としながら、本体に斬傷を与えた。
だがダメージは微々たるもののようだ。たっち殿を引き離そうと触手が暴れる。何か援護する方法はないかと考えるが、あそこまで暴れている触手にだけダメージを与えるのは自分では困難だ。
では陽光聖典の者たちなら? それはニグンの怒鳴り声で明らかになった。
「陽光聖典の者たちは聞け!! これより我々は天使を再召喚し、たっち・みー様が本体に専念できるように、触手に攻撃をかける! 復唱は不要、天使を召喚せよ!!」
その言葉に陽光聖典の者たちは再度天使たちの召喚を始めるそしてたっち殿が触手と戦っている中、天使たちが到着しようとした時だった。
口だろうか? 口の部分から散弾が発射された。たっち殿は盾で防いだが、天使たちはそれで壊滅してしまった。
「ちぃ!! 天使たちを再召喚! たっち様を援護しろ!!」
「隊長! もう私たちは召喚できるだけのMPが残っていません!」
「……くっ。見ているだけしかできないのか」
悔しかった。自分が。王国のために戦うと誓っているのに、友人が命を懸けてくれているのに、何もできない自分が。いや一つだけあるか。
「ハンゾウ殿!! たっち殿の援護を頼めるか!?」
「承知しました、我が主よ。ですが本当によろしいので?」
「何がだ!」
「今目の前では白銀の
その言葉にガゼフは問題ないと叫ぼうとしたが、その前にニグンが叫んだ。そうまるでそのことを聞いて、確かにと納得したような。
「ガゼフ、これは新しい神話だ! 私が間違っていたんだ! ぷれいやー様以外の者があの領域に立ち入ってはならない。我々は新たな神話の目撃者となるのだ。それに見ろ」
そう言われてたっち殿を見ると魔樹の触手が一本、斬りおとされていた。
「散々邪魔をした我々が言うのもなんだが、たっち様は新たな神話を作られている。ならば我々はその神話の目撃者となろうじゃないか! 既に触手を一本斬り落としているんだ。たっち様が負けるはずがない!!」
その言葉にため息を吐きながら蒼の薔薇たちが思い思いに話し始める。
「確かに、これはもう人が手を出せる事態じゃないわね……その男に同意するのは癪だけど、私たちは目撃者になりましょう、ストロノーフ様……たっち・みー様。凄い、信念も力も」
「……恐らく推定難度は240以上。我々が手を出せる領域じゃないことだけは確かだな」
自分たちの会話を聞いていた王が自分に話し出す。
「ガゼフよ。ここはたっち殿を見守ろう。それにハンゾウ殿の言は要するに、たっち殿の勝利は揺るがないと言っているようなものだろう?」
「その通りです。HPだけはけた違いですが、それだけです。たっち様が負けることはあり得ませんレベル、いえ難度の差的に」
「……分かった。ならたっち殿が作る新しい英雄譚、いや、神話を見守ろう」
たっち殿が空を飛びながら、踏み込む。それを触手を使って必死に防ごうとする。
ただ悲しかった。友人と呼んでくれる人物が一人で戦っているのに、援護すらできない自分の弱さが。
だがこれほど難度が離れた戦い。普通であれば理解することができないだろう。だがそれはハンゾウ殿がいることによって解決した。ハンゾウ殿が解説してくれるのだ。
「どうやらたっち・みー様は触手から攻略していくようです。300メートル近くある触手の一本に狙いを定めています。それに先ほどから同じ場所だけを攻撃しています。斬りおとすつもりでしょう」
「なるほど……触手を徐々に減らすことで本体を攻略するつもりですね?」
ニグンが感想を述べてハンゾウ殿が頷く。そして五分ほどの攻防の後、さらに一本斬りおとされた。続けて踏み込もうとするたっち殿を止めるために触手を使ったが、さらに触手にダメージを与えられたようだ。
周りを見てみる。一般人を避難させた、近距離武器しか持たない、冒険者たちは今新しく築かれる最新の神話に息をのんでいるようだ。
それだけではない、時間がかかっていることに一般人たちも出てきているが、その目には憧憬が宿っている。たっち殿は英雄だ。それは間違いない。
そして自分は思う。いつかたっち殿の横に立つことが恥ずかしくない、戦士になりたいと。自分を友人と言ってくれた、たっち殿に近づきたいと思った。
☆ ☆ ☆
法国はニグンが
そして
英雄が現れた。そう、英雄が空中に浮かんでいた。それを見た番外席次が笑った。
「はははっ!!
番外席次がいつものように本音を隠すように笑顔になる。それに対して神官長たちは思わず顔をしかめる。彼女にではない。彼女をそう教育してしまった、過去の神官長たちに対してだ。それしか道はなかったのか。そう聞きたい。
だが、それ以上に今は興奮が勝っている。ぷれいやー様のお力を見ることができる。不敬だとは分かっている。本来であれば我々が戦わなければならないと。だが、思わずぷれいやー様のお力を知って笑顔になってしまう。だが、あのぷれいやー様はゆぐどらしるへ帰還されてしまう。
何とか子種を頂けないだろうか。ニグンの報告では妻子ある身とのことだが、緊急事態だ。きっと奥様も許してくださるはずだ。
そう例えば、番外席次との間に子どもができたらどれほどの強い人間が生まれるだろうか。これが都合のいい妄想であることも分かっているが、どうしてもそれを望んでしまう。
人類は危機的状況から脱したわけではない。人類が生き延びるには力がいる。そのためには何らかの方策が必要だ。一番は番外席次とぷれいやー様が子どもを作ってくれること。第二案として漆黒聖典の女性と子どもを作ってもらうことだろうか。
最悪、誰とでもいい、この地に存在する人間と子どもをなしてくれれば我々が育てる。ぷれいやー様にはご迷惑をおかけしない。そう決めているが、さすがに無理があるか。
となるとニグンの報告では難度240の人間種の従属神様を召喚させてくれる予定だから番外席次に召喚させて、たくさんの子種をばらまいてもらうことも考慮に入れるべきだろうか。
そしてガゼフだ。あの男もぷれいやー様と比べれば見劣りするが、英雄に到達した強者だ。
後は、トブの大森林を開拓して人間の土地にすることができれば、ひとまず後方に憂いは無くなる。帝国に関しても、ぷれいやー様が何らかの交渉をしてくれるらしい。もう少しすればエルフたちだけに敵を絞れる。その後ようやく大陸の中央で奴隷や食料にされている存在を救いに行ける。
もう少しだ。今も餌にされている同胞よ。待っていてくれ。必ず助ける。
今日の19時19分にちょっとしたおまけを投下して第2章は終了です!
書き溜めが消えたのと、描写を少しでも良くしたいので暫くお休みです('ω')