『完結』黒歴史の輝き   作:万歳!

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アクセス解析を見るとナザリック回のアクセス数が多いんですよね……皆そんなにNPCが嘆き苦しんでいるのを見たいんですか!!

DOESU!


第4章 真実と幻想の交差する時
第1話 密命


 夕暮れの王都は、赤く染まった陽光が石畳を照らしていた。街の雑踏から離れた裏通り、広場に面した古い教会の影の中。ラキュースはひとり佇んでいた。彼女の表情は、普段の仲間と共にいるときの強さとは違い、どこか憂いを帯びていた。

 

「はぁ」

 

 自分の気持ちにガガーランのせい……おかげなのか? 気づいてしまった。自分はたっち・みー様に恋をしている。当然と言えば当然だ。圧倒的武力、武力以上の倫理観、そして神話を作った。

 

 自分はどうすればいいのだろうか。もし、結婚相手がいないのであれば、振り向いてもらえるように努力した。もし、側室でも傍においてくれたなら迷ったかもしれない。

 

 だけど……。

 

(たっち・みー様の倫理観なら……側室も置いてくれないわよね)

 

 表情が暗くなり、地面を見てしまう。

 

 自分の恋は叶わない。そう思うと泣きそうになる。

 

 エルフの三人娘が羨ましかった。彼女たちはたっち・みー様の事情を知っても、そんなの知らないとばかりに押せ押せとばかりに、たっち・みー様に近づこうとしていた。

 

 私もそうすべきなのだろうか。答えは出ない。

 

 そうやって物思いにふけっていると、お互いに嫌い合っている相手、ニグンが近づいてきたのが見えた。わき道にそれようとしたが話しかけられた。

 

「蒼の薔薇のリーダー、少し時間を貸せ」

 

「……あなたと話すことなんてないと思うけど?」

 

「お前にはなくとも私にはある」

 

 ニグンの声は低く、砂利を踏むような響きを帯びていた。拒否の言葉を飲み込みかけたラキュースの前を、彼は躊躇いもなく歩き出す。その背に、仕方なく足を向けるしかなかった。

 

 辿り着いたのは、街の裏手にある細い路地。湿った石壁に囲まれた薄暗い空間。昼間であるにもかかわらず、建物の影が重なり合い、光はほとんど差し込まない。風は止まり、耳に届くのは遠くの人々の喧騒だけで、この場だけが切り取られたように静まり返っていた。

 

 女性であれば警戒すべき場面なのかもしれない。しかし自分はアダマンタイト級冒険者。無用な恐怖は感じなかった。ただ、この男が何を言おうとしているのか、その方がよほど不気味だった。

 

「蒼の薔薇。お前は何をやっている。なぜ、たっち・みー様にエルフの娘たちがくっついている?」

 

「それは、説明したでしょ?」

 

 ニグンの瞳は暗く燃える焔のようで、ラキュースの反発を容易く押し潰す。

 

「違う。たっち・みー様が救ったのは分かっている。だが――なぜ、あの娘たちの立ち位置にお前がいない?」

 

 喉の奥で息が詰まった。心臓が一拍、痛むほどに跳ねる。

 

「私は貴様とたっち・みー様が恋仲になるように、帝国で蒼の薔薇の戦士と援護した。それなのになぜ、お前はエルフの娘たちに嫉妬を向ける立ち位置にいる?」

 

「嫉妬なんて……」

 

「している。気づいていないものはいない。全員がお前を訝しんでいる。なぜ告白しないのかとな」

 

 石畳に落ちた自分の影が揺れた気がした。足元に視線を落としたのは、ニグンの眼差しが鋭すぎて、まともに受け止められなかったからだ。

 

「そんなこと言ったって、たっち・みー様には奥様や娘さんがいらっしゃるのよ……」

 

「関係あるのか?」

 

 即答に近い低音。路地に響く声は、まるで逃げ場を塞ぐ壁のようだった。

 

「関係って当然あるに決まってるじゃない」

 

「そうか。ならお前はずっと嫉妬していろ。――これから先、たっち・みー様の子種を貰うために法国の漆黒聖典の女たちは動く。奴らはお前と同格の実力を持つ。いや、それ以上かもしれん」

 

「……たっち・みー様は結婚なさっているのよ?」

 

「もう一度言う。関係があるのか? 人類は苦しい立場にある。それを覆すためには、たっち・みー様の子どもが必要だ。いいか、たっち・みー様はいずれ元居た世界に去ってしまうんだぞ? その時、お前は耐えられるのか? 自分に子供がいれば絆は絶えなかったのにと」

 

 ラキュースは無意識に唇を噛み、鉄の味が滲んだ。胸の奥がぎゅうと縮む。頭では理解していても、心は拒絶したい。だが、ニグンの言葉は鋭利な刃のように核心を突いてくる。

 

「忠告はした。お前が少しでもたっち・みー様を愛しているなら、行動に移せ」

 

 ニグンはそれ以上言葉を重ねず、暗がりから光の差す通りへと歩み去った。その背が見えなくなっても、路地に残されたラキュースの心臓は強く早鐘を打ち続けていた。瞳からは涙がこぼれていた。

 

 そして暫く立ち尽くしていると、ティアが顔を出した。

 

「鬼リーダー、泣いてる」

 

 唐突に背後から声をかけられ、ラキュースはびくりと肩を震わせた。振り返ると、闇に溶け込むようにティアが立っていた。彼女の瞳は夜目の獣のように静かで、表情はほとんど変わらない。それなのに、まっすぐ射抜くような視線はすべてを見透かしているように思えた。

 

「違う、泣いてなんかいないわ。ティアはどうしてここに?」

 

「警邏中……というのは冗談で、あの男と鬼リーダーが歩いてたから付けてきた」

 

 ティアの声は相変わらず平坦で、感情の起伏が読み取れない。それでも、言葉の端々に込められた棘のようなものがラキュースの胸を刺す。

 

「そう……」

 

 短く答えるしかなかった。感情を取り繕う余裕がない。

 

「鬼リーダー。あの男の言う通り。恋は戦争。奥さんから寝とっちゃえ」

 

「そんなことできるわけないでしょう!」

 

 反射的に声を荒らげた。薄暗い路地に、自分の声が不自然なほど大きく響く。ティアは瞬きひとつせず、淡々と続ける。

 

「かもしれない。でも実行するべき。失敗することになっても動くべき。でないとリーダーは一生後悔する」

 

「っ……」

 

 心臓が痛いほど打ち付けていた。ニグンの言葉で抉られた傷口に、ティアの冷徹な指先が触れてくる。的確で、残酷で、それでも優しさの欠片のようにも思えてしまう。

 

「それとも私と寝てみる? 私は女の方が好き。そしてリーダーは美人」

 

 ティアの声音は冗談とも本気ともつかない。無表情のままだからこそ、余計に冗談に聞こえず、背筋に冷たいものが走る。

 

「冗談はやめて、やめてったら!!」

 

 

 もう耐えられなかった。ラキュースは叫びながら駆け出した。石畳を叩く靴音が夜の街に響く。振り返る勇気はなかった。もし振り返れば、ティアがどんな顔をしているのか――それを見てしまえば、心が壊れてしまいそうだった。

 

 暫く、ただ前だけを見て走った。夜の街の明かりがにじんで視界が揺れる。胸が焼けるように痛く、呼吸は荒い。それでも立ち止まることができなかった。自分の中で溢れ出した感情から逃げるように、足を動かし続けるしかなかった。

 

 気づけば、泊まっている宿の前に立っていた。扉に手をかけると、指先が小刻みに震えているのが分かる。深呼吸をひとつして中に入ると、そこに仲間の姿はなかった。ガガーランもティナもティアもいない。

 

 ただ一人、椅子に腰掛けていたのはイビルアイだった。小さな体に不釣り合いな仮面を着け、静かに腕を組んでいる。その赤い瞳だけが仄暗い部屋の中で鈍く光り、ラキュースを捉えていた。

 

「ラキュース」

 

 その声にはいつもの皮肉めいた響きはなく、むしろ落ち着き払った重みがあった。

 

「お前がどうするかは私には分からない。だが、たっち・みー様とお前がくっつくことは世界を救うことになるらしい。それは白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)が言っているから間違いない」

 

 唐突な言葉に、ラキュースは思わず息を呑んだ。イビルアイの仮面越しの眼差しは冗談を許さず、ただ冷静に事実を告げている。

 

「私はお前がどんな選択をしようとも構わない」

 

 静かに続ける声は、友としての距離を保ちながらも、どこか優しさを含んでいた。

 

「だが、後悔だけはしないようにな」

 

 その一言が重く心にのしかかる。胸の奥で渦巻いていた感情が、痛みとなって押し寄せた。ラキュースは拳を強く握りしめ、俯いたまま動けなくなった。

 

☆ ☆ ☆

 

 この場にいるのは、たっち・みー様と私だけだった。ほかの陽光聖典の者たちは王城で事務作業を担っていた。ガゼフとクライムも今は王国中を飛び回っている。蒼の薔薇……叱咤激励したが、部屋に籠りきりになっているらしい。残念だ。エルフの娘たちも今はこの場にいない。たっち・みー様が遠ざけたからだ。

 

 そのためこの場は一時的に二人きりだ。かつて陽光聖典の隊長として亜人種の殲滅を続けてきた私だが、たっち・みー様と二人きりになる、この時ほど自分の鼓動が速まるのを感じたことはなかった。

 

「ではニグン殿は途中まで法国に同行して、途中からはあなたは竜王国に、私の案内は漆黒聖典の者たちに代わるのですね?」

 

 静かな口調。しかしその声には揺るぎない威圧感があった。まるで剣を抜かずとも周囲を制圧できるような、そんな気迫が纏われている。

 

「その通りです。本当は私もエルフの国まで同行したかったのですが……」

 

 言葉を続けながら、私は思わず視線を伏せる。竜王国には陽光聖典の隊長としての務めが残されている。私のような漆黒聖典に入れなかった人間が長く彼の隣にいることは許されない。そう理解していたが、それでも胸の奥で後ろ髪を引かれるような感覚があった。いや今まで自分がたっち・みー様の案内役であったのも、本来であれば間違いであったのかもしれない。格というものがあるとするなら、漆黒聖典の隊長が同行すべきだからだ。

 

「……そろそろ竜王国の方にも陽光聖典の者として顔を出さなければならないので」

 

 そう締めくくったときだった。

 

 たっち・みー様が静かに一歩前へ出て、驚くべきことに頭を深く下げられた。

 

「あなたにあの時出会えたおかげで、私はこの世界の事をすぐに知ることができました。貴方に出会えなければ、まだまだこの世界のことを探す日々が続いていたでしょう。感謝しています」

 

 天地がひっくり返ったような衝撃が私を貫いた。至高の御方と呼ぶべき存在、あらゆる力を持ち、亜人すら跪かせる男が――私などに頭を下げるなど。慌てて両手を振り、声を裏返しながら否定する。

 

「そんな、お止めください! 私なんかに頭を下げられる必要なんてありません! 私は人間として当然のことをしたまでです!!」

 

 心の中では叫びに近い感情が渦巻いていた。どうしてこの御方はここまで謙虚なのだろう。彼のような存在に仕えることこそ、我ら人類の誇りであるはずなのに。

 

 だが同時に理解した。――あの時、この御方に出会えたことは奇跡だったのだと。たっち・みー様がもたらした力によって、人類は滅亡の淵から救われる。ならば、法国の者としてこの命を賭してでも尽くすのは当然のことではないか。

 

 そんな私の内心を見透かしたように、彼は再び口を開く。

 

「ところでニグン殿」

 

「なんでしょう、たっち・みー様」

 

 緊張で背筋が自然と伸びた。次の言葉が、世界の行く末を左右する予感があった。

 

「私はあなた達が許すなら、法国の頂点に立つつもりです」

 

「!!」

 

 心臓が跳ね上がる。雷に打たれたかのような衝撃に、しばし言葉が出なかった。かつて、夢想すらしたことがある。人類を導くのにふさわしい神が現れれば――と。しかし、それは常に幻想であり、希望的観測に過ぎないと切り捨ててきた。

 

 だが今、その幻想が現実のものとして目の前に提示されたのだ。

 

 ――願っていた言葉だった。

 

 もし、この御方が法国の頂点に立ってくださるなら。人類は救われる。亜人種や異形種との共存という難題も、彼ならば打ち砕き、あるいは解きほぐすだろう。人心はまとまり、未来は光に満ちるに違いない。

 

 興奮と畏敬の念で言葉を失った私に、たっち・みー様はさらに静かな調子で続けられる。

 

「ですがその前に一つ、試してみたいことがあります」

 

「……試してみたいこと、ですか?」

 

 声を震わせながら問い返す。

 

「これが失敗したら、私は法国で生きたいと思います」

 

 その言葉に、全身の力が抜け落ちそうになった。どれほど恐ろしい試みなのかは分からない。だが失敗という可能性を口にしながらも、それを承知で進もうとするその姿勢に、私は圧倒された。

 

「感謝いたします。たっち・みー様!!」

 

 堪えきれず、思わず膝をついて頭を垂れた。地面の冷たさも、衣に染み込む土埃も気にならない。ただ心からの感謝を伝えるしかなかった。

 

 ――人類は、きっと救われる。

 

 その確信が胸を満たしていく。

 

「それでです、貴方に内密で頼みたいことがあります。それは――」

 

☆ ☆ ☆

 

 法国の最高幹部たちが一堂に会する場は、常に張り詰めた空気に包まれていた。

 

 掃除と祈りを終え、最高神官長が低く声を発する。

 

「それで、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)は説得できたのか?」

 

 場にいた者たちの視線が一斉に交渉へ向かった者へ注がれる。緊張で額に汗を浮かべながらも、報告者ははっきりと答えた。

 

「はい、条件付きですが、番外席次、アンティリーネ・ヘラン・フーシェを表に出す説得ができました」

 

 その言葉を聞いた瞬間、会議の場にわずかなざわめきが走る。普段は無表情を崩さない幹部たちの頬に、抑えきれぬ喜びがかすかに浮かんでいた。

 

「それで、条件とは?」

 

 一人が確認する声は、抑えてはいたが期待の色を隠しきれない。

 

「はい、条件はたっち・みー様と一緒に行動すること。逆に言えば、たっち・みー様と同行する限り、どこに行ってもいいそうです」

 

 その場の空気が一瞬止まったかのように静まり、次いで重々しい声が漏れた。

 

「……それはこちらの完全勝利……といってもいいのかね?」

 

 報告者は深く頷く。

 

「これから先、たっち・みー様の方針で人類は亜人種や異形種たちと共存の道を選ぶことになります。亜人などに最初は、自分たちに敵対する危険性を教えねばなりませんが……長期的に見れば完全な勝利と言えるでしょう」

 

 その瞬間、誰からともなく笑みがこぼれた。抑えきれずに両の拳を握りしめる者、震える声で神の加護を呟く者。幾世代にもわたり続けてきた戦いと犠牲が、ついに報われたのだという高揚が、部屋全体を包んでいく。

 

「我々が時間を稼いできたことは無駄ではなかった!! 今までの犠牲は無駄ではなかったのだ!!」

 

 重苦しい場に響くその叫びに、多くの幹部たちが頷いた。

 

「……ではたっち・みー様に同行していただき、エルフの王の処遇はあの娘に任せましょう。仮に彼女が父親だからと情にほだされ生かしても、たっち・みー様がいれば問題はないでしょう。それに、もしエルフの王に他の子がいるなら……法国で保護することも可能です。上手くいけば戦力になる」

 

「それは少し難しいのではないか――」

 

 すぐに異論が飛び、会議は再び緊迫を取り戻す。机を叩く音、紙をめくる音が重なり合い、戦場に似た熱気が渦巻いた。

 

 そんな中、一人が慎重に口を開いた。

 

「それと……六大神様の日記帳が見つかったそうです」

 

 場が静まり返る。求め続けてきた神代の遺物、その存在はこの会議に集う者すら息を呑ませた。

 

「……ならば、たっち・みー様に見せなければならないな。なんとか、この世界に引き止めたいが……」

 

「それが難しい時は――何としてでも漆黒聖典の者たちに子種を授けていただきましょう。漆黒聖典……英雄級の者たちとの間の子であれば……」

 

 その言葉に場の空気が再び熱を帯びる。期待、渇望、そして狂信に近い執念。

 

 仮に子どもができれば、逸脱者級の力を宿した存在が生まれてもおかしくはない。そして、もしアンティリーネ・ヘラン・フーシェとの間に子ができれば……。

 

「彼女の『自分より強い相手との間に強い子供が欲しい』という言葉……あれは本心なのか?」

 

「分かりかねます。しかし……本心であってほしいところですな」

 

 誰もがうなずき、重苦しい沈黙が再び場を満たした。だがその沈黙は、絶望ではなく確信に近い。

 

 ――たっち・みー様こそが、この世界を導く鍵。

 

 その信念だけが、この場にいる全員をひとつに結び付けていた。




番外席次を表に出す許可を与えたツアーにはもちろん思惑があります。分かる方はいるかな('ω')
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